真実の10メートル手前

著者 :
  • 東京創元社
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レビュー : 287
  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488027568

感想・レビュー・書評

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  • 記者の太刀洗万智が探偵役の短編集。
    怜悧なヒロイン登場です☆

    だいぶ前に「さよなら妖精」で遭遇した出来事を胸に秘め、フリーのジャーナリストとなっている太刀洗万智。
    あまり表情が動かないクールな雰囲気の女性ですが、真実を追究していく熱さを秘めているようです。

    「真実の10メートル手前」
    ベンチャー企業で有名になった兄妹だが、破綻して、妹は行方不明に。
    妹の行方を追う万智は‥

    「正義感」
    駅のホームの転落事故。
    偶然、居合わせ太刀洗がとっさにとった行動とは?

    「恋累心中」
    高校生の心中が土地の名前を結びついて美化されるが‥
    取材に赴いた記者が、太刀洗と同行して、気づいた真実とは?

    「名を刻む死」
    老人の孤独死のいきさつとは。
    発見者の高校生のことが気にかかる万智は‥

    「ナイフを失われた思い出の中に」
    事件を自白した少年の手記を読み解く万智。
    真犯人を見つけることが出来るか‥?

    「綱渡りの成功例」
    災害で埋もれた村の生き残りの老夫婦の話に、ひっかかる点があり‥?
    これはちょっと、気がつく必要も報道する意味もあまり感じられませんでした。
    ほかの大問題に絡んでくるという構成なら、ともかく。
    取材していく中で何かに引っかかるが、それを使えるかどうかわからないという問題が起きる、ことは理解できるので、そういう話が無意味とは言いませんが。

    すべて題材が凝っていて、現代性もあり、このヒロインを形作ろうという工夫が感じられます。
    かなりクールでやり手といった印象ですが、若者への共感はあるようですね。
    すべて解決するわけではなく、事件現場に踏み込む感覚があります。
    独特な苦味やひやりとするような鋭さを味わいつつ。

  • 記者・太刀洗万智の仕事を描く、6作品。
    それぞれ別の人物の目を通して、万智の仕事や人となりを浮き彫りにする。

    推理の冴えはもちろん素晴しいが、万智が、スクープや手柄にこだわる、一般的な記者のイメージとは一線を画している点はいくつかある。

    ・聞き込み相手の心情に寄り添っていること。
    ・質問が意表をついていること。
    ・そして、矛盾しているようだが、質問が核心をついているという事。
    この、「質問」に関することは、綿密な調査とひらめき…そして、取材対象の心情に深く入り込んでいるからこそ思いつけるのだと思う。

    しかし、万智自身が一番に心を砕いているのは、そうやって得た「情報」の取り扱いである。
    世間に対してどういう形で公表するか、どう理解してもらうのがいいのか、あるいは公表しないのか。
    彼女の、常に謙虚であり思慮深い姿が好もしい。

    「あまり愉快なことにはならないと思いますよ」という口癖と、何でも出てくるドラ●モンのポケットのようなバッグはご愛嬌。

    『真実の10メートル手前』
    ベンチャー企業が経営破たん。
    マスコミの露出も高かった、美人広報担当が行方不明。
    後輩のカメラマン・藤沢吉成が相棒。

    『正義感』
    ホームから人が落ち、電車にひかれる人身事故。
    びっくりするような万智のやりかた。
    相棒は、元同級生のあの人?

    『恋累心中』
    高校生男女の心中事件。
    記者・都留正毅に、現地の取材コーディネーターとして万智がつけられる。
    最初はやりにくさを感じていた都留だが…
    重く哀しい、そして読みごたえのある話。

    『名を刻む死』
    60代男性の孤独死と、第一発見者の中学生。
    優秀だが優し過ぎる中学生に、あえて鬼になることを示す万智がカッコいい。

    『ナイフを失われた思い出の中に』
    「16歳の少年が3歳の女児を刺殺した」という事件を万智がどう扱うか。
    妹のかつての友人を訪ねてきた、海外国籍の青年と、報道の在り方について語る。

    『綱渡りの成功例』
    台風による水害と土砂崩れで、3軒の家が孤立した。
    土砂に埋もれなかった70代の夫妻のみが多くの人手と時間を掛けて救出される。
    夫妻は、必要以上に申し訳なさそうにしていた。
    地元の、万智の後輩である大庭と。

  • 経営破綻したベンチャー企業の経営者兄妹が、詐欺の疑いをかけられた後、行方不明になった。
    経営には関わっていない末の妹の弓美は、以前取材で知り合った記者太刀洗万智に、姉の捜索を依頼してきた。
    手がかりは、姉からかかってきた電話の通話記録だけだった。

    様々な事件に関わった人間が、太刀洗万智の取材によって真実を突き付けられる短編集。

  • フリーの雑誌記者、大刀洗万智の連作短編集。

    新聞記者だった時代の話が「真実の10メートル手前」
    それ以外は雑誌記者になってからの話。

    雑誌記者という立場で、凛として事件の核心に迫っていく万智。突き止めた真実はどれも切なく重い。

    特に高校生の心中の真実を暴く「恋累心中」、3歳の姪を刺殺したと主張する若い叔父の話「ナイフを失われた思い出の中に」はやるせなかった。

  • 理路整然と推理が構築され、心地イイほどの解決が論じられる。穂信さんは『満願』の時から思っていたけれど短編の名手だ。
    ただ、切ないことにどの話も後味が良くない。人の生き死にに関して語られるせいなのかもしれないけれど、どれもこれも真実の痛みが鋭く胸にせまる。(むしろ知らなければ良かったというのも)
    太刀洗万智の閃きが冴え渡れば渡るほど人は救われるのか、それとも?

