幽霊の2/3 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M マ 12-3)

  • 東京創元社
3.72
  • (19)
  • (68)
  • (38)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 359
感想 : 61
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488168056

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 事件が発生して、探偵役のベイジル・ウィリング博士が最初の謎を突き付け、次なる展開に繋がった中盤まではとても楽しめました。(笑)
    雰囲気は全然違いますが、アガサ・クリスティの手法のような登場人物の個性を重視した筆致が物語を面白くしていたといえます。導入部の、各人の紹介から始まる個性の際立たせ方といい、章ごとの登場人物の視点といい、この辺りはよく似ているなあと思いました。さらには、被害者の人間心理的な言動もクリスティほど洗練されていないにしても、そのような感じがして、むしろデジャビュのような感覚でしたかね。(笑)事件探索をするベイジル・ウィリング博士の魅力がいささか乏しいと感じたのは、主要登場人物の個性が豊かすぎたせいかもしれません。
    本作品でのベイジル・ウィリング博士は、ある意味、神がかり的でもあり、なぜそのような推論に辿りついたかという経緯の説明が始終薄い感じがあります。特に最初の事件の動機の説明にいたっては、もっと加害者の心理的なアンビバレントな感情の側面を強調しておかないと、手抜きというかあまりにも不可思議な論旨ですよね。(笑)
    本書が序盤から仄めかしに溢れていましたので、全体のプロットは何となく想像通りなのですが(もちろん犯人はわかりませんでしたが・・・。(笑))、もう少し中盤以降の膨らみがあれば結末も面白かったかもしれません。
    あと本書の魅力でいえば、登場人物が語る文学論や探偵論、それに当時の映画スターを会話に登場させているのがリアリティがあり楽しかったのと、出版業界の仕組みや機微が描かれているのも興味深く、全体的にパロディとして楽しめたと思います。
    それにしても、作品名は何で「1/3」ではなく「2/3」なんだろう?(笑)

  • なるほどタイトルはそういうことだったのか。しかし、そこが本書のメインのカラクリであり、その他の犯人は誰かなどについてはかなりおざなりだ。

    とくにヴィーラ殺しについて3人のうち批評家にしぼったのは完全に当てずっぽうであるし、犯人もすぐ自白する。

    完全完璧な言い訳できない証拠を提示して犯人をはじき出すやり方が好きなので、そういう点ではあまりあわなかった。

  • そのタイトルだけ知られていていた幻のミステリー…ということで読んでみる。

    登場人物について順々に語られ、一同が介したところで起こる殺人事件を探偵役が解く…という非常にオールドスクールなミステリーでありながら、殺人事件の犯人探しとは違ったところの謎解きがあり、しかも出版業界への強烈な批判というか「イヤミ」も満載と非常に面白い本…とはいえず、どうも古臭い感じ。「色褪せない名作」ではなく、レトロな雰囲気を楽しむ本なのかも。
    殺人の動機も非常に弱く(え?その動機なら殺す相手が違うだろ!)、殺人とは別の謎ときについてもちょっと無理がある。
    キャラクターもちょっと薄いかな。

    以前、やはり名だけだけが知られ幻のミステリー「ハマースミスのうじ虫」を読んだときも同じような古臭さを感じた。
    SFに比べてミステリーって古くなりやすいのか?

  • 出版業界の話が面白くてぐいぐい読めた。特にエイヴァリーとレプトンの批評のそれっぽさには驚嘆した。マクロイの才能を見せつけられた気分だ。

    他に、ちょっとした挿話が本当に上手い。

    また、文芸に対する鋭い会話の応酬にも満足されられた。

    とても濃密な小説と感じた。初めて読んだマクロイは「暗い鏡の中に」だったのだが、私が人に勧めるとしたらこちらだし、本格的にマクロイに興味が湧いたのもこの作品のお陰だ。

    人々の印象が読み進めるにつれ変わっていくのも面白かった。

    ミステリーとしては、犯人指摘の理由がややおざなりな部分が少し「えーっ?」って感じだが、それ以外はオーソドックス&ベタで、なんともレトロな雰囲気をまとった、安心感のある一冊と言えよう。オススメである。

    余談だが、解説にあるほどタイトルの意味がストンと落ちてこなかったのが残念といえば残念。

  • 推理小説はあまり読まない方なのですが、以前の日経の書評で好評価でしたので読みました。

    抵抗なく、さらっと読み進め、ちゃんと楽しめました。おそらく私が想像していた一般的な推理小説とはちょっと作りが違うのでは、と感じました。

    読み手として、探偵になったつもりで推理を楽しんだりあれこれ頭を悩ますのではなく、映画でも観るように純粋に「いったいこれはどんな展開があるのか?」とワクワクしながら読み進めるといった感じで、あまり頭を悩ませようとも思わなかったです。というのは予想外の展開が続くので・・

    ですので推理小説の謎解き、トリック、犯人を追い詰める、というスリルを味わいたい人には物足りないかもしれません。(謎解きの場面や犯人を確定するところは実にあっさり!)


