ブラウン神父の知恵 (創元推理文庫 101-2)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488110024

感想・レビュー・書評

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  • さて第1短編集の余勢を買って、私は次の日には5冊のシリーズ全てを本屋で買ってしまった。ずらりと並んだ5冊のブラウン神父シリーズに満悦の笑みをこぼしたものだった。
    が、しかし本作は総合してみると『~童心』よりは落ちるという評価になる。というよりも『~童心』が凄すぎたということでもあるが。
    しかしそれでもなお、本作には後のミステリ・シーンに多大なる影響を与えた作品が収録されている。

    収録作12作中、白眉なのは「ペンドラゴン一族の滅亡」と「銅鑼の神」と「ブラウン神父の御伽噺」。

    「ペンドラゴン~」は祖先が船乗りで海賊でもあったペンドラゴン家に伝わる因縁をバックグラウンドにしており、ブラウン神父らが同家の屋敷を訪れたところ、ちょうど若き当主が航海から帰ってくるところだった。しかしその夜、同家にある塔が火事になる。ジプシーの協力で危うく消し止めたブラウン神父が語った真相に驚嘆した。

    「銅鑼の神」は冒頭からなにやらおどろおどろしい印象が強く、特にブラウン神父らがひょんなことから台座の下に隠された死体を発見し、街中の人間に追い掛け回されるというシチュエーションが怖かった。そして明かされる真相もオカルティックで寒気がした。

    そして短編集最後を飾る「~御伽噺」は公民の報復を恐れて城から一歩も出ない独裁者がなぜ城の外で射殺されたのかという謎を扱っており、これが見事に裏返って不可解な状況が納得のいく論理、しかも想像を超えた内容であったのが実に印象に残った。
    最後の「~御伽噺」のチェスタトン的逆説とも呼べる論理はこれ以降も様々なヴァリエーションで繰り広げられる。そしてこの3編に共通する、一種狂人の論理とも云うべき内容は日本の作家、特に泡坂妻夫氏の作品に多々見られる。

    その他については寸評を。

    女性が話していたグラス氏という男性。しかし部屋を覗いてみるといつもそこには女性しか折らず、彼は忽然と姿を消していた。そしてある日グラス氏は女性の婚約者を紐で縛り、そのまま逃走してしまう。果たしてグラス氏とは何者なのかという謎は魅力的な「グラス氏の失踪」だが、真相はかなり腰砕けでジョークとしか思えない。でも今でも記憶に残っているのはやはりインパクトがあったのか。

    「泥棒天国」は山越え途中で起きた馬車強盗事件に隠された裏のストーリーが実にチェスタトンらしい。

    無音火薬の発明家とそれを中傷する愛国者の決闘という、実にチェスタトンらしいシチュエーションの「ヒルシュ博士の決闘」もミステリ初心者だった当事の私にはあっと驚く結末だった。

    殺人犯の目撃者の証言が全て食い違っているという「通路の人影」も蓋を開けてみればほとんど子供騙しなトリックでビックリするが、こういう誰もが思いつくけれど敢えてそれを推理小説のネタにしないような物まで作品に投影するチェスタトンの貪欲さにかえって感心してしまう。

    「器械のあやまち」は嘘発見器が犯した過ちを扱ったもので、これにインスパイアされて乱歩は「心理試験」を創作したのか、などと勘ぐったりしてみる。

    「シーザーの頭」は遺産相続された3人兄妹に起きる恐喝事件の意外な真相を、「紫の鬘」は同様に紫の鬘を被った男の意外な正体を、独特のロジックで解き明かす。

    そして自分の作ったサラダで危うく毒殺されそうになる「クレイ大佐のサラダ」もそこに至るまでのシチュエーションが特異だし、「ジョン・ブルノワの珍犯罪」も殺された卿が死に際に残したメッセージから犯人が最初から解ってはいるものの、そこに隠された意外な論理はチェスタトンが得意とする逆説だ。

    単なるワンアイデア物なのに退屈しないのは全編これペダントリーに満ちていて、愉悦の読書を提供してくれるからだ。正直云って、トリックは推理クイズの域を脱しない物も多いが、それを包む物語のガジェットが実にヴァリエーション豊かであることがその陳腐さを上手く覆い隠している。これはやはりチェスタトンという博学者ならではの芸当だ。そして読みにくい訳も相まって、読み終わった後になんだか読む前よりもえらくなった気がするのもこのシリーズを読む理由になったのかもしれない。

    そんな興奮を持ちながら私はこのあともシリーズを読み続けるのである。

  • フランボウとぶらり旅な短編が好き。

  • いかにも英文学らしい婉曲表現とユーモア、ぴりりと含んだ社会批評。
    最近こういう婉曲表現多用なの読んでなかったので、読破にちょっと時間が掛かってるシリーズです。
    トリックの面白さは言わずもがな。自分じゃちっとも解けないけど(笑

