遮断地区 (創元推理文庫)

制作 : 成川 裕子 
  • 東京創元社
3.52
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本棚登録 : 329
レビュー : 58
  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488187101

作品紹介・あらすじ

バシンデール団地に越してきた老人と息子は、小児性愛者だと疑われていた。ふたりを排除しようとする抗議デモは、彼らが以前住んでいた街で十歳の少女が失踪したのをきっかけに、暴動へ発展する。団地は封鎖され、石と火焔瓶で武装した二千人の群衆が襲いかかる。医師のソフィーは、暴徒に襲撃された親子に監禁されて…。現代英国ミステリの女王が放つ、新境地にして最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 英国ミステリの女王の新作。といっても翻訳の上でですが。
    推理小説というよりパニックものだからか、翻訳する順番が後になったようです。
    スリルと爽快感があり、面白かったですよ。

    低所得層が暮らすバシンデール団地。
    1950年代に建てられた団地は、しだいに孤独な老人や未婚の母と父親のいない子供でいっぱいになっていた。
    通称アシッド・ロウ(LSD団地)というのは、麻薬がすぐに手に入るという意味なのだ。

    医師のソフィーは、金持ちが住む街での診察よりもむしろ生きがいを感じていた。
    同じような悩みを抱えつつも必死でそれを隠そうとする上流の人間よりも、あっけらかんとたくましい人々に必要とされるほうが付き合いやすかったのだ。
    ソフィの患者の一人で未婚の母のメラニーは白人だが、恋人ジミーは黒人で以前の罪で服役して出所したばかり。
    大男のジミーは育ちから当たり前のようにぐれて、今も見た目は黒服にゴールドのアクセサリーでいかにも犯罪者だが、メラニーとの間に子供が出来てから1年は改心して真面目に働いていた。

    バシンデール地区に小児性愛者が引っ越してきたと情報をもらした人間がいて噂が広まり、近くの団地で10歳の少女エイミーが行方不明になったことから、抗議のデモが始まる。
    小さな子供の多い地域から危険人物を追い出そうとするのだが、実際には大人しく、未成年との交際があっただけで、そういう危険のある人物ではまったくなかった。
    暴動は酒に酔った2千人の若者が押しかけてバリケードの中に立てこもる状態に発展してしまい、最初にデモを思いついたメラニーらが止めようとしても止まらない。
    ソフィーは事情を知らないまま診察に行って、暴徒に囲まれた父子の人質にとられてしまう。

    一方、少女エイミーを待ち続ける母のローラ。
    弁護士でずっと年上の支配的な夫とは離婚したが、恋人とも別れ、別な男の元に身を寄せている。
    ローラとエイミーの家庭の破綻ぶりも、なんともリアルで複雑。
    エイミーの周囲の怪しい人物も、危険人物と目された息子と息子よりずっと危険なその父親も、一筋縄ではいかない屈折を抱えた人間たち。
    予想される胸の悪くなるような話にはならないのがさすがウォルターズだが、これはこれで軽くはないというのがまた。

    天使のような顔をした不良少年ウェズリーは、薬で興奮した状態で暴動をあおる。
    恋人メラニーを助けようとして暴動に巻き込まれたジミーは、携帯で警察と連絡を取り、事態を救う重要な役目を期待されることに。
    血だらけの大男ジミーを救うか細い老婦人(元看護師)の活躍も。

    第7作「蛇の形」と第9作「病める狐」の間に発表されています。
    ほぼ毎年、こんな力作を発表しているとは。
    2001年の発表当時、犯罪を起こした小児性愛者の名前を公表するという問題が起きていたんですね。
    混同された無関係な人が攻撃される事件が、現実にも起きたばかりだったよう。
    骨太な作品ですが、緊迫した様子がテンポよく描かれ、ユーモアもあり、気丈なソフィーと気のいいジミーの活躍で、読後感はいいですよ。

  •  <新ミステリーの女王>としては、何ともミステリーらしからぬ作品を書いたものだ。それもいい意味で。

     タイトルのとおり、本書は暴徒に遮断された地区とそこで起きた真実について描かれた作品である。舞台は、最下層の人々の住むバシンデール団地、通称アシッド・ロウ。道路は扇形の外周を回るが、隣地とは壁によって隔てられ、一旦中に入り込むと、外界との交点は非常に少なく、そこが暴徒に制圧されると警察さえも踏み込むことができなくなる厄介な地形である。

