放課後探偵団2 (書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー) (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488400620

作品紹介・あらすじ

〈響け!ユーフォニアム〉シリーズの武田綾乃、『あの日の交換日記』でブレイク中の辻堂ゆめ、『タスキメシ』『競歩王』などスポーツ小説でも活躍の額賀澪、『楽園とは探偵の不在なり』で話題沸騰中の斜線堂有紀、“若き平成のエラリー・クイーン”こと青崎有吾、5名の1990年代生まれ作家で贈る、学園ミステリアンソロジー!

感想・レビュー・書評

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  • 前作から、10年ぶりの復活となる本書は、創元推理文庫から2020年に発売された、「書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー」の第二弾で、全て1990年代生まれの作家が書かれているのが特徴ですが、どちらかというと、その若さはあまり気にならず、バラエティに富んだ多種多様な作風を、一冊で体感できた喜びが強かったです。


    武田綾乃 「その爪先を彩る赤」
    演劇部の失くなった靴を捜索する話で、犯人や動機は分かりやすいものの、その後の探偵に絡む、謎解きの細やかな伏線が見事だと思いましたし、そこに潜んでいたのは、探偵と「僕」との間における、稀少な価値観の共有で、こうした自分を認めてくれるような喜びは、学園生活では、やはり大切ですよね。

    斜線堂有紀 「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」
    武田さんの、明るい雰囲気の話の後だけに、余計に衝撃的に思われて、犯人探しや事件の謎以上に、後味の悪さが凄まじく、おそらく、大人の全く介入しない状況もそうさせたのかもと思うと、学生たちの持つ視野の狭さに、思考能力の限界や恐ろしさを感じさせられて、もはや狂気的ですらある。問題作。

    辻堂ゆめ 「黒塗り楽譜と転校生」
    ミステリの要素に、やや専門性を感じられたが、合唱コンクールを絡めた清々しい物語には、これぞ青春といった気持ちの高まりを覚え、最初まとまらなかったけど、やるときはやるといった、かつての私の中学のクラスの雰囲気を思い出しましたし、謎の答えについても、同様の青春が滲み出ていて、この時しか体験出来ないことの素晴らしさを、実感いたしました。

    額賀澪 「願わくば海の底で」
    まさか、こうしたアンソロジーで、東日本大震災を題材にしたことに驚き、その筆致も、当時の哀しみだけでは表せないような、複雑で繊細な哀しみを、こと細かく表現しており、『その《潮時》を無理矢理踏み越えてきた』等に感じ入るものもありましたが、ミステリ要素も、最後の最後にどんでん返し的に入っており、しかも、それが見事というのが適切なのかどうか分かりませんが、皮肉にも、震災と絡んでいるからこそ成立するような、叙情感や喪失感に、諦観めいた悲しみ、そして、人として、どうあるべきだったのか? そんな事を考えさせてくれました。

    青崎有吾 「あるいは紙の」
    最近フォローしている人達の間で盛り上がっているのを、私は素知らぬ振りをしつつ、秘かに気になっていた方で、まずは短編をと、お試し感覚で読んでみたら「裏染天馬」シリーズで、しまったと思ったが、どうやら番外編的な感じでもありそうで、主役は「クラーク・ケント」の彼だったが、「向坂香織」とのやり取りに青春のもどかしい切なさがあったり、天馬とのやり取りの素朴さ等、まず物語としての面白さがあっての、最後の謎解きは渋いながらも効果的だったし、それは、向坂自身の思いの詰まった、彼女自身の存在意義を証明したようでもあって、彼の為したことの大きさを実感させられた終わり方は、とても素敵で、このシリーズにより興味を持ちました。それにしても、青崎さんは時代もの好きなのかな。


    以上、五つの短編を読みまして、いくつかの作品で印象的だったのが、この年代特有の、本音を素直に言えなかったり、自分の想定以上の意地を張ってしまうといった、そのもどかしい感情に苦しむ姿であり、これこそ青春に付きものなのかもしれませんが、おそらく実際にどうすれば良いのか、本人自身、分からないのでしょうね。

    しかし、そこを試行錯誤して乗り越えていくことが、大人へと成長していく、一つの要素なのかもしれないと思うと、これらの物語には、そうした成長への願いが込められているようにも感じられて、私の中のどこかで、アンソロジーには単行本に掲載しないような実験的なものや、ちょっとした小品を書いているといった、そんなイメージを払拭してくれた、素敵な作品集でした。

    • akikobbさん
      たださん、111108さん、こんばんは。
      私も青崎さんの名前に惹かれてやってきましたが、額賀澪さんも素敵そうですね。東日本大震災から、安易に...
      たださん、111108さん、こんばんは。
      私も青崎さんの名前に惹かれてやってきましたが、額賀澪さんも素敵そうですね。東日本大震災から、安易に櫻田智也さんを連想してしまいました。ミステリーと一口に言ってもその魅力は作者や作品によってほんとうにさまざまで、幅広いというか懐が深いというか、作家さんてすごいですよね。
      2023/02/14
    • 111108さん
      たださん、akikobbさん、こんにちは。

