不可能犯罪捜査課 (創元推理文庫―カー短編全集 1 (118‐1))

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488118013

作品紹介・あらすじ

発端の怪奇性、中段のサスペンス、解決の意外な合理性、この本格推理小説に不可欠の3条件を見事に結合して、独創的なトリックを発明するカーの第一短編集。奇妙な事件を専門に処理するロンドン警視庁D3課の課長マーチ大佐の活躍を描いた作品を中心に、「新透明人間」「空中の足跡」「ホット・マネー」「めくら頭巾」等、全10編を収録。解説=中島河太郎

感想・レビュー・書評

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  • ロンドン警視庁D3課のマーチ大佐の活躍する短編が主の短編集。怪奇的な事件の発端、不可能と思われる事件の真相をマーチ大佐が暴く、古典的といえば古典的なのだが、トリックはスッキリして読後感はいいです。
    面白かったのは「空中の足跡」「楽屋の死」
    マーチ大佐の登場しない「もう1人の絞刑士」「二つの死」は法律の解釈やトリックの明快さでいいです。
    この作品集は10年前に読んだはずでしたが、忘れており新版を購入してしまい再読しましたが、新鮮な気持ちで読めました。
    2023年12月16日読了。

  •  原著1940年刊。ディクスン・カー最初の短編集とのこと。
     あまり期待していなかったのだが、結構面白かった。直前に読んだブラックウッドに比較するとかなり文章が上手く、プロットの構成なども巧みで、数段上の作家である。各編の書き出しの文などにも工夫が凝らされている。丁寧な書法に支えられて、推理小説としては肝心なものとなるアイディア(トリック)が生き生きとしてくる。
    「ありえないもの」として呈示される事象(犯罪)が、真相不在の状態で脈動し、最後に真犯人とその行動が解明され、<不在>が<実在>へと逢着するという本格推理小説の定式は、やはり読んで面白いものだ。
     暇つぶしに丁度いいような本だと思った。

  •  本の前半は、ロンドン警視庁にある、奇妙な事件を専門に扱うD三課マーチ大差の活躍を描いた短編集。
     後半は特にシリーズではないけれど、やはり奇妙で怪奇的な事件のお話が集められた短編集です。
     実際は存在しない部署が実在しているような設定て、このころからあったんですね。

  • ミステリ黄金期の三大巨匠といえば、クイーン、クリスティ、そしてカーであることは周知の事実である。そのうちカーについては私はミステリを読み始めた早い時期から触れていた。未だに絶版作品が多いので、全ての作品を読破したとはいえないが、ほぼ80%は読破したように思う。

    で、本書はそのカーの短編集で収録作10編中6編で探偵役を務めるのがマーチ大佐。本書のタイトルはこのマーチ大佐が所属するスコットランドヤードの部署の名前。もちろん現存しない部署であるのは云うまでも無い。ちなみに基本的にこのマーチ大佐は本書のみで探偵役を務め、他の作品でも出てくるものの、単なる一登場人物に留まっている。
    収録作の中で印象に残っているのは「空中の足跡」、「銀色のカーテン」、「もう一人の絞殺吏」、「目に見えぬ凶器」の4編。しかしこの4編が特に優れているというわけではなく、出来不出来を別にして今に至っても記憶に残っている作品。

    まず「空中の足跡」は今読むと滑稽だろう。というよりもこれは雪の足跡トリックで誰もが一番に思いつく犯行方法だと思う。特に某作家が編んだ推理クイズ集に必ずこのトリックが収録されていたことでも有名だ。

    「銀色のカーテン」は雨の中で行われた殺人事件というイメージが鮮烈に残っており、またそこで使われたトリックも納得できる。後日、同様のトリックがチェスタトンのブラウン神父シリーズのある短編で使われているのを思い出したが、シチュエーションと仕掛け方が違っている。

    「もう一人の絞殺吏」は歴史ミステリだが特に読後の味わいがなんともいえない余韻を残す。個人的にはこれが本書のベストだ。ちょっとチェスタトンの作風に似ているかもしれない。

    「目に見えぬ凶器」は読後当初、「いくらなんでもそれはわかるだろう!」と眉唾物として捉えていたが、その後、このトリックと似たようなシチュエーションに遭遇し(同様の犯罪が起きたというわけではない)、ああ、やっぱり気づかない物なのかと改めて考え直させられたという意味で印象深い。とはいえ、作品的には並みの部類。

