遮断地区 (創元推理文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488187101

作品紹介・あらすじ

バシンデール団地に越してきた老人と息子は、小児性愛者だと疑われていた。ふたりを排除しようとする抗議デモは、彼らが以前住んでいた街で十歳の少女が失踪したのをきっかけに、暴動へ発展する。団地は封鎖され、石と火焔瓶で武装した二千人の群衆が襲いかかる。医師のソフィーは、暴徒に襲撃された親子に監禁されて…。現代英国ミステリの女王が放つ、新境地にして最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 「この社会には煽動家が多すぎるのよ。そして調停する人はあまりにも少ない」

    愚か者たちの饗宴といったところかな

    それにしてもミネット・ウォルターズ相変わらず字が多いw
    原書で読んでもそう感じるのかな?英語もっとちゃんと勉強しておけば良かったな

    そして相変わらず設計図が緻密すぎる
    緻密すぎる設計図の果てにどこに連れて行かれるんだろうって心配しながら読み進めていました

    世の中には自分の考えなしな行動で悲惨な結果を招いたとしても、非は自分にはないって自分を簡単に納得させることができる愚か者が多すぎて、小さな善意は愚かな煽動家たちの行軍に踏み潰されていく…

    そんなどうしようもない結末を思い描いていました

    んでもそこはミネット・ウォルターズ!ちゃんと救いのある明るい結末が用意されていました
    彼女の物語では世の不条理と持てる力を振り絞って闘ったヒーロー、ヒロインは必ず報われるのです
    ごめん、途中ちょっと疑ってたよ
    どんなに陰鬱な事件の結末にも「あなたも闘え!」ってちょっとだけ背中を押してくれるのがミネット・ウォルターズという作家なのだ!

  • 英国ミステリの女王の新作。といっても翻訳の上でですが。
    推理小説というよりパニックものだからか、翻訳する順番が後になったようです。
    スリルと爽快感があり、面白かったですよ。

    低所得層が暮らすバシンデール団地。
    1950年代に建てられた団地は、しだいに孤独な老人や未婚の母と父親のいない子供でいっぱいになっていた。
    通称アシッド・ロウ(LSD団地)というのは、麻薬がすぐに手に入るという意味なのだ。

    医師のソフィーは、金持ちが住む街での診察よりもむしろ生きがいを感じていた。
    同じような悩みを抱えつつも必死でそれを隠そうとする上流の人間よりも、あっけらかんとたくましい人々に必要とされるほうが付き合いやすかったのだ。
    ソフィの患者の一人で未婚の母のメラニーは白人だが、恋人ジミーは黒人で以前の罪で服役して出所したばかり。
    大男のジミーは育ちから当たり前のようにぐれて、今も見た目は黒服にゴールドのアクセサリーでいかにも犯罪者だが、メラニーとの間に子供が出来てから1年は改心して真面目に働いていた。

    バシンデール地区に小児性愛者が引っ越してきたと情報をもらした人間がいて噂が広まり、近くの団地で10歳の少女エイミーが行方不明になったことから、抗議のデモが始まる。
    小さな子供の多い地域から危険人物を追い出そうとするのだが、実際には大人しく、未成年との交際があっただけで、そういう危険のある人物ではまったくなかった。
    暴動は酒に酔った2千人の若者が押しかけてバリケードの中に立てこもる状態に発展してしまい、最初にデモを思いついたメラニーらが止めようとしても止まらない。
    ソフィーは事情を知らないまま診察に行って、暴徒に囲まれた父子の人質にとられてしまう。

    一方、少女エイミーを待ち続ける母のローラ。
    弁護士でずっと年上の支配的な夫とは離婚したが、恋人とも別れ、別な男の元に身を寄せている。
    ローラとエイミーの家庭の破綻ぶりも、なんともリアルで複雑。
    エイミーの周囲の怪しい人物も、危険人物と目された息子と息子よりずっと危険なその父親も、一筋縄ではいかない屈折を抱えた人間たち。
    予想される胸の悪くなるような話にはならないのがさすがウォルターズだが、これはこれで軽くはないというのがまた。

    天使のような顔をした不良少年ウェズリーは、薬で興奮した状態で暴動をあおる。
    恋人メラニーを助けようとして暴動に巻き込まれたジミーは、携帯で警察と連絡を取り、事態を救う重要な役目を期待されることに。
    血だらけの大男ジミーを救うか細い老婦人(元看護師)の活躍も。

    第7作「蛇の形」と第9作「病める狐」の間に発表されています。
    ほぼ毎年、こんな力作を発表しているとは。
    2001年の発表当時、犯罪を起こした小児性愛者の名前を公表するという問題が起きていたんですね。
    混同された無関係な人が攻撃される事件が、現実にも起きたばかりだったよう。
    骨太な作品ですが、緊迫した様子がテンポよく描かれ、ユーモアもあり、気丈なソフィーと気のいいジミーの活躍で、読後感はいいですよ。

  • ムッサオモロかった!

