大いなる眠り (創元推理文庫 131-1)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488131012

感想・レビュー・書評

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  • ルルーシュ「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」の元ネタ?私立探偵フィリップ・マーロウ長編第1作。

    ストーリーについては、かなりこねくり回している印象。入り組んでいて、ちょっとわかりにくい。本作で目がいくのは、やはり何といってもマーロウの人間的魅力。女性にはそっけないようでやたらモテたり、普通に死んでもおかしくないだろうという無茶アクションだったり、安い依頼料ながら警察を敵にまわしても依頼人の秘密を守ろうとしたり。会話の妙もよく言われるが、自分にはオシャレ?すぎてついていけないかも。

    P139 「たったそればかりの金で、この土地の警察の半分以上を敵にまわしてもかまわんというのかね?」

    P234 「あなた、すごいシンゾウね。こんな危ない目にあいながら、一息ごとに冗談をとばすのね」

    とはいえ、謎解き部分も密が濃く、意外な結末は面白かった。

  • チャンドラーを読んだのは社会人になってからだった。学生の頃、私は敢えて読むのを避けていた。ある程度社会に揉まれてからでないとその面白さが解らないと思ったからだ。
    学生の頃、ふいに目覚めたミステリへの興味は尽きることなく、島田荘司を足掛かりにしてその後新本格1期作家から派生していき、やがてガイドブック、『このミス』を片手に自分のミステリの幅を広げていった。そしてどのガイドブックにも書かれているのはハードボイルドというジャンルにおいてハメット、チャンドラー、ロスマクの御三家の名だ。特にチャンドラーの評価は三者の中でも広範囲の書評家に賞賛され、代表作とされる『長いお別れ』は早川書房から当時出ていた『ミステリ・ガイドブック』のオールタイムベストの人気投票で2位か3位に位置していた。

    そんなことから社会人になったらチャンドラーを読むぞ!といつの間にか自分の中で目標が出来てしまった。しかし最初に手に取ったのは本書ではなかった。それは『長いお別れ』だった。この辺の経緯については語ると長くなるので、また後日語ることにする。
    通常ならば読んだ順に感想を語るのが普通だが、私が読書メモを書く前に読んだ本に関する感想はその本に纏わる私の追想も混じっているので、順番自体に特別に意味はない。従って刊行順に即してチャンドラー作品の感想をこれから述べていきたいと思う。

    この『大いなる眠り』はチャンドラーの長編第1作でハンフリー・ボガード主演で『三つ数えろ』という題名で映画化もされた。
    既に有名な話だが、チャンドラーはこの『大いなる眠り』を著わす前に既に『ブラックマスク』誌などに短編の数多く発表しており、ほとんどの長編はそれら短編を原型にして組み合わせたような作り方になっている。従って、事件の途中でマーロウの捜査対象が変わり、寄り道をしているようで、その実、最後には最初に追っていた事件と繋がり、関係者に苦い余韻を残して事件が閉じられるというパターンになっている。

    またこれらの短編にもマーロウは登場するが、これは後年チャンドラーが主人公をマーロウに書き換えたものだ。従って本書がフィリップ・マーロウ初登場作品である。つまり本書に描かれたマーロウこそ、当初からチャンドラーが構想していた“卑しき街を行く騎士”なのだ。
    冒頭の一節からチャンドラーの本作に賭ける意気込みがびしびしと伝わってくる名文が織り込まれている。丘の上に立つ富豪を訪れるマーロウのちょっと緊張気味の仕草などは後のマーロウからは見られない所作で初々しさすら感じる。

    端的にいえば金満家の娘に訪れたスキャンダル処理を頼まれたマーロウが自分の納得行くまで調査を行う物語。
    ストーリーは難解(というよりも捻くり回されている?)でボガードが原作を読んだ後、「ところで殺したのは誰なんだ?」とぼやいたのは有名な話だ。

    本作はアメリカの富裕層の没落を犯罪を絡めて描き、一見裕福に見える家庭が豊かさと幸せを履き違えたために招いた悲劇を卑しき街を行くマーロウという騎士が、自嘲気味の台詞を交え、自身の潔白さをかろうじて保ちながら浮き彫りにしていく。このフィリップ・マーロウ第1作にその後ロス・マクドナルドが追究するテーマが既に内包されている。
    私はハヤカワミステリ文庫の清水訳を読んだ後だったので、本書で初めて接した双葉氏の訳は新鮮だった。個人的には清水氏よりもこちらの方が好きだ。

