亜愛一郎の逃亡 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書) (創元推理文庫 M あ 1-6)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488402167

感想・レビュー・書評

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  • 長身で二枚目ながら、どこか人懐こくて憎めない、不器用さが魅力の、『亜愛一郎三部作』も、ついに本巻で完結を迎えました。

    初期の頃と比較して、思いきり驚かされるような、大トリックこそ無いものの、より人間味溢れるやり取りが、楽しくも優しい物語を形成する中に、何気ない顔をしてひっそりと佇んでいる、そんな騙し絵的な伏線は相変わらずの切れ味を持ち、それは、日常生活に於いても、時には、視点を変えて世の中を見てみるのも面白いよといった、泡坂さんの温かいメッセージとも捉えられて、とても印象的でした。


    最終巻なので、特に気になった話だけ、書いていきます。

    「赤島砂上」
    初っ端から、人間心理の裏を突いたような展開に、早速、泡坂さん流トリックへの拘りを感じさせられ、それは、背景や色に捕らわれないデッサンに例えたり、『隠すことは、顕れること』の台詞にも、よく表れています。

    「歯痛の思い出」
    亜(私の中では、ああさん)と井伊(いい)と上岡(うえおか)、三人が織り成すユーモラスな物語は、既に名前で遊んでいる感もあり、それは、「上岡菊けこ………? あら、失礼しました。上岡菊彦さん」と、敢えて上岡だけフルネームで呼ぶ台詞を、お笑いの天丼のように繰り返す、そんな遊び心が印象的な中でも、しっかりと物事の真意を見つめ続けていた、ああさんの推理眼は、お見事の一言。

    「赤の讃歌」
    あのお響姐さん、再登場には、泡坂さんもよく分かってらっしゃると、思わず口元がほころぶ中、そんな彼女と肩を並べるくらいの存在感を放つ、「阿佐冷子」の登場も楽しくて、物語が更に盛り上がる中、ここでも言葉遊びの妙が印象的で、それは、『亜→阿佐→朝日→浅日向→麻雛壇駅』と、もはやパズルみたいであるが、最も印象的だったのは、「鏑木正一郎」の絵の芸術性に潜まれていた、胸を捕まれるような彼の本能からの思いだった。

    「火事酒屋」
    渋いながらも、今作で私が一番好きなトリックで、これは想像してみないと実際分からないなと思わせた、普段全く気にかけないような点に着目している、泡坂さんの視点の多さに、改めて脱帽であり、「美鞠」のああさんへの好意的な応援が印象的な中、実はラストへの伏線が彼女の台詞に含まれている。

    「亜愛一郎の逃亡」
    そして、最後の作品であるが・・ここまで、主人公の正体を、はっきりとした形で提示しているのも、却って、珍しいのではないかという新鮮さに浸る中(特に推理ものに於いては)、そういえば何度か、あのワード出てたなと思い出して、念のため、過去の二作も見てみたら、「狼狽」の「ホロボの神」にもありましたよ・・・泡坂さん、もしかして、この時からこのエンディングを考えてたのかな。だとしたら、凄いね。

    そして、ファンならば誰もが嬉しくなるであろう、終盤のあの粋な計らいには、泡坂さんの登場人物に対する愛情の極みを感じさせられて、嬉しい気持ちになるとともに、これでもう、本当にああさんとは会えないんだということも実感したら、自然と目頭が熱くなってきて・・・正直な気持ち、もっともっと、ああさんの活躍を見たかった。でも、最後の最後も彼らしくて、こういう終わり方で良かった。
    後は、魞沢クン頼んだよ(勝手に後継者にするなってね)。

    最後に、亜愛一郎といえば、事の真相を悟った時に見せる、白目をむいた姿であり、他の人がしても何とも思わないが、ああさんがすると、そんな怪しい姿にも愛しさを感じさせられて・・そんな気持ちを回文に表しました。
    さようなら、ああさん!
    また会う日まで、元気でね!!


    『あいためしきたとうとだきしめたいあ』

    『開いた目、四季経とうと、抱きしめたい、亜』

    • たださん
      akikobbさん
      嬉しいコメントを、ありがとうございます(^^)

      一度読んだ筈でも、全く思い出せなかった分、物語は楽しめましたが、やはり...
      akikobbさん
      嬉しいコメントを、ありがとうございます(^^)

      一度読んだ筈でも、全く思い出せなかった分、物語は楽しめましたが、やはり最後の粋な計らいのシーン、涙がこぼれてしまいました。これは堪えきれなかったです。泣けますね。

