パリから来た紳士 (創元推理文庫―カー短編全集 3)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (388ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488118037

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。

    【パリから来た紳士】遺言書はどこに隠されているのか?全身麻痺で目玉した動かせない老婦人の視線の動きの解釈は上手いと思いました。遺言を始末したい女と、遺言をなんとか無事に手に入れたい男との攻防も楽しい。それにしてもラストの展開を読めなかった自分が悔しいです。驚きはもちろんですが、それよりも感慨深いものがこみ上げてきます。感動でした。

    【見えぬ手の殺人】誰も近寄った形跡のない現場で、どのように絞殺したのか?当時のそれぞれの行動や現場の状況から導き出されたトリックには驚き。当事者たちの会話が疑心に満ちていて、複雑な人の心の内や人間関係が浮き彫りになり、それが動機に繋がっていくのもおもしろかったです。

    【ことわざ殺人事件】監視された中で殺害されるという状況がおもしろい。最初から最後までスパイのテーマで終わり方が好きです。

    【とりちがえた問題】男が語る過去の事件から即座に矛盾点を見つけ真相を看破するフェル博士もすごいですが、そこからの展開にびっくり。狂気じみている男と退廃した家というのが薄気味悪くていい雰囲気です。

    【外交官的な、あまりにも外交官的な】恋した彼女が忽然と消えてしまうというメロドラマな雰囲気が良い。消失トリックは味気ないですがその動機が以外でした。

    【ウィリアム・ウィルソンの職業】消失事件に関してはトリックというほどのことでもないです。タイトル通りそのビジネスが特殊で、これが表向きの解決を成り立たせていているのがおもしろいです。ちょっと洒落た結末でした。

    【空部屋】殺人であるという決め手の手掛かりが最初からずっと示されていることに気づきます。被害者の人格がこの短い話の中で良く語られており、事件の要因となる心理的なものに深く関わっていたのがおもしろいと思いました。

    【黒いキャビネット】本書の中で同じオチのものがありましたが、インパクトはもう一つの方があると思います。しかし、暗殺を企てる女の純粋さと虚しさや、恋の喜びを説いて説得しようとする叔母の会話、そして二人の前に現れた謎の男と、不気味で緊張感のある一編でした。

    【奇跡を解く男】
    大きな体で一所懸命走ったり、いちゃつくカップルにイライラしたり、拗ねたりするメリヴェール卿が可愛い。
    ラブロマンを中心にドタバタ劇のようなおもしろおかしさがありましたが、真相は欲望や嫉妬が渦巻きドロドロしていました。

  • 本書にはフェル博士、H・M卿、マーチ大佐の短編が収録されています。
    内容も隠し場所トリック、不可能犯罪、怪奇趣味、ユーモア、歴史興味、スパイと多彩を極めています。
    「パリから来た紳士」はカーの数ある短編の中でも特に素晴らしいものです。

  • 東京創元社によるカーの第3短編集。これも独自に編まれた短編集で、ノンシリーズが2編の他にフェル博士物、マーチ大佐物、HM卿物とカーの作品のほとんどの探偵が出ており、かなり贅沢な印象を持つが、各編の中身はさほどでもない。
    この中で印象的だったのは実はノンシリーズの2編だったりする。表題作と「黒いキャビネット」がそれに当たるが、というのも双方とも事件とは別の真相が含まれており、それが私の琴線に触れたところが大きい。具体的に述べると未読者の興を殺ぐから避けるが、現実と虚構のリンクという趣向が当時の私は好きだったのだろう。

    その他、岬の突端で死んでいた死体のところには被害者の足跡しかなかった「見えぬ手の殺人」、監視の中で起きた銃殺事件で、犯人はある男を示していたという「ことわざ殺人事件」、針のような物で脳を刺され女性が死んだが凶器が見つからない「とりちがえた問題」、トンネルの中で失踪した女性の謎を描く「外交的な、あまりにも外交的な」、突然奇行を振舞った男の失踪の謎を解き明かす「ウィリアム・ウィルソンの職業」、『赤後家の殺人』の原版とも云える呪われた部屋で起きる事件、「空部屋」。闇から聞こえるささやき声とガス中毒殺人未遂に逢いそうになった女性を助けるHM卿の事件、「奇蹟を解く男」と怪奇色や不思議な事象をモチーフにした短編が多いが、あまりそれらは記憶に残っていない。

