ナイン・テイラーズ (創元推理文庫) (創元推理文庫 M セ 1-10)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (492ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488183103

感想・レビュー・書評

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  • 鐘への愛、知識、敬意、畏怖……、著者のそういった思いが、読み終えたとき立ち上ってきたような気がします。相当練られたミステリということは、間違いありません。でも読み終えたときに浮かび上がってきた感情は、普通の本格ミステリを読んだときとは違うものでした。

    それは完璧なロジックで犯人が分かった、というパズルのピースがはまるような爽快感や、どんでん返しによるサプライズの衝撃とは異なる気がします。言葉で言い表すとしたら、目に見えないものに対しての畏怖が最も近いかなあ。

    この物語の探偵はピーター卿ですが、裏主人公ともいうべきは、ピーター卿が訪れる村の教会にある鐘でしょう。まず著者であるセイヤーズの、鐘に対する想いが溢れています。

    小説が始まる前に挿入されているまえがきから、鐘に対する思いが語られ、作中の村の鐘が鳴らされる描写も美しい。そして、巻末には鐘を鳴らす技術に関する用語集付き! これはオタクだ(笑)

    立派な教会と鐘を持つ小さな村。そんな村で見つかった一体の死体と、かつて村で起こった盗難事件を軸に話は展開されていきます。

    描写が細かく、人間関係も現在と過去と入り乱れるため話はなかなかややこしく、テンポもゆっくりに感じるのですが、徐々に話が繋がっていく感覚はなかなかのもの。この辺はさすがミステリの黄金時代の作品だな、というふうに感じます。

    この作品で珍しいな、と思ったのが、死体が見つかってからも一向に死因が明らかにならないこと。これにどんな意味があるのか、と思いながら読んでいったのですが、まさかそういう真相だとは……そして普通ならやや受け入れがたい真相も、これまでの描写で「そういうこともあり得るのか」と思わさせるのも、またすごい……

    緻密に組み立てられた構成の中に、一種の奇怪さや荘厳さが混じり、本格ミステリの枠を超えた読後感が残る。そんな印象の作品でした。

  • 死因が怖かった…!殺し方として島田荘司さんの摩天楼の怪人の殺し方が強烈だったけど、これも意図していないとはいえ中々凄惨な死因だ…。

    鐘のことは全く分からなかったので、正直仕組みとかはよく分からなかったし、若干とっつきにくかった。でも、登場人物がみんな生き生きしていて、読むこと自体はそんなに苦ではなかった。また、序盤ウィムジイ卿が急遽参加することになった年越しの鐘打ちは迫力があって良かった。
    大晦日から正月にかけてたまたま読んだけど、この期間に読むのにぴったりな作品だった。

    鐘は船と同じで女性なんだ。

  • 5 

    シリーズ長編9作目。

    真相が明らかになる場面にて。個人的には、謎の死体の死因について容易に想像できてしまったので、それが明かされたこと自体にはなんら驚くことはなかった。しかしピーター卿がそれに気付いたときの反応が、序盤の充実感たっぷりの奏鳴の場面と対比され、映像が目に浮かぶどころか音まで聞こえてきそうなクライマックスの圧倒的な情景描写と相まって、驚嘆、悲壮、慟哭、後悔、畏怖、解放、といった様々な感情を呼び起こさせることに感動を禁じ得ない。本当に素晴らしい。

    キャラクター小説としても安定の面白さ。冒頭いきなり事故るピーター卿(御前様は鐘も鳴らせられるのかよ!)、マシンガントークな教区長(奥さんもね)、絶妙な掛け合いを見せる村民たち(なまりが秀逸)、キレるバンター(レア)。

    思い返せば、このシリーズで最初に手にしたのが本作だったのだが、どうせなら一作目から読もうということで、何年も寝かせておいた。以来、なかなか入手できずにいた作品もあり、その間先に進めずにいた時期もあったが何とか順番に読むことが出来た。この度ようやく本作に辿り着いたが、順に読んできて本当に良かったと思っている。本作にはレギュラーキャラクターはピーター卿、バンター、パーカーぐらいしか登場しないが、シリーズを読んでいなければわからない要素もあるし、慣れ親しんでいるおかげで声を出して笑えるシーンなどもある。おかげで愛着あるシリーズとなった。長編はあと2作。この訳者ではあと1作。2冊とも既に手元にあるが、読んでしまうのが寂しいような、もったいないような…。

  • 冗長度が高そうでいて実はすごい緊密なのよね、セイヤーズって。ぼーっと読んでたら面白さを見失う。それにしても鳴鐘術用語の訳出、浅羽莢子さすが。

  • たぶんこれは年末がちかい今、読んだらぴったりだと思うんですよね。
    9人の洋服やさん?って思わないでください。(私は思ったんですけど)

    舞台は年の瀬のイングランド沼沢地方の雪深い小村。
    弔いの鐘「九告鐘」にちなんで起こる事態。

    ミステリーがなんとも面白くて不思議は不思議なんですが、読み終わった時、頭のなかで鐘が鳴り響いて止みません。「カーン、コーン、カラーン、コローン、ガーン、ゴーン、ガラーン、グウォーン、...」って。

