ピアノ・ソナタ (創元推理文庫 M ロ 3-2)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (542ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488153038

感想・レビュー・書評

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  • 「リディア・チン&ビル・スミス」シリーズ2冊目。今度はビルが語り手のお話。

    ブロンクスの老人ホームで警備員が殴り殺され、警察は地元のギャングの仕業と判断したが、納得がいかない警備会社の主にして被害者のおじがビルに調査を依頼するという滑り出し。
    舞台がロワーマンハッタンからブロンクスに変わり、街の風情にもちょっとした変化あり。
    作中、時折「コンコース」と出てくるが、原題(CONCOURSE)となっている大通り(あるいは地区)の名前で、アメリカの人にはどんな街のどんな雰囲気の話か知れるのだろうか。

    前作では話の展開についていけないところもあったため、今回はしっかりとついていこうと思って読んだので少し時間がかかった。
    それでも頭がこんがらがるところはあったが、どちらかと言えば謎解きよりも繊細で無鉄砲な私立探偵の行動を楽しむ話のように思うので、まあいいか。

    辛抱強い調査に付き合う内に、徐々にビルの過去や生い立ちも知れてくる。
    1995年発表の本だが、話の雰囲気はそれよりまだ前の、ベトナム戦争の影がまだ色濃く残っていた時代を思わせた(ビルはベトナムには行っていないようだが)。
    前作ではビルがリディアに対して甘すぎるのではないかと思っていたが、この本を読むと、ビルが自らの心の闇を癒せるのはリディアと会っている時だけなのがよく分かった。
    今回、リディアはあまり出てこないが、良いタイミングでいい仕事をするし、とても良いコンビだな。

    当初の目的である殺しの顛末が分かっても、かつての恩人でもある依頼者を慮り、『すべて丸く収めるのが、わたしの仕事だ』と、突っ込まなくても良いところへ首を突っ込んでは痛めつけられ、それでも体を張り続ける姿は正に王道のハードボイルド。
    全てが明らかになった後の残りの頁もビルの人柄を思わせて余情あり。ピアノやネコの挿話にはグッと来た。

  • いつかもう一度読み返したいと思っていたシリーズ。
    リディアとビルの主人公の一人称語りが一作ごとに入れ替わる探偵もの。
    内容的には、ザ・王道ハードボイルド。

    10年以上ぶりにシリーズ新刊が発行されたとのことで、今しかないと図書館の閉架からお取り寄せ。
    といっても第一巻『チャイナ・タウン』がなかったので泣く泣く二作目から。

    ビルが探偵のいろはを教わったボビーは今や現役を退き、警備会社を運営している。
    甥のマイクもその一員として、ニューヨークはブロンクスの一角にある介護施設で警備員として働いていたが、ある晩の勤務中何者かにこれでもかというほど痛めつけられた上、足を銃で撃たれ死亡する。
    ボビーはビルに真相究明を依頼するが、何やらきな臭い事実がちらほらと出始める。

    サイドビジネス、地元ギャングとの癒着、利害を共にする者との契約にない暗黙の協力関係、インサイダー情報を利用した私腹こやし、限りなく黒いものから薄いものまでグレーゾーンを利用する輩が出るわ出るわ。
    その悪事によって支えられている目に見えない数多の現実と、目の前にあり悪事によって困窮している血の通った現実を理想論だけで落とし前をつけないところがまさにハードボイルドでにくい。

    全体を通して、ビルの人を食ったような物言い、その陰に潜むリディアへの恋慕の構図が好き。
    ただ、記憶していたよりは刺さりが弱かったかな。
    とりあえず、次作『新生の街』に続きます。

  •  男女ペアが活躍する警察ミステリはたくさんあるが、たいていは2人の息の合った捜査が売りであって、本シリーズのような主役交代制というのは珍しい。デビュー作のチャイナタウンでは大活躍したリディアが本作では裏方に回って、代わりに相棒であるビルが主役を張っている。前作はリディアのキャラがかなりの魅力を占めていたが、男の探偵はあちこちのハードボイルドで見慣れているのでどう新鮮味を出すかが難しそう。結論から言うと、リディアファンとしては少々物足りないものの、ビルもなかなかいい味出していて、これはこれでいいと思った。ピアノ・ソナタとは本筋とは何も関係ないビルの弾く曲の話だが、単なるタフガイではない深みのある人物造型には効果的だ。元ピアノ教師アイダとの挿話がどれだけ物語のアクセントになっていることか。肝心のストーリーは緊迫感あふれるラストシーンにしては犯人の意外性がいまひとつだが、まともな人がこれ以上傷つかないという点では妥当な落としどころなのだろう。本格ミステリではなくハードボイルドだと思えばいいのだ。何よりすべてが片付いた読後感がさわやかなのがまたビルの人徳、といったら誉めすぎか。

