Yの悲劇 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488104023

感想・レビュー・書評

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  • 湾から引き揚げられた1人の男の遺体。
    これが呪われたハッター家を舞台にした事件の始まりでした。

    ハッター家の面々は"風変わり"という言葉では物足りないほど、常軌を逸した性質を抱えています。
    一家の頂点に君臨する老婦人をはじめ、各々に恐怖や不安を感じさせる要素が多すぎて、読んでいてとにかく気が休まらないのです。
    そんな家で起こった殺人事件が一筋縄でいくはずがありません。
    警察から相談を受け、ドルリー・レーンが現場へ赴きますが…

    手がかりを見つけるにつれ、レーン氏の表情が悲痛になっていくのが読んでいてつらかったです。
    事件の真相を見届けたくて、ページをめくる手は止まりませんでしたが、自分も険しい顔になっているのがわかりました。
    そして、何が起こったのかを読者に仄めかすラストシーン…

    間違いなくおもしろかったのだけど、重苦しさを拭いきれない読後感。
    しばし放心したのち、もやもやした気持ちを頭の中でこねくり回していたのでした。

  • 私には理解できないところが多く、色々と疑問が残る結末だった。読みながら気になっていたハッター家の呪われた病…ってなに?なんの病気?精神病的な遺伝?そして最後の結末も…警部と同じ疑問を私も持ったけど考察を見ると色々な考えがあるみたい。時代なのか、お国柄なのか命よりも社会的な制裁を避けるというのも現在の日本に生まれた私には理解しづらい。運試しっていうのも…うーん。。うまくまとめられない。でも、レーンの論理的な推理は相変わらずで先が気になり一気に読んだのは言うまでもない。そういう意味では面白かった。

  • 事件は“きちがい”ハッター家の主、ヨーク・ハッター(とおぼしき)の水死体が発見されたことに端を発する。
    毒殺未遂、あろうことか楽器のマンドリンで撲殺されたハッター夫人…次々と不可解な謎に見舞われるハッター家。それに立ち向かう元俳優の名探偵ドルリィ・レーン…

    ワクワクする筋書き、綿密に計算されたロジック、そして意外過ぎてまず予想出来ない犯人(自分は作者のミスリードに完璧にはめられました、2名とも笑)。とても鮮やかな一冊でした。
    そしてこのラスト!
    個人的ミステリ史上最もショッキングであろうこのラスト6行に、戦慄するとともに、なんというか、とても深く考えさせられた。
    この小説の犯人に限らず、救いようのない悪が深く根付いている人間がいることは事実で、それ自体どうしようもない悲劇であるし、それに対する審判のやり方が“これ”しかないというのも悲劇であるかもしれない。

    うーんそれにしてもこのラストでかなり独特の存在になったドルリィ・レーン。こんな探偵は、本来ミステリのなかにいてはいけない存在ではないか。探偵はあくまで探偵であり、運命の審判者であるべきではない。
    そういうタブーをまんまとやらかした、とんでもない探偵である。
    しかし魅力的だからとても嫌いになれず、参った。

  • 本格ミステリーは時が経っても面白い

  • 素晴らしい作品なのは間違いないのだが、個人的には『Xの悲劇』の方が好み。
    海外ではX、日本ではYの方が評価が高いというのに何となく納得。

    Xと違って論理だけで構成されているというわけではないが、美しい論理は健在。

    梨に室内で毒を入れる、ヴァニラと靴という二つの道具により二人の異なる人物に容疑を向けてしまっている、実験室のドア付近はホコリが残ったまま、などの言われれば分かる"ちぐはぐさ"だったり、つま先立ちの跡など、犯人を推理する根拠は十分すぎるほどあり、そして犯人がなぜマンドリンを凶器に選んだのかという理由はとても面白い。

    床几が薬棚の前に置かれていたことから「もしや?」とは思っていたがまさか本当に犯人だとは。

    梨に毒を入れた人物とエミリーを殺した人物は同一人物だという理由も単純だが見事。
    最後に明かされる真実も衝撃的...

    Xと差をつけるため、評価は☆4で。


  • 文庫本の分厚さに慄き、なかなか手を伸ばせなかった『Yの悲劇』。5月のGW中に手に取ったが、一度読み始めると止まらず、真夜中から朝方までかけて一気に読んでしまった。文句なしに面白い‼︎

    『Yの悲劇』は一言で言うと、惜しみなく食材が使われた、見た目も豪華なフルコース料理だ。お腹いっぱい、大満足になる。本の裏表紙に書いてある紹介文からだけでも、「行方不明」「富豪の死」「海からあがった死体」「毒物死」「一族に遺伝する病気」「繰り返される殺人」「有り得ない犯人」…推理小説に似つかわしいキーワードがてんこ盛り。

    事件の舞台となるハッター家は、お金持ちであるが、性格に難ありな人物ばかり、家庭内でトラブルが起こってばかりの誰一人幸せそうじゃない一家。物語冒頭に起きる富豪の死だけではなく、その後に別の殺人が起こり、犯人のものと思われる痕跡が、たくさん見つかるのだが、それがかえって推理を混乱させる…。手がかりがあっても明快な答えが見つからないもどかしさ。おまけに探偵や警部の鼻先で、手際の悪さを嘲笑うかのように次の事件が起こってしまう。

    一体どんな犯人が?

