ブラウン神父の童心 (創元推理文庫 110-1)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488110017

感想・レビュー・書評

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  • 私がこの本を手にしたのは本当に何気ないことだった。家から自転車で10分くらい離れたところにあるH屋書店に大学帰る際に立ち寄るのが日課となっていた私は、いつものように立ち読みを済ました後、コミックコーナーを散策し、ふらりと文庫本コーナーに行ってみると、そこにブラウン神父シリーズ5作が並んでいた。しかも装丁を刷新したようで、なにげに惹かれるものがあった。
    久々に推理小説を読むのもいいなぁと思った私はとりあえず1冊手に取り、レジに向かった。A型で几帳面な私はシリーズ第1作が本作であることを調べておいた。
    久々に読む推理小説ということで、長編は抵抗あったが、これは短編集だったのもこれを買う動機の一助になっていたように感じる。隣にはアシモフの黒後家蜘蛛の会シリーズも並んでいたが、そちらは興味を沸かなかった。今にして思えばそちらも刷新された装丁であったようで現在も同じ装丁だが、なんだか食指が沸かないイラストだった。このシリーズは今もまだ読んでいない。

    さてまずびっくりしたのはこの上ない読みにくさ。シリーズ開幕の1作目「青い十字架」は全編に宗教論が横溢しており、その難解さにいきなり面食らった。最後に明かされる真相はなるほどという域を脱しておらず、しかも半分くらいしか理解できなかった宗教論自体も真相に関与していたことも解り、うわ~、読み通せるかなぁと非常に不安になった。

    翌日2作目の「秘密の庭」を読んだ。この真相にはかなり驚いた。久々に推理小説を読んだ当時の私にとってはものすごい真相だった。この真相はもし今初めて読んだとしても驚愕するだろう。この2編目で私の中でこの短編集の評価は一気に高まり、読み続ける決意を固めた。

    そこからはもう目くるめく読書体験の連続だった。

    ホテルで神父が滞在する部屋のドアの外から聞こえる異なるペースで行ったり来たりを繰り返す足音を扱った「奇妙な足音」。

    パーティーで催された劇の最中で盗まれたダイヤモンドの犯人をブラウン神父が見事に当てる「飛ぶ星」。

    殺人予告を受けた男は衆人環視の中、なぜ殺されたのかという謎が魅力的な「見えない男」。

    領主の居なくなった屋敷を管理する元召使が集める奇妙な品物の数々の意味を探り当てる「イズレイル・ガウの誉れ」。

    「狂った形」はブラウン神父とフランボウが訪れた詩人の家で起きた詩人の自殺の裏側に潜む事件を看破する。

    決闘を挑まれ、敗れて死んだ公爵の意外な真相が実にチェスタトンらしい逆説に満ちている「サラディン公の罪」。

    「神の鉄槌」は庭で殺された男は頭蓋骨を粉砕されるほどの力で頭を割られ、骨の欠片が胸部にまでのめりこんでいたという殺害方法が奇怪だ。まあ、これは今ではちょっと確率的にありえないトリックだと解っているが、当時は面白かった。

    エレベーターの開口部に転落死した盲目の女性を殺したのは姉か、それとも被害者の信望する宗教の教祖か。最後にツイストが効いている「アポロの眼」。

    なぜ名将名高い将軍は無謀な戦闘を仕掛け、自軍を壊滅させたのかが実にチェスタトンらしい論理が冴える「折れた剣」。

    ピストル、ナイフ、ロープ。三つもの凶器が在って、なぜ卿は窓から墜落死したのかを奇想としか云えない論理で解き明かす「三つの凶器」。

    この中で心理的に盲目になる錯覚を利用した「見えない男」と「葉っぱを隠すなら森の中。では・・・」のフレーズで知られる「折れた剣」は今でもミステリの王道ロジックとして活用されるくらい有名な作品。
    読んだ大学生当初は「見えない男」の論理は、眉唾物のように感じたが、社会人になって出逢う人の数が飛躍的に増えると確かに頷けた。
    「奇妙な足音」の実に奇妙な真相にうすら寒さを感じ、「イズレイル・ガウの誉れ」、「サラディン公の罪」、「三つの凶器」の、自分の想像の範囲を超えたロジックにカタルシスを感じ、「神の鉄槌」の宗教的なシチュエーションに目くらまされた思いを感じた。

