そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

制作 : 務台 夏子 
  • 東京創元社
3.75
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本棚登録 : 398
レビュー : 63
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488173050

作品紹介・あらすじ

空港のバーで離陸までの時間をつぶしていたテッドは、見知らぬ美女リリーに出会う。彼は酔った勢いで、妻のミランダの浮気を知ったことを話し「妻を殺したい」と言ってしまう。リリーはミランダは殺されて当然だと断言し、協力を申し出る。だがふたりの殺人計画が具体化され決行の日が近づいたとき、予想外の事件が起こり……。男女4人のモノローグで、殺す者と殺される者、追う者と追われる者の策略と攻防を描く傑作ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • 空港のバーで出会った男女が意気投合する。男はテッド。ネット・ビジネスの成功者で大金持ち。女はリリーといい、ウィンズロー大学の文書保管員。ビジネスクラスで隣り合った席に座るうち酒の酔いもあって、テッドは妻のミランダが出入り業者と浮気する現場を見てしまったことを打ち明ける。女はテッドの気持を確かめ、殺したいなら協力すると申し出る。行きずりの相手との単なるゲームと思おうとしたテッドだが、一週間後の再会を楽しみにしている自分に気がついていた。リリーに惹かれていたのだ。

    どこかで見たような話だ、と思った。交換殺人を扱ったミステリの代表作で、ヒッチコック監督で映画にもなったパトリシア・ハイスミスの『見知らぬ乗客』である。本作は交換殺人ではないが、冒頭リリーの読んでいるのがハイスミスの『殺意の迷宮』であることといい、ハイスミスを意識しているのはまちがいない。自らの意志で殺人という犯罪を犯す犯人にいつの間にか肩入れしている自分を発見させられる点がハイスミスに似ているのだ。

    三部構成で、第一部はテッドとリリー、第二部はリリーとミランダ、第三部はリリーとキンボールというふうに、視点人物が交代する。しかも、章が変わるたびに視点人物が入れ替わる映画でいうカット・バックの手法で進められてゆく。第一部では、テッドの視点でミランダ殺害計画を進める二人が互いに惹かれあうようになる経緯を、リリーの視点では少女時代から現在に至るまでのリリーの犯してきた罪の回想が語られる。事情があるとはいえ、リリーには人を殺した過去があった。それも計画的に、誰にも発見されることなしに。

    このまま、二人の計画通りに事が進んでいくのか、と思いきや、第一部の終わりでなんとテッドが殺されてしまう。手を下したのはミランダの浮気相手ブラッドだ。一転、リリーは加害者の側から被害者の側に転落してしまう。被害者の死で利益を得るのは誰か? テッドが死んで一番喜ぶのは莫大な財産を相続することになる妻のミランダだ。帰納的に考えれば、そうなることを予め考えてミランダはブラッドに近づいたのでは、と誰でも気づく。テッドを愛しはじめていたリリーには、尚更そう思えた。

    ここからリリーは探偵役となって事件を追うことになる。互いに殺人を考えていたという点で、リリーとミランダはライヴァルである。しかもそれだけではない。二人は同じ大学にいたとき、エリックという男を巡って微妙な関係にあった。大学を出てずいぶん経ってから、リリーはミランダに町でばったり出会い、婚約者のテッドを紹介されている。空港で会ったとき、リリーの方は気づいていたのに、テッドは忘れていたのだ。

    宿命のライヴァルによる暗闘が始まる。どちらが相手を出し抜き、勝利を手に入れるか。ブラッドという男をどちらが味方につけ、犯罪を隠蔽、あるいは証明できるか、キンボールという刑事がその間に割り込んでくることによって、緊張が高まる。しかもキンボールはリリーに抗いがたい魅力を感じているようだ。詩人になり損ねた刑事は淫らな五行戯詩(リメリック)を書くのが習慣になっていた。これがうまく使われている。

    要は二人の知恵比べだ。相手の先手を取ってどう動き、駒をどこに配置するか、チェスや将棋のような対戦型のゲームを観戦しているような気になる。三部を通して一貫して視点人物であるのはリリー一人だ。実際に人を殺しているのはリリーの方なのに、彼女の視点で語られる過去の物語を通して読者はリリーの側から事態を見るようになる。視点人物の気持ちは分かるが対象人物の気持ちは分からない。これは文芸学の基礎だ。直接的には手を下していないミランダが悪女役をふられているのだ。

    まあ、たしかに悪女ではある。力や金を持つ男に近づき、自分のものにすることに生きがいを感じている。それが自分のステータスになるからだ。そして、一度手に入れてしまえば、すぐに対象に飽きて放り出したくなる。しかし、子どもと同じで他人がそれを手に入れると奪い返したくなる。エリックをめぐる三角関係はミランダのそういう性癖に起因している。

