久遠の島

  • 東京創元社
4.24
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488028398

作品紹介・あらすじ

『夜の写本師』に連なる、本の魔法と復讐の物語。
本を愛する人のみが上陸を許される<久遠の島>、
そこでは世界中のあらゆる書物を読むことができる。
島で生まれた本の守り手たる氏族の兄弟が辿る、数奇な運命
<オーリエラントの魔道師>シリーズ最新作

〈久遠の島〉、そこは世界中のあらゆる書物を見ることができ、本を愛する人のみが入ることを許される楽園だ。あるとき、ひとりの魅力的な王子が島を訪れる。だが、その真の姿は目的のためなら手段を選ばない非道な人物だった。そして彼の野心が島に悲劇をもたらした。書物の護り手である氏族の兄弟がたどる数奇な運命。連合王国フォト、呪法の国マードラ、写本の都パドゥキアを舞台に描く〈オーリエラントの魔道師シリーズ〉最新作。

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ最高傑作!(主観)
    オーリエラントの魔道師シリーズ最新作、夜の写本師の二千年前の話。巻末にシリーズ作品年表が載っていて親切。
    ものすごく面白かった。久遠の島の様子と島の最期から始まり、生き残った3人の子供、ネイダル、ヴィニダル、シトルフィの生きていく様子が描かれる。写本師の仕事の描写が秀逸。そして、勧善懲悪好みの私的にはなんといっても最後の大団円っぷりが素晴らしい、読了感すばらしい。スッキリした。

  • 世界中のあらゆる書物を見ることができ、本を愛する人のみが入ることを許される楽園〈久遠の島〉。そこを訪れた王子セパターによって、島に悲劇が起きる。
    真実を知る少年と少女はそれぞれに必死で生き延びる。
    ……そして正義が必ずしも行われないことを身を以て知るわけだが、復讐するかしないかの岐路に立たされたときに、彼らが選んだ道がいい。そのときの「大人」の助言も時宜を得ている。
    いつかきちんと時系列で読んで整理したいと思っているのだが、もちろん、単体で読んでも問題のない面白さである。

  • 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ。
    本書は、シリーズ第一作である『夜の写本師』に連なる物語となっております。

    世界中のあらゆる書物を読むことができる<久遠の島>。
    そこを訪れた他国の王子・セパターの私利私欲により、島の禁忌が破られ、何と一夜のうちに島は沈んでしまいます。
    奇跡的に生き残ったヴィニダル、シトルフィ(with姫山羊のチャギ)、そして一足先に島を出ていたヴィニダルの兄・ネイダル。
    一人の人間の悪意により故郷を失った若者たちの運命はどうなっていくのでしょうか・・。

    島が没してしまった直後は、離れ離れでお互いの消息もわからないままの彼らでしたが、過酷な旅を通じて運命を切り拓いていく、その成長が眩しいです。
    とりわけヴィニダルは密林や砂漠を延々と彷徨う羽目になってボロボロの状態でしたが、それを乗り越えただけに一皮も二皮も剥けたように思います。
    そんな3人が写本の都・パドゥキアでようやく再会できて、それぞれの才能を活かすべく本創りの修行に励む場面は楽しくワクワクしました。
    写本の描写は勿論、本に使うインクや羊皮紙のできる過程も興味深く、一冊の本がどれだけ手間暇かけて創られているのか・・・書物の尊さを実感します。
    そして、忘れてはいけない諸悪の根源・セパターへの復讐が遂げられた時は溜飲が下がる思いでした。
    読み応えガッツリで、物語の世界に浸れる本書。ラストの一行を読んで、改めて『夜の写本師』を読み返したくなりました。

  • 『夜の写本師」は、衝撃的なダークファンタジーだった。その後のオーリエラントの魔導士たちの活躍は、これまでの本に描かれているが、これはその後のすべての歴史につながる、いちばん初めの物語になっている。主人公は3人の少年と少女だし、それぞれが運命に導かれて冒険する内容なので、ジュブナイル小説といえそう。国や魔導士によって違う、呪術のあり方の違いも描かれる。
    このシリーズの中でも、とても読みやすくてわかりやすい。ボリュームもあり、読み応えもある。シリーズを知らなくても、単独で楽しめる。
    このシリーズを読みたい人は巻末の年表が参考になる。
    ただ、久遠の島がそう簡単に・・・(ネタバレ)というあっけなさはどうしたことか。

