ヴァイオリン職人の探求と推理 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488178055

作品紹介・あらすじ

殺人の動機は伝説のストラディヴァリウス? 高級ヴァイオリン売買の知られざる内情、贋作、緊迫のオークション。ヴァイオリン職人がさまざまな謎に取り組む傑作ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • 「ヴァイオリン職人の探求と推理」というタイトルと、クラシカルなカバーイラストで、良作の予感。
    ポール・アダム…作者の名前は平凡な感じだけど…
    もちろん初読。

    トリックとかなんとかではなく、探偵役となるヴァイオリン職人・ジャンニの人間としての円熟した魅力がとにかく楽しめる作品。

    本作では63歳。もちろんヴァイオリン職人として一流で、自然豊かな土地に工房を構え、今も仕事を楽しんでいる。昔からの友人たちに囲まれ、多くの教え子に慕われ、子供たちや孫たちも時折遊びに訪れる。
    心から愛していた妻を亡くしてしまったが、やはり子供や孫もいる58歳の魅力的な女性・マルゲリータとの恋の予感も。

  • 偶然見つけた名前も知らないイギリスの作家。久しぶりに没頭するように読んでしまった珠玉のミステリー。最近北欧のミステリーにはまっていたが、同じ欧州であっても全く異なる深みに満ちている。舞台はイタリア、主人公はバイオリン職人。訳者の後書きにもあるが、欧州らしい長い歴史と現在がつながっていることが主人公を通して感じられる。「過去があって、現在の自分たちがあり、その上でどう生きるか」、日本人に相通じることだけれども、米国には決してない上手く表現できないが、人生、価値観といったものだろうか。様々な意味で豊かな人生を歩んできた人物像が見事に描かれている。音楽、ミステリー、歴史、イタリアが大好きな方々にお勧めの一冊です。シリーズ化されていて3作目が刊行されています。早速2冊目を読んでいるところ。

  • 思うところあって先月の新刊を選んでいたうち、タイトル買いの1冊。原題は“The Rainaldi Quartet”。

    ヴァイオリンの町として有名なイタリアの町・クレモナで殺人事件が起こる。殺された職人は、どうも世界最高級レベルのヴァイオリンを極秘に探していたらしい…その事件を被害者の親友だった楽器職人と、ご近所住まいの刑事が追うミステリ。ひとすじなわではいかないディーラーとコレクターの間を行き来する少々強引な刑事と、捜査能力はなくても真実は突き止めたい職人のコンビは、相棒というよりも甥っ子とおじさんの仲。だからといって決してべたべたしたところはないので、過剰でももの足りなくもなくて快適に読み進む。

    高価なヴァイオリンをめぐる状況というのは、以前読んだトビー・フェイバーのノンフィクション『ストラディヴァリウス―5挺のヴァイオリンと1挺のチェロと天才の物語』に記されていたものとよく似ている。『ストラディヴァリウス―』で描かれていたのは、音のために名器を欲しがる音楽家と、それが持っているとされる金銭的価値のために欲しがるコレクター、その橋渡しをときには危ない橋を渡りながら行うディーラー(プラス、ときには同じく危ない橋も渡る楽器職人)という、清濁併せのむ大人の世界。音楽家をのぞいた関係者の描写は、ひょっとしたらこの本が参考資料の1冊となったのかもしれない。

    件の楽器をめぐる複雑な来歴が目くらましになって、なかなか展開が読みにくく、解けない謎を追い続ける感覚がほぼ終盤まで持続する。被害者が関わったコレクション界隈の人物もそれぞれ魅力的に描かれており、しかも平均年齢高め(笑)なので、アップダウンがあるわりには落ち着いたトーンで物語が進んでいると思う。個人的にはコレクターの姪、シニョーラ・マルゲリータの持つ、ザ・ヨーロッパのご婦人感が好み。読み手の注意をそらすために取ってつけたようなエピソードがないわけではないけれど、破たんなくストーリーも進み、ラストの展開も「ああ、そういうことね」と穏やかに微笑んでうなずかずにはいられない、いい塩梅の大人の解決方法で私は好き。

    実在の名器の歴史上の動きが追えるし、ヴァイオリンの名曲や名奏者もディテールにちりばめられているので、クラシック音楽がお好きなかたにも面白い、腹もちのいいミステリだと思う。ただ、各所の書き込みがしっかりしすぎるゆえか、読んでいる途中でときどきうっとうしく思えてしまい、「そこまで細かくなくていいから!」とたびたび毒づきそうになったことを、ぬるいミステリ読みの私は白状いたします。

  • 月に一度の弦楽四重奏をするため、イタリア・クレモナに住む
    ヴァイオリン職人・ジョヴァンニ・カスティリョーネ(ジャンニ)の家に
    仲間が集まり、楽しいひとときを過ごし別れたその夜、ジャンニと同業の親友
    トマソが殺害されてしまうところからストーリーは始まります。
    同じ演奏仲間のうちのもう一人、クレモナ警察の刑事アントニオ・
    ガァスタフェステから、ジャンニは殺されたトマソと同じ
    ヴァイオリン職人であることから捜査に協力することを依頼されるのですが....

