殺人者の顔 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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本棚登録 : 515
感想 : 86
  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488209025

感想・レビュー・書評

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  •  ヘニング・マンケルの本を生前一冊も読んでいなかったくせに、昨年読んだ、ノン・ミステリー、ノンシリーズの単独作品『イタリアン・シューズ』の書きっぷりが一発で気に入ってしまって、ついにはまり込んでいる最近である。

     訳者の柳沢由美子さんは、アイスランドのやはり小説名手であるアーナルデュル・インドリダソンの作品のほうで、その名訳に唸らされていたので、マンケル作品でも信頼が置けて、ぼくには心地のよい日本語文章としてすんなり入ってゆけるのだ。北欧ミステリーで目立つ自然描写や季節変化については、やはりこの人の訳が一番空気感を味わえると思う。

     さて、刑事ヴァランダー・シリーズは海外ドラマとしてもプライムやWOWOWなどで楽しむことができるので、ぼくはそちらを先に体感してしまった口なのだが、先にシリーズの最終作を先日読んだばかりということで、時間をかけても一作目から順番に読んでゆき、その後にまたドラマを見ることで二重三重の娯しみを期待している。

     本作は、シリーズのスタート作として相応しい、非情なまでのバイオレンスと、当時スウェーデンの抱える移民問題と外国人排斥の不穏な動きなどの社会的環境とを見事にクローズアップさせる捜査シチュエーションの中で、例によって主任捜査官としての刑事というだけでなく、ヴァランダーが個人として抱える家族や恋愛の物語をも軸にしつつ、語られてゆく。

     万能ではなくむしろ弱さだらけのように見える人間主人公の個としての人生物語と、複数の事件捜査が併行して語られる。込み入って取り散らかされたような、彼の時間をきめ細かに追いつつ、事件にもスピード感を持たせるという語り口が、本シリーズの際立った特徴なのだろう。ヴァランダーの持つ長所も欠点も、どちらも物語に付随する問題として読者は付き合っていかざるを得ないのである。

     複雑に関係する二件の事件。その裏側を読み解く愉しみに加えて、ヴァランダーは娘リンダの不安定と、高齢によるアルツハイマーが疑われ始めた父親の環境変化、己の孤独とその対策、等々、読者の側とも共有できそうな多様な問題に解決を与えてゆかねばならない。だからこそ刑事ヴァランダーは人間ヴァランダーなのである。

     ページを繰り始めると次々に彼を襲う多忙な出来事に悲鳴をあげたくなるくらい、彼も読者も多忙になる。最終ページを閉じてほっとするこの瞬間の満足度は、いったい何だろう、ヴァランダーと一緒に、すべてを解決してゆこうとする疲労、その対価であるカタルシスが、どうやらこのシリーズには仕込まれているらしい。

     まだ一作目。本シリーズを楽しむ時間はこれからまだまだたっぷりある。

  •  小説それ自体の魅力もさることながら、翻訳の質が非常に高くて、大好きなシリーズです。中年刑事ヴァランダー警部のよれよれとした情けなさも魅力的。1作目を久しぶりに読み返してみると、まだ登場人物たちのキャラクターが定まってなくて荒削りなところもあるなあと思ったけど、そこがまた魅力に思えてしまうあたりヘニング・マンケルの中毒かもしれん……。っていうかヴァランダーがこんなにアクティブだったなんて……すぐコケて血出してるけど。
     捜査の進行状況を丹念に追う筋もさることながら、中年期にさしかかり、色々なものが手からこぼれていく人生の秋をけなげに生きるヴァランダー警部が好きです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「よれよれとした情けなさも」
      ヘニング・マンケルは知人に薦められて読んだます、人間が描けているし、ちゃんとレディ(って言って良いですよね)の...
      「よれよれとした情けなさも」
      ヘニング・マンケルは知人に薦められて読んだます、人間が描けているし、ちゃんとレディ(って言って良いですよね)のハートを射止めるところも好きです!
      2012/04/03
    • 尾崎さん
      ヴァランダーはやる時はやる人ですよね(^^)
      たしかにスウェーデン・ミステリの中でもマンケルの人間の描写力は傑出してますよねえ。あと、無理に...
      ヴァランダーはやる時はやる人ですよね(^^)
      たしかにスウェーデン・ミステリの中でもマンケルの人間の描写力は傑出してますよねえ。あと、無理に大団円にもっていかないところも好感度大かもしれません。
      2012/04/04
  • 妻との不和、子供の独立、なりかけのアルコール中毒、これぐらいまでは、
    ハードボイルドや刑事ものにはありがちの主人公なので良いとしよう。
    しかし、これに、父親の老化、部下の病死まで、盛り込むのはちょっとやり過ぎでは。

