刑事何森 孤高の相貌

著者 :
  • 東京創元社
3.86
  • (31)
  • (56)
  • (35)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 322
感想 : 52
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488028138

作品紹介・あらすじ

埼玉県警の何森(いずもり)は、昔気質の一匹狼の刑事である。仕事一筋ながら協調性はなく、県内の警察署を転々としていた。久喜署に所属していたある日、不可解な殺人事件の捜査に加わることに。障害のある娘と二人暮らしの母親が、二階の部屋で何者かに殺害された事件だ。二階へ上がれない娘は、母親の悲鳴を聞いて介護士を呼んでから通報したというが――。〈デフ・ヴォイス〉シリーズ随一の人気キャラクター・何森刑事が活躍する連作ミステリ。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 〈デフ・ヴォイス〉シリーズに登場する何森(いずもり)刑事を主人公にしたスピンオフ作品。
    ということだが、第三作「慟哭は聴こえない」しか読んでいない私には誰だか分からない。…と思ったら、あとがきにて「慟哭は聴こえない」の第三話が何森視点だったと書いてある。自分の記憶力に失笑。

    二編の短編と一編の中編が収録されているが、いずれも何かしらの障害や病気を負っている人が関わった話になっている。
    これまたあとがきで知ったが、作家さん自身重い障害を抱えるご家族がいるとのこと。そうした環境が〈デフ・ヴォイス〉シリーズや本作などのアイデアになっているのかも知れない。

    主人公の何森は裏金作りの領収書作成を拒否したことから出世も望めず組織からも距離を置かれているらしい。大沢在昌さんの新宿鮫シリーズの鮫島よりは軽い感じだが、なかなか辛い状況でちょっと引く。
    しかし元々何森は我が道を往くタイプの刑事のようで、そんな状況にめげてない。

    第一話「二階の死体」では担当外の捜査にガンガン突き進むし、ちょっとスタンドプレー気味にも見える。しかし相棒の間宮も何だかんだで付き合うのだからもしかして出世狙い?と思ったらとんだくわせ者。
    事件の方は途中で想像がつくが、何とも陰鬱な気持ちにさせられた。もしかして交通事故も関係者の頑なな精神状態が関係して?と思ったら違っていた。
    それにしてもこの場合、刑務所に入るのか?それとも医療刑務所?

    この後、裏金事件は現実同様明るみに出る。〈デフ・ヴォイス〉シリーズの荒井がなぜ女性刑事と出会ったのか、その疑問が解けた。一方何森は更に窮屈になる。

    第二話「灰色でなく」は、現実にも似たような事件があったのを作中にも挙げている。取り調べに問題があるのは論外だが、こうした人が家族や身近にいたらハラハラする。一方で横山秀夫さんみたいな裏をかいた話も期待してしまった。

    ここでも何森はスタンドプレーをやってしまう。刑事であると同時に組織の一員でもあるのだから、もう少し上手くやれないかと思う。荒井の妻みゆきとのコンビは良い感じだが、何森がまた左遷される一方でみゆきが出世するのはモヤモヤする。

    第三話「ロスト」は銀行強盗の実行犯の一人が記憶喪失のまま刑期を終え出所してからの話。
    こちらは横山秀夫さんチック。ただ横山さんならもっと容赦のない結末にするだろう。
    個人的にはこの結末は納得行かなかった。まるで美談のような描かれ方だが、この人は沢山の人たちの良心や恋心までを利用し踏みにじり間接的ではあるが人の命まで奪った。強盗した二億円だって返ってこない。お金は保険金で保障されても、奪われた側は何らかの責任を取らされたはず。
    この犯罪で救われた人がいても、そのために大罪を犯したった七年の刑期で済ませた。この後も大した罪に問われないのだろう。計算し尽くした卑劣な犯罪だ。