    翻ってリリーはといえば、子どもの頃自分の猫を攻撃した猫を殺して以来、相手に生きる価値がないと思えば、それを殺すことを躊躇しない。この世界に存在しない方がいい相手だから、殺しても良心は痛まない。しかも、完璧な計画を立ててから実行するので、疑われることもない。一種のサイコパスであることはまちがいない。ただし、ふだんは化粧っ気もなく、地味な文書保管の仕事をしており、自分に関わらなければ殺人のスイッチは入らない。

    タイプはちがうものの頭もきれて実行力もある美女二人の戦いを描いた犯罪小説。視点人物の立場が加害者、被害者の間を二転三転する構成が効果的で一気に読ませる。バーでギタリストが弾くのがストーンズの「ムーンライト・マイル」だったり、運転中に聴いているのがマイルスの「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」や「枯葉」だったり、音楽のチョイスもいい。原題は<The Kind Worth Killing>(殺すに値する種類の人々)。邦題とちがって、原題には犯人像が仄めかされている。こちらをとるという手はなかったのだろうか。

  • 裕福な実業家テッドは、空港のラウンジで、美しい女リリーに話しかけられる。
    マティーニを挟み、2人は、しばし親密なひとときを過ごす。それは旅先のちょっとしたアヴァンチュールだ。スタイリッシュなバー。ほのかな恋の予感。アルコールのもたらす若干の高揚感。そんなとき、人は普段なら口にしないようなことをつい打ち明けてしまうものだ。
    テッドは妻ミランダの浮気の証拠を掴んだばかりだった。「妻を殺したい」というテッド。驚くことに、リリーはそれを当然だと言い、手助けを申し出る。

    原題は"The kind worth killing"。殺す価値のあるもの、つまりは殺されても仕方ないものというところだろう。
    悪いやつなのだから、世の中に存在しても害となるだけだ。だから殺してしまえ、というわけだ。
    浮気女と寝取り男への断罪を思わせるタイトルだが、それが後になって別の色合いを帯び始める。

    物語の語り手は、章ごとに入れ替わる。
    第1章はテッド、第2章はリリー。物語が進むにつれて、ミランダやその浮気相手のブラッドも語り始める。
    入れ替わるモノローグの視点は、事件を別の角度から見せていく。しかも、その中には、いわゆる「信頼できない語り手」もいる。
    叙述の手法も取り入れながら、狩るものはときに狩られるものとなり、サスペンスを孕んで物語は疾走する。出し抜くのは、出し抜かれるのは、誰だ。仕掛けがわかるまではノンストップだ。
    中盤以降の眼目は、いかにチェックメイトに至るかだろう。事件の捜査に当たるキンボール刑事は、犯人を追い詰めることができるだろうか。

    解説によれば、映像化権もすでに売れているそうで、シナリオは完成済みとのこと。
    リリーやミランダのキャスティングが楽しみなところだ。
    都会的な雰囲気に、ウィットの効いた描写、クリスティやナンシー・ドルー、ハイスミスなどへのオマージュ。
    娯楽サスペンス映画としては、期待してよい作品だろう。

    ラストは小説としては若干押しが弱いようにも感じるが、映像化の仕方によっては見事なエンディングとなりそうだ。
    狩るものは、ついに狩られる。
    逃げおおせたと思ったいちばん悪いものの悪事は、白日の下にさらされることになるのか。
    見届けるのはあなただ。

  • 交換殺人の話かと思ったらそうではなく、自分のプライドを傷つけた、あるいは自分に不快な思いをさせた、そんな存在を次々と亡き者にしていくサイコパスの話だった。
    潔癖過ぎる故に他人の夫婦事情にまで首を突っ込むのかと思ったら、なるほど、そういう繋がりだったかと、そこは面白かった。
    ただ登場する人物たち、殺す者も殺される者も、皆が皆自分のことしか考えていないので感情移入も共感もせず、最終的にこのサイコパスが破滅しようが上手く逃げ切りようがどうでも良かったのだが、どんな結末を迎えるのかなということは気になって読み進めた。
    最終的にはよくある皮肉めいたオチなのだが、このような結末をサイコパスは全く考えていなかったのだろうか。いかに田舎とはいえ、このようなことが起こり得ることは一つの可能性として考えるべきで、『死体を完全に隠す』ためには、もっと上手いやり方があるんじゃないかと思ったりもする。

  • 読むなら今である。

    まずとにかくタイトルがいい。

    『そしてミランダを殺す』

    このタイトルだけで色々想像させられる。

    ミランダって、誰? ミランダなにしたの? ミランダどれだけ恨まれてるの? それとも、ミランダは不条理にひどい目にあうの? あるいは・・・・・・? 
    気になってつい読んでしまう人がいるらしい。
    そして、その読後感を伝えたくなる人が、少なからずいるらしい。

    とにかく評判がいいのだ。

    それがたくさん目に入る。

    問題は、評判というのは、どうしてもネタバレを含んでしまうということだ。
    続きが気になりワクワクとページをめくりたい人は、さっさと読んだほうがいい。
    いずれ、あなたは、ネタバレされる。

