緑衣の女 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
3.93
  • (36)
  • (70)
  • (39)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 466
感想 : 58
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488266042

作品紹介・あらすじ

男の子が拾った人間の骨は、どう見ても最近埋められたものではなかった。現場近くにはかつてサマーハウスがあり、付近には英米の軍のバラックもあったらしい。サマーハウス関係者のものか。それとも軍の関係か。付近の住人の証言に現れる緑のコートの女。封印されていた哀しい事件が長いときを経て捜査官エーレンデュルの手で明らかに。CWAゴールドダガー賞・ガラスの鍵賞を受賞。世界中が戦慄し涙した。究極の北欧ミステリ登場。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  家族を持つ前に二の足を踏む男。家族を持ちたかったが、それが叶わず身を投げる女。家族になったが、それを自分で壊してしまった主人公。作者が〝子供を大切にし、愛すること。それだけが親の責務である。“と訳者に力を込めて語ったという、その親の責務が果たせず、家族を粉々に打ち砕き破壊し尽くす父親。人骨発見を機として、それぞれの家族が交差しながら、重いテーマであるドメティック・バイオレンスが、言葉を尽くして書き切られていく。女性に対しての暴力の描写がリアルで、同じ女性として、読み手を辛くさせる。
     今日もどこかに、身を守るために敵を屍にして穴に埋めざるを得ない状況にいる人が、心の中で握ったナイフに力を込めたり、緩めたりして苦しんでいるのかもしれない。
     殺しが単なる犯人探しの謎解きに終わらないのが、テーマが重い北欧ミステリーの醍醐味である!

  • この作者の本で読んだのが2作目。

    2つの時間軸で物語が進んでいき、少しずつ真相が明らかになっていく感覚はとても良かった。

    1作目と同じように、日本とアイスランドで国は違うが、刑事たちがコツコツと足で真実に近づいていく感覚は共通しているように思えた。

  • 「家族」とは何か……。

    子どもの拾った小さな骨から、次第に表われていく数十年前の白骨死体(徐々に、であることがとても効果的)。
    主人公エーデンデュルの捜査とその娘の出来事と並行して、ある家族の過酷な過去の出来事が語られていく。

    登場する刑事たちは淡々と調べ、コツコツと人から話を聞き、少しずつ進む道を探る。
    そこには、組織犯罪も国家間の軋轢も紛争もなく、派手なカーチェイスや銃撃戦、名探偵の謎解きもないが、確かに「ドラマ」がある。

    「ドメスティック・ヴァイオレンス(DV)」という名称のつく前からあった「家庭内暴力」。
    「家族」という閉鎖環境の中、DVを見たり受けたりする日常の中で育つ子供たち。
    読み進めることすらつらくなるような描写に、訳者は日本語にすることを一度はためらったものの、作者の「表現者としての義務」という強い意志を受け入れることで、そのまま翻訳したとのこと(訳者あとがき)。
    現実の事件で「力と言葉の暴力による支配」を、細かく文章化し公表をするのは、ためらいが生まれる。きっと「DV」という名を得るに至った陰に、この作者のような「強い意志」があったことだろう。

    アイスランドの厳しい自然の中、寒い冬の海や吹雪の中に消えたといわれる人々。
    主人公エーデンデュルにも消すことのできない自責の念と悲しみがあった。
    これらのことは、自然の一部のように「すべてがあきらかになることはない」と……。

    「家族」という問いかけと「神隠し」の正体も漠然とする横溝正史的な物語に、日本人の心に残る何かがある気がする。

  • 家族の件など、個人的な苦悩を抱えながらも、捜査官として事件の真相を黙々と追い求めるエーレンデュルの静かな力強さが良い。捜査の進展と並行してある家族の物語が語られますが、描写こそ淡々としているのに、その悲惨さがひしひしと伝わってきて、読んでいてしんどいのだけど目が離せなかった。

    ただ捜査していた2つの可能性のうち、片方の√が終盤で割とあっさり無関係とわかってフェードアウトしたのは少し拍子抜け。あと『湿地』のときも思ったけど、締めのラストシーンだけがなんだか妙にメロドラマっぽい。あのラストも、今作を読めば決して安易な結末でない(むしろ人間そんなに簡単には生まれ変われないよ、という事を残酷な形で突きつけている)のはわかるのですが、なんとなく最後の締め方がそれまで語られてきたことに比べてサラッとしてるというかまたかー的な感じ。でも、もしかしたらそれが狙いなのかも?という気がしなくもないです。

