- Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488254049
作品紹介・あらすじ
スウが侍女として入ったのは、俗世間とは隔絶した辺鄙な地に建つ城館。そこに住むのは、スウが世話をする令嬢、モード。それに、彼女の伯父と使用人たち。訪ねてくる者と言えば、伯父の年老いた友人たちだけという屋敷で、同い年のスウとモードが親しくなっていくのは当然だった。たとえその背後で、冷酷な計画を進めていようとも。計画の行方は?二人を待ち受ける運命とは。
感想・レビュー・書評
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上巻1部のラストシーンに衝撃を受け、戦慄した私は思わずこの物語はサイコスリラーだとレビューに呟いた。
ところが下巻は一転してスリルとサスペンスに満ちた少女たちの冒険譚となる。
上巻の主な舞台は俗世間と隔離されたブライアント城だった。城に囚われたモードとある分野の研究に取り憑かれた伯父の狂気。モードを嫌う数人の使用人、そしてモードの財産を手に入れるため彼女に近づく〈紳士〉とスウ。
そんな人物たちの仄暗い思惑が渦巻く淫靡な雰囲気に満ちた世界、それがブライアント城だった。
そこから下巻の主な舞台は雑然としたロンドンの下町へと移りゆく。猥雑とした下町は治安も良くないし、決して住みよいところではないけれど、その一方で皆が何としてでも生きようとする活気に満ち溢れた世界でもあった。
外の世界へ出たスウとモードは、ある人物の思惑によりそれぞれが思ってもみなかった環境に放り込まれ、想像を絶する運命と向き合うことになってしまう。
何とかしてロンドンから逃げようとするモード。
どんなことをしてでもロンドンへ向かいたいスウ。
憎しみ、あるいは後悔、あるいは絶望、あるいは愛しさ。ひとつの感情では収まりきらない想いを抱え、モードとスウの心はすれ違い、彼女たちを巡る謎は二転三転する。
読み終えて一番に思ったのは、女性の人生は誰のものでもなく自分のものなんだよってこと。
当時の女性は男性や社会制度、育った環境や親などに縛られていたけれど、それは現代でもまだ残っていて。でも、それでもやっぱり、自分が望めば自分の人生は手に入れられる、そんなメッセージが込められていたのかなと思う。
それは愛も同じで。
ただ手に入れようとすれば無傷ではいられないことも。ときには自分だけでなく相手や周囲の人も傷つけてしまうことだってある。
それでも何もしなければ何も始まらない。何も手に入れられない。
自分にとっての大切なものに気づくこと。
二度と離したくないと願うこと。
それらは愛するものの痛みを受け入れることでもあるんだろうな。
ミステリだけでは終わらない、深い余韻の残る強かな作品だった。
「訳者あとがき」によると、ヴィクトリア朝ロンドンが舞台の『荊の城』には〈ホースマンガー・レイン監獄〉〈サザークはラント街〉が出てくるのだけれど、これらは作家チャールズ・ディケンズのゆかりの地名だそう。
本書には〈ホースマンガー・レイン監獄〉の公開処刑のシーンがあって、ディケンズも実際に監獄で公開処刑を見たという。
さらに『荊の城』は、ディケンズのとある作品を意識しているらしい箇所がいくつも見られるらしい。
ふむ、1ヶ所タイトルだけはわかったのだけれど、ディケンズは未読なので、かなり残念。知っていれば、もっと深く読みこめたかもしれない。ディケンズ。そろそろ読む時期がきたのかも。ブク友さんも面白いとレビューされていたし……
それにしても、いちばん気の毒で可哀想だったのはチャールズだ。泣き虫のチャールズと友だち想いのデインティに幸あれ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
下巻読了。
いやぁ、濃ゆい!実に濃密でしたね~。
この巻もめくるめく展開で、今までの“計画”を仕組んだ黒幕と、それに至る事情に絡む、スウとモードの出生の秘密が明らかになります。
周りの悪い大人たちのせいで翻弄される羽目になった、スウとモード。彼女達それぞれに苦難が続き、とりわけ精神病院に入れられたスウが虐待を受ける場面は、読むのが辛かったです。
そして、病院を脱出し、執念でロンドンまで逃亡してきたスウ(&巻き込まれたチャールズ)が、モードに対する憎しみと嫉妬による怒り心頭状態で、昔の自分の家に乗り込んでからの修羅場とそこで起こった惨劇まで、まさに怒涛の流れで目が離せませんでした。
ラストは、“母ちゃん”が持っていた手紙からすべてを知ったスウがモードに会いに行くのですが、それにしても第一部での“”純粋なお嬢様”キャラだったモードが、話が進むごとに印象が変わって、強くしたたかな女性になっていましたね。
“変態伯父”に強要されていた事を活かして(ある意味スキル?)、生業にしようとしている彼女に逞しさを覚えた次第です。
何にせよ、しんどい思いをしてきた二人なので、今後は仲良く幸せに暮らしてほしいものですね。 -