     暴動が主題となるのだが、暴動の原因は、小児性愛者の父子が他の団地で犯罪を犯し転入してきたという風評。そう、あくまで風評である。風評の原因となった機密事項の暴露者は福祉系の巡回保健師。件の父子の転出元の団地では、あろうことに少女失踪事件が判明しニュース報道でも大きく報じられていた。風評はさらに事実を超えて肥大していった。

     暴徒の構成は、残念ながら最下層に住む不良がかった少年たち。幼年たちを含む。そして扇動者は、ヤクでいかれたおよそ一名のサディスト青年。それでも暴徒と化した群衆の圧力は凄まじい。死者11名を出した明石の花火大会歩道橋事故を思い出すといいだろう。その圧力を逃すために家の中を通り抜けて外側に出てゆける人々の流れを作らねばならない。

     この種の物語は言わば群衆小説となるのだが、主人公らしき存在がいる。小児性愛者父子の家に知らず踏み入れ監禁されてしまった女性医師ソフィー。小児性愛者の情報をもたらされ、デモを行うことを呼びかけ、暴動のきっかけを作ってしまったことを悔やむゲイナとメラニーの母娘。メラニーの恋人でムショ帰り、更生を誓って八面六臂の活躍を見せるジミー。彼らが思い通りに動けず、暴徒に囲まれ、警察は役に立たず、コントロールを失った現場で動き戦う様子を活写しているのが、本書、なのである。

     それと同時に、別の場所、別の団地で、風評の原因となった少女失踪事件についてが、主たるテーマとほぼ同量の扱いで描かれる。複雑に絡み合った事件の真相を執念で追い続ける刑事タイラーの容赦ない捜査が心地よいが、隠蔽しようとする離婚した弁護士の父、そのクライアントで小児性愛者の疑いのある企業家、自立し切れずに混乱する母親と、失踪少女を取り巻く環境は、まるで情念と欲望の坩堝である。こうした環境のもたらす悪徳、といったところを両方の事件を通して、作者は描きたかったのかもしれない。

     例によって翻訳の遅い出版社なので、不幸にもこの作者の作品が日本にお目見えするのが相前後するばかりか、非常に年数がかかっている。当時の英国が抱えた真実なのか、今も解決されぬ普遍的な環境悪であるのか、そのあたりの判断がし難いあたり、海外ミステリに手を伸ばそうとせず、こうした重厚な物語の紹介時期を逸してきた出版各社の、まさにこのことこそが環境悪と言いたくなる部分であるのだが……。

  • 実際にイギリスでよくある、道が袋小路状になった作りの、50-60年代の低所得者用住宅街。それだけでも充分に緊張と閉塞感があるのに、そこに小児性愛犯罪者が移されてきたことが漏れて憶測を呼び暴動が……という状況に、更に近所の別の地区で10歳の少女が行方不明(男の車に乗っていたことがわかっている)という事件が重なって、そこに巻き込まれて右往左往する人々を描いたもの。
    イギリスの小説らしく緊迫感はあるのだけど、感情移入できる登場人物もなく(途中から登場するヒーローのジミーくらいか?)、ドラマチックでもなく、でもジミーとその彼女のおかげで最後に一筋の救いがあり、そこは上手にまとめてる。
    性犯罪者と間違われた老人が人々に惨殺され、その後濡れ衣が晴れると花束が続々と置かれた、というところ、 「しかし彼が、子どもを慰みものにする畜生と思われていた二十四時間のあいだには、一本の花もそこに置かれることはなかったのである。」(508ページ) が、とても重い。私自身の反応も、たぶん同じかも。

  • ミネット・ウォルターズは作品ごとにぜんぜん趣が違う。
    ミステリーが、犯罪が起きてそれを解くこと、だとするなら、本作はミステリーではない。

    イギリスの低所得者層が住む団地で起こった暴動の顛末。
    ぶっ壊れたヤツ、意外にそうじゃないヤツ、変態あり美談あり、イギリスらしいモロモロが登場する。

    ミステリーじゃないから謎は存在せず、人を描いていても浅く、
    だったらミステリーと普通文学を読むなぁ。
    ミネット・ウォルターズにはここのところずっと肩透かしをくらってる気がする。
    ただし2001年の作品。