      本当に、作家さんで問題提起とエンタメを両立させてる人はすごいと思いますね。
      たださん言うように...
      たださん、akikobbさん、こんにちは。

      本当に、作家さんで問題提起とエンタメを両立させてる人はすごいと思いますね。
      たださん言うように実験的だったりちょっとした小品でなくて、読み応えあるアンソロジーなんですね!
      2023/02/15
    • たださん
      皆さん、こんばんは(^^)

      111108さん
      実は、もう一冊、青崎さんの作品を本書と一緒に借りまして、今、ちょうど読んでいるところです。い...
      皆さん、こんばんは(^^)

      111108さん
      実は、もう一冊、青崎さんの作品を本書と一緒に借りまして、今、ちょうど読んでいるところです。いつもの図書館に、それしか無かったから、選択肢は限られていたのですが、こちらも面白いです(^o^)


      akikobbさん、コメントありがとうございます♪
      そうでしたね。櫻田さんの場合、作品それぞれに願いを込め続けるような、そんな未来を思う姿勢が根底にあるから、素晴らしい作品が出来上がるのだと思いますし、作者や作品によって異なる、ミステリの幅の広さは、まさに本書で実感できるのではと思います。

      青崎さんは、学生特有の、内に秘めた思いと真っ直ぐさの、葛藤の描き方に好感を持ちましたし、額賀さんは、ミステリや物語も考えさせられるものがあって良かったのですが、読者に、震災について考えて欲しい気持ちもあったのかな、なんて思いました。機会があれば是非、読んでみて下さい(^^)
      2023/02/15
  • それぞれの作者の個性が出ていて面白かったですね。

    東日本大震災を舞台にした「願わくば海の底で」は考えさせられましたね。あの状態で何ができるのか。推理小説だけにとどまらないものがありました。

    学生時代は一度きりだけど、人生は続くわけで、その一時だけが特別とも思わない私ですが(学校大嫌いだったし)、読書として楽しむのは構わないですよね。

  • 五人の作家達が、高校生の青春をテーマにしたミステリーです。

    初めてアンソロジーという作品を読みましたが、それぞれの作家さんの色が出ていて、面白かったです。今までの作品から出てくる雰囲気や構成が滲みながらも短編に仕上がっていて、1つで5つの味を味わえました。

    「その爪先を彩る赤」  武田綾乃 
    演劇部で使われていた赤い靴が行方不明。果たして何処へいたか?
    主に女子高生を中心に描いていて、生き生きとした表現にアニメを見ているような雰囲気や元気さが伝わってきました。


    「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」 斜線堂有紀
    軽度な犯罪かと思いきや、殺人事件が発生。果たして犯人は?
    サスペンスを得意としている斜線堂さん。ガッツリと本格的で、短編集ながらもドンデン返しや高校生たちの繊細な心理描写が描かれていて、満腹感がありました。


    「黒塗り楽譜と高校生」辻堂ゆめ
    合唱の練習中、途中の譜面から黒塗りになっているのを発見。果たして誰がやったのか?
    伏線の回収が絶妙な辻堂さん。今回も何気ない行動が、後に大きな意味を持っていることに実力発揮されている印象でした。「負」の状況になりながらも、前に明るく踏み出そうとしている表現や雰囲気が良かったです。


    「願わくば海の底で」 額賀澪
    東日本大震災から5年後。あの日の祖父の足取りが知りたいという三浦。色んな所で証言を聞いていると、ある隠された事実が見えてきます。
    この作品の中では印象深くて、心に刺さり、さらに重い気持ちながらも良かった作品でした。登場人物の心理描写が丁寧で、思いの丈をぶちまけるシーンが読者の心を揺さぶりました。


    「あるいは紙の」 青崎有吾
    最近何度か見かける高校内での吸殻。誰が吸っているのか、あの探偵が登場します。
    「〜の殺人」シリーズの裏染天馬の推理が華麗で、披露する人は異なっていますが、着々と犯人に追い詰めていく過程が面白く、短編では短すぎる。もう少し読みたいと感じてしまいました。

    一人一人の作者さんの特色が詰まった作品で、軽いものから重めな話まで面白かったです。

  • いま最注目の俊英5人が描く『放課後探偵団2』発売! 初版本のみ特製サインカードを封入! 応募者プレゼントやオンラインイベントも!|株式会社 東京創元社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000009527.html

    放課後探偵団〈2〉 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー - 青崎有吾/斜線堂有紀/武田綾乃/辻堂ゆめ/額賀澪|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488400620

  •  放課後がテーマのアンソロジー。

     一番のお気に入りは、額賀さんの「願わくば〜」。
     美術部の先輩と後輩の何気ない一コマから一転。あの津波の痛ましい震災。そして震災から5年経ったある日、東京から帰省した宗平は美術部の先輩の藍と再会し、同じ職場で働く三浦の祖父の震災時の足取りを辿る手伝いをして欲しいと頼まれて… 
     震災の生々しい描写が痛ましく、ただ辛いだけの追憶かと思いきや、まさかのラストで呆然でした。行方不明の菅原先輩はきっと、宗平が思った通りの態度を取る様な気がしました。

     青崎さんの裏染シリーズの番外編。このシリーズ、又読みたいです!