      そして、泡坂さんの愛は全てに平等な眼差しを向けているようで、とても印象的でしたし、優しい人柄が滲み出てますよね。

      それから、読むと、現実から離れて、ほのぼのと楽しい気分にさせてくれた、ああさんには、どうしても感謝の気持ちを込めたかったので、本文にあやかって、回文は、無い知恵絞って、一生懸命頑張りました。
      2023/05/02
    • 111108さん
      たださん、こんばんは。
      akikobbさんもこんばんは。

      たださん、亜愛一郎シリーズ読了おめでとうございます⁈このフィナーレは感動でしたね...
      たださん、こんばんは。
      akikobbさんもこんばんは。

      たださん、亜愛一郎シリーズ読了おめでとうございます⁈このフィナーレは感動でしたね。私もakikobbさん同様細かいところ忘れかけてたのを思い出させていただきました。
      そしてたださんの回文、「抱きしめたい、亜」に思わずきゃー♡となりました♪

      akikobbさん、惜しまれ引退する大スター、確かに!アワツマ流粋ですよね♪

      後継者、魞沢くんでいいと思います!
      2023/05/02
    • たださん
      111108さん、こんばんは。
      嬉しいコメントを、ありがとうございます(^^)

      そんな、きゃー♡だなんて。
      あくまで、精神的な気持ちで、と...
      111108さん、こんばんは。
      嬉しいコメントを、ありがとうございます(^^)

      そんな、きゃー♡だなんて。
      あくまで、精神的な気持ちで、という意味ですよ(^^;)

      そうそう、akikobbさんも書かれてましたが、確かに、泡坂さんの亜愛一郎への思い入れの深さは、あの御膳立てされた素晴らしいフィナーレに、よく表れていて、とても感動的でした。
      本当に終わっちゃったんだな・・・

      それから、魞沢クンへの共感、ありがとうございます(^^)
      2023/05/02
  • 第三弾。力技トリックが多い気もしたが、いつもの展開と噛み合わない会話にニヤニヤしてしまう。歯医者嫌いの井伊刑事に亜が懐く『歯痛の思い出』響子博士と美術評論家玲子氏の共鳴が笑える『赤の讃歌』が好き。華々しいエンドロールで幕を閉じた。

    • たださん
      111108さん、お返事ありがとうございます♪

      そうですか、一緒だったのですね。覚えていなければ、新作を読む感覚で、また新鮮な気持ちになれ...
      111108さん、お返事ありがとうございます♪

      そうですか、一緒だったのですね。覚えていなければ、新作を読む感覚で、また新鮮な気持ちになれるからいいですよね(^o^)

      寝落ちしてしまう、他人事とは思えません。私の場合、最近、特に仕事が忙しくて・・新たな作家さんというよりは、つい読みたいものに行ってしまう傾向が多いです。絵本は別ですけどね。
      2022/12/04
    • ポプラ並木さん
      111108さん、これも濃ゆい人間が出てきそうですね。面白そうです。早いうちに読みたいです!!
      111108さん、これも濃ゆい人間が出てきそうですね。面白そうです。早いうちに読みたいです!!
      2022/12/10
    • 111108さん
      ポプラ並木さん、コメントありがとうございます。「濃ゆい人間」だらけですよ!それに対していつもと変わらぬテンションの亜愛一郎も良いです♪
      ポプラ並木さん、コメントありがとうございます。「濃ゆい人間」だらけですよ!それに対していつもと変わらぬテンションの亜愛一郎も良いです♪
      2022/12/10
  • テレビで亜愛一郎の2ドラをみてしまった。市川猿之助?!
    別物にもほどがあるよーとなんだかガッカリしてしまい、ドラマも本も放置しまっていた。
    先日、コメントを頂いて慌てて手にとった最終巻。

    今回も絶妙なタイミングで事件に巻き込まれてる亜愛一郎さん。
    ヌーディストクラブの小島、歯医者、北海道の湖、怨霊の集合地の山路。
    どこにでも出現するけれど、ちょっとダメダメぶりが浅い気が。
    その代わり、彼に魅力される女性が前作までより多い、もちろんドン引かれるわけだけど。
    勝手に脳内で愛一郎さんを阿部ちゃんとか沢村一樹などで演出していたので、ミミズ踊りにはまいったー。頭に阿部ちゃんと沢村さんのミミズ踊りがこびりついて。
    彼らならきっとやってくれるし!