    語り口にかなり個性を感じたものの、なんだか子供騙しのトリック、小粒な仕掛けを大げさな表現で糊塗して、過剰に演出しているとしか思えなかった。しかし本書こそ私がカーとの最初の出会いで、以後今に至るまで、カーの未読作品に遭遇すると必ず読んでしまうようになるのだから、縁とは不思議なものである。

  • ・新透明人間
    向かいの部屋の住人の覗きに業を煮やした舞台演出家の夫婦がその男を驚かせようと透明人間のトリックを実演する。テーブルの脚に鏡を置き人間を消失したように見せる。しかし、空砲だと思った銃に実弾が入っていたため事件となってしまう。不可能と思われる犯罪のみを専門で捜査するロンドン警視庁D三課の課長、マーチ大佐が事件の謎を解決する。

    ・空中の足跡
    雪が降り積もった夜、夢遊病患者の女の往復の足跡が自宅と隣の家の間で発見される。翌日、隣の家の女が暴行され持ち金を奪われ、夢遊病患者の女が容疑者とされる。その家には片腕の不自由な父親とスポーツマンタイプの従兄弟の男が住んでいる。アーチの天井に足跡を発見したマーチ大佐は従兄弟の男性を逮捕した。夢遊病の女が外に出たのを見た従兄弟の男は手に女の靴をつけ、逆立ちで隣の家に侵入しかねを奪った。しかし、アーチ部分に足跡をつけてしまい、そこからマーチ大佐に真相を見破られてしまうう。

    ・ホット・マネー
    銀行強盗の一味を逮捕したが、奪った金が見つからない。銀行強盗の一味の弁護士の伯母の元秘書の女が弁護士が大金を持っているのを見て警察に連絡する。警察が来るまで密室状態の部屋に弁護士と共に金が会ったはずだが見つからない。弁護士は以前から資金洗浄の疑いで警察にマークされていた。いわくつきの金(ホット・マネー)を海外に移動させていた。マーチ大佐が弁護士の部屋まで行き部屋に据え付けてあった暖房用のスチーム・ラジエーターを調べると一部が空洞になっていてそこに金が詰まっていた。暖房によって暖められた熱い金(ホット・マネー)。

    ・楽屋の死
    スリ捜査でナイト・クラブに来ていたマーチ大佐だが、殺人事件に遭遇する。クラブの共同経営者兼踊り子が殺されスリに疑われた女が容疑者とされた。オーナーの男は以前から警察にマークされていたが、踊り子が殺された時にはアリバイがあった。オーナーは共にスリを働いていた踊り子が邪魔になり、踊り子を殺害した。その後、踊りを教えておいた踊り子の付き人を踊り子の代わりに舞台に上げ、人前に出てアリバイを作った。マーチ大佐は金属飾りについていた油が死体についていないことから踊り子の入れ替わりを見破った。

    ・銀色のカーテン
    マーチ大佐が盗んだ真珠を海外へ密輸し金に換える犯罪を犯している二人組を捜査していた。一人は医者で真珠を薬と偽装して処方する。もう一人は密輸の運び屋をカジノで負けが混んでいる人間から見つける。ある男がカジノで負け続け、見知らぬ男に声をかけられる。指定した医者の元へ行けばまとまった金を渡すと言われ、怪しみながらも向かうことにした。目の前に声をかけてきた男が歩いていて、医者のいる家が見えてきたところでその男が倒れ死んでいた。医者は相棒が邪魔になり、屋根の上から相棒の目の前に紙入れを落とした。相棒はその紙入れを拾うため屈んだところに医者が上から短刀を落とし殺害した。

    ・暁の出来事
    海岸近くに住む資産家の男のもとに新聞記者が訪ねに行く。資産家を見つけ近寄ると急に倒れ脈がなかった。資産家の主治医も駆けつけ死亡していると言った。資産家の秘書でもある姪も駆けつけるが医者は近寄らせなかった。担架を持ってきて遺体を運ぶことになったが間に合わずに波で流されてしまった。警察の捜査の結果、姪が資産家を殺した疑いで逮捕され、そのことが新聞にほのめかされた。死んだと思われた資産家が警察に現れ真相を話す。経済的に行き詰まった資産家が主治医の協力を得て世間に心臓発作で死に、波に流されたと思わせて身を隠そうとした。その際、目撃者として新聞記者が呼ばれたが、自然死でなく殺人だと疑われる結果となった。警察による操作が行われたが、マーチ大佐は姪の了解を得て新聞記事をでっち上げた。資産家は姪の疑いをとくため名乗りでた。