    あとがきにもありましたが、題名が単に事件の発端になった「幽霊の2/3」という遊びを意味しているだけではないところがなかなかオシャレでいいです。

  • 精神科医ウィリング11作目。

    流行作家の別居中の妻が戻ってくるとわかり、
    あたふたするエージェント夫妻と出版社の社長夫妻。
    妻と再会した作家はあっという間に、
    アルコール依存症に戻ってしまう。
    妻のためのパーティにウィリング夫妻が出席したが、
    作家は毒殺されてしまう。

    最初の緊張感からの思いがけない展開が繰り広げられて面白かった。
    面白かったのだが、いや、面白かったが故に
    作家が記憶喪失で発見された男と明かされた後、
    その正体をウィリング博士が探し出す過程を
    もうちょっと紆余曲折させてほしかった。
    わがままなのは分かっているが。

    長年仕えてくれていたジュニパーが引退して、
    孫娘が料理人として勤めていた。
    そして、ウィリング夫妻に娘が産まれていたよ!

    それにしても、
    作家を世に出すためとはいえ、
    長年妻もだますとは、ちょっとひどい。

  • 警察にも捜査協力する精神科医ベイジル・ウィリングが参加したホームパーティで、〈幽霊の2/3〉というゲームの最中に主賓の作家エイモス・コットルが毒殺された。容疑者はパーティの参加者である出版社の社長夫妻とコットルのエージェント夫妻、文芸批評家2名に別居先のハリウッドから急に戻ってきたコットルの妻。だが、被害者の素性を調べるうち驚くべき秘密が明らかになっていく。出版業界を取り巻く幻想への皮肉に満ちた語り口がクールなミステリー。


    『家蝿とカナリア』『暗い鏡の中に』と続いてマクロイを読むのは三冊目だが、本当にこの人はお洒落だと思う。どの作品も服飾品と室内装飾の描写が細やかで、舞台となる50年代ニューヨークに憧れる気持ちを満たしてくれるし、それが主人公ベイジルの観察眼をも示しているから単なる風俗描写以上のパワーを持っている。
    今回は出版業界という、マクロイにとっても完全に身内の世界を舞台にしているせいか筆が乗りまくっている。事件発生までの導入が少し長いが、殺人が起こってからは秘密を抱える者同士の会話劇にグイグイ引き込まれた。筋だけを追うと二時間ドラマのようなのに、そして現に二時間ドラマのようにすいすいと読めるのに、悪趣味の一歩手前でやめる抑制が効いている。
    螺旋状にうずまく謎の中心に用意されたのは、死んだ作家が賞を受ける文学賞のパーティの円卓。ここで批評家のレプトンが開陳する創作への皮肉な態度と作家になれなかった自身への諦念は、山口雅也の「曲がった犯罪」を思いださせる。あの犯人はヴァン・ダインがモデルだったはずだけど、彼と同じくマクロイも美術評論家の顔を持っていたという。
    〈作者〉という幻を創作する。殺人よりよほど周到に仕組まれたこの犯罪こそが本書の眼目だ。そして〈作者の創造〉という同時代のポストモダン作家が「ハイブロウ」な小説に仕上げたテーマを、マクロイはあくまで完成度の高いエンターテイメントのまま、これ以上ないキレの一言で終わらせる。マジでお洒落なんだこの人は。

  • タイトルが秀逸、というのは端々で目にしてしまっていたので、気に留めながら読んでいたけど、わかってもよかったかもしれないけど、気づかなかった。面白い。
    エイモスの経歴がまったく無い、と知った瞬間が1番想像が付かなかった。エイモスの死の動機や手口は普通。犯人が勝手に過去を語ってくるし、謎解き感も少ない。女性陣がもっと生き生きとヴィーラとかフィリパとか、書かれてても良かったのに。

  • この作者には謎の信頼感があって、確実に失望させられない安心感がある。そして、シリーズ作品の主人公であるベイジルウィリングがロボのように感情がなく、頭脳明晰で隙がなく、全く愛すべからざる人物である不思議さ。でもまたそこがいいんだよな。手前味噌こねこねしたようなシリーズ物はうんざりだし、主役以外の人物はむしろ人間臭く、物語を大きく牽引している。終盤までさっぱり犯人わからないのに、キチッとまとめるし、要するに誰が読んでも面白いんだよう。なんかセンスが非常に現代っぽくて、そういうのって実は年代関係ないのかも。

  • ホームパーティの余興『幽霊の2/3』の最中に、有名作家が毒殺された。
    参加者は、彼の身勝手な妻・エージェント夫妻・出版社の社長夫妻・作家志望の未亡人とその息子。文芸批評家。全員が彼の死で損することはあっても、得はないように見えた。
    同じく招待されていた精神科医の調査により、隠されていた事実が明らかになる。


    ストーリーも特筆するほどではないし、被害者を含め関係者が皆嫌な奴ばかり。だが、真相が開示されたとき、タイトルの秀逸さには思わず膝を打った。

全61件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

Helen McCloy

「2006年 『死の舞踏』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ヘレン・マクロイの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
東野 圭吾
村上 春樹
伊坂 幸太郎
東野 圭吾
冲方 丁
綾辻 行人
東野 圭吾
ピエール ルメー...
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×