目くらましの道 下 (創元推理文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488209070

作品紹介・あらすじ

【CWAゴールドダガー賞受賞】
斧で殺害し、頭皮の一部をはぐという凄惨な殺人。犯人は次々と犠牲者を増やしていった。元法務大臣、美術商、そして盗品の売人。殺害方法は次第にエスカレートし、三人目は生きているうちに両目を塩酸で焼かれていた。犠牲者に共通するものは? なぜ三人目は目を潰されたのか? 常軌を逸した連続殺人にヴァランダーらの捜査は難航する。そして四人目の犠牲者が……。犯人の目的は? 現代社会の病巣を鋭くえぐる傑作シリーズ第5弾。解説=杉江松恋

感想・レビュー・書評

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  • 警察の仕事というものは基本的に、一枚のメモ用紙に書かれている決定的な情報を確認することの積み重ねにほかならないのだ。


    『目くらましの道』というタイトルがまず秀逸だと感じました
    自分たちは「目くらましの道」を進んでないよなと、一歩進んでは後ろを振り返り確認する
    その積み重ねでちょっとづつ進んでいく
    それがいいんですよね
    そしてもちろん気がつくと「目くらましの道」に進んでるんですよね
    じゃなきゃ小説になんないですもん(それを言っちゃあおしまいよw)

    ヴァランダーは捜査の途中で、最初の頃に見聞きした何気ない事柄が事件の重要な鍵を握っていることに深層心理で気付きますが、それがどうしても思い出せません
    作中何度も、思い出そうとして失敗し、けれど捜査が進むにつれてその事が非常に重要だと確信を深めていきますが、やはり思い出すことができません
    この描写がうまいよなぁって
    最大のヒントが紛れ込んでるよと教えてくれてるんだもん

    読者はヴァランダーと違って読み直すことが出来て、なんなら途中で犯人もわかるのになんのことかさっぱりわかりません(もちろんわかる人もいるでしょうが)
    そして最後の最後に「あーそれかー!」となるんですがこれがねほんともう「それかー!」なんです

    それにしても、ヘニング・マンケルの怒り、ヴァランダーの怒りが全編に込められた傑作でした!
    その怒りとは児童文学作家でもあるヘニングの子どもたちが犠牲になっている歪んだ世界への怒りです

    続けてヴァランダー追いますよ!

  • シリーズ最高作の評判はダテじゃなかった。

    なぜこのシリーズに惹かれるのかは、これまでさんざん書いてきた。
    「文章の読みやすさ」「魅力的な人物による没入感」「物語のスピード感」「時系列というシンプルさ」

    今回特に「映像的表現によるドラマチック感」が抜群だと思う。
    さらに、そこにとどまらずヘニング・マンケルはここでもメッセージを持っている。
    エピローグで描かれているヴァランダーの心情は、変わりゆく社会への作者自身の不安と怒りであろう。

    主人公ヴァランダーに代表される感情は、この国の負の良心なのだろう。

    移りゆく時の先は、歳を重ねるごとに暗さを増していく……寂しいことですが、仕方ありません。

  • わけあって北欧ミステリ、なかでもスウェーデンの名作と言われるものをかたっぱしから読んでいるのですが、どれも面白くてためになるけど、テイストがわりと似ているので、続けて読むとわりとつらい。問題を抱えた中年警官の倦怠、そこまで残虐にせんでも…と思うような犯罪、個性豊かな警官たちのチームワーク、複雑な社会背景、唐突にあらわれるエロティックな妄想、家族に迫る魔の手!!とかそういう感じ。これも本当に面白くて、上巻の時点では寝る前に本を開くのが毎晩楽しみな感じだったのに、下巻も半ばを過ぎる頃には、とにかく早く終わってくれと心の中で必死に唱えだす始末。人名地名を憶えるのが大変なのも共通していて、上下巻だとさすがに疲れがたまるのだ。こうなると作品の出来不出来にかかわらず、要するに長篇のミステリが苦手なんだ、私は。でも、著者の良心は伝わってくるし、雰囲気はほんと嫌いじゃないんです。