  • 久々に、読むのを止められない作品に出会った。といっても、この前作「チャイナタウン」ですら、止められない作品だったけど。前作は中国人のリディアが主人公だったが、この作品は、相棒のビルが主人公。リディアはときどき登場するくらい。前作も若者のギャング(中国系)がからんできていたが、今回は黒人の若者のギャング団が出てくる。ビルが彼らと渡り合うシーンは、少しドキドキした。ローザンの作品はまだ2作目だけれども、どちらもきちんと落ちがある(ない作品はないけど(笑))ので、安心して読める。「ママは眠りを殺す」とかの作品のように、大きな悪の前には小さな悪は見逃す、というのもあるけど、まだ納得のいく納め方をするので好きだ。さて、次の「新生の街」を読もう。

  • 何度目かの再読。ビルヴァージョンの一作目ということですごく丹念に練られてて、リディア版とは全く違った雰囲気にあふれている。人物関係が入り乱れているがうまく書き分けてると思うし、何より私立探偵ならではのラストが良い。警察モノとは異なり、法にしばられず解決法に自由がきく分、何が正しいのかビルは悩む。白黒つけずあえてグレーのままにして、良心の痛みは黙って引き受けるビルにすごく好感が持てた。

  • 2作目になって、
    主人公が交替し、
    しかもかなり暴力度があがっていたのには、
    驚いた。

    しかも、
    ちょっと軽口が過ぎる紳士的なオジサンだと思っていたら、
    意外に過去ありでこれまたびっくり。
    私に読解力がないだけ、と言われればその通りだが。

    慈善団体の内側と周辺を描いたテーマは面白かった。

  • 『チャイナ・タウン』に続く続編。
    今回はビルが「わたし」として登場する。

    ちゃんと人間らしさを感じられる決して超人ではない主人公には好感が持てるし、
    その恋の行方も切ないけれど
    生き生きとしていて、
    好きだな。


    でもなんといっても毎回すごいと思うのは
    翻訳。
    なかなかこういう自然な日本語の翻訳本は
    少ないとおもう。
    上手に違和感なく訳されているのに、
    その元の英語のせりふも自然に頭に浮かんでくる。

  • シリーズ2作目で、ビルが主人公。
    リディアが料理をしていたり恋人ができていたりするのが、1作目からの流れだとなんだか地味に納得いかない。

    シューベルトのピアノソナタ変ロ長調ってあの曲かー。

  • 読む順番がぐちゃぐちゃになってしまってんにゃけど、ビルってこんなかっこよかったかな。

  • 大好きなシリーズ第2弾。
    でも、このシリーズ、主役が2人いるんです。ひとりは中国系アメリカ人女性のリディア・チンと白人中年おやじのビル・スミス。
    2人は事務所は別々なものの、なにかと協力しあっていて、1話ずつ主役を交代しています。
    本作は第2弾なので、ビル・スミスが主役。もちろんルディアも時々ビルの手助けをしています。
    前作「チャイナタウン」にビル・スミスは脇役というかルディアのお手伝いに出てきます。
    その時のルディアのビルの紹介では・・・齢をとっていて、背が高くて強面。腕っぷしが強い人が必要な時はビルに頼むと言っていたので、マフィアにでもいそうなそんな怖そうな人をイメージしていました。
    そしたらそしたら・・・・そんなイメージでは全然ないんですねぇ~。
    とっても繊細で優しい人なんです。
    ピアノを、それもシューベルトのピアノソナタを全曲弾いちゃったりしちゃうという~素敵な人なんですねぇ。なので本書は全体的に静かな空気が漂っています。
    ブロンクスを舞台に老人ホームの入居者たちも個性的だし、不良グループのボスの話とかもなんか温かいんですよねぇ。
    ビルは危険なめに合いますが、おかげでルディアとの仲が1歩前進かな?あは
    このシリーズの中で今のところ1番好きな作品です。

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