家蝿とカナリア (創元推理文庫 M マ 12-2)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488168049

感想・レビュー・書評

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  • 精神科医ウィリング5作目。

    「家蠅とカナリア」というタイトルを聞いて、
    無意識にカナリアの方が重要な手がかりだろうと推測して
    読み進めていたらしい。

    蠅は何か甘い物の手がかりだろうと見当がついたし、
    カナリアの方がかわいいし、
    歌を歌うし、
    駕籠から出されていたのが謎めいていたので、
    惹き込まれていた。
    ただ、それが心理的な手がかりだったことには、
    ちょっとがっかりした。

    1年前の車の事故の身代わりも、
    犯人の動機というか愛情も想像がつくだろうに、
    気付いていなかったので、
    カナリアに引っ張られ過ぎた気がする。

    NYの華の一つ、演劇の舞台が殺人現場で面白かった。

  • 第二次大戦下のブロードウェイ。とある老舗の劇場で、芝居の本番中に死体役の男が殺され、本物の死体になっていた。容疑者は劇中で死体役に近づく機会があった恋人役・警官役・医者役の三人。衣装デザイナーのポーリーンと共にこの芝居を観ていた精神分析学者ベイジル・ウィリングは、その鋭い観察眼と巧みな会話術で関係者たちの秘密を暴いていく。真犯人へのヒントは、血のついた刃ではなくナイフの柄にばかり止まる蝿と、刃物研磨店に押し入って店のカナリアを籠から逃がした夜盗の心理だった。


    初ヘレン・マクロイ。深町訳も手伝ってか、この人めちゃくちゃ文章が上手い。劇場の舞台裏から客席への移動や、屋上を介して隣り合ったビル群を行き来できるブロードウェイのごちゃついた街並みを、さらりと把握させる〈場〉の説明が巧み。それにこれは私の好みだけど、登場人物が着ている服の描写をしっかりしてくれる。心理学者が探偵役なのもあり、髪型や服装、部屋の調度を通じたキャラクター造形がいきいきしていて、関係者みんなにそれなりの愛着を感じてしまう。
    探偵役のウィリングは、心理学を駆使した動機中心の捜査という繋がりで法水麟太郎を一瞬連想させるが、法水と違ってウィリングは他人からの引用を良しとしない実践派だ。読者にもわかるヒントを散りばめながら、状況証拠の積み重ねで舞台上で死んだ男の身元を暴くところは、ホームズ的なやり口だと言える。しかし関係者の警戒心を解き、口を滑らせるよう促す会話術の上手さでは、完全にウィリングが上をいく。そんな彼が手を焼くのは、彼以上に巧みで〈芸術的〉な演技力を身につけた真犯人である。
    この事件は関係者のほとんどが舞台での演技経験を持ち、大小の秘密を抱えていることで複雑になっている。ウィリングは役者の演技を見抜き、その芝居が何を隠すためのものかを見抜くが、自分が見抜いたことは秘密にする。ウィリング自身も精神分析学を身につけた厄介な役者なのだ。そうやってコントロールされた情報の開示タイミングも上手い。最終章の直前に真犯人が明かされるときには、その動機に深く納得させられていた。
    ミステリーとしての面白さと別に、キャラクター造形の魅力がある。成り上がりの俗物女優ウォンダ、群を抜いて芝居が上手いが逮捕歴がある皮肉屋のレナード、金策に忙しい興行主のミルハウなど、戦中のショービジネスの世界を書いた小説としても楽しんだ。特に好きだったのはマーゴ。役者じゃないのにウィリングを驚かせるポーカーフェイスの持ち主で、本書の前半を引っ張るのがウォンダの俗っぽい魅力だとすれば、後半の推進力はマーゴの掴みきれないミステリアスさだろう。
    アクシデントで芝居が止まる、しかし資金を調達するためには興行を続けなければ、という状況が今と重なった。ブロードウェイの街全体のネオンが消える消灯演習に、戦争のある世界におけるエンターテイメントを思った。

