黄昏の彼女たち〈上〉 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488254094

作品紹介・あらすじ

第一次世界大戦で父と兄弟を喪い、母とふたりで生きていくため屋敷の部屋を貸すことにしたフランシス。下宿人になったのは、快活なレナードとおとなしいリリアンのバーバー夫妻だった。ひとつ屋根の下で暮らすうち、フランシスとリリアンには互いを想う感情が芽生えていく。そんな彼女たちの関係は、ある人物に死をもたらし、何人もの運命を思わぬ形で変えるのだった。時代に翻弄される女性たちを流麗に描く、傑作文芸ミステリ最新作。

感想・レビュー・書評

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  • 読書会課題書の関連書として読んだ。

    WWI後のロンドン近郊でお屋敷住まいをする母子が、とある夫婦を下宿人に迎えるところから始まる。とはいっても暮らしに余裕があるわけではなく、戦争とその後のごたごたで一家の男手をごっそり失って仕方なく…という流れ。時代が少々ずれるが、『ダウントン・アビー』の初期設定に重なるものがある。あちらは残りの男手をかき集めて家の維持に努めるが、こちらではその伝手がまったくない。おそらく、『ダウントン―』で描かれたWWI後の相続税大幅引き上げの直撃も食らうのだろう。そういうことを考え合わせると、下宿人夫婦が払ってくれる部屋代など、本当に日々の暮らしの最低費用にしかならない。まあまあ羽振りのよい下宿人夫妻に部屋を貸しながらもままならない生活を送る母子の描写は地味に辛い。お母さまがやや世間知らずながらもよくわきまえていらっしゃるのが救いかもしれない。

    「それならば主人公のフランシスは適齢だろうし、家屋敷をごっそり持ってどっか嫁に行けばいいじゃないか!」とこのあたりの時代のイギリス好きなら思うのだけれど、そこがこの小説(特にこの巻)の肝。平民の都市生活者が自活する道を切り開きつつある中で、フランシスのパーソナルな理由もあって身動きが取れない閉塞感とがないまぜになって…というにおいが濃厚だし、事実そう描いてある。本来はそこを楽しむものなのだが、個人的には貴族層の没落のディテールと都市生活者の興隆、復員者のありさまなど、背景描写を面白く読んだ。

    上下巻あるけれど、この上巻だけでも一編の小説として読み切ってしまえると思う。パトリシア・ハイスミス『キャロル』との読み比べもできるし(ある方に頂いたアイデアの受け売りですが)。それにしても、上巻は上手いところで切っている。

  • 第一次世界大戦後のロンドン。戦争で父と兄弟を喪い、広い屋敷で母と二人で暮らすフランシス。生計のために、レナードとリリアンという若い夫婦を下宿人として住まわせることに。女性が恋愛対象のフランシス。一つ屋根の下で、母と夫の目を盗みながらフランシスとリリアンは秘密の関係になっていく…

    ツイッター(X)で二度と読み返したくない本みたいなハッシュタグを見ていて見つけた本。(なんかそういう本を時々無性に読みたくなる)上巻では、フランシスとリリアンの関係性がじわじわと縮まっていき、とあるきっかけで急速に燃え上がっていく様子が描かれる。もう破滅の予感しかないんですけど…!
    翻訳ものにしてはすらすら読みやすい文体だけどなぜか全然ページ数が進まない不思議な本だった。女性同士の描写が結構がっつりあるので注意です。
    フランシスとの愛におぼれながらも、夫のレナードとの関係も、世間体や経済的理由で断ち切ることができないリリアン。そしてリリアンの妊娠が発覚したところで下巻に続く。裏表紙にミステリって書いてあるけど上巻はミステリ的な要素なかった。これから事件が起こるのかな。

  •  大戦後のロンドン郊外、兄弟と父を亡くし母と二人暮らしになった屋敷の娘フランシスは、生計のために家に下宿人をおくことにした。それに応じてきたのは、若い夫婦で、フランシスは妻と交流を深めていく。

     …サラ・ウォーターズなので…(お察しww)
     と思ってたら、やっぱりサラ・ウォーターズだった。

     まぁ、そこのところはおいておいて、大戦終了後のあらゆる価値観が根底から覆る中の混乱が、足元から登ってくる冷気のようで怖い。その中で必死に抗おうとしているフランシスの姿は潔く見える。
     が、それも虚構といえなくもない。