  •  
     粒ぞろい、とはこのこと!

     全5編、どれも楽しく読めました。だいたいアンソロジー読むとその中から気に入った作家さんのを見繕って2、3冊買ってしまうんだけど…さて…


    「その爪先を彩る赤」武田綾乃
     出ました百合ミステリ。あ、百合って部分ネタバレだけどいかにもな疑似餌だからそれくらい大丈夫だよね? 素敵なペアリング、そしてこのテーマもほんとうに放課後にしっくりきていて。開幕にばっちり。


    「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」斜線堂有紀
     念願の斜線堂さん! 思っていたとおりというか、なんというか。文庫が…待てなく…なる…


    「黒塗り楽譜と転校生」辻堂ゆめ
     片想い探偵のひとね。もう少し上の年代だと思ってた…90年代すごいなー黄金世代か?
     気持ちいい、短編。


    「願わくば海の底で」額賀澪
     いちばん重くて、その分いちばん印象に残った一編。甘酸っぱくて脳天気な放課後から始まる関係性というのが、ずっしりと響いてくる。使いかたである。


    「あるいは紙の」青崎有吾
     はいはい安定(笑



     いやーこの冬は楽しい読書の冬になりそうで。もっと読みたいから☆4。勝手か。

  • 各作品の扉にも、それぞれ違うイラストレーターが描いているぜいたくな一冊。装画は5編すべての要素を盛り込んでいるのも楽しい。

    『願わくば海の底で』(額賀澪)が深い余韻を残した。震災を扱っていて、行方不明になっている人の"あの日"に思いがけない事実をもってくる。亡くなったかどうか100%の確信が持てない心理状態について、切なく思いを致す一作。
    「大勢の人が、その《潮時》を無理矢理踏み越えてきた。」

  • 2020年11月創元推理文庫刊。書き下ろし学園ミステリアンソロジー。シリーズ2作目。武田綾乃:その爪先を彩る赤、斜線堂有紀:東雲高校文芸部の崩壊と殺人、辻堂ゆめ:黒塗り楽譜と転校生、額賀澪:願わくば海の底で、青崎有吾:あるいは紙の、の5つの短編。5人の作家さんは、いずれも90年代生まれとか。武田さんのお話は、探偵役に魅力があり、とても面白かった。斜線堂さんのお話は、書出しと書き終わりが見事で、少し怖かったですが、展開が楽しかったです。

  • 日常の謎系と思いきや、震災時の高校生の話があったのはつらかった。当時高校2年と卒業したばかりの3年生の5年後。違うアンソロジーで読みたかった気もする。

  •  ☆「その爪先を彩る赤」(武田綾乃)
    生徒会でこき使われてるボクっ娘が、多重人格と言い張る理事長の娘とともに、演劇部の小道具(赤い靴)盗難事件の謎を追う。
     ☆「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」(斜線堂有紀)
    文芸部の部室で部員が殺された謎を、奇人の部長が解く。ほのぼの系が多い中で、オチの付け方など、かなり異質。
     ☆「黒塗り楽譜と転校生」(辻堂ゆめ)
    合唱コンクール用の楽譜が黒塗りにされた理由を、語り手の少女の、幼馴染である変わり者の男子が解く。リア充滅せよ。
     ☆「願わくば海の底で」(額賀澪)
    これもトーンが重い。3.11で消息を断った祖父の足跡を追う青年を、手伝うことになった語り手。彼の美術部での先輩もまた、震災で行方不明となっていた……。これミステリになるのかな、と思ってると。
     ☆「あるいは紙の」(青崎有吾)
    裏染天馬シリーズのスピンオフ。本来ブレーキ役の新聞部副部長が、彼なりに探偵役を務める。このシリーズ食わず嫌いで読んでなかったけど、読んでみようかな。

    以上5作。学園モノだからか、探偵役のキャラが濃い話が多い。そのせいでシリーズ物の第一話みたいだな、と感じた。実際にシリーズ物なのは、「あるいは紙の」だけのようだが、案外このキャラで別の話が書かれるかも知れない。

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著者プロフィール

★小説家/推理作家。“平成のエラリー・クイーン”の異名をとる、本格ミステリ界の若きエース! 代表作に『体育館の殺人』『図書館の殺人』『ノッキンオン・ロックドドア』など。

「2018年 『ネメシス ♯40』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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