黄昏の彼女たち〈下〉 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (422ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488254100

作品紹介・あらすじ

リリアンの衝撃的な告白が、秘密の恋人たちの仲に変化をもたらすなか、ある夜ついに悲劇は起きる。人の死というかたちを取って。予想外の事態に翻弄されるフランシスとリリアン。だが、それはさらなる怒濤の展開の始まりにすぎなかった……。大家と下宿人から道ならぬ恋人同士に至ったふたりの関係と「事件」は、いかなる結末を迎えるのか。一九二〇年代のロンドンを舞台に圧倒的な描写力で読ませる、ウォーターズのミステリ大作。

感想・レビュー・書評

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  • 嘘をついたことで犯罪者とはならなかったが、一生涯瀬置くことになった。問題は犯罪者となった犠牲者だ。

  • いやいやもう、これは堪能しました。心理描写の精緻なこと、時代背景の巧みな取り入れ方、人間性への深い洞察、どんどん引き込まれていく語り方、どれをとっても一級品。すばらしい。

    …なのに☆四つなのは、上巻がちょっと長いかなあと思うから。もちろん、この上巻があってこその下巻の展開なわけで、それはわかるのだけど…。せっかちな読者(わたし)はいつまでたっても「ミステリ」にならないので、これって高級な百合もので、紹介文の「傑作ミステリ」って看板に偽りありじゃないの?などと思ってしまった。

    「事件」が起きるのは下巻に入ってからで、そこからはもう怒濤の展開。息を詰めて一気読みすることになる。解説の大矢博子さんが実に的を射た表現で指摘されているとおり、「こんなはずではなかった」という悲痛な声が行間から立ちのぼってくる。これはヒロインだけでなく、ほとんどの登場人物が抱く思いだということがひしひしと伝わってくる。英国小説では、階級の問題が大なり小なり展開に関わってくるが、ここではその描き方が皮肉で、かつ哀切で、複雑な思いを呼び起こす。

    ウォーターズは、何と言っても「半身」「荊の城」のあっと驚く仕掛けがピカイチだが、「夜愁」や「エアーズ家の没落」も含めて、どの作品にも底に「怒り」があると思う。世の中のありように翻弄され、ままならぬ生をもがいている人たちが描かれていて、そこが胸を打つ。

    • niwatokoさん
      とてもよさそうですね、気になってはいたのですが、すごく読みたくなりました。物語、としておもしろそう。サラ・ウォーターズって、賞賛されているの...
      とてもよさそうですね、気になってはいたのですが、すごく読みたくなりました。物語、としておもしろそう。サラ・ウォーターズって、賞賛されているのは知っていたのですが、読んだことがなくて。どの作品がいちばんおすすめでしょうか? 
      2016/03/11
    • たまもひさん
      わたしは「おお、そうだったのか!」と驚かされるのが好きなタチなので、「半身」と「荊の城」が甲乙つけがたい、というところですねえ。どちらも19...
      わたしは「おお、そうだったのか!」と驚かされるのが好きなタチなので、「半身」と「荊の城」が甲乙つけがたい、というところですねえ。どちらも19世紀英国が舞台で、ミステリアスで雰囲気たっぷりの語りに幻惑されます。
      この「黄昏の彼女たち」は、後半がとてもサスペンスフル。前半の(女性同士の)ロマンス描写は、すごーく濃密なので好みが分かれるかも。
      「半身」にもそういう要素はあるけれど、そこまでではないし、ボリュームからいってもまず手始めにいいのでは、と思います。
      2016/03/11
  • 後半。

    上巻できめ細かく描かれた家主と下宿人の関係が、文字どおり「一撃」で変化する。最初は「理由も手口も2時間ドラマあるあるだー」とばかりに読んでいた事件が、時間が経つに連れて、さまざまな要素で強力に補填されてストーリーが出来上がっていくさまは、フランシスじゃなくても衝撃を受ける。やっぱり世の中にはピュアな恋愛じゃなくて、表に出せない個々の事情があるんだよ…というものを限りなくグレイに積み重ねていくさまが圧巻。

    上下巻通して読んで、この小説はフランシスが「失ったものの物語」だと思った。この事件限定で「失ったもの」ということでなく、この前にすでに失っていた華やかな暮らし、家族、貴族の娘としての「まっとうな」生き方、恋人、その他もろもろがこの事件ですべて見せつけられてしまった。そこからのリカバリーを考えると、一瞬の安息はあれど、実際には困難な道しか残されていないように見えるし、こういった安易な解決を与えない方向性は好きずきが分かれるところでもあると思うが、私はこれで十分救いが与えられているんだと思う。

    欲をいえば、前半がちょっと長いということか。タイトルはサスペンスを重視すれば原題の“The Paying Guests”がいいだろうし、ロマンス風味を重視すれば邦題がいいと思う。

    解説・大矢博子さんの「大戦間小説」という言いかたに思わず膝を打った。

  • なぜ1920年代という時代を設定したのか、と考え続けながら読んだが、なるほど、上流階級なのに下宿人をおかねばやっていけなかったり、階級では下のはずの下宿人のほうが羽振りがよくお洒落や流行にも詳しかったり、帰還兵たちが浮かばれなかったり、さまざまな矛盾や転覆が底流となるのはこの時代だからこそ、なのか。
    「大戦間小説」としてよく出来ている。