  • 「氷の家」と同じ作者だったので。

    パニック小説とか、非常事態とかあまり興味がないので、
    最初は小児愛者をめぐっての貧困地区の騒ぎは、
    少女の行方不明の背景だと思っていた。

    だが、ジミーが登場してから、がぜん暴動の動きの方が気になっていく。
    刑務所から出たばかりで、
    自分が指紋を残して犯人と思われるからと、怪我した女性のために救急に電話し、
    彼女を助ける手伝いをすることに。
    女が殴られることには、たとえそれが警官だとしても我慢できないジミー。
    老女に助けられ、子供たちが逃げる手伝いをし、囚われた女医の救助へ向かう。
    巨体に暖かい心を持つジミーの行動が胸を打つ。

    男はみてくれじゃないのよ、何をしたかなのよと最後に老女に言われていたが、
    本当にその通りだと思う。
    人は何を語るかではなく、何を知っているかではなく、その行動で判断されるべきだ。
    この作品はミステリーではなく、英雄譚なのだ。

  • すっごく面白かった!
    さすが、英国ミステリーの女王の小説だわー。

    ストーリーも構成、スピード感、キャラクターの設定など上手く組み立てられてて、読むのを飽きさせない。
    翻訳も上手く訳されて読みやすかった。

    みんなそれぞれが、良けれとやったことが裏目にでて酷いことになったなぁーと。
    そんな中、やっぱり秀でていたのはジミー。
    かっこいーーー!
    ジミーとアイリーンの最後のシーンは、こういう話の中で唯一心の温かくなるシーンで、読んでよかったなぁと思わせくれた。

  • さすが女王の貫禄。

  • 身寄りのない老人、シングルマザー、貧しい黒人。そんな人々がひしめき合って暮らす行政から忘れられた団地バシンデール。
    そこに児童性愛者が転入してきた。
    若い妊婦メラニーは子供達を守るためデモを行うが…。

    市井の人々の善意、悪意が折り重なってこじれていく事態。
    同時に起こった少女失踪事件と合わせて、視点と主人公が複数になるのだけど読みにくくはなかった。流れが切れるってこともなかったし。
    きちんとキャラクタを描いているので、最後のカタルシスもまずまず。
    サスペンス系の小説だと思うんだけど、団地にそれほど閉ざされた感を感じなかったので、主人公の一人であるジミーの成長ものとして読んだ。
    他のキャラクタや事件の丁寧な描写でジミーがより厚くなったようで、この作品のテーマの一つであろう『人はその行いで判断される』って言葉が重く響く。
    作者のこういう書き方好きだ。

  •  世評は高いのだが、あらすじを読んだだけではなかなか手が伸びず、500ページもの大著に尻込みをしていた一冊。結局ボリュームなど気にならず一気に読み終えたのだが、すんなり愉しめたとは言い難い。治安のもともと悪い団地に密かに越してきた性犯罪者に対する抗議から自警的な暴動に発展するまでの様が丹念に描かれるのかと思いきや意外に淡白で、地域の中の対立し合うグループも出てこず、描かれるのは家に閉じ籠った老人たちと野次馬的に集まる青少年ばかりで、殺気立つ臨場感も乏しく、警察が手を出せないほど混乱ぶりが伝わってこない。

     主人公の医師を監禁する親子のどちらが小児性愛者なのかでドラマを盛り上げるのかと思いきや、孤独な患者同士を救う「仲良し電話」を発案したとは思えないほど短絡的で思慮に欠けるソフィーの行動で自ら墓穴を掘ってしまい、共感がたちどころに失せた。そもそもどちらがそうかは巻頭の人物紹介でしっかりネタバレされてるのを後で知って、なんだかなと思ったが。

     もう一つの地区で起きる女児失踪事件も、本筋とは最終的に繋がらず、真相も曖昧なままで、結局暴動への不安を掻き立てる材料にしか過ぎなかった。

     ただ一番読後感を悪くしているのは、ソフィーもそうだが、最後に精神科医のボブが患者ともいうべき犯罪者に浴びせかける理性的とは言い難い言動で、当事者であれば医師も冷静さを失うことを作者が示したかったのかどうか判然としない。

  • 著者の今までの作品より緊迫感とスピ-ド感があって、私の好み。遮断区域でどう生き延びるか、ここがサスペンス。悪い奴にはそれなりの最期があり、カタルシスも味わえる。

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