    物語には、盲目で耳が聞こえず、話すことのできない女性が登場するのだが、その彼女が危険に晒されたり、覚悟を決める場面があり、とてもスリリングで手に汗を握る。(彼女が探偵に訴えるシーンは強烈に印象的だった)

    全貌の見えない事件をひたすら根気強く追い続け、ようやく真実に辿り着いた時、なんともいえない気持ちになった…「悲劇」というのは、こういうところから来ているのか。クリスティー作品でも、似たような意外な人物が犯人の作品はあるけれど、『Yの悲劇』は悲劇が連鎖し、謎が二重構造のようになっていて、より一層複雑な筋立てが面白さを掻き立てる。

    また、探偵のドルリー・レーンの前職は、シェイクスピア劇の俳優という設定になっているのだが、そのせいか小説のなかにシェイクスピア劇のセリフが時折引用されて出てくる。こういう趣向はとても好きだ。ドルリー・レーンが主人公のシリーズは四部作になっていて『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』とある。『Yの悲劇』から読んでしまったが、前作を読んでなくても十分楽しめた。

  • 言わずと知れた名作、今更ながらに読了。実をいうと犯人「だけ」は知っていたのですが(あと凶器も)。それでも分からない、というか、解明されてる気になれなくてぐいぐい読み進めました。
    なるほど、個性強い一家です。ほんっと誰が犯人でもおかしくない。で、犯人があの人だって先入観に突き動かされたまま読んだのだけれど。それでも案外気づかない、犯人の矛盾点。論理的と言えるかどうかはちと微妙でもあるのですが(犯人がただのバカだった、という可能性もあり?)。言われてみればなるほど。ただし、マンドリンが凶器に選ばれた理由、日本人には到底わかりそうにないのが残念です。
    そして、ラストの展開には衝撃というほかなく。えっと、たしかにあの場合打つ手がなかったのかもしれないけれど……え? え? まさかやっちゃいましたかっ!? 苦渋の決断なのはわかるけれど、さすがに正しい解決法とは思えないなあ。苦い後味でした。

  • 海外ミステリー名作中の名作だから今更という気もするけれど、久々に再読。

    序盤から細かい伏線が散りばめられ、最後にきちんと回収している点に、ミステリーとして非常にフェアな印象を受ける。レーンが最後の最後まで種明かしをしない姿勢には若干イラっとするけど。特に凶器にマンダリンを使った理由の解釈は秀逸。
    翻訳もの特有の読みにくさや、時代の違いからくる分かりにくさはあるけど、ドルリー・レーン四部作の中では一番好み。

  • エラリー・クイーン、初めて読んだ。「それっぽい、そうっぽい」なんてのは一切排除した、正確にパズルを組み立てる作業のよう。ドルリー・レーンのなかなか明かさないところは、いかにも!な探偵スタイルで、警部と一緒にやきもきしたわぁ。かっこいいけどキザっちい。そしてマンドリン。マンドリンの衝撃。あー!おもしろかったー。

  • 言わずと知れたパズラーの最高傑作です。
    やはり「マンドリンの選択」が一番印象的でした。二階の寝室で撲殺事件が発生するのですが、周りには凶器になる物が沢山あるのに、わざわざ一階にあるマンドリンを選んだという謎が不合理で不気味です。真相はあまりにも合理的で鋭い論理だったのでビックリしました。
    文体がずっしりとした感じでなかなか読むペースが上がりませんでしたが、推理の醍醐味を満喫できました。意外な展開も用意されているので、一読の価値は十分にあると思います。

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著者プロフィール

エラリー・クイーン。フレデリック・ダネイとマンフレッド・B・リーの合作ペンネーム。従兄弟同士で、ともにニューヨーク、ブルックリン生まれ。1929年『ローマ帽子の謎』で作家としてデビュー。ラジオドラマの脚本家やアンソロジストとしても活躍。主な代表作に『ギリシア館の謎(32)、『エジプト十字架の謎』(32)の〈国名シリーズ〉や、『Xの悲劇』(32)に始まる〈レーン四部作〉などがある。また編集者として「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」を編集、刊行した。

「2021年 『消える魔術師の冒険 聴取者への挑戦Ⅳ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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