    上と下がゆがんだ鏡のように映し合う。
    またピエール・ルメートル「天国でまた会おう」が男性版、こちらが女性版として、読むことも出来る。

  • 下巻。
    巻末の解説に書かれていた通り、上巻と下巻ではがらりと雰囲気が異なる。そう考えるとかなり踏み込んだ記述だったわけだが、解説に対してネタバレとかそういうマイナスの印象は全くない。プロって凄いなぁ。
    途中までは『これって破滅に向かってまっしぐらじゃないの?』と思っていたのだが、厳密な意味で『破滅』した登場人物はいない。しかし、主人公と恋人に限らず、それぞれが公言出来ない秘密を抱え、それまでの幸福に見えた光景に違う意味が与えられて行く様子は読んでいてなかなか苦しいものがある。
    それにしても、上巻を読むのにやや時間がかかったのは、あのラブロマンスっぷりも一因だったのだが、雰囲気の変わった下巻は引き込まれた。
    これまで邦訳されたサラ・ウォーターズ作品の中では『夜愁』がやっぱり一番好きなのだが、読み応えや登場人物の機微といった部分では本作に軍配が上がるかな、という気がしている。

    勝手な願いだが、もうちょっとマメに邦訳を出して欲しい……でないと不安になるから!w

  • 下巻。
    上巻ではまったくミステリ要素はなく女同士のラブロマンスって感じだったけど、下巻で早速事件が起こる。フランシスとリリアンの関係を知り、激昂した夫のレナードがフランシスに掴みかかってきたのを、リリアンが咄嗟に灰皿スタンドで殴り殺してしまう。2人は事故に見せかけ死体を遺棄し、罪の意識に怯えながら暮らすようになる…

    殺人を犯してしまった人間の心の動揺や葛藤が延々と描かれていて、ずっと重苦しい。ミステリというよりは心理サスペンスという感じでした。別の人間に容疑がかかり裁判にかけられ、良心の呵責に耐えかねて時にリリアンを憎むようになるフランシス。最後はその容疑者が裁判で無罪になったところで物語が終わる。このあと彼女たちはどうなるんだろう。また罪の発覚に怯える日々を送るのか、それとも自首するのか、それとも…。愛以上に殺人という罪で縛られた2人はずっと離れられないんだろうなと思う。
    ツイッター(X)で二度と読み返したくない本みたいなハッシュタグで見つけた本だけど、何とも嫌な余韻の残る本で、確かにもう一度読もうとは思わないけど、そういう本を読みたかったので満足です。
    この作者の別の本も読んでみたいと思いました。

  • ☆4.0

    第一次世界大戦が終わって数年、戦争で父と兄弟を失ったフランシスは、母と二人、男手もなく広い屋敷を抱え苦しい生活をしていた。生計のため断腸の思いで下宿人を募集し、若い夫婦に間貸しすることに。
    そこで"運命の人"との出会いがあるとも知らず。

    この運命はフランシスを眩しいほどの刺激的な幸福と、この幸福の裏側にある罪悪感を共にもたらし、そして悲劇の夜へと導いてゆく。

    上巻は二人の思いが芽生え深まり、形作る様子がたくさんの描写の積み重ねによって記される。
    フランシスからリリアンへの思いがどんな感情なのかは、リリアンの仕草や姿態から知らず識らず艶めかしさを受け取るフランシスを見ているとすぐにわかってしまう。
    おそらく彼女自身が気づく前に。
    そういう書き方がとても巧みな作家なのだろうな。

    上巻最後に爆弾が投げ込まれ、下巻から展開はノンストップ。下巻読んでいる間、息つく暇もない。
    "緩急つける"というが、言うならば完全に上巻が"緩"で下巻が"急"。本当に最後の最後までどう決着がつくのかわからなかった。

    そこに愛はあるのか。そこに幸せはあるのか。
    相手の顔も見えないくらいの黄昏に、彼女たちはいる。

  • (上巻よりつづく)

    そして、事件は起こる。いや。レズビアンの関係がわかってしまったというのではない。三角関係には邪魔者はいなくなってほしいが必須。殺人事件が起こるのか?と思っていたら、その通りになった、さて…

    ここからが読みどころなのだと思うが、わたしには息詰まるおもしろさというより、息苦しさのほうが強かった。でも、それがサラ・ウォーターズの真骨頂かもしれない。

    時代背景が前世紀の初め、女性の地位思想は抑えられている。解説にもあるが、ヴァージニア・ウルフの小説と同傾向と思うとうなづけるものがある。

  • 上巻最後の衝撃の告白からの怒涛の展開。
    登場人物の人間関係の複雑さ、心理描写の上手さ、さすがサラ・ウォーターズ !と思ってしまいました。
    『ミステリ』になるまでの話の長さが上巻まるまる一冊と言う話の展開が気になるので星は4つで。

  • 上巻と下巻のこのテイストの違いといったら・・・!フランシスに感情移入しちゃって、早く読み進みたいんだけどいやちょっと待って先送りさせて、と読むのを躊躇したり。二人はこの先どうなるんだろう。誰にも言えない秘密を抱えて二人でひっそりと生きていくのかな。

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