許されざる者 (創元推理文庫)

制作 : 久山 葉子 
  • 東京創元社
3.87
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本棚登録 : 96
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488192051

作品紹介・あらすじ

国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、命は助かったものの麻痺が残る。そんな彼に主治医が相談をもちかけた。牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。9歳の少女が暴行の上殺害された事件。だが、事件は時効になっていた。ラーシュは相棒だった元刑事らを手足に、事件を調べ直す。スウェーデンミステリの重鎮による、CWA賞インターナショナルダガー、ガラスの鍵賞等五冠に輝く究極の警察小説。

感想・レビュー・書評

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  • キャラたってる思ったら全員主役級やねんね。テーマも決着も最高やった。


  • どんでん返しもなし、視点人物の交代もなし、二つの時間軸の行ったり来たりもなし。おまけに、時効が成立しているので犯人を見つけても逮捕することができない。今どきこんな小説を書いて、読む人がどこかにいるのだろうか、と思うのだが大勢いるらしい。本邦初訳ながら、作者レイフ・GW・ぺーションはスウェーデン・ミステリ界の重鎮で、本作で探偵役を務めるヨハンソンとヤーネブリングのコンビはシリーズ化されているという。

    国家犯罪捜査局の元長官ラーシュ・マッティン・ヨハンソンは二〇一〇年七月五日、スウェーデンいちのホットドッグを食わせる<ギュンテシュ>の屋台に車を停め、ホットドッグを買い求める。車の運転席に座り、食べようとしたとき、後頭部が突然アイスピックで刺されたような痛みに襲われる。脳塞栓だった。発見が早かったので一命はとりとめたものの右半身に麻痺が残り「角の向こう側が見通せる」と噂された頭の切れが戻らない。

    主治医のウルリカから相談をもちかけられたのが、事件に関わることになったきっかけだ。牧師だったウルリカの父はある殺人事件の犯人を知っている女性の懺悔を受けたが守秘義務を守り、口を閉ざしたまま死んだ。一九八五年六月に起きたヤスミン・エルメガンという九歳の少女の強姦殺人事件で、初動捜査の遅れにより事件は迷宮入りとなる。事件解決を遅らせる要因となったのが、翌年二月のオロフ・パルメ事件だ。現職の首相が殺され、警察は多くの人員をそちらに割いた。難民のイラン人少女の殺害はその影響をもろに受けたのだ

    ヨハンソンは、体の自由が戻らぬままに捜査を開始する。アームチェア・ディテクティブならぬ、ベッド・ディテクティヴだ。その手となり足となるのが元同僚で今は定年退職をした元捜査官のボー・ヤーネブリングであり、義弟のアルフ・フルト。それにコンピュータに詳しい介護士のマティルダと兄が送り込んだ頑強なマックスというロシア生まれの青年だ。警察小説でありながら捜査本部は病室と自宅だが、ヨハンソンを慕う部下は多く、協力を惜しまない。

    事件の捜査の進捗とヨハンソンの回復と停滞が日付けとともに日誌のように記されてゆく。淡々とした捜査日誌ではなく、体が思うように動かせない病人の苛立ち、子ども扱いされる不満、大好きなホットドッグや酒を止められ、ヨーグルトやミューズリーといった健康食品を食べさせられる不満が、随所に書き留められる。ほぼヨハンソンの視点で語られているため、会話の後に内言が多用され、言わずに置いたこともすべて語られるので、読者はいやでも主人公と感情を共有することになる。

    よくある刑事とちがって、ヨハンソンは資産家だ。長兄とすすめている事業も順調で、歳の離れた若い妻との仲もいい。子どもの頃から狩りをしてきて銃の扱いには長けている。食いしん坊で、不摂生とストレスが心臓に負担をかけており、健康的な生活を心がけねば危険だと医者に言われていても、リハビリ中にもかかわらず、ヤーネブリングやマックスの手を借りて、レストランで好きなものを食べ、酒を飲む。ほぼ同じ年頃なので、気持ちはわかるが妻にしてみれば困った亭主である。

    北欧ミステリといえば、本作もそうだが、幼児性愛や、虐待といった陰惨な事件を扱うことが多い。その反面、それを追う警察仲間の人間関係はけっこう親密で、ユーモアに溢れているのが、ある種の救いになっている。本作もまさしくそれでヨハンソンを囲む人々の元長官に寄せる愛情がひしひしと伝わってくる。もっとも、本人はなかなか回復しない病状の方に気が行って、それをありがたく思うところにまで気が回らない。

