- Amazon.co.jp ・本 (634ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488209209
作品紹介・あらすじ
北欧ミステリの帝王ヘニング・マンケルが生んだ名物刑事、クルト・ヴァランダー。そんな彼が初めて登場したのは『殺人者の顔』だが、本書はヴァランダーがまだ二十代でマルメ署にいた頃の「ナイフの一突き」「裂け目」から、イースタ署に移ったばかりの頃に遭遇した事件「海辺の男」「写真家の死」を経て、『殺人者の顔』直前のエピソード「ピラミッド」に至る5つの短編を収録。若き日のヴァランダーの成長を描いた贅沢な短編集。
感想・レビュー・書評
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刑事クルト・ヴァランダーの短編集です。
スウェーデンのミステリ。
さすがの味わい、若き日の姿を読むことができたのも嬉しい。
クルト・ヴァランダーがまだ22歳でマルメ署にいた頃の「ナイフの一突き」から年代を追って話が進みます。
まだ若いが先輩の刑事に見込みがあると思われていて、ただし絶対に一人では行動しないように言われていたのに…
この時恋人だったモナは、次の「裂け目」では妻に。
イースタ署に移ってからの「海辺の男」では、妻と娘は休暇旅行中で、クルトはその計画を知らされていなかった、と暗雲が立ち込め始めてます。
「写真家の死」も印象的な作品。町の写真家が殺され、ヴァランダー一家も折りに触れ写真を撮ってもらっていた男なのだが、意外な面を持っていた…
「ピラミッド」では、娘のリンダが19歳になっています。
クルトの父親は画家でいささか変わり者なのだが、念願のエジプト旅行中。ところが、エジプトで父が逮捕されたという報が入り‥
捜査中の事件の謎も合わせ、長編のような読み応え。
有能だが不器用なところがあり、やる気や優しさが空回りしがちなクルト・ヴァランダーの人生。どうしようもない出来事もあり、切なくもちょっと滑稽だったり。
「殺人者の顔」で登場するまでのエピソードが語られ、予想以上に面白く読めました。
作者が惜しくも亡くなってしまったため、残りをゆっくりと読んでいます。未訳の作品もあるので、いずれはと楽しみに。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ヴァランダーシリーズはヴァランダーが42歳の時から始まっていて、それ以前のヴァランダーを知りたい、という読者の要望に応えて5編の短編を描いた。
警察に勤め始めたばかりの22歳のヴァランダー、モナに恋してるホットな若者。時を経て40歳、モナに去られ、警察内ではベテランになっている時までの5編。これがめっぽうおもしろい。本では「笑う男」しか読んでないのだが、めげるなヴァランダー、活字の間から応援してるぜ、というような親近感を感じた。家族~妻と父に振り回されるヴァランダー。最後の「ピラミッド」では念願のエジプト旅行に行った父親が、ピラミッドに登ったと警察につかまってしまう。そして事件。事件も殺された者、殺した者、それぞれの人生を訥々と描き出し、ああ、こういう人生ってあったんだと感慨にふける。そしてそれを追う警察人たち。こちらも各人各様血が通っていて人間臭い。
ヴァランダーは妻のモナがやっぱり好きなんだなあ。しかし最初の恋人時代から不協和音が響いてくる。そして画家の父。スウェーデンの風景と鳥の絵を描き続ける。この父もユニークだ。がやはりモナと同じくどこか二人は感情がずれてしまうが、父子だけに切れることはない。
「ナイフの一突き」1969.6.3から始まる。22歳になったばかりで、マルメ署で警官になりたての巡査だがいつか刑事になりたいと思っている。モナとは去年出会って、結婚したいと思っているが、緊急出動がありたびたびデートをすっぽかされるモナは機嫌が悪い。ヴァランダーは1947年生まれのようだ。
アパートの隣人の男が死んでいるのを発見したヴァランダー。巡査なのだが、隣人の死ということで刑事のヘムベリに目をかけられ捜査をすることに。解剖すると男の胃袋からダイヤの原石が出てきた。殺される寸前にのみこんだらしい。
「裂け目」1975年にクリスマスイブの日。マルメ署で刑事になっている。28歳か。モナともう結婚していて娘のリンダが生まれている。モナが小さい町で娘を育てたいと希望し、イースタに引っ越している。マルメ署での最後のクリスマスの日、イースタへの帰途入った食料品店で店主が殺されていた。そこには犯人とおぼしき若い男がいてヴァランダーはスキを突かれ縛られてしまう。犯人は南アフリカからの難民だった。
「海辺の男」1987.4.26の話。ヴァランダー40歳。イースタの近くの小さな町からタクシーに乗った男が、イースタに着くと死んでいた・・毒殺らしい。
モナと娘のリンダはカナリア諸島で2週間の休暇中。リンダは高校をやめてしまっていた。モナとの関係にはひびが入ってしまっている。
「写真家の死」1988年4月 ヴァランダー41歳。町の肖像写真家が店で殺されていた。関係者に聞いても皆いい人だったという。男は現像部屋で新聞写真から政治家の顔を抜き出し醜く歪めるのが趣味だった。なんとその中にヴァランダーの顔もあった・・ 調べるうち意外な過去が・・