    この作品で登場した時のマーロウは33歳。この時代の33歳と現代の33歳では明らかにその成熟さは異なる。なぜなら時代の不便さと治安の悪さゆえに、男が社会で生きていくことの厳しさが違うからだ。それは後年チャンドラーのあの有名な台詞でも証明されている。
    そしてその戦いに疲れた男は題名が示す「大いなる眠り」に就くのだ。

    ミステリにリアリズムを持ち込み、ハードボイルドという新しいジャンルを確立したのがハメットならば、それを文学に押し上げたのがチャンドラーだ。本書を読んだ後、しばらくの間、書く文章がことごとくなんだか皮肉めいて、そして比喩が多くなった。この偉大なる文豪はそんな風に僕にかなり大きな影響を与えている。

  • かなり古い訳なので日本語の言い回しが独特で理解に時間がかかった。「うふう」とか、グレープフルーツにつく注釈だとか、「おけらになる」なんて言い回しとか……。特に「おけらになる」については、辞書を引いたよ!全然わかんなかった!
    翻訳だけじゃなくて原文もかなり古いわけだから、もとから独特の古き良きアメリカ文化を描いているわけで、そこに馴染みがなさすぎるのも読解に難儀した理由かも。でも、そんなことも含めて大変楽しんだ。時代がかった雰囲気が、そのまま作品の持ち味に感じられる。
    いろんな人が(特に警察、検事関係?)次から次へと大した説明もなく出てきて、「えーっとこれは誰だっけ?」と、翻訳ものにありがちの混乱にも陥り、筋を追うのに一苦労。
    でも、マーロウの独特の抒情的な一人称の文章が、するすると情景を浮かべさせ、楽しませてくれる。筋を追う、ミステリとして楽しむというよりは、場面場面をただ楽しむというのが、実際のところこの作品を楽しむ一番の読み方なんだろうと思った。
    謎が謎のまま残り解決されないところもあるし、推理らしい推理もなく、そういう意味では私の期待するミステリではなかった。チャンドラーのハードボイルドとはこういうものなのか、どうなのか……。一応、謎は解かれるわけだから、ミステリではあるんだろう。

    最後、タイトルにもある「大いなる眠り」についてマーロウが独白するところが、とても素敵だった。こういうのが、フィリップ・マーロウの面白さなのかな。謎解きのミステリーとして楽しむんじゃなくて、タフでかっこいいマーロウの生きざまを楽しむ。他の作品も読んでみようか、どうしようか。村上春樹訳も試してみるべき?

    分からなかったことが何点か。
    カーメン・スターンウッドは結局、なにかしらの病名のつく精神疾患にかかっているという理解でいいのかな? 
    それから、マーロウの心がどうもよくわからないんだけど、彼は、ヴィヴィアンに惹かれていたの? 惹かれていたけど、探偵の倫理で結局深い仲にならなかったってこと?
    テイラーは結局殺されたの? 自殺したの?
    謎が多いよ~。読み返したら理解できるかしら。

  •  ドラちゃんの長編はほぼすべて目を通しているんだけど、この処女作だけは何となく今まで読みそびれてた(>_<)
     他の作品どうよう、もちろん本作もカチカチのハードボイルド( ´ ▽ ` )ノ
     カッコキメキメ( ´ ▽ ` )ノ
     死の床の将軍( ´ ▽ ` )ノ
     イカレポンチの娘ふたり( ´ ▽ ` )ノ
     キザなゆすり屋に、エロ本貸しに、その他もろもろ( ´ ▽ ` )ノ
     あんまりキャラや設定が強烈過ぎて、ストーリーがさっぱり記憶に残らない(>_<)
    「さらば愛しき人よ」なんか、5回か6回読んでるはずなのに大鹿マロイ以外なにもおぼえてない(>_<)
     本作もおなじことになりそう(>_<)
     タイトルがまたすごいよね( ´ ▽ ` )ノ
    「大いなる眠り」( ´ ▽ ` )ノ
     結局いちども登場しなかったキャラの死を、ここまで大仰にタイトリングした小説が、他にあるだろうか( ´ ▽ ` )ノ

