死体をどうぞ (創元推理文庫 M セ 1-8)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (622ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488183080

感想・レビュー・書評

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  • 思いきりネタバレしてます。あとアントニイ・バークリー『ジャンピング・ジェニイ』を未読の方は読まない方がよろしいかも。

     

     セイヤーズの本格指向の作品として前作『五つの赤い鰊』とセットで語られることが多い作品。幕開け早々に死体が現れる展開は前回以上の早さだけど、セイヤーズ最大の難物ともいえる前作と比べると、リーダビリティの面では格段に改善されている。 その最大の要因はなんと言ってもハリエット・ヴェインの存在になるのだろう、彼女とピーター卿の軽妙なかけあいは「ハリウッドのスクリューボール・コメディそこのけのギャグ合戦」と解説で法月綸太郎が絶賛するようにシリーズ中屈指の出来。 『鰊』にあった人物の書き分けの薄さも(容疑者みんな似たような画家だし…)本書では改善されており、中でも夢見る未亡人ウェルドン夫人などは忘れがたい存在です。法月がモース警部ばりと評する仮説の構築、瓦解、再構築の展開により前作にあった煩雑さは随分解消されており、文庫で600ページという厚さですがスイスイと読めてしまいます。(でも暗号解読のとこは飛ばしました)。
     本書の真相で使われているアイデアはハウダニットへの拘りをもったセイヤーズらしいもので、それ自体は奇抜さ以外で評価するのは中々難しいかもしれませんが、伏線の一つを珍説としてギャグテイストのストーリーに溶け込ますことで見えにくくするテクニックなどは感心します。

     「信じられないくらいごちゃごちゃしてた。それも全部、ほんとはわたしのせいなのよね。わたしがあんなに頭がよくて切れるところを見せなかったら、血の状態がどうだったかなんて誰も知らないまんまで、通りかかるずっと前にアレクシスは死んでたとわたしたち決めてかかっていたわ。こうややこしいと、通りかかってよかったのか、足をひっぱっただけなのか、自分でもわからないくらいよ」 p602

     『鰊』同様にまたしてもバークリーを持ち出しますが、ハリエットが介入することによって犯行計画が頓挫しかけ、一方でアリバイが生まれ、崩れ、別のアリバイが生まれ…という本作の構造に私はロジャー・シェリンガム的な引っ掻き回しを想起して思わずニヤリとしてしま います。大元の犯行時間に齟齬があったというのが真相ならば、誤認したまま散々(構築/再構築で)検討していた推理はなんだったのか! というのを脱力感と評していた方が居たのですが、この徒労感あふれるシニカルな真相もいかにもバークリー風味 じゃないでしょうか?(ウェルドン夫人とアントワーヌの関係を示唆することで、犯人たちの犯行そのものも徒労であったとさせる皮肉さ!)。
     例えば本作が シェリンガムサーガの一編として書かれたと妄想してみましょう。自殺で処理されようとする事件を引っ掻き回し浮かび上がった容疑者のアリバイ崩しに汲々としたあげく、結局犯行時間の誤認でしたと振り回される姿が浮かびませんかね? アンプルティ警部言うように自殺と評決されて涙目逃走するシェンリガムと続いて、エピローグでやっぱり殺人だったと明かされる……ううん、やっぱり『ジャンピング・ジェニイ』ってバークリー流の返礼なんじゃないのかなあ。

     まあ、あんまり調子に乗ってバークリーのことばかり書いていると(しかも、根も葉もない憶測がほとんどだ)、ピーター卿のファンから石が飛んできそうなので(失礼!)これぐらいにしておくが…

  • 青天白日の身となったハリエットが、死体を見つけてしまう。ピーター卿、すかさず登場で、ダブル探偵でストーリーは展開します。
    何ともこんがらがった事件!なのにカギは死亡推定時刻をひっくり返す「病気」だとは!

  • またもセイヤーズ、恐るべし、と手放しで歓びたい所だが、今回はどうもそうは行かない。

    まず賞賛の方から。
    岸壁で1人のロシア人が殺されている、このたった1つの事件について600ページ弱もの費やし、さらにだれる事なく、最後まで読ませたその手腕たるや、途轍もないものである。事件がシンプルなだけにその不可能性が高まり、今回ほど本当に真相解明できるのか、危ぶまれた事件は(今までの所)ない。しかも最後の章でまたも驚きの一手を示してくれるサービスぶりはまさに拍手喝采ものである。
    血友病を持ってくるとは思いませんでした。この1点でトリックが全てストンと落ち着くのが非常に気持ちよかった。