  • 記者として真実を追い真実を伝えること。その意味、影響と責任の重さを常に自分に問いかける太刀洗万智の物語、6編。
    謎解きは非常にスマートだが、真実に迫ることが必ずしも快感には繋がらない、むしろ無常感や現実の重みを感じさせながら、しみじみとした余韻を残す作風。
    暴かねばならない真実もあれば、必ずしも暴く必要のない真実もある。真実にたどり着くことが人よりも得意な太刀洗は、自分が暴き伝える真実に常に真摯に向かい合い、伝え方一つで傷つく人も喜ぶ人もいることに自覚的すぎる。そんなに張り詰めては、いつか潰れてしまわないのかと心配になる。

    「恋累心中」は、ミステリとしては今回一番と思う。事件の様相が鮮やかに反転する気持ち良さとショッキングな真相。センセーショナルな高校生の心中事件が予想もつかないところから真の姿を表す。一番驚くのはその理由。悲しい。

    「名を刻む死」にはぞくぞくした。これはまさに知らなくてもよい真実だったと思う。語り手の高校生がよいアクセントになっている。

    「ナイフは失われた思い出の中に」は今回一番盛り上がる作品。三歳の姪を高校生がナイフで刺し殺すという凄惨な事件。容疑者である高校生の手記から、隠された真実を読み解いていく。物語に重ねた複数のテーマがきれいにまとまっているのは本当に上手いと思います。また、事件の見え方が少しずつ変わっていくのと同時に、語り手が太刀洗万智という人物を解き明かしていく構造が面白い。次の「綱渡りの成功例」と合わせて、大刀洗万智の感じる報道の歪みと、彼女が報道の中で自分に課す役割や目指すあり方が少しだけ見えてくる。『さよなら妖精』を読んでいればなお楽しめる部分もあるが、読んでなくても、楽しめる。

    自分の仕事、自らに課す役割、誇りというものについて考えさせられる。

  • 太刀洗万智の事件簿とも言える短編6編。

    全編を通して、太刀洗の独特の視点、鋭い洞察力が際立つ。
    そして、彼女の記者としての在り方というか姿勢が現れている。
    それは『王とサーカス』で、苦労して得た写真を報じないことに決めた太刀洗の延長線上にあるもの。

    真実を知ること、それをそのまま伝えることが正義ではない。
    何を報じ、何を報じないのか。
    自分なりの基準があって、その信念のもと記者を続ける太刀洗はやはり格好いいと思える。

  • 「王とサーカス」より先に読んでしまいましたが、物語の続きというわけではなさそうなので大丈夫かな。

    この短編集の並び方が良いですね。太刀洗のことがよく分かってないところでの「正義漢」。すごく面白かったです。
    「恋累心中」で太刀洗が無理だと思われる人物にインタビューを取りつけるのですが、どうやったかは書かれておらず「太刀洗だから、なんとかなったんだろう」と納得してしまうしかない。
    「ナイフを失われた思い出の中に」で、やっと「さよなら妖精」に出てきた少女だと気がつく。どんな話だったかうろ覚えなので、近々読み直そうかな。

  • 記者太刀洗万智の活躍を描いた短編6編集ですが、フリーランス記者になる前の最後の一編以外は新聞記者時代の活躍を描いた物語となっておりました。
    真実に忠実に目を向けて情報を丁寧に拾い集め、真実に迫っていく太刀洗の鋭い洞察力が記者のようであり、探偵のようでもあり面白いですね!
    また、その真実をどう活字とするか?という記者の視点に立った時のスタンス(姿勢)というのも、うまく描けていると思います。
    ミステリー作品として十分楽しめる作品だと思います!続編に期待したいですね!

  • 太刀洗さんが主人公の短編が1つと、太刀洗さんが登場する短編が5つ。太刀洗さんってクールで無表情で何考えているかよくわからないから苦手だな〜、と思っていたのに、彼女の記者としての信念や、たまに見せる優しさにいつの間にか惹かれていき、もっと彼女の出てくる話が読みたい!と思うようになった。「それなら、わたしが結論をあげる」とはっきり言う太刀洗さんがかっこいい。 「さよなら妖精」が未読なので読まなければ。

著者プロフィール

米澤 穂信(よねざわ ほのぶ)
1978年、岐阜県生まれの小説家、推理作家。金沢大学文学部卒業。
大学在学中から、ネット小説サイト「汎夢殿(はんむでん)」を運営し、作品を発表。大学卒業後に岐阜県高山市で書店員として勤めながら、2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞し、デビューに到る。同作は「古典部」シリーズとして大人気に。2011年『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)、2014年『満願』で第27回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。『満願』は2018年にドラマ化された。直木賞候補にも度々名が挙がる。
その他代表作として週刊文春ミステリーベスト10・このミステリーがすごい!・ミステリが読みたい!各1位となった『王とサーカス』がある。2018年12月14日、集英社から新刊『本と鍵の季節』を刊行。

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