下巻は第二部途中から第三部まで。上巻は映画とほぼ同じだったので安心しきって読んでいたのだけど、まさかの、下巻では映画と全く違う展開になっててビックリ!スウとモードの複雑な出生の秘密、そしててっきりもう出てこないと思ってたスウを育てた母ちゃん=サクスビー夫人が、思いがけずも重要人物でさらにビックリ。やっと変態エロ爺から解放されて自由になれたはずのモードがさらなる地獄で可哀想すぎる。
そして三部では再びスウ視点に戻り、一部のラストで精神病院に放り込まれてしまったスウの苦難と脱出劇。彼女はなんというか、雑草的な素朴な逞しさがあって応援したくなる。それにしても<紳士>のクズっぷりは非道い。映画における彼の役どころはイケメンではなかったけどそれなりに良い奴だったしお嬢さんのことを彼なりに愛していたのに。原作の紳士こそ、映画版の殺され方をすればいいと思ってしまった。
上巻のどんでん返し感に比べて、下巻の驚きは、単純に過去の秘密が明かされること。そしてモードとスウのそれぞれの脱走劇と、二人の娘に対する母ちゃんの愛の深さ。正直ラストは、私がスウならやっぱりモードを許せないかも、って思っちゃったけど、映画と同じくある種のハッピーエンドなのでまあそれはそれで良しとしよう。
映画のほうは二人の出生の秘密にまつわる部分をバッサリ端折って、終盤スウが口にする、モードがもっと早く打ち明けてくれてたら協力したのに、という言葉をパラレル的に展開したのかなと思いました。とりあえずスリリングで波乱万丈で最後まで一気に読めて単純に面白かった! -
ラストはメタフィクションですねこれ
モードは性的内容含む小説の作家に、つまりサラウォーターズになる。それを喜んで読んでいる私たちは狂った城主の伯父になる…… -
文学にもその国の特徴が色濃く出る。イギリス文学の特徴も魅力的だ。
私が思う魅力キーワードとは「女性作家」「18・19世紀」「城」「保守的」「古」「頑固」「暗色」そして「ミステリ」。
これがその物語に複合的に備わっていると、私はイギリス的だなと好きになる。おもしろくなる。
ミステリの発祥地だけど、ミステリっぽさが単なる謎解きではなく、謎が「どうなんだろう、なぜなんだろう」とゾクゾクさせられ、引っ張っていかれるのは伝統を感じる。
『嵐が丘』や『ジェーン・エア』に始まり『レベッカ』の系統にこの小説は属すると思う。現代の「ブロンテ姉妹」「モーリア」派だと勝手に名づけた。
前作『半身』は思いもかけない結末だったが、この物語は思い至るも、絶妙な筆運びに酔いしれて、私は一気読みだった。 -
読むのにとても、本当に長い時間がかかってしまった。他の方が書いているように確かに大胆なトリックではあるが、情景の描写などが多すぎて、個人的には話のテンポがのろく感じた。
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■う~む。百合っぽさは前作『半身』よりずっと露骨になっていて、ぼくは――好きだ。サラ・ウォーターズがどんなセックスをしているのか知らないが美しいひとと美しいひとが愛し合うのはとっても素晴らしくて自然なことだとぼくは思っているから。
■まぁ、リリー伯父の趣味も理解できんことはないけど……。他人に迷惑かけたらダメだよね。だけど最後の最後でまたまた大どんでん返しが。リリー伯父のエロ本で得た知識がのちのちモードの役に立つなんて! -
後半は、どうなるのかすごくドキドキして、一気読み。
今ちょうど英国メイドマーガレットの回想も読んでるところ。
合わせて読むと、茨の城の異常さが半端なく。怖い。
19世紀はまだ闇の時代ね…
よくでてくるロマンス小説からは伝わらないロンドンの汚さや、闇が伝わってくる。
精神病院のくだりは、すごく狂気が移りそうな気分に。
気分が小説に引きずられてしまうので、ナィーブなときには読まないほうが吉。
レベッカが、好きな人は好きなんじゃないだろうか、これ。
空気の匂いまでが伝わる小説は久しぶり…ほかのサラ・ウォーターズの小説も読んでみようかな -
どんでん返しに次ぐどんでん返し。どこまで転がっていくのか、はらはらしながら展開を見守り、最後までその流れが止まらない。
生き生きしたキャラクター描写もそうだが、煙と霧で霞む市街地、一日中陽の当たらないような田舎。舞台の描写から伝わる空気感で一層緊張感がある。
どんな形でもいいから、この娘たちには幸せになってほしいと思わずにいられない。-
「最後までその流れが止まらない」
サービス精神旺盛と言ってしまうと、それまでですが身構えながら読んでる自分に、それじゃダメダメと思ってしまう...「最後までその流れが止まらない」
サービス精神旺盛と言ってしまうと、それまでですが身構えながら読んでる自分に、それじゃダメダメと思ってしまう。虚心に楽しみます。2012/08/28
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