11枚のとらんぷ (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書) (創元推理文庫 M あ 1-1)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 56
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  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488402112

感想・レビュー・書評

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  • さほどマジックに関心があるわけではないため、たびたび書店で目にしながらも触手ののびなかった一冊。ところがふとしたきっかけで手にし読み始めたところ、思いのほか〝愉しい〟一冊であった。

    とある地方都市の、アマチュアマジシャンの同好会「マジキクラブ」。その晴れ舞台ともいえる発表会でのドタバタ騒ぎを描いた第一部。そして、殺人事件の発生。メンバーそれぞれの紹介にもなっている。
    第二部は、メンバーのひとりである学究肌の鹿川が11のトリックを小説形式で描いた私家版『11枚のとらんぷ』がまるのまま収められている。主人公はそれぞれメンバーが実名で登場する上、後の謎解きに役立つ伏線が多数ちりばめられている。
    ジャックタチの映画を彷彿とさせる、世界中の奇術師や愛好家たちが一堂に会する一大イベント「世界国際奇術家会議」の乱痴気騒ぎの中、ちいさな事実の積み重ねが犯人の姿をあぶりだしてくる第三部。そして、思いがけないシナリオの存在。自身、奇術愛好家として知られ玄人はだしの腕前をもつマジシャンでもあったという著者だけに、この章は愉悦にひたりつつ書いたであることが読者にも伝わってくる。だからこそ、読んでいて楽しい。日本の奇術史の紹介や明治時代にヨーロッパに渡った日本人奇術師の横顔なんてとても勉強になる。

    作中、フランス人マジシャンが口にする「私は現象のごたごたした奇術は好みません。その代わり一つの奇術の中にある不思議さを、私は大切にいたします。一人息子のようにね」というセリフは、奇術愛好家である著者の美意識の表明であるとともに、事件の謎を解くひとつのきっかけにもなっている。

  • 奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって発見される。
    しかも死体の周囲には、奇術小説集「11枚のとらんぷ」で使われている小道具が、壊されて散乱していた。
    著者鹿川は、自署を手がかりにして真相を追うが・・・。

    これもすでに古典の名作。やっと読めました。
    とにかく作中作の「11枚のとらんぷ」に驚き。
    マジックネタの短編集といった体裁ですが、これだけを抜き出して読んでもそのままイケます。
    それがまた本編の手がかりにもなっているという。
    凄い。

    全編マジックだらけで、奇術の世界にどっぷりです。
    次から次へと繰り出されるマジックに、想像だけでもクラクラ。
    長~いマジックショウの間に事件が解決されたような感覚でした。
    凄かった。

  • 古い作品だが非常に読みやすい。作中にショートショート作品を入れ、それを本編のトリックに使うという仕掛けは斬新で素晴らしい。ただ、全体として意外性がなかった。フーダニットではなく、ハウダニットの作品だとは思うが、「へ〜なるほど」といった感想しか浮かばず、爽快な読後感というわけではなかった。

  • 僕が初めて泡坂妻夫を読んだのは中学1年のとき、文庫化されたばかりの「11枚のとらんぷ」という小説を、カバー買いしたのが始まりでした。とにかくこんなに面白い本には出会ったことがありませんでした。
    長編小説の中に短編集が一つまるまる入っていて、マジックの種明かしの体裁をとったその短編集がとにかく滅法面白い。しかも、それが殺人事件の犯人を特定する大事な鍵にもなるのです。いったいどうすればそんなややこしい事を思いつけるのだろう、この著者の頭の中はどうなっているのだろう。それを調べたら理由はすぐに分かりました。この著者は有名なアマチュア・マジシャンだったのです。
    それ以来、泡坂妻夫の本はいつも僕の傍らにあり続けました。新作はもちろん読んでいましたが、「11枚のとらんぷ」も本棚のいつも手の届く場所に置かれていました。
    そして30年以上がたち、泡坂妻夫の新作はもう読む事が出来なくなってしまいました。でも、今も僕の本棚の手の届く場所には「11枚のとらんぷ」が置かれているのです。

  • 作中作が素晴らしい3部構成。マジシャンでもある作者の魅力を堪能できる。伏線の張り方が見事。1つ1つのエピが面白く場面展開が早いので、推理する意識がいつの間にか消え失せ、気がつくと作者の術中にハマっていた。奇術師・厚川昌男の腕に見惚れていると、ミステリ作家・泡坂妻夫に背負い投げを喰らわされる。