    ここでは特に、写本についての技術的な描写が印象的だった。写本師の腕前だけでなく、それにつながるインクを作る職人、羊皮紙を作る職人、それぞれの工房の様子など。中世のヨーロッパでは本当にこうした写本が行われていたのだろうと思わせるリアリティが、物語のなかで光っていた。

  • 美しかったです。
    描かれている世界も、3人の作りだしたであろう本も、そしてそれらを表現する文章も、

  • 『読書垢の楽園《久遠の島》を巡る本格派ファンタジー』

    乾石さん最新作は初読みだったが、すでに多くのオーリエラントシリーズが出ていたんですね。欲深い王子の悪巧みで島を失ったジャファル氏族の物語。デビュー作『夜の写本師』へと繋がっていくらしいので、このシリーズ、読み進めていきたいと思う。

  • ページをめくると広がる世界
    乏しい想像ながら浮かぶ映像は薄い色ながらも強烈なインパクト
    丁寧に積み上げたストーリーは読みたい気持ちに理解が追い付かなくて、もどかしさ倍増させて飛ばし読みする後半へ
    ああ、こういう物語が読みたかったんだよ、という充実感
    そして年表を確認して、狼狽え、「夜の写本師」未読なことを今更ながら思い出す

  • 決して派手なことはなく
    ただ、とても丁寧に表現され
    壮大な物語がある
    新刊の中に気になったので手にした
    面白かった!!
    文句なく

  • オーリエラントの魔導師シリーズの一冊。シリーズ第一作目にして傑作である『夜の写本師』に繋がる、本の魔術と呪いと復讐の物語。
    この世のすべての本を「読む」ことができる木を抱く、『久遠の島』。神聖で美しく、島民たちによって大切に守られてきたその島は、ある男の企みにより、一夜で沈んでしまう……。生き残った三人の少年少女の、復讐と再生を描いた長編。

    ここ数年の乾石氏の作品の中では、一番のお気に入りになった。
    壮大な物語、本や魔術、ヤギといった魅力的なモチーフ。主人公ヴァニダルをはじめとするキャラクターの細かい心理描写。そして、『夜の写本師』に繋がる、鮮やかなストーリーライン。どれをとっても素晴らしいと言えると思う。もちろん、乾石節とも言える、荘厳で美しい描写も健在だ。


    この物語の特筆すべきところは、やはり、主人公たちの泥の中で過ごすような苦しい生活と、その中での努力が、事細かに描かれていることだろう。
    主人公ヴァニダルは、書いた文字が「呪い」となる魔術を。その兄ネイダルは、写本を。そして、二人の幼馴染であるシトルフィは、絵を。故郷という心の支えを失いながらも、三人は自分のやるべきことを見つけ、それを極めてていく。
    一般的に、このような「修行」のシーンは嫌われがちだと、漫画等の世界では言われている。だが、その修行さえも、日本ファンタジー界の大魔術師・乾石智子の手にかかれば、物語一の魅力となるのである。
    エキゾチックな雰囲気が漂う、写本や呪いといったモチーフを、その文章力によって、どこまでも魅力的に見せてくれる。恐ろしくて、神聖で、でもどうしても気になる。そんなファンタジー世界を描くのは、彼女の得意技であると言えるだろう。加えて、技術を極めていく過程で見られる三人の心身の成長には、児童書を読んだ時のような爽快感もある。このバランス感が、特に良いのだと思う。
    そして、この努力が、最後の「復讐」へ向かって収束していく。本当に見事なストーリーだ。