    主人公ジャンニは63歳。相棒の刑事ガァスタフェステは40そこそこという
    親子ほどの年齢差はあるものの、すっかり落ち着きはらった名コンビ。
    トマソは幻の名器・ストラディバリを探しにイギリスへ行っていたらしいと知り
    ジャンニは殺人に絡んだその名器を追って、イギリス、イタリア・
    ヴェネチアなどの各地を巡り、豊かな知識と鋭い洞察力で真相に迫っていきます。

    殺人を軸にしたヴァイオリンの古い歴史を辿るミステリとはいいながら
    主人公ジャンニのヴァイオリン職人としての暮らしぶりや
    亡き妻のことを回想したり、孫たちと触れ合うシーンなども盛り込まれ
    トマスの忘れ形見ソフィアに対する情愛も温かに語られていて
    さらには自らの淡いロマンスまで覗かせてくれるその深い味わいに
    すっかり魅了されてしまって引き込まれました。

    イタリア・イギリスの古い街の匂いがするようでいて、時代背景はほぼ今と同じ。
    そのはずなのにどこかしら昔めいた空気が漂っているように感じるのは
    ジャンニの人となりを表すようなゆったりとした語り口と
    ヴァイオリンという芸術品のはかり知れない歴史のゆえでしょうか。

    ジャンニのヴァイオリンにかけた想いには涙します。

  • 初ポール・アダム作品。

    ヴァイオリン職人が、殺人事件と幻のヴァイオリンを探すミステリ。随所に語られるヴァイオリンに関する伝説・逸話が時代を超えたロマンを感じる。と同時に、ヴァイオリンの職人、ディーラー、コレクターとその価値(鑑定や贋作など)について、不可解な(何とも言えない魑魅魍魎の)世界観を垣間見せる。
    最後、主人公の語る「自分の良心を開放するためです」の真意(良心)には、己の贋作に対する後悔だけに向けられているのでしょうか?親方の贋作の売却や発見した幻のヴァイオリンを猫糞して姪にあげてしまうことは含まれないのでしょうか?あるいは、これは、次回作の伏線?すこし、違和感が残る結末でした。ただ、ヴァイオリンを貸し出す活動には心を打たれた。
    私自身は、ヴァイオリンのことは不案内であるけど、「無限に広がっていくヴァイオリン演奏で、そこではテクニックは指ではなく、演奏家の心にあり、それこそがただ音符を弾く者と音楽を奏でる者の違いだった。」の一言にあるように、芸術品のような楽器は芸術家(演奏家)の手にされる(ガラスケースの中に飾られるだけより)ほうが、よいことだとは思うが…。
    魑魅魍魎に加担した気がしました。

    気になったフレーズは以下:
    ★どんな職業にもそれぞれの神話、伝承、過去からの物語があり、それがその職業の神秘さを簡潔に伝え、大部分は退屈で単調な仕事にロマンチックなオーラを投げかけているののである
    ★我々は皆、どこかに自分のしるしを刻み、自分の通った跡を残したいと思う。しかし、どうやってそのしるしをつければいいか?
    ★本物だと信じられる偽物を持っている方が、その逆よりずっとよかっただろうよ
    ★きみはあの曲を伝えていた。それが上手なヴァイオリニストと芸術家の違いなんだ
    ★博物館にて:「釣りだろ、たぶん」…「インスピレーション。…。だから何かが――何でもいいから――ひらめいて、その手がかりをくれないかと博物館へ来てみた」

  • 英国作家による、イタリアが舞台のヴァイオリンミステリ。なんか主人公の老人がめっちゃ好み……と思ったら、英国作家だった(笑)。なるほど。イタリア人だと、こんな暗い思想じゃない気がしたのよね……。面白かった。他のも読みたいです。

  • ヴァイオリンのことはよくわからない…などどいう心配はいりません。主人公の年齢を経た人間味、友人刑事の実直さ。楽器の謎にぐいぐいひきこまれました。続編が待ち遠しい。

  • ヴァイオリン職人のジャンニは同業者の親友が殺された事件に、そのヴァイオリンの知識を求められ関わっていく。

    家族とか、ワインとか、美味しい料理とか、太陽とか、いかにもイタリアン。
    細かい描写で専門的になりすぎな話を上手い具合に彩っている。
    ヴァイオリンについて知識を持ち合わせていなくても楽しく読めるけれど、そこのところ業界的にありなんだ?と思う箇所も。
    ラストのまとめ方に首を傾げながらも拍手する。読後感は良かった。

  • イタリアのヴァイオリン職人ジョヴァンニ・カスティリョーネは、月に一度、仲間と弦楽四重奏をするために集まる。
    同業者で幼なじみのトマソ・ライナルディ、アリーギ神父、小さい頃から知っている息子のような刑事アントニオ・グァスタフェステと。
    ある夜、集まりの後、トマソが殺害されてしまう。
    前の週にイギリスへ“メシアの姉妹”という一千万ドル以上の価値があるとされる、幻のストラディヴァリを探しに行っていたことがわかり、ジャンニはグァスタフェステに協力し、事件を探り始めるが、新たな殺人が起きてしまう。
    犯人とヴァイオリンの謎を追い、ヴェネツィア、ミラノ、イギリスへ―
    豊かな人脈と深い知識、鋭い洞察力を駆使し、名器にまつわる謎に挑む!

    真犯人は捻りがなかったけれど、犯人探しよりもヴァイオリンの謎がメインだと感じたのでがっかり感は無かったかな。
    各地の描写が美しいです-食事にワインも美味しそうで!
    グァスタフェステとの推理活動は素晴らしいコンビネーションでした-
    ジャンニは老境にさしかかってるからか、現実的―正攻法でなく型破りでもいちばん手っ取り早い方法取りますね。
    しかしヴァイオリン職人としては、名器を手にする、過去の汚点は消去、才能ある音楽家の手助け、とやり尽くした感がある…のに続編があるのですね。
    また壮大なスケールに歴史的宝物が絡んでるようで、楽しみです!

  • 歴史と資産としてのヴァイオリンが絡んでじっくりと進んでいく感じの謎解きがよかった
    主役コンビ2人も落ち着いた雰囲気で味わい深かった

    ただイタリアの名前に慣れるのが大変

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