- Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488295042
作品紹介・あらすじ
夫殺しを自白したアレクサンドラ。しかし彼女は弁護士のラスボーンにさえ、犯行に至った真の動機を明かそうとはしない。アレクサンドラの絞首刑を食い止めるべく、モンク、ヘスターは粘り強く関係者に事情を尋ね続ける。そして中央刑事裁判所の法廷で明らかになる戦慄の事実とは…。歴史ミステリの大家が、英国の名家に巣くう忌まわしい秘密を緻密な計算によって描き尽くした雄編。
感想・レビュー・書評
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注目の歴史ミステリ、迫真の後半。
看護婦ヘスターは、クリミア戦争から帰国後、個人で働いていた。
雇い主のティップレディ少佐に励まされ、事件の経過を報告し続ける。
この少佐が感じのいい人なんですよ。
ヘスターは友人イーディスに頼まれて、事件後に険悪な空気の漂う堅苦しい家庭にも足を踏み入れる。
高圧的な祖母、居心地の悪そうな姉娘、表情を変えないその夫、不安定らしい孫娘と思春期の息子。
浮気相手と噂された派手な女性とその一家。
皆、何かを隠している‥?
イーディスの義姉アレクサンドラの弁護は、有名な弁護士ラスボーンに依頼した。
ラスボーンとモンクとは、前2作でも事件解明に協力した間柄なのだ。
アレクサンドラは自供しただけで沈黙を守り、真の動機を明かさない。
事情によっては、死刑を免れることはありうる。
残された子や家族のためにもと、ヘスターも努力を続けるのだが。
私立探偵のモンクは記憶を失った元警官。
しきりに記憶から浮かび上がる美しい女性は誰なのか?という問題も抱えていた。
突き止めるために、気のいい元部下エヴァンの協力を得て、過去の事件の現場を訪れるが‥
記憶を失う前のほうが厳格で人付き合いの悪い性格だったらしいモンク。
ヘスターともやり合うのですが、どこか魅かれ始めている?
いざ公判になるとラスボーンの見せ場。
希望のなさそうな裁判の描写がしだいに盛り上がり、息もつかせぬ迫力。
陪審員や判事の偏りも、現代とは違うんですね。
子供は夫のもの、という妻には親権のない時代の実情が突きつけられます。
読み応えがありました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
下巻の方が読み応えあるのは、やっぱり法廷シーン故なんだろうな。シリーズものとは知らなくて、いきなりこの本から読んだから主役3人の絡みとかモンクの記憶喪失とかそういうのが分からなかったというかいっそどうでもいいというか(…)なところもあるんだけど。陪審団が下した結論に、これだから法だけに依らない陪審員制度って必要なのかも、と思う。
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なんというドラマチック!怒涛の展開に一気読みしました。
19世紀イギリス。高名な将軍が死に、その妻が殺人を自白した。
妻の人柄から、その自白を信じられないその義妹から相談された看護婦へスターは友人の弁護士と元刑事の探偵とで、調査を進めていく。
全体の6割は、殺人の動機を探り、残りの4割は法廷でのシーン。導入はへスター、調査パートのメインは探偵モンク、法廷パートでは弁護士ラスボーンがメイン。
はっきりした証拠もほとんど見つからずもやもやしたまま、裁判が始まりますが、そこからがスゴイです。その時代ならではの状況も含めてこれ以上無い結末が待っていました。
これはほんとに面白かったです。 -
19世紀半ばのイギリスを舞台に記憶喪失の元警部モンクとクリミア戦争で従軍看護婦として働いた経験をもつヘスターが主役。ある将軍が妻によって無惨に殺害される。妻は既に罪を認めて監獄に。妻の自白により嫉妬が殺害理由とされていたが、ヘスターが貴族の友人達の会話を重ねるうちにおぞましい事実が浮かび上がる。
殺害理由は結構早めになんとなくわかるけど、厳格なしきたりに縛られたビクトリア朝時代にそれをあぶり出していく過程や法廷でのバトルで読ませる! -