  • あらすじ
    被害者は続き、悪名高い公認会計士も殺される。しかもオーブンで焼かれて。場所はヘルシンボリに移り、地元警察nok協力も得ながら捜査を進める。会計士は影を潜めている間に、顧客に女性を斡旋していた。年齢国籍様々の。しかも協力者がいたが、この人物も犯罪歴があり名前も変えている。
     殺された盗品売買の元家族が気になったヴァランダーだったが、突き止められなかった。犯人の男ジェロニモは、予定を変えて姉を病院から連れ出し、ヴァランダー父子を襲おうとするが、先に公認会計士の手下がいることを知る。さらに、空き家に姉を匿っていたが、そこにたまたま協力者がやってきたのだった。ジェロニモは盗品売買の息子だった。

     犯人は始めから終わりまでばっちりわかる売人の息子です。動機もはっきりわかります。ひねりはありません。会計士の協力者は最後まで殺されず、重要登場人物かなーと思いきや、顔かたちもはっきりしないまま殺されてしまったままです。だからどんでん返しはないです。でも、ちょっとずつチームが調べを進めて行く様子や、遠出して地元警察と交流する様子、犯人とのニアミス、夏のバカンスが近づいてきているのに、事件が解決しないイライラ感を十分楽しめます。安定の作品。

  • 下巻はまさにページターナー。先を急ぐあまり読み飛ばしてしまったのか、ルイースがなぜ被害に遭ったのかがわからなかった(たまたま?それとも父親に売られた?)。赤いノートに何が書かれていたのかも気になる。けれども、そんなことよりも、ヴァランダー父の病気の進行やリンダの身の危険のほうが何倍も気がかりで。マンケル先生、あまりヴァランダーを苛めないでくださいと思ったのでした。

  • スウェーデンの作家「ヘニング・マンケル」の長篇ミステリ作品『目くらましの道(原題:Villospar)』を読みました。

    「ヘニング・マンケル」作品は先月読んだ『笑う男』以来です… 約1か月振りの北欧ミステリですね。

    -----story-------------
    〈上〉
    【CWAゴールドダガー賞受賞】
    夏の休暇を楽しみに待つ、イースタ署の「ヴァランダー警部」。
    そんな平和な夏のはじまりは、一本の電話でひっくり返された。
    呼ばれて行った先の菜の花畑で、少女が焼身自殺。
    目の前で少女が燃えるのを見たショックに追い打ちをかけるように、事件発生の通報が。
    殺されたのは元法務大臣。
    背中を斧で割られ、頭皮の一部を髪の毛ごと剥ぎ取られていた。
    そして事件はこれだけでは終わらなかった。
    CWA賞受賞、スウェーデン警察小説の金字塔。

    〈下〉
    【CWAゴールドダガー賞受賞】
    斧で殺害し、頭皮の一部をはぐという凄惨な殺人。
    犯人は次々と犠牲者を増やしていった。
    元法務大臣、美術商、そして盗品の売人。
    殺害方法は次第にエスカレートし、三人目は生きているうちに両目を塩酸で焼かれていた。
    犠牲者に共通するものは? 
    なぜ三人目は目を潰されたのか? 
    常軌を逸した連続殺人に「ヴァランダー」らの捜査は難航する。
    そして四人目の犠牲者が……。
    犯人の目的は? 
    現代社会の病巣を鋭くえぐる傑作シリーズ第5弾。
    解説=「杉江松恋」

    *第1位「第1回PLAYBOYミステリー大賞」海外部門(『PLAYBOY日本版』2008年1月号)
    *第6位『ミステリが読みたい!2008年版』/海外部門
    *第6位CSミステリチャンネル「闘うベストテン2007」/海外部門
    *第9位『このミステリーがすごい!2008年版』/海外編
    -----------------------

