不可能犯罪捜査課 (創元推理文庫―カー短編全集 1 (118‐1))
- 東京創元社 (1970年2月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488118013
作品紹介・あらすじ
発端の怪奇性、中段のサスペンス、解決の意外な合理性、この本格推理小説に不可欠の3条件を見事に結合して、独創的なトリックを発明するカーの第一短編集。奇妙な事件を専門に処理するロンドン警視庁D3課の課長マーチ大佐の活躍を描いた作品を中心に、「新透明人間」「空中の足跡」「ホット・マネー」「めくら頭巾」等、全10編を収録。解説=中島河太郎
感想・レビュー・書評
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ロンドン警視庁D3課のマーチ大佐の活躍する短編が主の短編集。怪奇的な事件の発端、不可能と思われる事件の真相をマーチ大佐が暴く、古典的といえば古典的なのだが、トリックはスッキリして読後感はいいです。
面白かったのは「空中の足跡」「楽屋の死」
マーチ大佐の登場しない「もう1人の絞刑士」「二つの死」は法律の解釈やトリックの明快さでいいです。
この作品集は10年前に読んだはずでしたが、忘れており新版を購入してしまい再読しましたが、新鮮な気持ちで読めました。
2023年12月16日読了。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
原著1940年刊。ディクスン・カー最初の短編集とのこと。
あまり期待していなかったのだが、結構面白かった。直前に読んだブラックウッドに比較するとかなり文章が上手く、プロットの構成なども巧みで、数段上の作家である。各編の書き出しの文などにも工夫が凝らされている。丁寧な書法に支えられて、推理小説としては肝心なものとなるアイディア(トリック)が生き生きとしてくる。
「ありえないもの」として呈示される事象(犯罪)が、真相不在の状態で脈動し、最後に真犯人とその行動が解明され、<不在>が<実在>へと逢着するという本格推理小説の定式は、やはり読んで面白いものだ。
暇つぶしに丁度いいような本だと思った。 -
本の前半は、ロンドン警視庁にある、奇妙な事件を専門に扱うD三課マーチ大差の活躍を描いた短編集。
後半は特にシリーズではないけれど、やはり奇妙で怪奇的な事件のお話が集められた短編集です。
実際は存在しない部署が実在しているような設定て、このころからあったんですね。 -
ミステリ黄金期の三大巨匠といえば、クイーン、クリスティ、そしてカーであることは周知の事実である。そのうちカーについては私はミステリを読み始めた早い時期から触れていた。未だに絶版作品が多いので、全ての作品を読破したとはいえないが、ほぼ80%は読破したように思う。
で、本書はそのカーの短編集で収録作10編中6編で探偵役を務めるのがマーチ大佐。本書のタイトルはこのマーチ大佐が所属するスコットランドヤードの部署の名前。もちろん現存しない部署であるのは云うまでも無い。ちなみに基本的にこのマーチ大佐は本書のみで探偵役を務め、他の作品でも出てくるものの、単なる一登場人物に留まっている。
収録作の中で印象に残っているのは「空中の足跡」、「銀色のカーテン」、「もう一人の絞殺吏」、「目に見えぬ凶器」の4編。しかしこの4編が特に優れているというわけではなく、出来不出来を別にして今に至っても記憶に残っている作品。
まず「空中の足跡」は今読むと滑稽だろう。というよりもこれは雪の足跡トリックで誰もが一番に思いつく犯行方法だと思う。特に某作家が編んだ推理クイズ集に必ずこのトリックが収録されていたことでも有名だ。
「銀色のカーテン」は雨の中で行われた殺人事件というイメージが鮮烈に残っており、またそこで使われたトリックも納得できる。後日、同様のトリックがチェスタトンのブラウン神父シリーズのある短編で使われているのを思い出したが、シチュエーションと仕掛け方が違っている。
「もう一人の絞殺吏」は歴史ミステリだが特に読後の味わいがなんともいえない余韻を残す。個人的にはこれが本書のベストだ。ちょっとチェスタトンの作風に似ているかもしれない。
「目に見えぬ凶器」は読後当初、「いくらなんでもそれはわかるだろう!」と眉唾物として捉えていたが、その後、このトリックと似たようなシチュエーションに遭遇し(同様の犯罪が起きたというわけではない)、ああ、やっぱり気づかない物なのかと改めて考え直させられたという意味で印象深い。とはいえ、作品的には並みの部類。
語り口にかなり個性を感じたものの、なんだか子供騙しのトリック、小粒な仕掛けを大げさな表現で糊塗して、過剰に演出しているとしか思えなかった。しかし本書こそ私がカーとの最初の出会いで、以後今に至るまで、カーの未読作品に遭遇すると必ず読んでしまうようになるのだから、縁とは不思議なものである。 -
ディクスン・カー(以下、カー)の『不可能犯罪捜査課』を読了。
今回はカーの短編集。今では使い古された基本中の基本と言えるトリックもあったが、読者の意表を突くものもあり、なかなか楽しめた。
全10編収録されているので、それぞれ簡単に説明したいと思う。もちろんネタバレはない。
・新透明人間手袋だけの手が銃で人を殺害。しかも死体は消失。しかし実際は...