ヴィクトリア朝時代を舞台にした刑事(元)モンクシリーズ。
名将軍が、晩餐会の夜刺殺される。そして、その妻が犯人として逮捕される。
将軍の妹と、看護婦のヘスターが知り合いだったことから、事件は弁護士ラスボーンとモンクのもとにもたらされる。
なぜ妻が殺害に至ったかが論点になるのだけど、そこに至るまでがすでに長い。上流社会の持って回したやりとりが延々と続く。が、そこにその時代の光と影がじわっと浮かび上がってくるのだから、上手いとしか言いようがないのである。
やっぱ、アン・ベリーは空気というか、空間とか熱量とかを描くのが上手い。
と、相変わらず記憶喪失状態のモンクなんだけど。
記憶がない故に、思わぬところで客観的になってみたり、曖昧になったりと、不安定なのだ。それを表に出したりはしないんだけど、不安定さを自覚しながらぎりぎり踏ん張ってるのが時代とシンクロしているように思えた。
結末へ向かってのどんでん返しの連続は、まさに息をのむって感じでした。
面白かった。 -
裁判が始まってからぐいぐい引き込まれ、ページをめくる手がとまらなかった。シリーズ前巻を読んでいないので、某人物の記憶に関わるシーンは正直あまり興味がわかなかったし、これを読み終えた後でも読みたいという気持ちにはならなかったのだが、法廷シーンは本当に面白かった。ただ、暴かれた秘密についてはある意味がっくりしたので、できれば真相はもっと別の形であってほしかったなと思う。
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久しぶりにアン・ペリーを堪能しました。上巻はかなり緩慢でちょっとだれてきたんですが、後半の裁判の様子はハラハラドキドキの連続でした。事件の背景にある真実は何か?アレクサンドラはなぜ真実を告げないのか。関係者誰もが口を閉ざしてしまっているのを、どうやって真実を立証していくのかが、とてもドラマチックでした。
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記憶喪失の私立探偵が主人公のシリーズものだった。過去を思い出そうとするストーリーが並行して描かれ、余計な時間をとられたという感は強い。また全体にゆっくり進むので、ある程度の忍耐は必要かも。だがその価値はある。
動機が判明する前とそれ以降で、ストーリーの雰囲気は異なる。後者にあたる法廷シーンは読み応えあり。通常のリーガル・ミステリの場合、弁護士と検察の攻防を描くことが多いが、本作品では、被告と証人にスポットが当たる。これほどまでに被告の想いを痛感する作品も珍しい。深くて重い法廷シーンはまさに傑作。
ヴィクトリア朝の雰囲気もよく出ているが、全体的に冗長でもある。キャラクターは魅力的だが、いかにもな人物造形がやや浅く見えなくもない。
よくよく考えてみれば、この時代にこの動機はアリなのかな。その後の展開を考慮するに、荒唐無稽な匂いもするのだが、冒険と言えば冒険かな。圧倒的な説得力があるから結局チャラになってるのかしら。 -
高名で誰からも尊敬される将軍が殺され、その妻が犯行を認める。
夫の浮気が動機だと思われたが、妻は頑なに沈黙を守り続ける。
被告人を救うため、弁護士ラスボーン、モンク、ヘスターが奔走する。
おかえりなさい、アン・ペリー。
そしてやっぱり面白かったよ。
真相はそれほど難しくはないのだけれど、如何にしてモンクとへスターがそこに辿り着くか。そしてそれをラスボーンがどう調理するか。
その道のりが面白くて夢中で読んでしまった。
特に圧巻は下巻100Pをすぎたあたりからの法廷シーン。
陪審員はじめ、誰もが有罪で絞首刑が妥当だと思っている被告を救うためにラスボーンが行う弁術は、迫力。
19世紀半ばのロンドンを舞台にしたほろ苦い勧善懲悪なストーリーだけど、被告の立場になったら自分はどんな手段をとれるだろうか?と考えてしまう。
相変わらず空気の描写にも富んでいて、そのためにキャラクタがみな生き生きしているのも好きだ。
次作、はよはよ!