湖底のまつり (創元推理文庫) (創元推理文庫 M あ 1-3)

著者 :
  • 東京創元社
3.26
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本棚登録 : 927
感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488402136

作品紹介・あらすじ

●綾辻行人氏推薦──「最高のミステリ作家が命を削って書き上げた最高の作品」

傷ついた心を癒す旅に出た香島紀子は、山間の村で急に増水した川に流されてしまう。ロープを投げ、救いあげてくれた埴田晃二とその夜結ばれるが、翌朝晃二の姿は消えていた。村祭で賑わう神社に赴いた紀子は、晃二がひと月前に殺されたと教えられ愕然とする。では、私を愛してくれたあの人は誰なの……。読者に強烈な眩暈感を与えずにはおかない、泡坂妻夫の華麗な騙し絵の世界。解説=綾辻行人

感想・レビュー・書評

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  • 泡坂妻夫さんの作品は騙されることを楽しむようにできているので、ネタバレレビューは見ないで読んだ方がいい。
    このレビューもトリックのネタバラシはしていないが、ストーリーに触れているのでこれから読む人はスルーしてください。

    同じ物語を2人の視点で語る小説は多々あるが、これは4人の視点で語られる珍しいものだった。
    しかも先ほどと同じ状況にいるはずの人物が異なっている。

    一章 紀子 川で流されそうになった紀子は晃二に助けられ一夜を共にする。だが晃二は1カ月前に死んでいた。

    どういうことだ?幽霊の物語か?実は晃二は生きていた?

    二章 晃二 晃二は川で流されそうになった緋紗江を助け一夜を共にする。これがきっかけで晃二と緋紗江は結婚する。

    紀子と晃二の出来事より前の晃二が確かに生きていた時の話だ。この後どういう展開になるのか?

    三章 粧子 元恋人をたずねて粧子が来た。粧子は晃二と同じ日に毒を飲み、二人とも川に転落し流されて死ぬ。

    四章 緋紗江 晃二の屍体は翌日みつかったが、粧子は靴しかみつかっていない。粧子と緋紗江、紀子と緋紗江の関係が明かされる。

    終章 粧子の遺体が見つかった時、紀子と緋紗江が偶然鉢合わせする。

    読者は四章でこの物語の謎解きができている。
    紀子の発した、真相を理解したことがわかるセリフで物語が終わる。

    不思議な物語だが種明かしされたあとに読み直してみると、うまく状況の細かい描写ができていると思う。
    泡坂妻夫氏のトリックアイデアは私の想像力の範疇を越えている。
    1978年と50年近くも昔の作品だと思うと、当時の読者はこの展開には不慣れであるが故目新しさも感じただろう。
    しかし、このトリックはさすがに無理がある。
    さすがにバレるだろうという状況に全く気付かないで物語が進むのだから、読者が騙されるのもしかたがない。

  • 読み始めると官能的な表現があり、単なる推理小説ではないと感じながらページを捲る。ここで既に泡坂妻夫のトリックに嵌っていたようだ。小説の紹介文にあるような、まさしく騙し絵の世界でした。著者の他の作品も読んでみたい。(本屋さんでなかなか見つからないのが残念)

  • 山間の村で川に流された女性、助けてくれた青年と恋に落ちるが、その青年は一月前に死んでいたという第一章。青年が同じように川に流された女性を救い出す場面がリフレインする第二章。官能的かつ騙し絵的ミステリですが、、、

    とんでもないバカミスかつエロミスで笑ってしまいました。なんでしょうこの話、、、

  • このトリックは無茶がないか? だって一夜を共にした男が女だったんだぜ?