  • ブラウン神父シリーズの短編集第2段。
    トリックは面白い。

    ただ少し読みにくい文章だったのが残念です(>_<)

  • 3+
    以前『〜童心』を読んだときもそうだったのだが、文量の割に読むのに時間がかかる。婉曲的な表現が多く、初見でサッと理解するのは難しい。冒頭の「グラス氏の失踪」がアレのパロディっぽくて、ニヤニヤしながら読み進めたのだが、気楽に読めたのはそこまで。「ペンドラゴン一族の滅亡」などは、意味不明な行動が盛り込まれたりして、更に何がどうなっているのかよくわからず、何度も文章を行ったり来たり。最後まで読めばなる程合点がいくのだが、そこに辿り着くまでに苦労させられるせいか、感じる面白さはだいぶ減らされているような気がする。再読時には余裕で読み進めて楽しめるかも?

  • 「グラス氏の失踪」
    ・トッドハンター氏の職業が謎の焦点となる。なるほど、奇術師か。

    「泥棒天国」
    ・何者かから逃げるとき、永遠に逃げ通せる方法と云えば「死」。然し、そう人間死にたいと思っても、それを実行しようとするのは至難の業。では、偽りの死を演じて見せればいい。そういう意図を持って、銀行家は山賊に己を含む一行を襲わせたが、結局ばれてしまう。

    「ヒルシュ博士の決闘」
    ・一人二役の名作。罪には問われぬものの、罪深いことをして、博士は自らの名声を上げた。

    「通路の人影」
    ・鏡の反射が事件を危うく迷宮入りにするところであった。

    「器械のあやまち」
    ・器械は使う人が誤れば、また誤ることになる。嘘発見器はその点、正しい仕事をしたが、結果的に間違えてしまった。

    「シーザーの頭」
    ・貨幣のコレクションを巧みに盗ませて、それをネタに強請る。なんとまあ、あくどいことか。

    「紫の鬘」
    ・耳が遺伝的に異様に大きい耳を持つ公爵。何故、彼は耳を隠すのか。醜い耳を隠すのではなく、大きく醜い耳を持たないことを隠すためだった(公爵本人ではないと云う事を隠すため)。

    「ペンドラゴン一族の滅亡」
    ・「両の眼が輝いていれば船は無事、片目のまたたき一つで船はお陀仏」

    「銅鑼の神」
    二人きりと云う状況を作るよりも、大勢の中で、しかも注目を一点に集めることができれば、殺人はたやすい。

    「クレイ大佐のサラダ」

    「ジョン・ブルノワの珍犯罪」
    ・居留守を使った事が、ブルノワのアリバイをあやふやなものとしてしまう。

    「ブラウン神父のお伽噺」
    ・必要以上の臆病は身を滅ぼす、と云ったところか。

  • ブラウン神父ものの短編集、第二弾。
    派手なトリックはないが、それぞれ読み終えるとそれなりに「なるほど」と思える作品ばかり。あまり荒唐無稽ではないトリックばかりが用いられているのは、さすがといったところ。

    それでも、やっぱり自分としてはホームズやポワロに比べると、ちょっと読みにくい。単に合うか、合わないかの違いだと思うんだけど。個人的な好みとしては、もうちょいブラウン神父が「神父のステレオタイプ的な」口調をしてくれていたら、もう少し読みやすいのかも、と分析しています。

  • ブラウン神父もの。短編集。トリックが冴える作品集で、前作「童心」と同じ基調の作品でした。ただ、フランボウが泥棒になっていたいところから、作品のつながりは一つとしてなくなってはいますが、相変わらずのそのトリックの秀逸さには驚かされます。ただ、「童心」と一緒で、どうしてその推理になりその解になったのかがやはりいまいちわからなかったのがちょっとなぁ、という点も。

  • The Wisdom of Father Brown(1914年、英)。
    ブラウン神父シリーズ。ブラックコーヒーのようなコクとキレ。長編も良いが、こと推理小説に限っては、優れた短編の持つシャープさには長編には求められない魅力がある。

  • 古典的名作ブラウン神父の短編集。
    文体は決して読みやすいとは思わなかったけれど、詩情溢れる情景描写に本題そっちのけでつい引き込まれた。
    奇抜なトリックを山盛りにし、事件の流れや犯人の心理を読むのではなく「トリック」自体を楽しませる手法はまるでパズルのよう。
    それでも十分楽しいけれど、一歩間違うとバカミスになりかねないようなものもあったのも事実…。正直、冒頭の一遍には苦笑させられたし。
    でも、まぁ、斬新と言えば斬新なんだよなぁ。
    それから時代的にしょうがないのだろうけど、白人でないもの、キリスト教でないものにたいする偏見には眉を顰めざるを得ない。なので、ちょっと評価は辛め。

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