  • 第一次世界大戦後の1922年。ロンドン近郊のカンバーウェルのお屋敷に住むフランシスの一人称で話は進む。
    彼女の住む地区は上流で元は裕福だったらしいが、今は母親と二人で使用人も雇えない貧しい暮らしとなっている。
    お屋敷の2階を貸して収入を得ることにした母娘に、レイとリリアン夫婦が申し込んで来て住み始める。
    ---あらすじ終わり

    レイは、なんていうんだろう、ちょっと嫌だけど憎めない感じの男性。
    その友人であるチャーリーも同様。

    一方の妻であるリリアンはよくわからない。悪い人じゃなさそうだけど。フランシスより少し年下らしい。見た目も愛らしい??
    だんだん親しくなっていていくうちに、フランシスはリリアンに恋心を抱く。
    そしてなんだかこそばゆいというか、純情な恋物語が始まったと思ったら、あるパーティからぐっと二人の距離が縮まるどころか一気に官能小説のような...。
    この部分はちょうど電車で座って読んでいて、思わず隣の人の目線が気になった。
    ここまでが第一部。

    第二部は恋する二人の高揚感に、もう読んでいられないような、この後事件が起こるのが明らかなので読まずにはいられないような感じだった。

    二人は一緒には住んでいるが、同性なので関係を公に出来ないし、リリアンはそもそも結婚してるしで、焦れったいとというか障害がある恋なので、ますます二人は盛り上がる。
    旅行先でリリアンがフランシス書いた手紙の内容といったら。ねえ。
    で、リリアンの衝撃の告白で上巻終了。

  • 上巻と下巻ではかなり趣が違います 女性間のロマンスから殺人事件に… ただ 殺人を犯した意図は明らかにされていません、それに女性二人がその後 どうなったかも… そういう色々と謎を残したまま終わってしまいます ですが、そこがまた魅力になっているような気もします  下巻は一気読みでした…

  • サラ・ウォーターズ最新刊。前作『エアーズ家の没落』が出たのが2010年(しかも品切れになっている……何たることか!)なので、随分と間が開いてしまった。正直、次の邦訳は出ないのではと不安だったので、まずは新作が刊行されてほっとした。
    本作は第一次大戦直後の英国を舞台にした作品。東京創元社の公式サイトでは『ミステリ』に分類されているが、上巻では主人公と下宿人の妻とのラブロマンスがきめ細かく描写されている。時代的にも社会的にも、また、片方が既婚者という立場的にも隠すしかない立場で、秘められた恋心が一気に燃え上がり、逢瀬を重ねる様子は読んでいてちょっと恥ずかしくなるほどw
    下巻巻末の解説を先に読んだところ、上巻とはがらりと雰囲気が変わるそうなので、続きが楽しみだ。因みに、上巻のラストの台詞は、展開としてはかなりベタながら、下巻への『引き』としては完璧。

  • ウォーターズの描く雰囲気が好き、、、

    東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488254094

  • ☆3.7

    小さな描写・何気ない表現がいくつも降り積もり、いつの間にか少しずつフランシスに自分が寄っていて、ふとした時に彼女が私になる。
    そんな経験をさせるのがとても上手な作家だと思う。

    フランシスとリリアンの間には幻想味のあるエロティックさが感じられて、少し陶酔してしまう。そして杭を抜くシーンの鮮烈さよ。

  • 1920年代、第一次世界大戦後と第二次世界大戦の間のイギリスが舞台。戦後の喪失と未来への希望が見えない世界への不安。まして西欧といえども女性の地位が低かった。女性の選挙権もまともになかったようだな時代が舞台。

    戦争で逝ってしまった兄や弟。そして父も借金を残してなくなってしまった、古い大きなお屋敷に母と暮らせば、維持するために、部屋を貸していくしかなかった。
    お嬢様だった「フランシス」、なのに屋敷を管理するのは当然、お手伝いさんも雇えないので、自分で掃除も何もかもしなければならない変化。26歳の独身、鬱々たる毎日になる。しかも過去に女性問題事件を起こしている秘密があった。

    貸室に来たのは若いご夫婦。その妻はちょっと変わっていて魅力的だった。自然と親しくなり…。

    と、ミステリアスというより、危なっかしい展開になる。

    独特の雰囲気だった『半身』や『荊の城』に続く、サラ・ウォーターズ節なるか?
    上巻はやや普通だね、というところかな。

  • 嘘をついたことで犯罪者とはならなかったが、一生涯瀬置くことになった。問題は犯罪者となった犠牲者だ。

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