  • これは面白いミステリーでした。
    ミステリーらしいミステリー。古典。
    幻影小説なのかと思いきや…
    時系列トリックかと思いきや…
    紀子、晃二、粧子、緋紗子そして終章
    各所に散りばめられた付箋はちゃんと掬い上げられて一つの線になっていく。しかもちっとも無理がない。
    過疎化の進む村…怪しくも哀しい風習を受け継がれた祭り。
    人は一瞬で恋に落ちる。
    人は何度でも恋をする。
    という大前提のもとがあってこそのヒューマンミステリー
    2019.1.9
    今年の2冊目

  • 『妖女のねむり』と同じく、幻想的な雰囲気たっぷりのミステリです。
    一晩を共にした人が、実は1カ月前に死んでいたという魅力的な謎とともに、自身の記憶と一致する部分もあれば、齟齬を感じるといった主人公の不安もこちらに伝わってくるようでした。
    途中、明らかに意図的なデジャヴを誘う記述も、読者の目を廻す役割を担っています。
    物語も後半に差し掛かると、怪しげな女性の目撃などで、より妖しい雰囲気が漂い始めます。
    そして明かされる真相は、やっぱり妖しいものでした。トリックというよりは、イリュージョンを見せられた気分。右手に注目を集めておいて、左手で小細工をするような、まさにマジシャン泡坂妻夫らしい仕掛けです。
    『妖女のねむり』に勝るとも劣らぬ傑作です。

  • 『乱れからくり』と並んで初期の泡坂の代表作と評される本書は、やはり時代の流れか、当時の読者諸氏を唸らせた衝撃はもはや薄れてしまっていた。価値の多様化が顕著になった昨今では、同性愛が真相のファクターであることが特に奇抜さを齎さなくなってしまった。

    しかし、それでも尚、作者は手練手管を使って読者を煙に巻く。
    女が男に化けて女をイカせる。この謎の解明は素晴らしい。

    しかし本作を読んで痛感したのは、時代がオープンになればなるほど、我々の常識が崩され、謎という暗闇が小さくなってしまう事だった。

  • 幻想的で甘美な世界へ。死んだはずの人間に命を救われたという女性。導入部から心を掴んで離さない卓越した筆致に酔いしれる。紀子とは違い、あえて川の流れに身を任せて読んでいった。

  • まんまと騙された!

    新造のダムによって、湖に沈みゆく村を舞台にした本格ミステリ。
    この村の景色や川や滝の描写が素晴らしい。
    本当に有りそうにも思えるし、どこか幽玄な雰囲気も併せ持って、まるで旅しているような気にさせられた。

    ダム誘致派の優良議員や反対派の運動とそこに飛び交う金。そんな政治的なかけひきを背景に、男と女の妖しくも濃密な情念が、この作品を立体的なものにしている。
    そして、まさにその男女の交わりのシーンが、官能小説さながら!
    エロい!!

    そして、その目眩でくらくらする物語にはまっていると、作者の思う壺だ。
    まんまとひっかかってしまうのだった。

    日本にはこんなにも優れたミステリがあるんですね。
    これがしばらく絶版だったとは。

  • 失恋を機にある山奥の村を一人訪れた紀子は、川で溺れそうになった所を一人の若者に助けられ、彼の持ち家である空き家で一夜を共にする。
    翌朝姿を消したその人・晃二を探すが、彼は一月前に毒殺されていた。
    紀子が出会ったのは誰なのか。晃二は何故死んだのか。恋い慕う人を求めて突き進んだ先に何があるのか。
    全般に散りばめられた官能的な描写が、眩暈と共に作者が描く騙し絵の中へと誘ってくれる。

    今読むとどうしても時代の差を感じるけれど、お陰で閉鎖的な雰囲気と狂気の香りが増している。
    章が変わる毎に驚き慌てて前章を読み返すのを繰り返し、まさかないだろうと早々に否定した予測をまさかの力技で実現されてしまった…。
    古典の再販とは言え、結末に本気で驚くミステリーに出会ったのは久しぶり。

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著者プロフィール

泡坂妻夫(あわさか つまお)
1933~2009年。小説家・奇術師。代表作に「亜愛一郎シリーズ」など。『乱れからくり』で第31回日本推理作家協会賞。『折鶴』で第16回泉鏡花文学賞。『蔭桔梗』で第103回直木賞。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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