    純然たるミステリとはいえない。取り寄せた資料を読み解くうちに、ヨハンソンは犯人像をしぼりこむ。特に重要なことは、ヤスミンの両親が知らない人に注意することを徹底していたという点だ。顔見知りの犯行ということになる。しかも、犯行の手口から見て、ふだんはまともな暮らしをしていることがうかがえる「配慮のあるペドフィリア」。撒き散らした精液の量から見て歳は若い。

    これだけプロファイルされていたら、巻頭に掲げた登場人物の紹介をあたれば、まだ登場していなくても犯人は分かる。問題は時効が成立済みの犯人にどう対処するか、という点になる。髪の毛一本すら現場に残さない犯人から、どうやってDNAのサンプルを採取するのか。あるいは、万が一それが一致したとして、逮捕できない犯人をどう処罰するのか。正直言って、この解決法は納得のいくものではない。ひねりのないのも善し悪しだ。

    二〇一〇年、スウェーデンは殺人罪などの重大犯罪は時効を廃止した。しかし、施行日以前までに起きた犯罪は時効が成立してしまう。その矛盾をどうするのか、という大きな問題を突きつけている。ヨハンソンという人物の魅力と、その周りに集まってくる友人、知人の活躍で持っている作品である。スウェーデン料理についても逐一紹介されていて、料理好きにはちょっとたまらない。これを機に未訳のシリーズ作品が、訳出されると思われる。本作には他のシリーズ物からカメオ出演している人物も多いらしい。何かと愉しみな北欧ミステリの雄の登場である。

  • 元犯罪捜査局の長官だったラーシュが主人公。彼が冒頭で脳梗塞で倒れる。一命は取りとめたが、右半身麻痺が残り体調も不安定な彼に、主治医は25年前に起きた少女の強姦殺人事件を再捜査してほしいと頼む。
    特徴の一つはラーシュのキャラだ。頑固者の彼は、周囲にいくら言われようと不健康な食事も運動不足も改めようとしない。体調の悪さから医者や付き添いの者に毒づいたり、資料を読んでいてもすぐに寝てしまう。その辺りがとてもリアルで格好いい刑事とはかけ離れているところが良い。そしてもう一つの特徴は、この事件が既に時効を迎えてしまっているという事。犯人を見つけても法律で罰することはできない。犯人の名を公表すれば、被害者の親族からの私刑に合うだろう。ラーシュはどうするのか。その答えは私には新鮮だった。この作品のラストもとても現実的だと思う。シリーズの他の作品も邦訳されるといいな。

  • 面白かった。幕切れも潔いです。リスベットみたいに、とかカッレくんとか、ミレニアムネタが放り込まれるところなど、北欧ミステリーの懐の深さを感じました。しかし、北欧ものにはこういう犯罪ストーリーが多いですね。陰鬱になります。目には目を、で終わらないところも印象に残りました。この作者の初の邦訳とのことですが、また読みたいです。

  • 国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、命は助かったものの麻痺が残る。そんな彼に主治医が相談をもちかけた。牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。9歳の少女が暴行の上殺害された事件。だが、事件は時効になっていた。ラーシュは相棒だった元刑事らを手足に、事件を調べ直す。スウェーデンミステリの重鎮による、CWA賞インターナショナルダガー、ガラスの鍵賞等五冠に輝く究極の警察小説。

    これは収穫。ユーモラスな筆致が、事件の悲惨さや理不尽さを和らげている。他の作品もぜひ。

  • 定年退職した老刑事が、時効を迎えた殺人事件の謎を解く。犯人は分かっても、その先がスリリング。なかなかの収穫だった。

  • 時効が成立した事件。元国家犯罪捜査局長官ラーシュは、犯人を見つけ出すことができるのか?そして犯人は裁かれるのか?
    物語の始まりから、ラーシュは危機的状況である。
    「状況を受け入れろ」彼は戸惑いながらも、順応し仲間達と捜査を開始する。

    北欧ミステリらしい作品ではあるのだが、ウィッドに富んだ会話、ユーモアセンス、読み心地が抜群にいい。
    お気に入りの介護士マチルダ(家庭的な刺青っ子)も含めた彼ら彼女らの正義。それに向かうまっすぐな希望と断罪の戦い。

    幼女殺害、時効成立、初動捜査の失敗。スウェーデンの社会問題に言及し、現実感のある事件。
    安楽椅子探偵、名探偵の挫折と復活。

    着実に証拠を集める。読者は終盤における決断に期待するだろう。
    私としては、展開の落とし所が予想通りだったので、そこまで過度な期待はしてはいけない。

    なんと母国では、派生したシリーズがたくさんあるらしい。翻訳が望まれる。

  • ML 2018.3.23-2018.3.27

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