    警察小説「クルト・ヴァランダー」シリーズの第5作… 第1作の『殺人者の顔』、第4作の『笑う男』に続き、本シリーズを読むのは3作目です、、、

    『笑う男』の翌年、1994年のイースタが舞台です。

     ■ドミニカ共和国 一九七八年
     ■スコーネ 一九九四年六月二十一日から二十四日
     ■スコーネ 一九九四年六月二十五日から二十八日
     ■スコーネ 一九九四年六月二十九日から七月四日
     ■スコーネ 一九九四年七月五日から八日
     ■スコーネ 一九九四年九月十六日から十七日
     ■解説 杉江松恋


    1994年6月、「クルト・ヴァランダー」は夏の休暇を楽しみにしていた… 交際中のリガの未亡人「バイバ」と旅行に行くのだ、、、

    そんな平和な夏のはじまりは一本の電話でひっくり返された… 農夫から「自分の菜の花畑に不審な女性が入り込んでいる」という通報が入ったが、パトロール警官がすべて出払っていたために、「ヴァランダー」が現場に向かったところ、なにかに怯えている様子の少女が菜の花畑に立っていた。

    その少女は「ヴァランダー」が止める間もなく、灯油をかぶり自らに火をつけて焼身自殺を遂げてしまう… 身元も自殺の理由も不明だった、、、

    そして目の前で少女が燃えるのを見たショックに追い打ちをかけるように事件発生の通報が入る… 今度は海岸でイースタで隠遁生活をおくっている元外務大臣の「グスタフ・ヴェッテルステッド」と思われる男性の他殺死体が発見されたとの通報があった… 「ヴァランダー」らが現場に赴くと、「ヴェッテルステッド」は、背中を斧で割られており、頭皮を剥がされていた。

    あまりに凄惨な殺害方法に、「ヴァランダー」らイースタ署の面々に戦慄がはしる… そして、夏至祭の前夜に、自宅でパーティを催していた画商の「アルネ・カールマン」が、自宅の庭園で頭部を斧で割られ殺害されているのが発見され、「カールマン」も「ヴェッテルステッド」と同様に頭皮が剥がされていた、、、

    さらに盗品の売人「ビュルン・フレードマン」が同様の方法で殺害された… しかも犯行は次第にエスカレートし、「フレードマン」は生きているうちに両目を塩酸で焼かれていた。

    三人の犠牲者の接点と共通するものは? そしてなぜ三人目だけが目を潰されたのか? 犯人の目的は何なのか? そして四人目の犠牲者が、、、

    ペーパーカンパニーで財を成した公認会計士の「オーケ・リリエグレン」が同様な方法で殺害された… 今度は頭部をオーブンに突っ込まれ焼かれていた。

    常軌を逸した連続殺人に「ヴァランダー」等の捜査は難航する… そして、「ヴァランダー」と娘「リンダ」にも魔の手が迫る、、、

    読者には、早めに犯人が示され、動機についても想像できちゃうので… 「ヴァランダー」が仲間たちの協力を得ながら、直感と行動力を武器に真相を解き明かす展開を愉む作品でしたね。