    ・もう一人の絞刑吏
    19世紀終わりのアメリカ、共に悪名高い二人の男が殺しあった。一人が死亡し、もう一人が殺人の罪で死刑の判決を受けた。死刑執行の時、床板が落ちずに執行が延期され、直後に冤罪とわかり死刑取り消しの連絡が来た。しかし、連絡が届く前に絞刑人が独房に行って死刑を執行してしまった。絞刑人の娘が二人の男に引っかかり弄ばれた。娘は自首するとして知事のもとに向かったが、絞刑人は男を許せず死刑を執行してしまう。手続き上は適正であり、絞刑人は罪に問われることはなかった。

    ・二つの死
    資産家の叔父から遺産を受け継いだ兄と受け継げなかった弟がいた。兄は体調を崩し静養を兼ねて世界一周の旅に出る。弟の忠告に従って婚約者を置いて一人で船に乗り、旅行中は一切連絡を取らないことにした。出港時に自分の荷物がなくなり、代わりにピストルだけが残るという異様な出来事が起こるが、それ以降は順調に旅を続けた。八ヶ月後、帰ってくるが、その日の新聞に自分が自殺したとのニュースが出ていた。何かの間違いではないかと思い家に帰ると、自分そっくりの死体がベッドに横たわっていた。そこに弟が現れ罪の告白をして死んでしまう。弟は兄の金を相続するため兄を殺し、兄にそっくりの男を身代わりとする計画を立てる。身代わりの男は余命がわずかで、その間は十分な治療を約束した。身代わりの男は兄が世界一周の旅に出る時に兄を殺し、旅を取り止めにしたとして入れ替わる計画だったが、直前で殺人を取りやめた。弟は兄は死んだものと思っていたが、身代わりの男が死んだその日に本物の兄が現れ罪を告白してしまう。真相ははっきりせず、弟が自殺なのか他殺なのかも不明で、謎の人物についても謎のまま残った。

    ・目に見えぬ凶器
    17世紀のイギリス、男女が婚約するが、そこに別の男が現れ女に求婚する。女は初めの男を選ぶが二人目の男が二人を尋ねる。部屋が真っ暗になった時一人目の男が十三箇所刺されて死んでいた。女のスカートは血で汚れていた。二人目の男が疑われたが凶器が発見されず無罪とされ、しばらくの後、二人目の男と女は結婚した。ある時二人目の男が泥酔し、翌日死体となって発見された。この男は寝言を言う癖があり、一人目の男を殺したと言った。凶器は鋭利にしたガラスで、刺したあと女のスカートで血を拭い、水差しの中に入れた。水の中に入れると透明になり発見されなかった。真相を知った女が殺したとは考えられず事故死として処理された。

    ・めくら頭巾
    本命の女と結婚するため邪魔になった女がいた。雪が降った日に男が訪ねてきて女は急いで二階から降りてきた。この時、転んでガラスで首を切り、照明用の油が服に燃え移った。それを窓から見た男は助けようとせずに見殺しにした。翌日やって来た女中が死体を発見するが、家は密室状態で、雪には昨夜の窓まで往復した男の足跡と女中の足跡のみだった。男が家の中に入らなかったのは証人がいたため確実となり捜査は行き詰まる。数十年後、この家に訪ねてきた客が正体不明の女からこの話を聞いたが、直後にこの女は消えてしまう。

  • ディクスン・カー(以下、カー)の『不可能犯罪捜査課』を読了。

    今回はカーの短編集。今では使い古された基本中の基本と言えるトリックもあったが、読者の意表を突くものもあり、なかなか楽しめた。

    全10編収録されているので、それぞれ簡単に説明したいと思う。もちろんネタバレはない。


    ・新透明人間手袋だけの手が銃で人を殺害。しかも死体は消失。しかし実際は...