    チェスタトンが逆説の大家であることを知ったのはこの後のことで、とにかく彼の独特の論理は今までの私の既成概念を打ち砕いてくれる思いがした。
    本作では最初盗賊として登場していたフランボウが神父に諭されて改悛して、神父の相棒となるという展開も新鮮だった。

    本作は冒頭でも述べたように当時超訳に慣れ親しんだ後もあって、実に訳が読みにくかったのが特に印象に残っている。ただその難解な訳文を我慢して読み通すと、間違いなく得られるカタルシスがあった。また難解な話を読むことで自分の知的レベルが向上する思いもした。

    あれから数知れず海外ミステリ、国内ミステリを読んでいるが、それでも本作が極上の短編集であることは今でも私の中で揺るぎない。

  • "ミステリのトリックは出尽くしていている"
    とよく聞くけど、いかんせんにわかミステリ読者なので、
    今までそれを実感したことはありませんでした。

    しかし、この作品のトリックのなんとアイディア溢れていることか…
    『チェスタトン一人でこんなにトリック考えちゃうんじゃ、ネタなくなるよなぁ』
    と感じる一作。

    さすがに『見えない男』のトリックは承服しかねますが(笑)、
    それでも、現代ミステリで応用されていることをふと思い出しました。

    個人的にお気に入りの作品は
    警察主任の庭で首の切断された死体が見つかる『秘密の庭』
    ブラウン神父シリーズで常連となるフランボウの改心『飛ぶ星』
    亡き英雄の死の真相をめぐる『折れた剣』
    殺害現場で、ロープ・拳銃・ナイフの兇器が見つかる『3つの兇器』

  • 神父×殺人事件=無限の可能性!!?
    東野圭吾に物足りなさを感じている方、グロいだけのミステリーに辟易している方、シャーロック・ホームズ全巻読み終わっちゃったよ!て方、必読。

  • 最近の推理小説は、グロさばっかり強調するか、ラノベになるかのどっちかだし、やっぱり本格ものが好きです。
    グロくないしチャラくないし。
    文体が古くて読みづらいのが難点...

    受験を見据えて文学系のエッセイも読むぞー

  •  一見してとんまにみえるブラウン神父の物語。
     神父は、みずからが改心させた元泥棒の探偵、フランボウにくっついてさまざまな難事件をたちまち解決してゆく。

     シンプルで無謀な問いが、神父の、半ば強引ともいえる論理的な結びつけによって解決してゆくのがとても面白いです。何となく分かるトリックもありましたが、大半は「神父がいつの間にかすべて見通している」という印象を受けました。

     「強引ともいえる論理的な結びつけ」と書いたのは、推理が必ずしも物証に依っていないからです。本書の「秘密の庭」という話が象徴的ですが、神父の推理で説明できることは確かなのですが、それを認めないこともできる。

     けれど、大半の犯人は神父の説得でその罪を認める。神父の方も、それを警察へ突き出そうとはしない。人間の良心に対する神父の確信のようなものを感じました(ただし一部の話は除く!)。

     物的証拠だなんだというギッシリした論理ではなくて、どこかに余白がある感じが面白いですね。解説の言葉を借りれば、正統派の推理小説に見せかけた本格小説、まさにその通りだと思います。

  • 再読。
    中学生の時分に、背伸びして読んだ覚えがある。ちょいちょいトリックや筋は覚えているが、もうおぼろげになってしまったので、覚書序でに再読してみた次第。

    ・青い十字架
    「小男の神父」、J・ブラウン神父("J"は、「アポロの眼」で明かされている)の初登場作。ヴァランタンが追ってこられるように手がかりを残していこうとする機智や、フランボウの裏をかいてウェストミンスターに青い十字架を送ってしまう抜け目なさ等は、並みの神父ではない様が見て取れる。しかし、結構飛び飛びに手がかりを残しているのに、ヴァランタンはよく見逃さず、しかも道も違わずに行けたな、と思わずにはいられない。無粋だろうか。

    ・秘密の庭
    首のすげ替えトリックは、今では珍しいものでもなくなった。だからといって、本作品の価値が減じることはない。当然、書かれた年代のこともあるが、筋立てとしても面白く仕上がっているからだ。書きだしからよもや犯人を推測(根拠のある推理ではなく)ができようとは。