    現代社会の病巣を鋭く抉る作品でした… でも、「ヴァランダー」の私生活は相変わらず順風満帆とは言えない状況ですね、、、

    認知症を発症した父親とのイタリア旅行、恋人「バイバ・リエパ」との関係… こちらの展開は、次作以降で確認していきたいと思います。




    以下、主な登場人物です。

    「クルト・ヴァランダー」
     イースタ警察署警部

    「アン=ブリッド・フーグルンド」
     イースタ警察署の刑事

    「マーティンソン」
     イースタ警察署の刑事

    「スヴェードベリ」
     イースタ警察署の刑事

    「スヴェン・ニーベリ」
     イースタ警察署鑑識課の刑事

    「ビュルク」
     イースタ警察署の警察署長

    「ハンソン」
     イースタ警察署の警察署長代理

    「リーサ・ホルゲソン」
     イースタ警察署の新警察署長

    「エッバ」
     イースタ警察署の交換手

    「ペール・オーケソン」
     検事

    「マッツ・エクホルム」
     心理学者

    「ステン・フォースフェルト」
     マルメ警察署の刑事

    「スツーレ・ビリエールソン」
     ヘルシングボリ警察署の警視

    「ヴァルデマール・シューステン」
     ヘルシングボリ警察署の刑事

    「ルドヴィグソン」
     本庁から来た刑事

    「ハムレーン」
     本庁から来た刑事

    「クルト・ヴァランダーの父」
     画家

    「イェートルード」
     その新しい妻

    「リンダ・ヴァランダー」
     クルトの娘

    「バイバ・リエパ」
     リガに住む未亡人

    「グスタフ・ヴェッテルステッド」
     元法務大臣

    「サラ・ビュルクルンド」
     ヴェッテルステッド邸の清掃人

    「ラーシュ・マグヌソン」
     元ジャーナリスト

    「アルネ・カールマン」
     画商

    「アニタ・カールマン」
     アルネの妻

    「エリカ・カールマン」
     アルネの娘

    「ビュルン・フレードマン」
     盗品売人

    「アネット・フレードマン」
     ビュルンの妻

    「ルイース・フレードマン」
     ビュルンの娘

    「ステファン・フレードマン」
     ビュルンの14歳の息子

    「イェンス・フレードマン」
     ビュルンの4歳の息子

    「ペーター・イェルム」
     ビュルンの仕事仲間

    「オーケ・リリエグレン」
     公認会計士

    「レナート・ハイネマン」
     元外務省高官

    「エリサベス・カーレーン」
     コールガール

    「ハンス・ローゴード」
     リリエグレンの友人

    「グンネル・ニルソン」
     スメーズトルプ教会の女性牧師

    「スヴェン・アンダーソン」
     同教会の庭師

    「ペドロ・サンタナ」
     ドミニカ共和国の農夫

    「ドロレス・マリア・サンタナ」
     ペドロの娘

  • あっという間に

  • 殺人者に感情移入する。その殺人者が主人公を襲う寸前までくる。それを知っているのは殺人者と読者だけだ。こんなスリリングな読書経験をできてよかった。

  • ヴァランダーシリーズ 5作め。この作品で英国推理作家協会のゴールドダガー賞を、受賞している。
    スウェーデン史上稀に見る連続殺人の犯人を、追うヴァランダーの推理力や、忍耐と、粘り強さは、圧巻!この作品でも、児童買春や、上流階級者の闇等、本筋同様に、重い問題が、提起されている。

  • <上巻とあわせて>

    はじめての北欧ミステリー。

    初めは聞きなれない地名や人の名前にとまどったけれど、一文が短くわかりやすく訳されているのでとても読みやすい◎
    翻訳をされている柳沢さんの講演に伺った際、「北欧ミステリー作家は、社会小説家だ」とおっしゃっていたことがよくわかる内容だった。
    特にジェンダー平等について。
    なくならない女性への暴力、人身売買。
    女性上司との関係性、女性同僚へ信頼の置き方の変化など…。

    そんなことを抜きにしても、最後まで面白く読み進めることができる小説だった!
    犯人が分かっているので、犯人と警察の立場から同場面を読めるのが面白い。
    「答え」に迫った後半の怒涛の展開は、ページをめくるのがやめられない…。
    そして上巻のプロローグと下巻のエピローグが繋がったとき、悲しい結末に思わずうるっときてしまった。

    主人公ヴァランダーの感情の変化や行動が、人間味があふれていてとても好感がもてる!
    他のヴァランダーシリーズも読みたくなった。

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