白い雌ライオン (創元推理文庫) (創元推理文庫 M マ 13-3)
- 東京創元社 (2004年9月29日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (716ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488209049
感想・レビュー・書評
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「大切なことは最初に言おう、でないと忘れてしまうから」と言ったのは十五世紀のパン屋さんヒマーワリ・メーロンですが、彼の言葉に習って言います
刑事クルト・ヴァランダーシリーズ第三の物語は文庫本で700ページの大長編でしたよ!
うん、この情報は私の感想よりよっぽど重要w
とにかくもうヴァランダーが大好きだ!
あえて言おう、彼こそ男の中の男であると
前にも書いたかもしれないが、本当に男のいいところ(と男たちが思っているところ)と男の恥ずかしい部分が凝縮されたキャラクターと言っていいのではなかろうか
意固地でまっすぐでロマンチストで臆病で怒りっぽくて自分勝手だ
彼は直感によって仕事を進めるタイプの刑事だが、それは天才的なひらめきと言った種類のものではなく、経験や修練から生まれた鋭い観察がもたらす勘どころみたいなんを信じて行動しているにすぎないような気がする
それを他人が見ると直感と感じる
ようするに熟練した職人と言うべきで、こんなところにも自分は男を感じでしまうのだ(女性の職人さんごめんなさい)
そしてなによりヴァランダーはけっこう失敗する
いや、失態と言ったほうが正確だ
部下に助けられたり、家族に迷惑かけたりする
極めつけは酔っぱらって想いを寄せる女性に迷惑な電話をかけてしまい、恥ずかしい思いをしてしまう
情けない場面を曝しまくる男が葛藤を抱えながらも闘う姿勢がかっこいいのだ!
でもやっぱり女性には読んで欲しくない
男の情けない姿はなるべく知られたくないのです
だが女たちは言うだろう
男が情けないのはアダムとイヴの時代から知っていると
やっぱり女はなんでもお見通しだ -
長い、とにかく長い700ページ。
だからと言ってつまらないというわけではなく、二冊同時に読み切った感じ。
南アフリカ共和国がまさに変わろうとしているとき、北欧スウェーデンで不思議な殺人事件が起こった。
読み手は前作同様に、ヴァランダーの執拗な行動の行方と次々に巻き起こる新たな展開、その先にあることへの興味でひっぱりこまれていく。
いっぽうで、
ネルソン・マンデラとデ・クラーク大統領による平和的な変革への道筋が、まさに進められているとき、これまでの社会を維持するために暴力による動乱の陰謀が企てられ、陰謀の気配を知ったものとの探り合いが始まる。
……作者はその様子を、これだけで一つ小説が成立するほど深く描写している。
(だから、これほどのボリュームになったとも思える)
このシリーズに登場する人物は、みな、なにかを抱えながら生きている。
主人公ヴァランダーや同僚、家族は前作同様だが、この物語では、相対する人物にもそれが見られる。
元ソ連KGBのコノヴァレンコ
南アフリカの白人政治結社メンバーで陰謀の実務推進者ヤン・クライン
南アフリカの黒人でありながら白人からの暗殺請負を生業としているマバジャ
スウェーデンに住むロシア人でコノヴァレンコの協力者リコフとタニア
ヤン・クラインの家政婦ミランダとその子供
などなど……。
彼らがここにいたるまでの道のりも、読者へ訴えるものがうっすらと透けて見える。
20世紀のアフリカ大陸の矛盾……。
白い雌ライオンが見つめる先は、なにか。 -
レビューを書いてないままになっているのにひと月以上経って気づいたものの、もう概要を忘れてしまってきちんとした文章を書けなくなってしまいました。無念。かなりのページ数でしたが内容にひっぱられてぐいぐいと読み進められました。題名が印象的ですがこれも読み終わって納得。事件はただ間違った時間に間違った場所に居合わせてしまっただけの一般市民の女性が殺害され遺体が遺棄されたため行方不明になり、残された夫が地元警察署に届け出てヴァランダー刑事が捜査にあたるが手がかりがほとんど無く難航する捜査という軸と、南アフリカ共和国(執筆された当時はまだアパルトヘイト政策が撤廃される前)で白人優位を死守しようという勢力が、要人の暗殺を計画しその要人の生命そのものと政治の流れを抹殺するだけでなく、行われる暗殺の実行犯を単なる駒ではなく人種政策において重要な意味を持つ人物にすることで大きな流れを断ち切ろうと画策するという二つの軸が並行して交互に描かれていき、それらがどう交差してひとつの事件になったかというのを解き明かしていく、圧巻の作品でした。南アフリカ共和国の政情についてなど、巻末に丁寧な解説があり、全て読み応えがありました。ペースはぼちぼちですが全作通して読みたいシリーズです。