ヴァランダーは1970年の末にモナと結婚したが、届を出すだけでいいと思うヴァランダーに対し、モナの希望で海辺で結婚写真をその男に撮ってもらったのだ。娘のリンダの写真も何枚かあるはず。モナは娘と一緒にマルメに去って別居中。
「ピラミッド」1989.12.11 ヴァランダー42歳。
イースタ近郊の海岸で小型飛行機が墜落炎上、2名の男の焼死体。パイロットは1966年、南ローデシアからタバコの密輸をしていて低空飛行の技術がある。今回はある地点で荷物を落とすのが任務。終わったらドイツのキール郊外にある自分の所有する滑走路に着陸し、ハンブルクの自宅に帰るのだ、と始まる。墜落機からこの謎にたどり着くまでのヴァランダーたちの推理経過。そこに父のピラミッド騒動がからまるが、その三角の形と、事件の3つの現場からヴァランダーは解決のヒントを得る。
ヴァランダーの父が念願のピラミッド見学に行きピラミッドに登ってしまい捕まり、ヴァランダーは保釈金を用意し父を引き取りに。おりしも車を買い替える予定で銀行から金を借りたばかり。娘リンダは自立の道を探せそうな気配で、祖父の出発をヴァランダーとともに見送っている。リンダと祖父は気が合うようだ。
1999発表
2018.4.20初版 図書館 -
刑事ヴァランダーシリーズ番外編。
ヴァランダーがまだ新米巡査だったころからシリーズ第一作「殺人者の顔」直前までの中短編五編。
新米巡査なのに刑事の真似事をして、禁じられている単独行動の末に撃たれてるし、その後、念願の刑事になっても相変わらず単独行動を繰り返しては時に銃撃戦になったり揉み合いになったりで、ヴァランダーさんはずっとこんな感じだったんだなぁと改めて思う。
ただヴァランダーの単独行動はスタンドプレーというよりは、自分の推理が独りよがりのものなのかの確認だったり、部下や同僚たちを巻き込んではいけないと考えてのことなので、厭な感じはない。またやっちゃったか、という感じ。
モナとの関係は恋人時代から危うく、その後の離婚という結末が予想できる。それでもヴァランダーが後々まで未練を持つのはモナ。叶うことはないけど。ただ娘リンダとの関係は良好でホノボノする。
父親はヴァランダーそっくりで、感情が先走るタイプ。エジプトで起こした事件はファンキー過ぎてビックリする。度々ヴァランダーと喧嘩しているが、読者から見れば似た者親子。ただ時折仲良くもしてるので、ホッとする。
麻薬犯罪、移民の犯罪などの社会的問題もあれば、容易に他人が立ち入れない理解しがたい個人的な事件もあって、事件ものとしても面白かった。
そして最後、表題作のエピローグにシリーズ第一作『殺人者の顔』のプロローグとなるシーンが描かれている。『殺人者の顔』直前のヴァランダーはこんなに大変だったんだなぁと分かり、再び『殺人者の顔』を読み返したくなる。
訳者あとがきによると、シリーズ未訳作品はあと二作あるらしい。いつになるか分からないが楽しみに待ちたい。 -
「1990年代のシリーズで描かれる時期の以前のクルト・ヴァランダー刑事」が5篇在り、それが集まった1冊が本書である。
事件が発生し、色々と迷いながら、各々の切っ掛けで突破口が開かれ、解決して独特な余韻…というクルト・ヴァランダー刑事のシリーズの面白さ、魅力が高密度で詰まった一冊で、主人公との「再会」を存分に愉しんだ… -
これまで長編ばかり読んできたが、これが初めての短編、中編をまとめたもの。どうかしらと思っていたのだが、期待と予想を大きく裏切る読み応えのある1冊だった。とにかく面白い。
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ヴァランダー警部シリーズ。
シリーズ化された主人公の過去が描かれた作品集。
読者から熱望されたと書かれていたが、
そこまでファンでない自分でも、面白く読めた。
忙しいのに父親を救いにエジプトに行く破目になった、
「ピラミッド」が一番面白かったかな。
手芸店の老姉妹の意外な裏の姿が驚きだったし。
モナが作品により、恋人、妻、元妻となっていくのが、
少し辛かった。 -
ヴァランダーの20代から、第一作『殺人者の顔』前日譚までを集めた中短編集。
刑事を目指していた巡査時代から、イースタ警察署の刑事捜査を担うベテラン刑事までの長期間の年代を追っている。私生活でも、夫婦関係や父親との微妙な確執など、その変化が順を追って垣間見える構成はまさにヴァランダー・ファンのための一冊と言えるだろう。
話によって頁数が大きく異なるので、ストーリーの厚みに多少の差はあるが、短編であってもシリーズらしさは出ていると思う。社会的背景を色濃く出したやるせなさも印象に残るが、やはり警察ミステリとしてのプロセスが秀逸。特に巡査時代である前半が面白く、優秀だが風変わりな刑事の元で、戒められながも評価されていくヴァランダーの成長は読み応えあり。
ミステリとしての謎解きは弱いけれども、情けない部分も含めてやっぱりヴァランダーに魅力を感じてしまうのだと再認識した一冊でした。未訳作品がまだかなりあるそうなので、それを読むまでは元気でいよう(笑