    ※以下、他の「オーリエラントの魔導師」シリーズの作品のネタバレあり

    この物語は、ヴァニダルたち三人の復讐譚である。復讐といえば、乾石智子の十八番。そう思う方もいるかもしれない。だが、この作品は一味違う。勧善懲悪、とでもいえばいいのだろうか。ヴァニダルたちの作戦は見事に成功し、彼らは、故郷を滅ぼした傲慢な男・セパターを懲らしめる。
    乾石智子の描く復讐は、ある意味「中途半端」な状態で終わってしまうことが多い。例えば、『夜の写本師』。相手を1000年呪い続けた主人公は、最後には多くの人を呪ってきた彼が孤独であり愛を欲してしたということに気が付く。また、『沈黙の書』では、最後の敵は、家族や故郷を失った原因である人間ではなく、他の大陸からやってきた、言葉の通じない蛮族だ。
    このような展開は、個人的に好きな展開の一つである。人間というのは、全くの悪人でもなければ、いつだっていい人なわけでもない。現実的な人間像の一つとして、このことはとても的を射ていると思う。

    だが、本書は違う。彼らは呪いを込めた写本を使い、貴重な本に目がないセパターの性質を分かったうえで、見事に彼に勝利する。先にも述べたように、勧善懲悪だ。
    復讐が復讐として、完璧に成功する物語は珍しい。現在の日本では、復讐はするべきではないと定められている。芸術の世界も、「復讐は何も生まない。過去に縛られるのはやめ、前を向くべき」というようなメッセージで溢れている。それが間違いだとは思わない。だが、本当にそれだけが真理だろうか。どうしても許せないことがあるとき、そのやるせない気持ちを捨てることは難しい。もちろん、現実世界において復讐は何も生まない。だが、人間の醜さを肯定する手段であるはずの芸術が、怒りや悲しみを捨てろと高潔な精神のみを説いてしまっては、負の感情を救う手立てが全くなくなってしまう。
    そのような、苦しい思いと復讐を為すことを肯定するのが本書である。ただし、乾石智子は、復讐を「スカッとする物語」にはしない。前述したとおり、主人公たち三人は、何も知らない世界に放り出され、揉まれ、血のにじむような努力をし、そうして初めて復讐するための土台を作り上げる。ここがまた、乾石氏の作品の深みの理由の一つだろう。
    彼女の描く復讐には、大きな代償が伴う。シリーズ全体を通して、その代償は「魔術師は闇を背負う」という言葉で表される。欲望、怨嗟、悲哀。すべての黒々とした感情を、魔術という特殊能力と引き換えに、魔術師たちは背負っていく。時に、その重さに押しつぶされそうになりながらも、自らの魔術に誇りを持ち、それを極めようとする。魔術師の業でもあり、強さでもある「闇と共に生きる力」。人間の醜悪であり、美しさでもある彼らの生き様に、私は強く惹かれている。


    最後に、この本について語るならば外せないのが、『夜の写本師』との繋がりだろう。「夜の写本師」は、紙とインクを使って呪いを描く。乾石智子のデビュー作で、世界を変えた主人公カリュドゥが、この夜の写本師であった。この物語は、『夜の写本師』、始まりの物語だ。『夜の写本師』を一読してから、この物語を読むことをお勧めする。きっと、最後の一文を読み終わったとき、貴方は息をのむことだろう。

  • オーリエラントの魔道師シリーズの第十一作。

    久遠の島。
    どこにあるのかわからなくても、
    その書物を読むことができる島。
    その島に邪な思いを抱く者が現れたとあれば、
    武器を持ち込むことが許されない平和な島を巡る攻防の話かと思いきや、
    いきなり島が沈んでしまうところから物語が始まるとは。
    恐ろしい。

    故郷と言う場所も、両親や親しい者も一度に失う絶望感と喪失感の中では、
    追われる身であった方が良かったのでは、とさえ思えた。

    少年少女たちはそれぞれ成長し、再会し
    それだけでも物語として素晴らしいのに、
    復讐までなしとげるとは、
    納得のいく終わり方だった。

    さらに「夜の写本師」の文字を見るとは、
    驚き、なぜか泣きそうになった。

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著者プロフィール

山形県生まれ。山形大学卒業。1999年、教育総研ファンタジー大賞を受賞。『夜の写本師』からはじまる〈オーリエラントの魔道師〉シリーズをはじめ、緻密かつスケールの大きい物語世界を生み出すハイ・ファンタジーの書き手として、読者から絶大な支持を集める。他の著書に「紐結びの魔道師」3部作(東京創元社)、『竜鏡の占人 リオランの鏡』(角川文庫)、『闇の虹水晶』(創元推理文庫)など。

「2019年 『炎のタペストリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

乾石智子の作品

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