  • 初の泡坂妻夫。噂に違わないおもしろさ。
    近年はマジックの種あかしがテレビや書籍で頻繁におこなわれるが、書かれた当時はどうやら違っていたらしい。作中作の短編集にかかれていることが事件解明の重要な手がかりになっているのが好みだった。

  •  最後の推理を披露する場面を読むと、緻密でミステリとして完成度が高いなと感じた。
     ストーリーとしては二転三転したり、スリリングな部分がなく、淡々としていると感じた。そのため、長編小説として読んでいるのが少し辛かった。
    最近はキャラクターが立っている本ばかり読んでいたからそう感じるだけかもしれないが。

     長編の小説の中に短編の小説が入っている構成になっていて、追想五断章を思いだした。
     短編小説部は、短いがミステリとして成り立っていて、読んでいて苦でなく、面白かった。

     

  • マジックショーの途中で姿を消した女性が、自宅で殺害された。遺体の周りには、『11枚のとらんぷ』に出てくる奇術の道具になぞらえたものが落ちていた。マジックショーに出ていたメンバーには、鉄壁のアリバイがあって…。


    初めて読む作家さんだった。たぶん、かなり古い話だと思う。だけど、その古さはあまりかんじられなかったなぁ。
    話の構成としては、Ⅰ部からⅢ部までの構成。読んでる最中は、Ⅱ部もいいから早く犯人教えてくれよーとか思っていた。Ⅲ部になったら、なんか話がちがくない?とか思ってた。だけど、どんどん読んでいくうちに当たり前だけど、全てはフラグだったのね!となる。前のところに一度戻って読み返す→あ!確かに!となるを何度か繰り返した。


    マジックショーってテレビでも最近見なくなった気がする。なんとなく、マジックショーを見に来ていたガキンチョたちや三角のおばあさんと同じ気持ちになってしまうだろうなぁ。


    2017.8.15 読了

  • 奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって発見される。しかも死体の周囲には、奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使われている小道具が、壊されて散乱していた。この本の著者鹿川は、自著を手掛かりにして真相を追うが…。

    というのが粗筋ですが、本作の特徴は作中作となっているところで、作品中に登場する『11枚のとらんぷ』がそのまま収録されているのです。おまけに、これがいわゆる手品のネタ本となっていて、11種類の手品を紹介している。更にこの手品はそれぞれ実演できたりもするという。

    本作品の著者、泡坂さんがプロのマジシャンだそうで、なるほどミステリとマジックには似た部分があるのかなと思いつつも、多芸ぶりに感嘆してしまいます。

    物語全体としては三つの部分からできています。

    1.アマチュアマジシャンたちのステージ。
    2.奇術小説集『11枚のとらんぷ』。
    3.世界国際奇術会議。

    事件発生、検証、解決という具合でしょうか。

    私は手品を見るのが好きですし、見せられれば多少タネに興味を持ったりもするのですけど、そこは執拗にせず、目の前の不思議な様を楽しむようにしています。
    一方で、作品ではマジシャンから見た客の様子が書かれていたりもするのですが、中には執拗な方もいるようです。時代が古いせいもあるのかなと思ったりもするけど、そういった面でのコミカルな描写は、個人的に苦笑いでした。

    ただ、作中作『11枚のとらんぷ』は楽しめました。

    この作中作から犯人を絞っていく意味でも、マジックのネタとしても。でも、あまり詳しくは触れられないけれど、マジックはネタを知らない方がいいなあ、とは思います。分かってしまうとあっけないというか何というか…。

    犯人を限定していくための伏線やロジックは丁寧です。最後の最後にちょっとした一幕があるのですが、そこにも繋がっていてキレイですし、文章自体も読み易いのでお薦めです。作中作も短編集だから小説を読み慣れていない方にもいいかな。

    とはいえ、ちょっとだけ気になった部分はありました。
    細かくは言えませんが、動機についての部分。犯人の状況を考えると仕方ないのかもしれないけども。

    楽しい作品です。

  • 仁義なき日本沈没→春日太一→サンキュータツオ→米粒写経→小山正→泡坂妻夫(泡中はは己じゃなくて巳!)に辿り着いて久々の創元推理文庫!緻密な工芸品のような推理小説、いや推理小説のような手品でした。

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著者プロフィール

泡坂妻夫(あわさか つまお)
1933~2009年。小説家・奇術師。代表作に「亜愛一郎シリーズ」など。『乱れからくり』で第31回日本推理作家協会賞。『折鶴』で第16回泉鏡花文学賞。『蔭桔梗』で第103回直木賞。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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