シャボン玉ピストル大騒動 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488194055

作品紹介・あらすじ

発明家を夢見る家出少年が乗った夜行バスにはヴェトナム帰還兵から機密を携えた米国軍人、犯罪者まで乗り合わせていた。夢溢れるロードノベルの名品。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わってまず思ったのは、なるほどそうきたかということだった。

    主人公であるジュリアンと彼以外の登場人物の関わりはコミカルに描かれたかと思ったらシリアスな場面もあり、ページがどんどん進んでいった。特にシャボン玉ピストルが陸軍大佐の持っていた機密書類と勘違いされるくだりは笑ってしまった。ストーリーそのものはロードムービーの文脈で語られることからも分かるように、大枠としては旅を通じた少年の成長譚である。10歳にもなっていない少年にとって一人旅をすることはそれだけであまりにも大きい意味を持っているが、そうきたかと思ったのはその旅からどう成長させるかというところだった。

    ジュリアンはひょんなことからベトナム戦争帰還兵の青年・マーシャルと親しくなる。何かと助けてくれる面倒見の良いマーシャルのことをジュリアンは年の離れた兄のように思い始める。ところが、特許料に目のくらんだマーシャルはジュリアンの発明を盗んでしまう。まずこの展開の時点でびっくりしたが、ジュリアンは彼をなじったり見下したりしないのにもっと驚いた。信頼していた人に裏切られた彼の幻想は打ち砕かれ、無垢な子供時代は突然終わってしまう。終盤のこの言葉にすることもできない気持ちの描写と、ラストシーンに作者の人生観が見られるような気がした。完全なハッピーエンドではないが、ジュリアンの旅の終わりはこれでよかったと思える良い終わり方だったと思う。

  • 長距離バスの中で繰り広げられる群像劇、旅をする少年と青年の友情、大人から子どもに向けられる優しさ。
    9歳の少年であるジュリアンが自分で発明したシャボン玉ピストルの許可を取るために家出して深夜バスに乗り込むことから物語は始まり、一人の子どもと大人たちの児童文学のように微笑ましいロードノベルが進んでいくのですが、終盤ではこの作品が温かいだけの話ではないということに気付かされます。
    そんなラストも含めて、この作品の人情や、自分もその場に居合わせているかのような臨場感が好きです。

    ここからはネタバレになります。







    読み終えた直後は、どうしてジュリアンがマーシャルを許す気になったのかが分かりませんでした。
    しかし、後から考えてみると、ジュリアンがマーシャルのことをテレビで見るようなヒーローではなく、良い面も悪い面もあるただの一人の人間であると認識したのもあの出来事だったのではないかと思うのです。最後のマーシャルの弁解によって、ジュリアンは信頼していた人間が悪人だったという訳ではなく、自分の生活のために人を裏切る悪い面も、兄弟のように接してくれた青年の一部分であるということに気づいたのではないでしょうか。だからこそ、ジュリアンは発明を横取りされた悔しさよりも兄弟として旅をした思い出を惜しんでいたのだと思います。
    最終的にマーシャルの目論見は失敗に終わりますが、その手紙の文面は落胆と言うよりは逆に安堵感が見て取れます。
    ハッピーエンドへの兆しを見せたラストだと思いました。

  • 発明家を目指す9歳の少年ジュリアンは、父親を見返してやろうと自分の発明したシャボン玉ピストルの特許を申請するため、ワシントン行きの長距離バスに乗る。そのバスはバスジャックにあってしまうが、ジュリアンの機転で全員が解放され、犯人も逮捕される。そしてジュリアンは、そのバスで出会ったベトナム帰還兵とともにワシントンを目指す。
    ジュリアンは、特許を申請できるのか?

    バスで出会った様々な人々、それぞれの人々との関わりで、ジュリアンは自分の目的をめざす。
    このラストをハッピーエンドととらえるか否か。いい終わり方だと感じた。

  • 少年の旅は、(父)親を見返すための無邪気な反抗と
    幼さゆえの不完全な万能感からの冒険だったはずが、
    親の保護からの、子供時代からの早すぎる卒業の旅。
    ちょっとだけバーニィとアルの関係
    (機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)
    を思い出した。
    これまで読んだギャリコの少ない作品からすると
    甘く切ない愛・感情の部分は抑え目で、
    なにか小説というより、ドラマ(ソ連スパイや
    若い恋人のあたりコメディ)と感じられたが
    映画向けと聞いて納得。
    アクションシーンも入れてるし、タクシー運転手との
    ほのぼの交流も入れているし、
    少年に大人の現実を突きつける厳しさもあるし
    少年・若者・父親向けエンターテインメント
    と思うけど、なんで映画化されないかね。

  • なんかやっぱり子供向けというか、すれてないところがある。それが良くもあり悪くもある本。

    悪く出ちゃったなぁっていうのは、緊張感の演出ができないところ。喜劇だからといえばその通りなんだけど、けっこう凝った演出してるのに茶番に思えてしまうのはなんとも。

    あと彼が裏切るのもなあ…なんで?なんでなん?
    子供のアイデアに振り回されすぎじゃない?