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スウェーデンのミステリ。
警部クルト・ヴァランダーが主人公のシリーズ3作目。
ここから分厚くなってます。
イースタはスウェーデン南端の田舎町だが、交通の要衝にあるため、国際的な事件も起きうる。
思いも寄らぬ南アフリカの陰謀に巻き込まれる。
南アフリカでの人種問題をさかのぼるプロローグから、重厚に書き込まれています。
国際的なベストセラーになった理由がわかる気がしました。
ヴァランダー個人は妻に出て行かれたのはもう諦めたが、次の一歩は踏み出せず、落ち着かない精神状態。
ストックホルムに住む娘のリンダが心配でいつも会いたがっているのだが、なかなか上手くいかない。
捜査のためにストックホルムに出向くと、リンダがすっかり大人の女性になっていることに気づかされる。
画家の父親はすこし呆けかけているような兆候もあるのだが、家政婦と結婚すると言い出して、ヴァランダーを焦らせる。
ごく普通の主婦が3日、行方不明に。
おそらくもう死んでいるだろうと感じながらも口には出せず、捜査に取り組む署員。
捜査していくと主婦にも意外な側面があったりはするのだが。
ヴァランダーは事件にのめり込むことで突破口を見つけるタイプ。
容疑者の一人と深く関わることになる。
南アフリカ共和国での出来事も緊迫していて、迫力。
ひどい人種差別が長く続いた後、変化が訪れようとしているが、それに対する抵抗も大きい。
権力を握るボーア人(オランダ系入植者)の生活ぶりがリアルなので、ネルソン・マンデラ暗殺を狙う動きも説得力があります。
1993年発表当時、マンデラが27年間の投獄から釈放されたという時期から隔たっていないリアルタイムだったことも、力のこもっている原因かも。
ソ連の崩壊も、世界を動かしていたのですね。
南アフリカからは遙かに遠いスウェーデンがなぜ関わるか、ということにも理由はちゃんとあるのです。
暗殺のために雇われた殺し屋マバシャは、アフリカのズールー族の出。
異国をさまよう男の心象風景に深みがあります。
ヴァランダーの家族まで巻き込んだ対決と銃撃戦へ。
作者は何年もアフリカに住んで仕事をしていた経験があり、帰国後にスウェーデンの人種差別が悪化していると感じたとか。
それも実感を伴った描写に繋がっていると思います。
2004年9月翻訳発行。 -
社会情勢を軸に描くシリーズだが、本作品はその特徴が色濃くなっている。スウェーデンが舞台なのだが、南アフリカの人種差別が物語の根底にあるので、序盤は相当な違和感があった。視点もスウェーデン側と南アフリカ側に分かれており、両者はなかなか交わろうとしない。しかしストーリーの拡がりと比例するように南アフリカの人種問題がじわじわと効いてきて、国際謀略という派手なテーマに取って代わろうとする確かな感覚があった。
今回のヴァランダーは気の毒としか言いようがない。事件への巻き込まれ方が半端ではないので、それが逆に不自然にも見えたが、彼の思考が徐々に病んでいくさまは説得力があったと思う。インパクトの強いキャラが何人かいるためヴァランダーの存在感はやや劣るかもしれないが、シリーズを通して確実に成長しているのがよくわかる。 -
展開がヤバく文体が渋い
二度と人に会うことはないと知っているのは幸運だ、なにかが残っているはずだから。 -
スウェーデンの作家、ヘニング・マンケルの''ヴァランダー警部''シリーズ第3作です。
スウェーデン本国では、1993年に刊行されてます。
ヴァランダーは、44歳の冴えない中年男性刑事。
本作は、文庫で700ページも有る長編ですので楽しみです。
事件は、1992年4月に夫婦で経営する不動産屋の妻ルイースが失踪しヴァランダーは事件と考え捜索を開始するが、ルイースの立ち寄った場所の近くの家で爆発火災が発生し焼跡から黒人の指が発見される。
更にルイースの自宅からは、手錠が見つかる…円満そうな夫妻に何らかの秘密が隠されている予感がします…
本作冒頭で登場する、1918年から脈々と続く南アフリカの白人主義者の組織がルイース殺しに絡み、次第に大それた犯罪の陰謀が見え隠れする中、ヴァランダーも巻き込まれて行く。
南アフリカで混乱を引き起こす為に、暗殺が計画され暗殺者マバシャがスウェーデンでロシア人コノヴァレンコから訓練を受けていた。その暗殺者マバシャがルイース殺しの際に訓練アジトから逃げ出しヴァランダーに匿われる事になるが、警官のヴァランダーが暗殺者を匿い更には、コノヴァレンコの仲間を射殺、コノヴァレンコに娘リンダが誘拐される。
と、ストーリー後半はアクションミステリーばりの展開が激しく興奮して来ます。
700ページを更に超えていくんですか??ヮ(゚д゚)ォ!
700ページを更に超えていくんですか??ヮ(゚д゚)ォ!