  • 3+

  • (蔵書管理)小粋なクリスティー。ネタは割とすぐばれる

  • 凶器に使われた手術用のメス。血が付いた刃ではなく、手で持つ柄の方に家蝿がたかる。
    刃物研ぎの店に物取りが入るが、なぜか飼っていた鳥かごのカナリアをわざわざ逃がして店を去っている。
    遠くに見えるビルの外壁にある時計で、自分の腕時計を合わせる。
    ・・・観客に見守られたステージ上で、限られた演者(容疑者を含む)が芝居の本番中に、わざわざ殺人事件を起こすなんてちょっと・・・。

  • マクロイ作品はやはり人物造形が面白い。特に女性。それぞれの個性が光り、ひとつの作品の中で上手い対比で書き分けられている。

    ベイジル博士が見抜く心理的要素も、本作では舞台俳優達が相手とあっていつも以上に面白く、事件そのもの(は幾分中弛み)よりも登場人物とその心理でたっぷり読ませてくれた。
    ただやはり、家蝿とカナリアが指し示すモノはちょっと弱い気がするし、それをタイトルにしてしまうのもどうかな…とは思うが。

  • さすがに深町眞理子さんの訳だけあって、大変読みやすく、これだけで星五つにしたいくらいだ。時代は第二次大戦中だが、古さを感じさせない。これは訳の旨さだと思う。
    著者はホームズを愛読したとのことで、探偵役の主人公の謎解きの展開がホームズのそれと酷似しているのはご愛嬌だが、人物造形が優れているため、非常に引き込まれる。
    唯一けちをつけるとすれば、「家蝿とカナリア」という邦題だろうか。気持ちはわかるけれど、原題であるCue for Murderに忠実に「殺人へのキュー」とかにしたほうがよっぽどよいと思うのだけど。

  • 題名の通り家蝿とカナリアが事件のカギを握る。この文句が読む動機となったが、実際にはちょっと無理がない?文体自体は読みやすかった。

  •  内容はともかくとして、「Cue for Murder」がどうしてこんなタイトルになるのだろうか。原題はあまりにおとなしすぎるから工夫が必要なのはわかるが、内容の要点を的確に表しているとはいえ、芸がなさすぎ。もっとキャッチーな題名にならなかったものか。
     これまで読んだ作品でマクロイの手腕はよくわかっているけれど、これはちょっとどうだろうか。カナリアも家蠅もかなり無理があるように思う。劇場の舞台での殺人事件。関係者が限られるので、犯人あてという点では意外性を盛り込むのは難しい。なので、いきおい論理的な解決への道筋こそが主眼にならざるを得ない。そしてそこが今ひとつなのが残念。
     相変わらず人物造型や描写はとてもうまいので、それなりに楽しく読めるのは確かだけど、ミステリとして点をつけよといわれれば頑張って星3個が精一杯。それとこれは作品の責任ではないけれど、創元推理文庫高すぎない? 400ページちょっとで税抜き1000円ではコストパフォーマンスでも損してる。

  • 1942年、アメリカ作品。これは...久々に読み終えるのに
    苦戦した作品。時代背景やいかにもアメリカ...というか
    海外翻訳ものっといった感じ全開の文章や言い回しや、
    登場人物達の会話...そしてその登場人物が、サラリと
    頭に入ってこず、さほどの分量ではないのに、1週間も
    かかってしまいました。

    作品の問題ではなく、自分の問題なので書く必要も
    ないとは思いますが、もう中盤は惰性と意地と努力
    をもって、文字を追っていたんですが、流石に
    謎解きの核になる手掛かりやヒントが出てきた
    辺りから、ようやく概要が掴めてきて、その
    クライマックスの謎解きになる犯人と探偵役の
    「ベイジル博士」との対峙はミステリならではの
    面白さだった...と思いますw。

    やはり自分にとって翻訳ものは未だに
    苦手意識もあってか、一旦手こずって止まって
    しまうと、読み終えるのが精一杯で作品を
    楽しめるまでのレベルに達してないんだなー。
    精進、精進。

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著者プロフィール

Helen McCloy

「2006年 『死の舞踏』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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