    警察としても犯人の本当の卑劣さに目を瞑った。何森でさえも。そして何森は窮屈な世界から解放される。それで良いのか、何森。やはり納得いかない。

    どうもこの作家さんとは合わないようだ。色々考えさせられるところはあるが、物語としては共感出来ないところが多い。

    ※「慟哭は聴こえない」レビュー
    https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4488027970#comment

  • デフ・ヴォイスシリーズに登場する、何森刑事が主役のスピンオフ。
    主となるシリーズから派生して同じ登場人物が出てくる話は結構好きなんだけど、読む前は
    この無口で無骨なイメージの彼が一体どんな活躍を?
    と思わないでもなかった。
    でもそんな懸念は無用で、最初からストーリーに引き込まれた。
    意外と会話を引き出すのが上手かったり、
    弱い立場の者への眼差しや、忘れることのできない辛い過去を背負いながら今の仕事に没頭する姿を好ましく感じられた。

    今回はみゆきとの関わりが多かったので、
    次回、また続きがあるのなら、荒井とのやり取りが見てみたい。

  • 「デフ·ヴォイス 法廷の手話通訳士」のスピンオフ作品。作中に出てくる非常に印象的な刑事さんが、本作品の主人公。
    この刑事さんが人気があるのがよくわかります、組織に疎まれる姿は痛々しいですが。

  • デフヴォイスシリーズのスピンオフで何森刑事を主役に短編3話。いずれも障害や病気などの社会的弱者に寄り添う内容。

    頸髄損傷の重度障害者、人間の尊厳、家族の介護問題からミステリーに仕上げた1話目。

    2話目は、供述弱者、という、相手に合わせて話す心理傾向がある被疑者の話。

    そして最後はこの本の半分以上を占めた、現金強盗事件からの全生活史健忘の鑑定上の判決を受けた、兄妹愛の話。
    散らばった糸を多摩動物園で回収。良かった。

    一見堅物に見られる何森刑事のチーム度外視した捜査方法だが、世の悪は見逃せない、昭和な刑事を貫く。ベタといえばベタ。デフヴォイスシリーズを読んだ者としてはスピンオフにも興味が湧くかも。

  • デフ・ボイスシリーズでいい味出してる刑事
    孤高の男「何森」の短編…渋い(*゚▽゚)ノ

    全三話です。
    シリーズのスピンオフなので、やはり何らかの障害が絡んでます。

    丸山正樹やっぱりいいです♪
    ホント読みやすい!
    この地味な空気感!失礼ですね笑

    横山秀夫と柚月裕子の佐方を足して割って地味に丸めた感じ…という事にして下さい(¬_¬)


