密室と奇蹟 (J・D・カー生誕百周年記念アンソロジー) (創元推理文庫)
- 東京創元社 (2020年8月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488400613
作品紹介・あらすじ
1906年11月30日、アメリカ合衆国ペンシルヴァニア州に生まれ、アガサ・クリスティ、エラリー・クイーンらとともに本格黄金期を代表する作家として並び称されるJ・D・カー(カーター・ディクスン)。現在でも広く愛される不可能犯罪の巨匠の生誕100年を祝して刊行されたアンソロジーが、デビュー長編『夜歩く』発表より90年にあたる2020年に文庫にて復活。
感想・レビュー・書評
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2006年11月東京創元社刊から柄刀一:ジョン・D・カーの最終定理を除き、2020年8月創元推理文庫化。芦辺拓:ジョン・ディクスン・カー氏、 ギデオン・フェル博士に会う、桜庭一樹:少年バンコラン!夜歩く犬、田中啓文:忠臣蔵の密室、加賀美雅之:鉄路に消えた断頭吏、小林泰三:ロイス役し、鳥飼否宇:幽霊トンネルの怪、二階堂藜人:亡霊館の殺人、の7つの短編。芦辺、桜庭、加賀美、二階堂のパスティーシュが面白かった。
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赤穂に親戚がいるので、忠臣蔵には馴染みがある。
赤穂城跡にも行った。神社にも参った。
案内してくれた伯父は、同じ姓の浪士の一人を指して言った。
「うちの先祖じゃ」
「ええ、すごーーい!」
幼い私は目を輝かせたものである。
見つめる先には得意げな伯父がいて、そのうしろに立つ伯母はしかし、顔をしかめて大きく手を振っていた。
「嘘、ウソじゃが!」
「えーー?!」
話上手、もてなし上手の伯父の、これはネタの一つだったらしい。
「まあた、そげえな嘘を」
「そう言うといたら、本当になるんじゃ」
伯母がぶつくさ言うのもかまわず、伯父は笑っている。
そんな縁戚の祖先(ということになっている)浪士が、なかなかに活躍しているので、私はこの話を機嫌よく読んでいた。
『忠臣蔵の密室』
ちょっと待って。これ、カーがテーマでしょう?
ジョン・ディクスン・カー生誕百周年記念アンソロジーでしょう?
それがなぜ忠臣蔵なの?
おっしゃるとおり。
題名どおり、密室ミステリーである。私は面白く読んだ。
構成に唸った。トリックに頷いた。そして、思った。
カーをテーマにして、なぜ忠臣蔵なのか。
その謎が説かれた時、私は本を投げ出した。
「なんだこりゃー!」
ジョン・ディクスン・カー、あるいはカーター・ディクスン(1906-1977)は、言わずと知れたミステリ界の偉人である。
彼についてよく知らないからと、読むのをためらう人もいるだろう。
しかし、心配は御無用。
簡単にして明瞭この上ない紹介文が、巻頭に書かれている。
「なるほど、密室の巨匠なのか」くらいを押さえれば充分だ。
付け加えるならば、彼の書いた代表的な探偵として、
アンリ・バンコラン
ギデオン・フェル博士
ヘンリー・メルヴェール卿(H.M卿)
この名前を知っておいたほうがさらによいかと思う。
掲載作品は以下のとおり。
『ジョン・ディクスン・カー氏、ギデオン・フェル博士に会う』 芦辺拓
『少年バンコラン! 夜歩く犬』 桜庭一樹
『忠臣蔵の密室』 田中啓文
『鉄路に消えた断頭吏』 加賀美雅之
『ロイス殺し』 小林泰三
『幽霊トンネルの怪』 鳥飼否宇
『亡霊館の殺人』 二階堂黎人
どれも力作である。
カーをテーマにして、これという作家たちが、趣向を懲らし、力を入れ、本気で遊び、楽しむ様が、どの作品からもうかがえる。
トリックに悩み、物語を楽しむ、まさに甲乙つけがたい名作揃いなのだ。
しかし、私の頭は、この忠臣蔵に、すっかりもっていかれてしまった。
「なんだこりゃー!」と本を投げ出して、そして、ひっくり返ってゲラゲラ笑いつづけたのだ。
どうしたらそうなるかって?
読めばわかる。 -
トリビュート、と云ってもいろいろ。
熱心なファン諸賢のレビューとか読んでみたいですね。
小林泰三や二階堂黎人の筆致はさすが。翻訳モノ感や良い意味での泥臭さもあって、正統派のトリビュート、という感じ。
桜庭一樹のバンコランが個人的にはいちばんのお気に入りで、冒険小説感もあって楽しく読めました。バンコランシリーズ最初から読んでみようかな…まとまって読めるのあるのかしら。
『少年バンコラン! 夜歩く犬』なんてタイトルしびれである。
話に上らないからって面白くないわけじゃないんだよ…? なんとなくまとめかたとかリスペクト具合(?)がいまいちぱっとしないな、というだけで…
『忠臣蔵の密室』、なんてモチーフ的にも手法的にも結構好み。ただちょっと最後が蛇足感…これもそういうものなの?
そんなわけで総合☆3.2くらい。
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ジョン・ディクスン・カーのパスティーシュミステリアンソロジー。カーの作品を読んでいなくても楽しめそうですが、読んでいればさらに楽しいであろうことは請け合いの一冊です。
お気に入りは小林泰三「ロイス殺し」。これ、「完全・犯罪」に入っているのならたしか読んだことがあるはず……なのですが。おそらくその時は意味がわからなかったと思うのです。そっか、「火刑法廷」だったのかー! 当時はまだ読んでいなかったので分からなかった。けれど、逆に今は「火刑法廷」の細部をしっかりと覚えていないので、もう一回読みなおしたい気がします(苦笑)。
田中啓文「忠臣蔵の密室」も面白かった。ばりばりの密室ミステリではあるけれど、カーではない……と思ったら。エピローグ2で抱腹絶倒。よくぞここまで見事なオチがつきました! -
ちょっと無理してこじつけている話あり。
話としては日本を舞台にしている2作品が良かったかな。