     しかしまあ、本作においてもまたマーロウ先生、終始へらへら減らず口を叩きまくってるね( ´ ▽ ` )ノ
     最初「さらば」を読んだときには呆然としたもんだ( ´ ▽ ` )ノ
     ハードボイルド=非情・冷淡と思い込んでいたから、てっきりその主人公は「ブレードランナー」や「ターミネーター」みたく無表情で無口なものだと決めつけてた(>_<)
     まあ、こういうもんだと分かってしまえばすぐになれちゃうけど、むかしはなかなか馴染めなかった記憶がある(>_<)

     本書のような(時代を考慮しても)かなりクセの強い翻訳を読んでると、つくづく漱石「坊っちゃん」もまたハードボイルドだという説に納得がいく( ´ ▽ ` )ノ
     要するに、読みようによっては落語なんだよね、ハードボイルドって( ´ ▽ ` )ノ
     長い長いひとり語り、無駄口、愚痴、皮肉、誇張、当てこすり、たとえ等などの言い回し、人物描写、風景・家屋・着衣や小物のスケッチ……意識して読むと、ドラちゃんも「坊っちゃん」も、まるきりハードボイルドであり落語でもある(ように見えてくる)( ´ ▽ ` )ノ
     キャラクターの設定もそう( ´ ▽ ` )ノ
     さすがにオチは笑いでなく、シニシズムだったり虚ろさだったりするけれど、話の運びも落語とよく似てる( ´ ▽ ` )ノ
     もしドラちゃんが日本に生まれていたら、きっと漱石みたく寄席に通いつめてたんじゃないかな( ´ ▽ ` )ノ
     だもんで、双葉先生の訳文がこうなったのも少し得心が行くわけだ( ´ ▽ ` )ノ
     語り口が落語っぽいから、思わずセリフをべらんめえ口調に訳しちゃったんじゃないかな、と( ´ ▽ ` )ノ
     
     とかなんとか考えていくと、本書の新訳は(世界のハルキもいいだろうけど)たとえば立川志らくにでもやらせてみたら面白いんじゃなかろうか?、なんて妄想にたどり着く( ´ ▽ ` )ノ
     こないだ映画評で「ブレラン2049」を絶賛してたけど、ハードボイルド作品には噺家にこそわかる「間」とか「隠し味」があるんじゃないかな( ´ ▽ ` )ノ


     ……ついつい、つまんない妄言を並べてしまい、純粋なハードボイルドファンの皆様、ごめんなさいm(_ _)m
     なんか、ドラちゃんの写真を見てると玄人好みの噺家さんみたいだなあ、といつも思えてくるもんで……m(_ _)m

    2017/11/23


     ところで、この後DVDで本書原作の映画「三つ数えろ」を見るわけなんだけど、いったい何を数えるんだろう?(゚.゚) ポカーン


    追記
    「三つ数えろ」はあまり意味のない脅し文句だった(>_<)
     大筋はラストの展開を除いてほぼ同じ( ´ ▽ ` )ノ
     運転手がなぜ・誰に・どうやって港に落とされたのか、結局分からないまま終わるとこもおなじ( ´ ▽ ` )ノ
     ただ、時代的な問題だろうけど、ヌードシーン・写真がまったく映っておらず、ガイガーがエロ専門の貸本屋ということも明示されないんで、将軍がなんで脅されているのか、原作読んでないとよく理解できないだろうな(>_<)
    (その将軍は冒頭のシーンにしか登場しないんだけど、とても今にも死にそうな病人には見えない(>_<))

     小説と映画を見比べて改めて、なんでこの話がこんなにも分かりづらいのか、はっきりしてきた( ´ ▽ ` )ノ
     そも将軍はマーロウにリーガンの行方探しを依頼すればよかったんだ( ´ ▽ ` )ノ
     娘が脅されてる云々は、その捜索過程で出てくればいいだけの話……というか、このくだりはなくてもいいかも( ´ ▽ ` )ノ
     リーガンがマースの女房と駆け落ちしたという「小細工」もいたずらに話をややこしくするだけで、いらなかったかも(>_<)