    ・奇妙な足音
    部屋の外から聞こえてくる「奇妙な足音」から推理をめぐらすブラウン神父はもはや神父ではない。しかし、フランボウをどうやって改悛させたのだろうか。謎だ。

    ・飛ぶ星
    どうやってフランボウは義弟として潜り込んだんだろうか……。

    ・見えない男
    心理的に「見えない」、というのも今ではなんてことはないが、前述のように、その当時は斬新なものであったに違いない。ぜんまい仕掛けの召使い人形とやらは、21世紀の今でも一般に販売されていることはない。

    ・イズレイル・ガウの誉れ
    ブラウン神父が最終的に提示した真相が、果たして真実かは実際のところはっきりしない。それは、作中でブラウン神父が様々な仮説を披露したということからもわかりえることである。

    ・狂った形
    逆T字の家がそこまで「狂った形」とは思われないが……。密室のトリックは今では常識のモノ。しかし、前述(ry

    ・サラディン公の罪
    最初からブラウン神父は乗り気ではなかったが、果たして、確かに訪れるべき場所ではなかった。「この地獄の家から逃げよう……(原文:Come away from this house of hell......)」とまで、神父に言わしめている。しかし、兄は悪魔のような入れ替えを行っておいて、飄々としているとは。

    ・神の鉄槌
    信仰の行き過ぎた聖職者が、文字通り鉄槌を下すお話。

    ・アポロの眼
    その当時のエレベーターはどのような機構であったのか、非常に気になるところ。トリックとしては新味はない(実はタイピスト姉妹の姉が盲人であった;遺伝(弱視?)と、さらに太陽信仰の一環で、太陽を直視したため)。

    ・折れた剣
    筋立て自体が非常に珍しいもの。そうそうこういう筋立てで一本書ける作家はいまい。遺体を隠すには、遺体を作ればいいというちんけな将軍のプライドの為に、命を散らさざるを得なかった兵士たちに合掌。

    ・三つの兇器
    「大きすぎて見えない」兇器とは言い得て妙。陽気な卿が無神論者で自殺狂とは。ロイも必死に止めようとしたものの、娘に勘違いされるわ、後に娘から頑固にも「犯人」呼ばわりされるわ。しかし、マグナスは殴られる必要があったのか?

    中島河太郎氏の解説が秀逸。

  • 個人的な悩みがあり、おっそろしく時間かかって読んだ。というか短編集の最後はもう読んでない。これ、謎なの⁇という感想。謎解き…なのかな、わたしの読解力不足のため、なんか不思議な感じ。それにしても最初泥棒でのちに探偵って…名前がヘルキュール・フランボウ⁇どこかで聞いたようなf^_^;体調の良いとき再読したい一冊です。

  • 短編集。古さを感じさせない。ブラウン神父のキャラクターがいい。だけど読みにくいのには辟易いたしました。
    「アポロの眼」が印象的。

  • <セリフ回しも慣れれば楽しい>
    正直一章目は退屈でたまらなかったのだけど,二章目で「え?!」となって,「見えない男」の時にはさらに「!!?」となった.
    特に「見えない男」は登場人物の役割の変化にも驚いたけれど,作品自体の妖しさが小さなころに読んだ怪奇譚+探偵譚を思い出しドキドキした.
    好きなのはやっぱり「イズレイル・ガウの誉れ」かなぁ.
    小日向文世さん主演,三谷幸喜脚本とかで見てみたい.

  • ブラウン神父は海外ドラマで見たことがあり、原作も読もうと手に取った。
    「見えない男」「奇妙な足音」のトリックはこんな発想があったのかと驚くばかり。
    トリック的にやや強引なものもあるにはあったが、ブラウン神父の語りで説得されてしまうのは解説にも書いてあった通り。
    最初の章から出てくるフランボウという一人の人間の変わり具合が面白い。
    彼を見ているとレ・ミゼラブルのジャン・バルジャンを思い起こしてしまう。
    どちらも神父(司教)のおかげで悔悛し、真っ当な道を進み始めるのだ。
    人間こんなにもガラッと変われるものなのかなと不思議な気持ちになる。

    続編もそのうち読みたい。
    フランボウが出てくるのなら嬉しいな。

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