    低所得者層(社会的底辺の人々)向け住宅街に、前科のある小児性愛者の二人ずれが引っ越してきた。という情報が流れ、そこからその地区で大暴動が起こるさまを描いた小説。

    ミステリー要素は薄く、パニック小説の様相である。ちゃんとしたミネットファンは「どうしたんだ?」と言ってるくらいに雰囲気が違う小説らしい。俺はそこまで作者の小説を読んでないので、違和感なく楽しめたが…。

    それにしても、日本だけでなくイギリスにもこういう団地があるんだなぁ。大阪のあそことか神戸のあそことか…そういうとこを想像して、この本を読んだらリアル感マシマシ。

    本気でワルいヤツを2名だけにして、あとは場の雰囲気で走る一般人っていう設定もリアルだった。お祭り気分で暴動を盛り立てる若者たちの姿は他人事じゃない、日本でだって、自分たちだって十分になりえることだ。注意しないとなぁ。

    あと、モロトフカクテルはしっかり蓋をしないといけないこと、余談の話だし、使うこともないんだろうけど、妙に心に残る教訓だった。

  • 「氷の家」と同じ作者だったので。

    パニック小説とか、非常事態とかあまり興味がないので、
    最初は小児愛者をめぐっての貧困地区の騒ぎは、
    少女の行方不明の背景だと思っていた。

    だが、ジミーが登場してから、がぜん暴動の動きの方が気になっていく。
    刑務所から出たばかりで、
    自分が指紋を残して犯人と思われるからと、怪我した女性のために救急に電話し、
    彼女を助ける手伝いをすることに。
    女が殴られることには、たとえそれが警官だとしても我慢できないジミー。
    老女に助けられ、子供たちが逃げる手伝いをし、囚われた女医の救助へ向かう。
    巨体に暖かい心を持つジミーの行動が胸を打つ。

    男はみてくれじゃないのよ、何をしたかなのよと最後に老女に言われていたが、
    本当にその通りだと思う。
    人は何を語るかではなく、何を知っているかではなく、その行動で判断されるべきだ。
    この作品はミステリーではなく、英雄譚なのだ。

  • すっごく面白かった!
    さすが、英国ミステリーの女王の小説だわー。

    ストーリーも構成、スピード感、キャラクターの設定など上手く組み立てられてて、読むのを飽きさせない。
    翻訳も上手く訳されて読みやすかった。

    みんなそれぞれが、良けれとやったことが裏目にでて酷いことになったなぁーと。
    そんな中、やっぱり秀でていたのはジミー。
    かっこいーーー!
    ジミーとアイリーンの最後のシーンは、こういう話の中で唯一心の温かくなるシーンで、読んでよかったなぁと思わせくれた。

  •  <新ミステリーの女王>としては、何ともミステリーらしからぬ作品を書いたものだ。それもいい意味で。

     タイトルのとおり、本書は暴徒に遮断された地区とそこで起きた真実について描かれた作品である。舞台は、最下層の人々の住むバシンデール団地、通称アシッド・ロウ。道路は扇形の外周を回るが、隣地とは壁によって隔てられ、一旦中に入り込むと、外界との交点は非常に少なく、そこが暴徒に制圧されると警察さえも踏み込むことができなくなる厄介な地形である。

     暴動が主題となるのだが、暴動の原因は、小児性愛者の父子が他の団地で犯罪を犯し転入してきたという風評。そう、あくまで風評である。風評の原因となった機密事項の暴露者は福祉系の巡回保健師。件の父子の転出元の団地では、あろうことに少女失踪事件が判明しニュース報道でも大きく報じられていた。風評はさらに事実を超えて肥大していった。

     暴徒の構成は、残念ながら最下層に住む不良がかった少年たち。幼年たちを含む。そして扇動者は、ヤクでいかれたおよそ一名のサディスト青年。それでも暴徒と化した群衆の圧力は凄まじい。死者11名を出した明石の花火大会歩道橋事故を思い出すといいだろう。その圧力を逃すために家の中を通り抜けて外側に出てゆける人々の流れを作らねばならない。

     この種の物語は言わば群衆小説となるのだが、主人公らしき存在がいる。小児性愛者父子の家に知らず踏み入れ監禁されてしまった女性医師ソフィー。小児性愛者の情報をもたらされ、デモを行うことを呼びかけ、暴動のきっかけを作ってしまったことを悔やむゲイナとメラニーの母娘。メラニーの恋人でムショ帰り、更生を誓って八面六臂の活躍を見せるジミー。彼らが思い通りに動けず、暴徒に囲まれ、警察は役に立たず、コントロールを失った現場で動き戦う様子を活写しているのが、本書、なのである。

     それと同時に、別の場所、別の団地で、風評の原因となった少女失踪事件についてが、主たるテーマとほぼ同量の扱いで描かれる。複雑に絡み合った事件の真相を執念で追い続ける刑事タイラーの容赦ない捜査が心地よいが、隠蔽しようとする離婚した弁護士の父、そのクライアントで小児性愛者の疑いのある企業家、自立し切れずに混乱する母親と、失踪少女を取り巻く環境は、まるで情念と欲望の坩堝である。こうした環境のもたらす悪徳、といったところを両方の事件を通して、作者は描きたかったのかもしれない。