    なんて風にさすがに「凝りすぎ」、演出過剰に思えてしまうね。
    だけど友情がテーマに思えて、実は父親との和睦をラストにもってくるのはさすがににくい。ポール・ギャリコはやっぱりあったかい。

  •  映画化されていないのが不思議なほど映像が頭に浮かんでくる物語だ、特に主人公ジュリアンの無垢で子供らしい不安やドキドキした気持ちが可愛らしく、派手に盛り上がる展開と相まって楽しい。 
     中でも夜行バスの中で出会い、ジュリアンの心を大きく変える青年フランク・マーシャルの造詣がとてもいい。米ソのスパイやら犯罪者やらストーリーを動かし盛り上げる登場人物としてではなく、挫折や子供に対する優しさ、卑怯さなどを持つ等身大の青年として書かれ、それがラストのジュリアンの成長を自然で納得させるものにしていると思う。

  • 発明家への夢の第一歩となる希望を左右のポケットに詰めて、ワシントン行きの長距離バスに乗り込むジュリアン。ほんのちょっとした偶然、そしてタイミングで乗客たちの歩む人生の道のりが変化する。マーシャルの視点で、いっしょにジュリアンを見守って行くと別れの場面はものすごく苦しくてつらい。
    なんでこの作品は映画化されなかったのか不思議だ。

    スパイ道具の小型カメラが日本製だったのはちょっとうれしいかも。

    ギャリコの作品ははじめて読んだが、ドロシー・ギルマン好きの人にはおすすめ。

  • 大好きなポール・ギャリコ。
    翻訳されている作品はほぼ読んでしまった中での文庫化。
    これほどうれしいことはない。
    旅を通して少年は何を思うのか。やさしいまなざしがキラキラ。その成長がまぶしい。

  • おもちゃ実際に売っているのか

  • ・ポール・ギャリコ「シャボン玉ピストル大騒動」(創元推理文庫)の 解説はかう始まる。「ようこそ、古き良きアメリカへ。ようこそ、懐かしきポール・ギャリコの世界へ。」(三橋暁「解説」311頁)さう、正にこの通り。こ の物語ではこの通りの世界が展開する。それは「ジェニー」や「トマシーナ」や「雪の一ひら」といつたギャリコの世界にそのまま通じる。こんなのがここにもあると思ふ。ただしこれはロードムービーならぬロードノベルである。カリフォルニアからワシントンに向かふ路線バスの途上を主たる舞台とした物語である。 ジュリアン・ウェスト、9才、己が発明のシャボン玉ピストルの特許を取るべく、両親に無断で家を出てバスに乗る。同乗の乗客は実に様々で……当然、そこで 様々な事件が起きる。
    ・ここでまづ感じるのは時代である。時代の風景、時代の雰囲気、そんなものである。これが70年代初期の米国を実によく表してゐると思はれる。ジュリアン の保護者、つまり兄だと偽つて助けてくれるフランクはベトナム帰還兵である。ケガはしてないやうだが、仕事はまだない。その仕事探しにワシントンに行かうといふ青年である。専門的な立場からシャボン玉ピストルを見てくれたシソン大佐はCIA勤務で、それゆゑにスパイ捕獲大作戦の最中であるらしい。相手はも ちろんソ連のKGBである。形としてはKGBがCIAの機密情報を狙ふといふことであるが、実際にはその逆、ソ連スパイは米国に泳がされてゐるだけである。これ以外にもいろいろな登場人物がゐるわけで、従つてジュリアンの乗るバスは簡単にワシントンに着けるわけがない。のみならず、ジュリアンは要するに 家出少年であるから、警察は両親からの捜索願に対応しなければならない。そんなわけで、物語はいかにもはちやめちやな喜劇的様相を呈していく。実際、所謂 ロードムービーとは質が違ふ。二超大国のスパイ合戦もバスジャックもギャリコにかかるとかうなつてしまふのだと思ふ。ギャリコの面目躍如である。さうであ つても、この物語のポイントはやはりジュリアンにある。この少年が主人公だからと言へばそれまでだが、これはシャボン玉ピストルを通したジュリアンの成長 の物語なのである。家出して長距離バスに乗つた9歳の少年が周りの大人達に助けられてワシントンを目指す。そんな大人達は、CIAの大佐もフランクもワシントンのタクシードライバーも、ごく簡単に言つてしまへば、優しさを持つてゐた。人が皆持つてゐるはずのものである。そんな厚意を素直に受けつつ、ジュリ アンは旅で成長する。よくある物語ではないかと言はれれば、たぶんその通りであらう。ただ、それが先に書いた70年代初めの東西冷戦を戦ふ一方で、ベトナムで疲弊してゐた米国が舞台であるといふ点が、「ようこそ、古き良きアメリカへ。」といふ一文につながる。米国は疲れてはゐたものの、まだまだ若かつた し、夢を持つて生きることができた。そんな時代であつた。シャボン玉ピストルはたぶんその象徴としてある。だからこそジュリアンとともにその運命を弄ばれ る。ジュリアンはさうして大人に近づいていく。「ジュリアンが変わり、大人になってしまったことに疑いの余地はなかった。」(301頁)父はそんな息子を とまどひつつながめる。さうしてそのわだかまりを解消してくれたのもフランクであつた。そんな古き良きアメリカの古き良き人々の物語は正にギャリコの世界にある。ギャリコが亡くなつたのは本作上梓三年後(311頁)、70年代後半であつた。こんな物語を描きつつ、ギャリコは古き良きアメリカが失はれつつあ るのをながめてゐたのかと思ふ。

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著者プロフィール

1897年、ニューヨーク生まれ。コロンビア大学卒。デイリー・ニューズ社でスポーツ編集者、コラムニスト、編集長補佐として活躍。退社後、英デボンシャーのサルコムの丘で家を買い、グレートデーン犬と23匹の猫と暮らす。1941年に第二次世界大戦を題材とした『スノーグース』が世界的なベストセラーとなる。1944年にアメリカ軍の従軍記者に。その後モナコで暮らし、海釣りを愛した。生涯40冊以上の本を書いたが、そのうち4冊がミセス・ハリスの物語だった。1976年没。

「2023年 『ミセス・ハリス、ニューヨークへ行く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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