- Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488070694
作品紹介・あらすじ
長い失踪の後、帰宅した祖父が語ったのは、ある一家の奇怪で悲惨な事件だった。一家の四人の兄妹は、医者である父親に殺された母親の体の一部を、父親自身の手でそれぞれの体に埋め込まれたという。四人のその後の驚きに満ちた人生とそれを語る人々のシュールで奇怪な物語。ポストモダン小説史に輝く傑作。
感想・レビュー・書評
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これは困ったなぁ。
背表紙に掲載されている紹介文を抜粋すると「ある一家の奇怪で悲惨な事件。一家の四人の兄妹は、医者である父親に殺された母親の体の一部を、父親自身の手でそれぞれの身体に埋め込まれた」となっている。
かなりショッキングな内容ではあるが、実は物語とは全く関係がないと断言してしまおう。
別にこんなにショッキングな内容でなくても、「幼いころに生き別れた四人の兄妹」でも事足りる。
乱暴に言ってしまえば、グロテスクで奇妙なエピソードが積み重なった長編の体を真似た短編集みたいなもの、ってところだろうか。
上のショッキングな内容は、そんなエピソードを一つの流れの中にくっつけておくための漆喰の役割を果たしているような印象。
ただ、短編集にしてしまうと、それぞれに設定をしなおして、お膳立てをしていく手間がかかるし、読者もその都度、頭を切り替える必要がある。
だから、悪口を書いているように思われるかも知れないけれど、実は「この形式っていいじゃん」と感心したりしている。
ショッキングな内容そのものも一つのエピソードといえるし、それぞれのエピソードは文字通り「挿話」としての役目……冗長にならず短く要点が凝縮されたピリっとまとまりのある……を果していると思う。
だから読んでいて面白いのだ。
どんどんと先に先に読み進められる。
で、ラスト……。
しょっぱなに「困った」と書いたのはこのラストをどう受け止めればいいのか、それに困ってしまっているのだ。
受け取り方によっては「これ、タブーじゃないか!」と激怒すること必至。
星なんて一つも献上したくもなくなるだろう。
でも、それまでの面白さ(そこにはかなりのグロテスクさと、流血と、痛みと、奇妙な味が多く含まれている)を鑑みると、許してあげたくもある。
そもそも「許してあげたくもある」と受けとっていいのかどうかも分からないのが、このラスト。
はてさて、このラスト……このラスト……どう受け止めればいいのだろうか。
ま、僕自身はかなりいい加減で頭の悪い読者なので、「とにかく面白かったんだからいいや」と星を五つ献上しちゃいます。
ただ、生真面目な読者がこれを読んだら、きつねにつままれたように感じるかも知れない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
医者である父親に殺された母親の体の一部を体内に埋め込まれた四人兄妹。彼らのその後の数奇な生涯とは……。
ダークな想像力によって紡がれる、グロテスクで歪な物語が心地よい。こういうの大好物だよ。幾つもの語りを積み重ねることで虚実のあわいを曖昧にし、”物語”や”わたし”といったテーマを浮かび上がらせる構成も見事。『隠し部屋を査察して』の幾つかの短篇とリンクしてるのも嬉しいね。 -
よくもまあ嫌〜〜〜な話を思いつくな…
エリック・マコーマックの長編はいつもそうだ… -
3.85/212
内容(「BOOK」データベースより)
『長い失踪の後、帰宅した祖父が語ったのは、ある一家の奇怪で悲惨な事件だった。一家の四人の兄妹は、医者である父親に殺された母親の体の一部を、父親自身の手でそれぞれの体に埋め込まれたという。四人のその後の驚きに満ちた人生とそれを語る人々のシュールで奇怪な物語。ポストモダン小説史に輝く傑作。』
冒頭
『パラダイス・モーテルのバルコニーの枝編み細工の椅子にすわって、彼はうつらうつらとうたたねしている。地面にうずくまるような羽目板の建物は、浜辺のかなたの北大西洋に面している。灰色の空のしたに灰色の海が広がっている。』
原書名:『The Paradise Motel』
著者:エリック・マコーマック (Eric McCormack)
訳者:増田 まもる
出版社 : 東京創元社
文庫 : 273ページ -
2011-11-30
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とある田舎の炭鉱町に越してきた医者一家。ある日彼らの子供は奇妙な歩き方で学校へ行き、教室で倒れ、次々と病院へ運ばれる。子供たちの腹部にはそれぞれバラバラにされた、行方不明となった母親の遺体の一部が埋め込まれていた。犯人はもちろん医者である父親。
その四兄妹のうちの一人に、主人公の祖父は放浪の末就いた船乗りの職で出会い、衝撃的な事件が語られる。けれど、その祖父の語りも実は嘘で、祖父は放浪なんてせず、ごく近い町で勤勉に30年働いていただけだと知らされる。けれどその祖父の告白を聞いた後、主人公は「偶然に」、次々とその四兄妹の消息、異様な死に様を旅先で出会った人から聞き知ることになる。真相は、とか考えない。ただただひたすら面白く、豊穣でちょっとだけ過剰な小説。最後はなんだよ、と思わなくもないけれど、とにかくこの世界は面白いし、これもまた現実の捉え方として魅力的だと思ったり。