・空中の足跡雪上の足跡トリック。靴の固定観念に囚われるべからず
・ホット・マネー
強盗は捕まえたが大金が消えた。隠し場所は意外なところ
・楽屋の死
ダンサーが殺害された。古典のアリバイトリック
・銀色のカーテン
男が殺害された。犯行は状況的に見て、その場に居た青年にしか不可能。だが…
・暁の出来事
夜明けの海。周囲に不審な点がない状況で、老人が死亡した。死体の状況から見て殺人の疑いがある中、警察が来る前に死体は流されてしまった...
・もう一人の絞刑吏
絞首台の調子が悪く、1度刑を免れた男。監房に戻された直後、冤罪が発覚。しかし男は監房で首を吊って死んでいた..
・二つの死
静養のため旅に出た男。旅を終え帰る途中、自分が自殺したという記事を目にする。何かに追われながら家に帰り着くと…
・目に見えぬ凶器
部屋の中で十数カ所以上刺されて死んだ男。しかし部屋の中には傷跡に合致する凶器は見つからなかった...
・めくら頭巾
密室状態の中、夫の帰りを待つ妻が殺害された。際だってホラー要素の強い作品
新透明人間~暁の出来事までの6編は、マーチ大佐というキャラが探偵役として登場。あとがきによれば、そばかすだらけの顔の大兵肥満の温厚そうな男で体重238ポンド(約108kg)、赤毛の大きな頭、火皿の大きなパイプで音を立ててふかす煙草が焦がさんばかりの口ひげ、テントのようなレインコートを着ている、という設定。何やら凄まじい。
しかしカーの作品に登場する探偵役は、『ユダの窓』などに登場するH・M(ヘンリー・メリヴェール)卿と、『三つの柩』などに登場するギデオン・フェル博士の二人が主である。どちらもマーチ大佐と同じような設定であるし、逆に言えばマーチ大佐もこの二人と同じようなイメージだ。カーは探偵のイメージ自体にはそれほど重きを置いていないのかもしれない。
残り四つの短編は、それぞれの話のみの探偵役がいたり、もしくは話の構造上、探偵役が存在しないものもある。いずれにしても、面白いには違いない。 -
こ・・・これはあまりにトンデモすぎるやろ!というトリックのオンパレード。
なんか古き良きミステリ黄金時代を感じさせて、それもまた「味」かな。 -
1970年2月17日初版
訳者 宇野利泰
目次
・新透明人間
・空中の足跡
・ホット・マネー
・楽屋の死
・銀色のカーテン
・暁の出来事
・もう一人の絞刑吏
・二つの死
・目に見えぬ凶器
・めくら頭巾
解説 中島河太郎 -
4
初めてのカー作品。いや、厳密に言えばコナン・ドイルの遺児アドリアンとの共著「シャーロック・ホームズの功績」を既読なのだが、カーは半分にしか関わっていないし、個人的にはアドリアン一人で書いたものの方が印象深く、カーが巨匠であるという知識はあってもそれがどうしたぐらいにしか思っていなかった。
カーのオリジナル作品に触れるのに最初に選んだのは「三つの棺」だったが、30頁程読んだところで状況描写の緻密さ、難解さに、これは手強いと痛感。参考書代わりに「有栖川有栖の密室大図鑑」を読み直し、あらすじは理解したものの、いざ作品に戻りいつものスピードで読もうとすると、さっぱり頭に入らず挫折。
ならば短編集ではと手に取ったのが本作。
これはどれもすんなり入り込める。ストーリーテリングは巧みと言う他なく、その上物語は濃密。トリックは現在では少しありふれたものという印象がなきにしもあらずだが、大家の名に相応しくその用いり方、解き方に捻りがあり巧妙。「新透明人間」「銀色のカーテン」などは映像が目に浮かぶようで特に印象深い。中には「ホットマネー」のようにピンとこないものもあったが、「空中の足跡」のバカバカしいトリックにニヤニヤとし、「暁の出来事」を読んで我孫子武丸もこれを読んだのだろうなと思い馳せ、終盤に連続するさして興味のない怪談話ですらすっかり堪能してしまった。他の作品も楽しみである。 -
素敵だ。現代のミステリみたいに派手なトリックやあっと言わせる感じではないけど、なんというか人間にたとえると「佇まいが素敵な人」。