    ネタバレを気にしないという人であっても、評判というのは聞けば聞くほど、塩梅を越えてしまうという点がある。

    期待を高めすぎて、いざ読んだら「それほどでもなかった」とがっかりさせられたり、
    あるいは、「ここまで皆が言うなら、もういいや」と、すれからしの達観に至ってしまったりする。

    いわば旬を逃してしまう形だ。
    そんな状況は、私には人生の歓びを欠くこととしか言いようがない。

    発売されて、まだ日がたっていないこの頃か、
    レビューを見てしまったこの時か、

    なんにせよ、読むなら今なのである。

  • 面白かった。なんかこう作者の思惑通りに誘導されたのはすごく久しぶりでそのことに嫌だとも思わない。すっきりする。そしてこのラストの手紙がいい。すごくいい。映画化とのことだけど、リリーは誰が演じるんだろ。わくわく。

  • これは…やられた。
    「このミス」などでもランキングに入っていたり、やたら評判がよかったらしいのでついに手を出しました。帯もよくて、特に翻訳者の務台夏子先生の「まさか◯◯◯が◯◯◯◯とは、ふつうは想像しないだろう」というコメントは、途中で読み疲れたわたしを奮い立たせてくれた。この◯◯に入る言葉が分かるまでは読み終われない。
    じつはわりと半ばあたりで分かるのだが、そこまで読むともはや後戻りも、読むのを止めることもできない。結末を知るまでは…!そして、見届けなければ!という妙な使命感が産まれる。
    読後もしばらくはこの話が頭を占拠するだろう。
    それだけあと引く面白さ。

    主人公のテッドは妻ミランダの浮気を知ってしまう。そしてたまたま空港で出会ったリリーに「妻を殺したい」と話すと、リリーは協力すると言い出し、殺人を決行することになる。登場人物のモノローグで話は進む。計画は順調に進んでいたが、予想外の事件が起きる。混乱のなか更なる事件が起こり…。

    あらすじ、書くのが難しいです。読んで欲しい。
    ミステリーというかサスペンスだと思う。
    淡々としたモノローグが面白くて、ある人物の目線では「こう」だったものが、他の人物からみたら別のように見えていたり、純粋な心理戦としても楽しめる。深読みするのもアリです。
    描写もよいです!しっかり読める。会話文でごまかしてない。
    あとみんな飲酒運転超するね。
    それがびっくりだよ…。
    あー読んでよかった。面白かった。

  • 妻ミランダの浮気に悩むテッド。偶然出会った美女リリーと意気投合したテッドは、ミランダの殺害計画を練ることに。そして徐々に明かされるリリーの恐るべき前歴。一見うまくいくように思えた殺人計画なのに、途中から「そうなっちゃうの!?」と予想外の方向へ転がってしまいます。息もつかせぬサスペンス。
    なんていうか……登場人物、どの人も曲者ばかりです。お互いに裏をかき裏をかかれて、いったい最後には誰が笑うのか。まあ誰が殺されたところで同情もできなくって、だから勝ち抜けられてもそれはそれで腹が立つかも、なんて思っていたら。あらら、こういう結末か! これはこれですっきり。

  • 評判がいい理由がわかる。読者を騙す、驚かすことに特化して、エンタメ性にも長けた作品だ。今年の海外作品でおすすめといわれたら、薦めるべきミステリである。

    映画的な犯罪小説。サスペンス。気軽に翻訳もの読みたい方はぜひとも。

    空港のバーで離陸までの時間をつぶしていたテッドは、見知らぬ美女リリーに出会う。彼は酔った勢いで、妻のミランダの浮気を知ったことを話し「妻を殺したい」と言ってしまう。リリーはミランダは殺されて当然だと断言し、協力を申し出る。だがふたりの殺人計画が具体化され決行の日が近づいたとき、予想外の事件が起こり……。男女4人のモノローグで、殺す者と殺される者、追う者と追われる者の策略と攻防を描く傑作ミステリ!

  • おもしろかった。ラストはなんとなく予想できたんだけど、そこに至るまで、いくつか仕掛けがあり、楽しんで読める。こういう犯罪ものって、なぜか犯人が逃げおおせるよう応援してしまうようになっていて、そこが人間心理の不思議なところだ。

    映画化の話もあるようだが、確かに向いているかもしれない。ある一つのサプライズは映像化に工夫がいりそうだけど。

  • 読める展開もあったけど、全体的に
    展開が読めない。
    登場人物の視点の切り替わり方も
    話を面白くするし
    久々にハイペースで読んでしまった。

    犯罪小説で、誰にも感情移入できないけど
    あの人が、傷つかず静かに暮らしたい気持ち
    なのはなんとなく感じ取れて
    少し共感していた。

    あとラストの展開の
    放り投げられ方がすご!!

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