    ・空中の足跡雪上の足跡トリック。靴の固定観念に囚われるべからず

    ・ホット・マネー
    強盗は捕まえたが大金が消えた。隠し場所は意外なところ

    ・楽屋の死
    ダンサーが殺害された。古典のアリバイトリック

    ・銀色のカーテン
    男が殺害された。犯行は状況的に見て、その場に居た青年にしか不可能。だが…

    ・暁の出来事
    夜明けの海。周囲に不審な点がない状況で、老人が死亡した。死体の状況から見て殺人の疑いがある中、警察が来る前に死体は流されてしまった...

    ・もう一人の絞刑吏
    絞首台の調子が悪く、1度刑を免れた男。監房に戻された直後、冤罪が発覚。しかし男は監房で首を吊って死んでいた..

    ・二つの死
    静養のため旅に出た男。旅を終え帰る途中、自分が自殺したという記事を目にする。何かに追われながら家に帰り着くと…

    ・目に見えぬ凶器
    部屋の中で十数カ所以上刺されて死んだ男。しかし部屋の中には傷跡に合致する凶器は見つからなかった...

    ・めくら頭巾
    密室状態の中、夫の帰りを待つ妻が殺害された。際だってホラー要素の強い作品


    新透明人間~暁の出来事までの6編は、マーチ大佐というキャラが探偵役として登場。あとがきによれば、そばかすだらけの顔の大兵肥満の温厚そうな男で体重238ポンド(約108kg)、赤毛の大きな頭、火皿の大きなパイプで音を立ててふかす煙草が焦がさんばかりの口ひげ、テントのようなレインコートを着ている、という設定。何やら凄まじい。

    しかしカーの作品に登場する探偵役は、『ユダの窓』などに登場するH・M(ヘンリー・メリヴェール)卿と、『三つの柩』などに登場するギデオン・フェル博士の二人が主である。どちらもマーチ大佐と同じような設定であるし、逆に言えばマーチ大佐もこの二人と同じようなイメージだ。カーは探偵のイメージ自体にはそれほど重きを置いていないのかもしれない。

    残り四つの短編は、それぞれの話のみの探偵役がいたり、もしくは話の構造上、探偵役が存在しないものもある。いずれにしても、面白いには違いない。

  • こ・・・これはあまりにトンデモすぎるやろ!というトリックのオンパレード。
    なんか古き良きミステリ黄金時代を感じさせて、それもまた「味」かな。

  • 1970年2月17日初版
    訳者 宇野利泰
    目次
    ・新透明人間
    ・空中の足跡
    ・ホット・マネー
    ・楽屋の死
    ・銀色のカーテン
    ・暁の出来事
    ・もう一人の絞刑吏
    ・二つの死
    ・目に見えぬ凶器
    ・めくら頭巾
    解説 中島河太郎

  • 4
    初めてのカー作品。いや、厳密に言えばコナン・ドイルの遺児アドリアンとの共著「シャーロック・ホームズの功績」を既読なのだが、カーは半分にしか関わっていないし、個人的にはアドリアン一人で書いたものの方が印象深く、カーが巨匠であるという知識はあってもそれがどうしたぐらいにしか思っていなかった。
    カーのオリジナル作品に触れるのに最初に選んだのは「三つの棺」だったが、30頁程読んだところで状況描写の緻密さ、難解さに、これは手強いと痛感。参考書代わりに「有栖川有栖の密室大図鑑」を読み直し、あらすじは理解したものの、いざ作品に戻りいつものスピードで読もうとすると、さっぱり頭に入らず挫折。

    ならば短編集ではと手に取ったのが本作。
    これはどれもすんなり入り込める。ストーリーテリングは巧みと言う他なく、その上物語は濃密。トリックは現在では少しありふれたものという印象がなきにしもあらずだが、大家の名に相応しくその用いり方、解き方に捻りがあり巧妙。「新透明人間」「銀色のカーテン」などは映像が目に浮かぶようで特に印象深い。中には「ホットマネー」のようにピンとこないものもあったが、「空中の足跡」のバカバカしいトリックにニヤニヤとし、「暁の出来事」を読んで我孫子武丸もこれを読んだのだろうなと思い馳せ、終盤に連続するさして興味のない怪談話ですらすっかり堪能してしまった。他の作品も楽しみである。

  • 素敵だ。現代のミステリみたいに派手なトリックやあっと言わせる感じではないけど、なんというか人間にたとえると「佇まいが素敵な人」。

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