     ちなみに、映画ではマーロウ役がハンフリー・ボガードなこともあって、作中やたら「チビ、チビ」言われててかわいそうだった(実際、他の役者と比べると異常に頭がでかいな)(´;ω;`)
     その代償なのかどうか、小説以上に女にモテモテだったのには笑えた( ´ ▽ ` )ノ
     なにせ、ノリノリでマーロウに尾行を頼まれるタクシー運転手役まで若い女性に変更され、彼にモーションかけてるんだから( ´ ▽ ` )ノ
     出てる女優はビビアン役のローレン・バコールはもちろんのこと、端役に至るまで(今の基準で見ても)美人ぞろいなんで驚いた(゚д゚)!
     ただ、妹役は今ひとつ狂気を醸し出していなかったけど(>_<)

     小説→映画、続けて楽しむのがおすすめ( ´ ▽ ` )ノ

    2017/11/24

    追記/あ、違った……m(_ _)m
     将軍が脅されてたのは写真の件じゃなく、ビビアンが賭けで負けた証文の方か(>_<)
     ここも分かりづらい(>_<)
     恐喝が二つも三つもあるし、(インチキとは言え)賭けシーンではビビアン大勝してるし(>_<)
     
     
     
     

     

  • マイク・ハマーのシリーズの次に、同じジャンルの作品として選んだのが、チャンドラー。
    マーロウより年上となった今、初読時(高校生)に気付かなかった魅力に、今なら気付くだろうか?

  • ハードボイルドの原点なので。

    うーん、散々ハードボイルドに属する作品を読んできたせいか、
    思ったほど感動はなかった。
    ストーリー自体は次々と殺人が起こって面白かったが。
    将軍の存在がきいていた。

    あえて古い方の訳を読んで、楽しかった。
    子供の頃読んだ翻訳ものってこういう感じだったな、と懐かしかった。
    使われている単語が古臭いが、古典ともいえる作品にはその方がふさわしいのでは。

  • 格好いいとは思うけど、読むのが大変だった。本を通して読むのが久しぶりだったからでもあるけど。

  • 20年近く前に購入したきり読んでなかった。かの有名なフィリップ・マーロウが登場する作品。正直、読みにくかった。ただ、名作であることから挑戦してみた。次回は村上春樹の訳で読んでみたい。
    ★表紙も変わっている。

  • チャンドラー長編7作も残りあと二つ。この「大いなる眠り」はマーロウの出る初の長編ということで、マーロウのタフさと小気味のいいセリフが強調されてるような気がする。特に依頼者の将軍のパツキン娘からコナをかけられてもビクともしないマーロウのくだり、「私はベッドのところへ戻り見下ろした。枕には彼女の頭のあとが、シーツには彼女の小さな腐った肉体のあとが、まだ残っていた。私はからにしたグラスを置き、めちゃくちゃにベッドをぶち壊した」最高です。

  • 双葉十三郎訳の「大いなる眠り」読み終わった。
    時代がかってていいわぁ

    マーロウが「拙者はすこぶるりこう者でござる」とか言うんやで
    時代劇かっ!

    かっこ良さはだいぶ目減りしてたけど、日活の和製ハードボイルド映画を見ているような楽しさがありました。

    しかし、これとっくに絶版になってるかと思ったらえらいお洒落な表紙でまだでてるんだね、多少の改訳ははいってるんだろうか

    早川の清水訳はよんだことあるんで、いずれ機会あったら村上春樹訳も読み比べてみたい。

    面白かったけど、これからチャンドラー読む人は、たぶん村上訳がいいんじゃないかな。

    (内容についての感想が一切ないな…)

    初版1959/8/14 
    38刷 1982/3/26

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著者プロフィール

Raymond Chandler
1888年シカゴ生まれの小説家・脚本家。
12歳で英国に渡り帰化。24歳で米国に戻る。作品は多彩なスラングが特徴の一つであるが、彼自身はアメリカン・イングリッシュを外国語のように学んだ、スラングなどを作品に使う場合慎重に吟味なければならなかった、と語っている。なお、米国籍に戻ったのは本作『ザ・ロング・グッドバイ』を発表した後のこと。
1933年にパルプ・マガジン『ブラック・マスク』に「脅迫者は撃たない」を寄稿して作家デビュー。1939年には長編『大いなる眠り』を発表し、私立探偵フィリップ・マーロウを生み出す。翌年には『さらば愛しき女よ』、1942年に『高い窓』、1943年に『湖中の女』、1949年に『かわいい女』、そして、1953年に『ザ・ロング・グッドバイ』を発表する。1958 年刊行の『プレイバック』を含め、長編は全て日本で翻訳されている。1959年、死去。

「2024年 『プレイバック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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