    というのもまだカーを読み始めて間もないこの頃はそのエキセントリックな作風にまだ馴染めていなく、しかもフェル博士、HM卿といったカーのシリーズ探偵もこの短編集で初めて出逢ったため、性格とその面白さが全くといっていいほど掴めてなかった。また加えて読みにくい訳文(改訳を強く要請する!)も手伝って、あまり楽しめた記憶がない。しかしそれでもこの後、A型気質ゆえの執着心で読み続け、現代に至ってもカーの未読本が復刊、刊行されると手を出しているのだから、三つ子の魂百まで(?)というのはよく云ったものだ。

  • 2012/11/22購入

  • 『パリから来た紳士』
    パリからマダム・デヴネを訪ねてやってきたアルマン・ド・ラファイエット。アメリカの酒場でアルマンの身分を証明してくれた男サディアス・バーリー。アルマンの友人であるデヴネ夫人の娘クローディーヌの為の訪問。騙されて娘との縁を切ったデヴネ夫人。後悔し遺言書を書いたが・・・。デヴネ夫人を監視するジュザベル。消えた遺言書。サディアス・バーリーの推理と彼の正体。

    『見えぬ手の殺人』
    フェル博士シリーズ

    ブレンダと恋に落ちたダン・フレイザー。数々の男を手玉にとるブレンダ。心を改めかつての恋人ジョイスに許しをこうフレイザー。殺害されたブレンダ。「アーサー王の椅子」と呼ばれる断崖で死んだブレンダ。フレイザーと婚約したブレンダの真意。ブレンダが恋するトビー・カーティスとの関係。

    『ことわざ殺人事件』
    フェル博士シリーズ

    スパイ容疑のかかったマイエル博士。警察の監視下の家で射殺されたマイエル博士。博士の身体から摘出された弾丸から特定された銃。マイエルと対立していたペンドレル大佐の所有するライフルからの弾丸。大佐の銃撃訓練。事件当時家の中にいたマイエル夫人ハリエット。

    『とりちがえた問題』
    フェル博士シリーズ

    湖畔の渓谷を訪れたフェル博士とハドリー警視が出会った男。ジョゼフ・レッシング。ブレッシング家で起きた殺人。湖の中島に立つ館で無人の部屋で殺害されたレッシング博士。事件後婚約者を待つマーサ・レッシングの死。目を刺されマーサの遺体。無人の部屋。首を傷つけられた白鳥の謎。

    『外交官的な、あまりに外交官的な』
    海外旅行先でアンドルー・ダーモットが出会った女性ベティ。ベティとお茶を飲んでいたが・・・。忘れ物を取りにいき消えたベティ。トンネルの先にはドイツのヴァンデヴァル博士がいたが通ったのは女中のみとの証言が。戦争を前にしたスパイの謎。

    『ウィリアム・ウィルソンの職業』
    マーチ大佐シリーズ

    パトリシア・モントレイクの相談を受けたマーチ大佐。恋人であるヘイル氏の奇行。謎のウィリアム・ウィルソン氏。彼の事務所で若い女を膝に乗せたヘイル氏を目撃する。きえたヘイル氏と残された彼の服の謎。

    『空部屋』
    マーチ大佐シリーズ

    空き部屋からなるラジオの音。アパートに住むチェイス氏と天敵の研究者ミルズが発見した空き部屋の死体。遺体は弁護士アーノット・ウィルソン氏。死因はショック死。

    『黒いキャビネット』
    ナポレオン3世を暗殺しようとした爆弾テロ。反政府思想を持つ母親から影響を受けたニーナ。事件から15年後テロをもくろむニーナ。彼女を止めようとする「ルコック」を名乗る謎の男。

    『奇跡を解く男』
    H・M卿ジリーズ

    ロンドン旅行にやってきたジェニーと出会ったトム・ロックウッド。莫大な財産を受け継ぐ彼女と無理やり婚約者を決めた伯母。叔母から逃げた彼女をかくまうトム。協力者スティーヴ・ラモウル。ホテルで体験したガス漏れ事故。彼女に囁く謎の声。婚約者アルマン・ド・サンヌヴィーユ。

     2002年12月27日購入

     2003年1月4日読了

     2011年5月10日再読

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著者プロフィール

別名にロジャー・フェアベーン、カー・ディクスン、カーター・ディクスン。1906年、アメリカ生まれ。新聞や学生雑誌への寄稿を経て、30年に「夜歩く」で作家デビュー。長年の作家活動の業績から、63年にアメリカ探偵作家クラブ賞巨匠賞、70年には同特別賞を受賞した。1977年死去。

「2020年 『帽子蒐集狂事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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