    毎作「あとがき」がありますが

    これまで「障害者や病人ばかりに材をとるのはいかがなものか」と度々言われて…

    誰だ!そんな事言う輩は‼︎
    まだまだ読みたいんだから変なこと言わんといて〜


  • タイトルは孤高の相貌となっているけれど、読んでいて、それほど孤高と感じなかった。
    意外にも、ペアとの捜査連携はスムーズに出来ていたので。

    三編どれも、弱者に目を向けた話で丸山さんらしい。
    最後の「ロスト」が中編で読みごたえがあったが、前半の短編も、とても考えさせられて心に残った。

    この何森主役バージョンも、もっと読みたいと思います。

  • 「デフ・ヴォイス」シリーズのサブキャラ・何森刑事をメインにした、スピンオフ作品。連作三話が収録されています。

    組織不適合者として、警察署内で冷遇されている何森刑事。
    故に捜査の主流から外されているものの、持ち前の正義感と経験を活かして、泥臭く事件の真相を追っていく展開です。
    「デフ・ヴォイス」シリーズで“ろう者”の方々について描かれている著者らしく、本書でも第一話「二階の死体」では半身不随の女性が、第二話「灰色でなく」では、供述弱者の青年。そして第三話「ロスト」では、記憶喪失の受刑者・・・といった、何らかの身体的もしくは精神的問題を抱えている人達が関わっています。
    各話、社会的問題を絡めたミステリとして楽しめるのですが、特に第三話「ロスト」は、出所した男性の“記憶喪失”の真偽と謎に包まれた彼の過去について、グイグイ引き込まれる展開で分量的にも読み応えがありましたし、何森刑事の辛い過去も明らかになったりと、切なくも心に染み入るストーリーでした。
    そして、独自に動く何森刑事をサポートする、みゆきさんも良かったですね。
    警官としてのみゆきさんの姿は、本編の方での“家庭モード”の時とはまた違った印象で好感度が上がりました。

    事件の真相解明しているのに、スタンドプレーが祟って評価されない何森さん。
    その不遇さに、いっそのこと独立して探偵事務所を開いたらいいのに(そこに荒井さんも所属して)・・・と、思ったりもしましたが、やっぱり“刑事”が似合う人なので、このまま頑張って頂きたいと考え直した次第です。

  • デフ・ヴォイスに登場する刑事 何森 が主人公のお話。

    「二階の死体」
    障害のある娘とその母親の二人暮らしの家で、母親が殺される。母親は2階で死亡。娘は半身不随で二階には上がれず、ケースワーカーの男性に電話をし、母親の遺体を発見。医師からは娘の障害の状況では2階に上がるのは無理だという。捜査本部は「連続窃盗犯の仕業」という予見に基づく捜査。何森は母娘とケースワーカーの関係性に疑問を持つ。

    「灰色でなく」
    強盗事件の被疑者として逮捕された男に覚えのあった何森。デフ・ヴォイスにも登場する荒井みゆきから聞かされた「供述弱者」の話。前話でも登場した間宮をギャフンと言わせる。

    「ロスト」
    兄と妹がテーマ。3組の兄と妹が出てくる。強盗事件で逮捕された男は記憶を失い、記憶を取り戻すことなく、仮釈放で出所。支援施設の所長が彼の記憶を取り戻すことに奮闘していく。また何森もその所長の後を追うように男の生きてきた軌跡をたどる。


    著者は何森に対して思い入れがあるようだが、私は荒井のほうがいいなあ。何森が組織の中で不遇で優秀なのに一匹狼的なところが可哀想にはなるけれど、でもなあ、と考えてしまう。
    次は荒井のほうの話を読みたい。

  • 「デフボイス」シリーズで素晴らしい存在感を醸し出している何森刑事を主人公にしたスピンオフです。
    自分の道を曲げないが故に周囲に疎まれる何森が、色々な事に道を阻まれながら隙間からちょいちょい手を出して結局解決に導き、警察関係は苦々しく思っているというシチュエーションが萌える。主流ではない人が正義感と能力で突き進んでいくのは物語としてとても面白いものになります。鉄板。
    デフボイスの主人公荒井の奥様が大事な協力者として大車輪の活躍です。

  • デフ・ヴォイスシリーズのスピンオフ作品でもあり、時系列的に言うとデフ・ヴォイスシリーズ第三弾の後のお話…と聞いて、第四弾を読む前に!と手に取りました。夕べちょっとだけ…と思って読み始めたらあっという間に引き込まれてしまい、結局一気読み。おもしろかった!

    埼玉県警の昔気質の一匹狼の刑事、何森を主人公とした短編2つと中編1つからなる連作ミステリです。

    車椅子生活と介護、供述弱者、全生活史健忘などなど、今作でもやはり作者の社会的弱者に寄り添う姿勢が感じられる作品でした。

    何森刑事の不器用だけれど真っ直ぐなところが好きです。刑事となったみゆきさんのサポートもいい感じ。彼の抱えていた悲しい過去も明かされ、荒井家との関係も縮まったようですね。

    ぜひこれもシリーズ化して欲しいです。

全52件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

京都大学大学院理学研究科教授。

「2004年 『代数幾何学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

丸山正樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×