    捜査が地味で、解決まで時間がかかるのも、リアリティなのかどうか、よくわからない。

    まあ、マルティン・ベック・シリーズと良い勝負の盛り上がりの無さ。

  • 一冊も読んだことが無いのに本屋さんでずらっと並んでいる背表紙を何度も見ていたせいか作家のフルネームと『白い雌ライオン』というタイトルが記憶に残っていたシリーズ、知人の読書家に「すごーく面白い」と聞いたのと、最近北欧の作品を固めて読んでいることもあり遂に読み始めました。日本語版発売から20年経過していますが、自分が主人公ヴァランダーの境遇や感情を理解しやすい年齢になっているので今のタイミングで読んで正解でした。移民の問題や制度が目指したものと実際の運営状態の解離、都市部と農村部の違いなどが、衝撃的な事件とその捜査の合間に丁寧に語られます。中年刑事の常?としてヴァランダーは妻に捨てられて惨めで荒んで、食生活は乱れ不健康に太っているものの、刑事としての矜持と勘をもって諦めずに捜査にあたります。記者会見用の原稿を書いたり捜査のシフトを組んだり引継ぎ報告書を書いたりという他の作品ではあまり見られない刑事の地味な仕事ぶりも出て来たのが新鮮でした。内容が濃い割には短く、スッと読めました。完結しているシリーズなので一気読みが出来るのが嬉しいです。

  • 人間味のある主人公です

  • 北欧のミステリー、クルト・ヴァランダーシリーズの第1作目。紹介されたので今後このシリーズは読むつもりです。

    さて、事件そのものは割とすんなりちょっとあれ?っと思ってしまうほど。
    クルト・ヴァランダーの情けない日常と対比するほどに鋭く冴えた刑事魂、そこら辺がこのシリーズの着眼点かな?それともこれからだんだん魅力を増してくるのかな。

  • 妻に出て行かれ、娘とは連絡が付かず、一人暮らしの父には老いの陰がみえ、自分は一人になってすっかり太ってしまった中年刑事と残忍な農家の老夫婦殺人事件。事件の方は奇天烈ではないオーソドックスな感じ。事件を追いながら、食事をし、家に帰り、自分の不運に涙ぐむ…という刑事の毎日のシーンのほうが面白かったです。

  •  スウェーデンのミステリー作家ヘニング・マンケルの''ヴァランダー刑事''シリーズの初刊です。現在邦訳作品は、創元推理文庫から12作発表されてます。
     ヴァランダーは、スウェーデン南部(胡蝶蘭の様に垂れ下がった島がスウェーデンとしてその先っぽ)のスコーネ地方のイースタという小さな街の警察署の刑事です。

     事件は、イースタの西にある田舎町の農夫が隣家の友人農家宅で人が死んでいると通報が有った。隣人の農夫は惨殺されその妻はロープで首を絞められていた。犯人は強盗目的と思われるが、老夫婦には狙われる様なお金は持っていなかった。

     容姿は中年のそのままで趣味はクラッシックオペラ、妻からは離婚を宣言され別居中で未練タラタラ、父親は痴呆症、娘も寄り付かない悲惨なプライベートだが、捜査に手抜きは無く不眠不休で犯人を探す執念は凄いヴァランダー刑事。

     惨殺された農夫は戦後、闇の商売や違法な商売で相当の金を蓄えた上に絞殺された妻以外に子供を産ませた女が居る事が判明した。金目当ての犯行か、

     この事件は1990年に起こった設定です。既に難民(ポーランド等の東欧)流入が社会問題化しており、田舎町イースタでも例外でなく大きな問題だった。この物語はスェーデンの難民問題を背景に様々な事件が発生し難民もスェーデン人も加害者であり被害者なのだ。

     スェーデンは日本の1.2倍位の国土に1,000万人が暮らしてます。分母が小さいのに積極的に移民受け入れをし首都ストックホルムでは人口の2割が移民で人種の坩堝と化してます。
     本作では、難民、移民を排斥するとか受け入れるとかの政治的な話題は一切有りません。

     派手さは無く淡々と物語は進行しますが、駄目な中年ヴァランダーから目が離せない面白さが有ります。

  • 名推理があるわけでもなく、見込み違いや捜査の停滞もあり、ザ警察小説という感じ。特捜部Qシリーズが巻を追うごとに長く、筋の事件と関係ない事件やエピソードが増えて食傷気味になってきたので、今度はこちらに期待しよう。

  • あーいやだ、いやだ……。

    いやになるほどの孤独な中年男性の生活。
    出て行った妻へたたみかけるように詰問する姿、前頭葉の老化による感情コントロールの低下に刑事という職業の癖が加わり相手を不快にする……そりゃ逃げるわ〜。
    そのくせ、「褐色の女性」との妄想や、女性検察官へのちょっかい……。
    妻や娘のことも、父親のことも、逃げるようにしてお酒に埋没したり、お腹ができたことを気にしながら、サラダをいやいや食べる姿など、ゾッとする。
    数十年会ってない友人に突然しつこく電話したり、慌てて隠れた時にぶつかった怪我も「殴られた」とうそぶく……。
    いったいこの人のどこが良いのか?

    ところが、読み進めていくうちに不思議なリズムが出てきて、次第にこの主人公と「共に居る」ような感覚に陥ちてゆく。

    その結果、「シリアスなドタバタ感」という奇妙な面白さが生まれ、なんだか愛おしくなってくる。

    私は、結構好きだと思う。

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