    トータルではとても面白かったです。
    このシリーズはひととおり読みたいと思います。




  •  ミステリを通して社会を描く。最近のミステリの傾向だが、北欧ミステリはマルティン・ベックシリーズを筆頭にそうした傾向が強く、捜査官エーレンデュルを主人公とする本シリーズも同様の指向性を持っている。

     冒頭、人骨が発見される。一点、夫から妻に対する暴力の描写。
     骨の主は誰なのか、どうして埋められたのか、事件性はあるのか、捜査活動が進んでいく。一方で凄まじい家庭内暴力。人が人に暴力を振るい屈従に追い込んでいく様子がこれでもかと描かれる。
     そしてまた、捜査の責任者、主人公エーレンデュルの痛々しい過去が少しずつ明らかにされていく。破綻した家庭生活と捨ててしまった子供たち。ドラッグに身を持ち崩した娘が昏睡状態に陥り、その安否を気遣いつつ捜査をしていかなければならない苦悩。
     現在の捜査によって、過去の家族を巡る物語が掘り起こされ、あまりにも哀しい真実が最後に明らかになる。

     読み応えあり。

     

  • 男の子の拾った骨がいったい誰の骨なのか。最近のものではないということしかわからず、古代のものの可能性もあり考古学者が時間をかけてゆっくり掘り出す間、エーレンデュルたちが過去をすべて掘り起こしていく手法は見事でかなり読みごたえがありました。絶対この人だと思ったひとだったかどうか、最後までぐいぐい引っ張られて読めました!
    さて、次は読書会課題の『声』に真剣に取りかかるぞ!!

  • 「緑衣の女」、ミステリというよりは文芸作品といった趣き
    トリックを明らかにしていくというよりは、人間の心のひだを探ってく感じでしょうか
    ひたひたと人間の深部に分け入っていく
    そうした社会や人間の暗さ・よどみを、淡々と語る怖さがあります

    衝撃的な出来事も(ミステリの事件としては地味ですが)、表面的な説明に終わらないのが、類書と画するところ
    第三者からしたらどうでもないことが、当事者にとっては、いびつに強烈に印象に残ったりする
    そんな感性的な描写もあって、惹きつけられました


    個人的に残念に感じたのは、モチーフとして「緑衣の女」の印象が薄かった点
    「緑衣」にも、何かしらの意味があるとよかったですし
    せっかく神秘的なタイトルなので、「緑衣の女」が出たり消えたり、この人かと思ったらあの人だったり、みたいな揺らぎがあるとよかったな、、、北欧、アイスランド、幽玄の国・・・といったイメージで


    実際には、作品で揺らいでいたのは、「緑衣の女」ではなく「家族」でしたね
    いろんな形の家族、過去を生きていた家族・これからなるかもしれない家族、様々な家族が交錯する中で、もろく壊れてしまったり、悲惨な中にも気高い強さを見せたり
    人間のダメさ、弱さ、美しさ、尊さが、揺らいでは陰り、輝き、、、

    志の高い作品でした

  • 初読
    アイスランドミステリ。

    北欧ミステリはDV、女性への憎しみ・暴力を描いたものが多いなぁ
    その背景も含め気になる
    私自身は「こんな事が出来るなんて信じられない」側では決してない。
    一歩間違ったらそう、加害者側に立ってしまう事もあると思う
    だからこその何故?が知りたいのだと思う

    湿地より先にこちらを読んで、キャラクターの設定を知らないことに
    差し障りがある程ではないけど、やっぱり一作目から読みたいかな?
    と思っても湿地がシリーズ3作目、緑衣の女で4作目なのね

    古い白骨死体、行方不明の婚約者、エーレンデュレの娘
    女性に纏わる不穏な空気、を濃密に感じながら
    作者の何か物凄く描きたいであろうものに引き込まれていく。

    血の継承、シモンとトマスを分けたもの、答えは出ていない事。
    湿度というか、独特の空気を纏った作品。
    居心地が良いわけではないのに、不思議に落ち着くような何か。

    あとがきのアイスランド人は夢の話をするのが好き。
    というのも凄く興味深くて面白かった。

  • 最初から引き込まれた。家庭内の事は周りは気づかないんだなぁ

  • 読後感は、ミステリとかクライム・ノヴェルよりも、ディケンズやデュマに近い気がしました。物語の締め方が上手いですね。あと、一文一文が割と短くて簡潔で、読みやすかったです。

全58件中 1 - 10件を表示

アーナルデュル・インドリダソンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
アーナルデュル・...
アンデシュ・ルー...
ロバート・クレイ...
アーナルデュル・...
三浦 しをん
カルロス・ルイス...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×