    しかし―ここからが批判である―、腑に落ちないのは結局動機が何なのか判らなかった事。意外な犯人という点では今回は申し分ないだろうが、単なる一介の仲介業者が流れの理髪師に扮して殺人の供与をする動機が判らない。動機らしい動機といえば、直接手を下したヘンリー・ウェルドンの、姉の財産を独占すべく結婚させないために手を下したというのが最も強いのだろうが、どちらかと云えば彼は共犯格であるから主犯格であるモアカムの動機が全く見えないのだ―読み落としたのかな?―。

    しかしポーの『黄金虫』ばりの暗号解読といい、バークリーばりの推理の連続といい、かなり本格推理小説を意識した作品であるとみた。動機の問題さえなければ5ツ星だったのになぁ。

    余談だが、今回は表紙の装画に非常に助けられた。この装画がなければ現場の状況を克明にイメージできなかっただろう。イラストを描いた西村敦子氏に感謝。

  • ピーター卿もの。ハリエット・ヴェインは徒歩旅行の最中に喉を掻き切られた死体を発見する。死体は海際で潮に流され詳細がわからなくなり、被害者や容疑者たちの不審な動きに惑わされるピーター卿は真実を言い当てられるか――。法月氏の解説があとがきにあるのだけれど、それが作品を見事に解説されている……簡単に言うと様々な推論をだす探偵の推論はことごとく外れるアリバイもの。ページ数の多い作品だったけれども退屈せず読めた。死体の不可解な謎やピーター卿とハリエットのユーモアなやり取り、暗号の解読などなどが興味を引き付けてくれたからだと思う。アリバイものはこんがらがるのであまり好きではなかったので、結末はそうなのかと思う程度だったけれども……。アリバイを崩すきっかけはいささかよくわからないと思ったりも。とはいえ、面白い作品でした。

  • ハリエットは一人旅の途中に海辺で死体を発見したが、死体は潮にのまれて消えてしまった。ハリエットは彼女が事件に巻き込まれたことを知り飛んできたピーター卿と二人で死体の身元と死因を探り始める。
    どちらかというとハリエットがメインの一冊。 (2002-01-27)

  • 執事のバンター有能すぎる。ピーター卿とのかけあいが面白すぎて大好きだー!!
    ヴェイン嬢とピーター卿の恋の駆け引きも素敵です。煮え切らないあたりがもどかしくてサイコー。

    もちろん推理作品としても一級品。600ページというかなり分厚い部類の文庫だと思うが、この厚みを感じさせないほど展開に引き込まれてすいすい読めた。

    こうなると、セイヤーズ影響を受けたといわれている執事ジーヴスシリーズも読んでみたくなるなぁ。

  • 長かった・・・。ピーター卿と麗しのハリエットの掛け合いが面白いけれど、二人の間の問題は結構根が深いのね・・・(主にハリエット側の問題で)ということがよくわかりました。でも、(ロマンス的には)そこがいい!

  • セイヤーズのピーター・ウィムジィ卿シリーズ第7弾。
    作風が変わってきた前作の長編と同様、謎解きがまるでパズラーのように凝った構成。といっても、それがやや飽きるほどバリバリだった前作「五匹の赤い鰊」と違い、今作はピーターの愛するハリエット嬢や従僕バンターも登場、その活躍あいまって、人物とのやりとりは可笑しくもあり、物語としても楽しめる。
    ピーター卿とハリエット嬢の掛け合いや、バンターの涙ぐましいほどの尾行劇なども面白いし、何しろことごとくピーター卿の推理が暗礁にのりあげては、打ち砕かれるプロットが巧み。
    その物語性の面白さと解けない謎がこの長編をどんどん読み進ませるから、さすがで、更に作品ごとにパターン化せずに趣が変わるのもスゴイ。

  • ピーター卿とハリエット嬢の掛け合いが面白い。
    バンターはあいも変わらず有能で素敵だ。尾行する男の頭を見つめすぎて泣いちゃうバンター大好きだ。
    しかし、話はおもしろくない。アリバイと登場人物と暗号がごちゃごちゃしすぎて話が進まず、微妙。
    エラリー・クイーンだって試行錯誤しながら探偵家業が進むのに、ちっとも進まず。
    28章の暗号解読はひたすら苦痛。ものすごいパズラー。この小説に、暗号解読要素は一切いらないよ〜(泣)

    セイヤーズはクイーンと張り合ったり、探偵論にガツガツした性格だった模様。

  • バンターとパーカーがあんまり出てきませんでした…。

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