    ドロシー・L・セイヤーズの最大傑作、不朽の名作だそうです。
    1930年代英国の最高探偵小説とも。

    おさだまり、ピーター・ウイムジー卿の推理の醍醐味。
    ほんとにピーター卿は理想の趣味人です。
    パンター氏というこれまた誰でも欲しくなる付き人がいーんですよね。

    この本には登場しませんが、ハリエット・ヴェインという恋人との掛け合いも面白く、ピーター・ウイムジー卿ものは飽きさせません。

    やはり、ドロシー・L・セイヤーズさんは全部読まなくっちゃと私は思います。

  • なるほど核心は古典たるべきものだが、全体にかなり読みづらいのが難点。クラシカルな雰囲気を楽しめるかどうかにだいぶよると思われる。自分はきつかった。

  • ミステリ好きを自称しながら、今迄この作品を読んでいなかったのは何たることであろうか。流石はドロシーLセイヤーズの最高傑作とうたわれるだけあって、誠に素晴らしい作品であった。(何が素晴らしいのか詳しく話すとネタバレになるのが残念だ)

    今まで自身の読んできたミステリの中で、犯人や結末の意外性であっと驚いた作品は数多あれど、ここまで大胆不敵なものはみたことがない。天晴れである。

    この感想は今も変わらない。何度か読み返してもつくづく大胆な作品だなあと感嘆するばかりである。あと文章から文学的な香りがするのも特徴か

  • アガサ・クリスティと並んで称される、英国ミステリの女王、ドロシー・L・セイヤーズが作りだした貴族探偵「ピーター・ウィムジー卿」が活躍する名作シリーズの9作目。
    海外古典ミステリの中でも有名な不朽の名作、とのことで初のセイヤーズ作品。

    この作品で、「転座鳴鐘術」-数学的に順列と組み合わせを計算し秩序にしたがって鐘を鳴らす、英国文化の存在を初めて知った。

    また、フェンチャーチ・セント・ポールの教会の鐘楼にぶら下がる8つの鐘には、それぞれに名前-「ガウデ、サベオス、ジョン、ジェリコ、ジュビリー、ディオミティ、バティ・トーマスそしてテイラー・ポール」があり、個性も歴史もあるという点も興味深く感じた。

    転座鳴鐘術の用語や楽譜は難解で、
    フェンチャーチ・セント・ポールの人々の方言は読みづらく、
    ピーター卿が何かにつけて引用でしゃべるのがしんどかったが、
    レディ・ソープの墓に埋められていた謎の死体は誰か、
    縛り上げられていた理由、
    死んだ場所、
    誰が誰に暗号を送ったのか、
    ウィル・ソーディが銀行から二百ポンド出してまた戻したわけ、
    ソーディ夫妻の行方と戻ってくる日にち、
    ジム・ソーディが汽車に乗り遅れた事情、
    エメラルドの首飾り盗難事件に関わっていた宝石泥棒ノビー・クラントンがフェン・チャーチ・セントポールに来た理由とやったこと、
    鐘楼にビール瓶があった経緯、
    ジャン・ルグロが過去を伏せていた理由、
    アーサー・コブリィがダートフォードの林でしたこと、
    オウムの言葉の意味、
    ソーディ夫妻が日曜の早朝礼拝に出なかった原因、
    テイラー・ポールの関わり合いかた、
    死体の顔が潰されていた理由、
    そして、かつて起こったエメラルドの首飾り盗難事件の真相は?
    と、次々と謎が膨らみ、読み応え十分だった。

    また、終盤、村が水害に見舞われる箇所、
    ピーター・ウィムジー卿自身が鐘の脅威を体験する箇所は緊迫感があり、クライマックス感を楽しめた。

    タイトルの「ナイン・テイラーズ」とは、死者を送るために鳴らす教会の鐘のこと。男性の場合は9回鳴らすので、九告鐘(ナイン・テイラーズ)。一方、女性の場合は6回鳴らすので、六告鐘(シックス・テイラーズ)。

  • 亡くなった女性を夫と同じ墓に埋葬しようとしたら、出てきた身元不明のもう一つの死体の謎。それに、以前に起こったエメラルド盗難事件をめぐる謎、行方をくらました自称自動車修理工の謎、暗号の謎など、様々な謎が絡みあって、ややこしく、わかりにくい話。翻訳作品特有の読みにくさも相まって、読み進めていくのが大変で、なかなかページが進まなかった。真相につながる情報は小出しで出てくるので、読者が謎解きできるような話ではないし、暗号の謎やエメラルドの隠し場所の謎の真相もぼんやりとしかわからない。最後から2ページ目まで読み進めて、ようやく、こういう話だったのかと納得。まさしく、神の裁きであり、ナイン・テイラーズというこの作品のタイトルにうってつけの真相。

  • 図書館にて借りる。初セイヤーズ作品。ちょっと幻想的な感じもする。

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