     例によって翻訳の遅い出版社なので、不幸にもこの作者の作品が日本にお目見えするのが相前後するばかりか、非常に年数がかかっている。当時の英国が抱えた真実なのか、今も解決されぬ普遍的な環境悪であるのか、そのあたりの判断がし難いあたり、海外ミステリに手を伸ばそうとせず、こうした重厚な物語の紹介時期を逸してきた出版各社の、まさにこのことこそが環境悪と言いたくなる部分であるのだが……。

  • 寡聞にして知らなかったのですが、書評家・川出正樹氏によれば著者は英国推理小説界の女王との事。
    本書はそんな著者がイギリスの貧困地区で起きた暴動の発端から顛末までを描いた小説です。
    コントロールできない混乱に翻弄される人の無力さや力を有効活用できない警察、しかしその様な中でも状況に立ち向かう個人の姿を描いていました。

    では前置きはこの位にしてあらすじをご紹介。

    社会福祉政策の失敗の結果誕生したバシンデール団地、通称アシッド・ロウ。
    教育水準が低く、ドラッグが蔓延しているこの団地に幼児性愛者が入居させられたとの噂がたつ。
    そんな折、別の団地でシングルマザーの娘が行方不明となる。

    幼児性愛者への母親達の懸念にこの事件が重なり、やがて団地は暴動の舞台へと変貌を遂げていく・・・


    依存体質の母親。
    破綻した親子関係。
    子供を道具とする大人の冷酷さ。
    お世辞にも良い経歴の持ち主とは言えない人物の良心。

    後書きによれば、著者はモラル・マジョリティ(多数派のモラル)が嫌いとの事。
    本書はその様な著者の想いを反映したのか、「多数派のモラル」が暴動を呼び起こした様とその最中に自らの意志で行動する個人とを対比させたストーリーとなっており、
    見方によっては、いわゆる¨良識¨とやらへの痛烈な皮肉の様にも受け止める事ができます。

    良識を武器にして他人の心を押しつぶす事に血道を上げている人には痛い内容かも知れませんね。

    ストーリーの方は、さすがに英国推理小説の女王と呼ばれるだけあってか、暴動の様子が目に浮かぶかの様。
    たくみな描写が全編に渡って冴えています。
    休日の前夜か、あるいは休日当日でないと危険な一冊になるかも知れません。

    ご注意下さい(笑)

  • 2001年の作品。こんな面白い本を10年以上も放置していたのは東京創元社の怠慢。

    遮断地区というタイトルだけで興味を持たせられる。限られた空間でのスリラーは外れがないように思う。

    小児性愛者排斥の暴動と1人の少女の失踪事件の二つの顛末が並行して描かれる。底流にあるのは親子の物語りか。

    細かい章割りでテンポはよく、また緊張感が最後まで続く。

    暴動沈静に一役買う、あるネットワークが傑作。

  • ミネットウォルターズの代表作との呼び声も高い「遮断地区」。ドラッグが蔓延し争い事が日常茶飯時、LSD街と揶揄される低所得者向け団地。近くの団地で少女が行方不明になると、小児性愛者と疑われた親子を排斥するデモは暴動に変わり、往診に来ていた女医のソフィーは暴徒に襲撃された親子に監禁される。親子は小児性愛者ではなく異常サディストとその被害者でおかしくなった息子だった。警察は少女の捜査のために暴動まで手が回らない。そして団地に火を放ち、呆けた老人を小児性愛者と思い込んでリンチする半グレたち。
    マイノリティへの偏見をテーマにしたリアルでサスペンスフルなカタルシス小説!パニック、暴力、犯罪。血だらけの暴動の中で冷静と信頼と希望をもたらすのは刑務所帰りの黒人ジミー。勧善懲悪のヒーローではない。混乱の中で彼は警察や病院にその役割を頼まれる。思いやりは山ほどあるのにクソのような罪人に対しては容赦しない男。自己弁護する理屈も言い訳もいらない。そんなものは誰も信じない。肝に銘じよう。言葉よりも「人はその行動で判断される」。

  • 実際にイギリスでよくある、道が袋小路状になった作りの、50-60年代の低所得者用住宅街。それだけでも充分に緊張と閉塞感があるのに、そこに小児性愛犯罪者が移されてきたことが漏れて憶測を呼び暴動が……という状況に、更に近所の別の地区で10歳の少女が行方不明(男の車に乗っていたことがわかっている)という事件が重なって、そこに巻き込まれて右往左往する人々を描いたもの。
    イギリスの小説らしく緊迫感はあるのだけど、感情移入できる登場人物もなく(途中から登場するヒーローのジミーくらいか?)、ドラマチックでもなく、でもジミーとその彼女のおかげで最後に一筋の救いがあり、そこは上手にまとめてる。
    性犯罪者と間違われた老人が人々に惨殺され、その後濡れ衣が晴れると花束が続々と置かれた、というところ、 「しかし彼が、子どもを慰みものにする畜生と思われていた二十四時間のあいだには、一本の花もそこに置かれることはなかったのである。」(508ページ) が、とても重い。私自身の反応も、たぶん同じかも。

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