    「双頭の蛸」が好き。こういうラストにニヤリとするお話は久しぶり。
    そして最終話はグランドフィナーレ。
    カーテンコールのようだった。
    私としては今回も回文よりもやはり亜愛一郎さんの自己紹介がツボ。

    「ア、ジ、ア…するってえと、最初の方のアでござんしょうか。それとも、後の方のアでござんしょうか?」
    「…多分、前の方の亜でござんす」

    「僕は悪運ではありません」

    「いえ、亜南ではありません。亜、なんです」
    「ですから、亜南さんですね」
    「いえ、亜なんです」

  •  本日、亜愛一郎の逃亡を読了しました。

     短篇集。「赤島砂上」「球形の楽園」「歯痛の思い出」「双頭の蛸」「飯鉢山山腹」「赤の讃歌」「火事酒屋」「亜愛一郎の逃亡」の八作品を収録。
     亜愛一郎シリーズの最終短編。最終作にて、亜愛一郎の秘密が明かされ、フィナーレを迎えます。
     前作品からずっと気になっていたのですが、本作のいたるところに、同一のモブキャラが登場し、モブは全箇所でみな同じキャラクタを使うという手法はなかなかおもしろいなと思ってました。
     作品は変わらず心理トリック。ですが、ここまで読んできて大体わからず、あっと言われることが多く、学ぶことが多い作品でした。「双頭の蛸」「飯鉢山山腹」などは犯人はこいつだ、とは思えたものの、その解決にいたるプロセスが思いつかなかったです。それが、大したことじゃなかったりするので、やられたなと思いました。ちなみに、一番驚いたのは、「球形の楽園」でした。
     亜愛一郎シリーズはこれにて終了となるのですが、面白いシリーズでした。泡坂氏の作品をさらに読んでみたいと思います。

  • 亜愛一郎シリーズ完結。ついに亜愛一郎の正体が明かされるっ! しかも毎回毎回事件現場に居合わせたあの人……そうかやはり偶然じゃなかったのかっ!
    イチオシ一作は「歯痛の思い出」。謎のとっかかり部分はものすごく何気なくてつまらないのに、その分真相への飛躍が見事。たぶんこれ、私は間近に見ていたとしても不審にも何も思わないと思う。観察眼ってのは重要だなあ。
    「赤の讃歌」も好きな一作。真相は比較的見えやすいけれど、雰囲気がかなり好み。登場人物の名前での言葉遊びも洒落がきいてて好き、かも(そういえば「歯痛の思い出」も言葉遊びだったなあ)。

  • 人嫌い、乗り物嫌いの大富豪は過剰な自己防衛のため、丸いシェルターを作り出したが、建設途中、密室状態のシェルターの中でコロされていた―「球形の楽園」。 例年にない大雪で客足のとだえたホテル。しかも突然の地震と、隣町で起きた殺人事件の知らせ。気味悪く思っている所へ客がやってきた。―「亜愛一郎の逃亡」他。 亜愛一郎が活躍する傑作事件簿・8篇を収録した連作短編集第3弾。

    最終章とも言える「亜愛一郎の逃亡」では、あまり事件性はないが、亜愛一郎の正体が明らかにされるという点では大事件!あの”三角形の顔をした小柄な洋装の老婦人”の正体もわかり、その意外な結末に驚かされます。 ミステリーとしては「飯鉢山山腹」「双頭の蛸」が面白かった。

  • 連作短編ミステリ・亜愛一郎3部作完結編

    読了日:2006.06.01
    分 類:連作短編
    ページ:352P
    値 段:620円
    発行日:1984年角川書店、1997年7月発行
    出版社:創元推理文庫
    評 定:★★★


    ●作品データ●
    ----------------------------
    主人公:亜 愛一郎
    語り口:3人称
    ジャンル:ミステリ
    対 象:一般向け
    雰囲気:のんびり、非現実的
    結 末:1話1事件
    解 説:我孫子 武丸
    カバーイラスト:松尾 かおる
    カバーデザイン:小倉 敏夫
    ----------------------------

    ---【100字紹介】----------------------
    長身で二枚目、行動は些か心許ないが、
    虫や雲を撮ることにかけては右に出る者ない
    実力派カメラマン・亜愛一郎。
    彼の行く所、必ず怪事件が勃発!?
    連作第3弾にして完結編。
    ついに解き明かされる某人物の正体とは!?
    -----------------------------------------

    ●収録作品一覧
    -----------------------------
    第1話 赤島砂上
    第2話 球形の楽園
    第3話 歯痛の思い出
    第4話 双頭の蛸
    第5話 飯鉢山山腹
    第6話 赤の賛歌
    第7話 火事酒屋
    第8話 亜愛一郎の逃亡
    -----------------------------


    ついに「亜愛一郎」三部作の完結編です。最後の事件簿!という煽り文句?だったので、「続編とかってほんとにありえないのかな~」と思いつつ、ラストまで読んでみました。なるほど!確かにこれは続編は考えにくい最後です。別に命の危険があったわけではありません。いや、ホームズさんみたいに滝つぼに落ちたー!かと思いきや復活!というパターンもありますけど(笑)。

    さあ皆様、亜愛一郎の正体に注目!そして、お気づきの方はお気づきのはずの、第1作目からちらちらと登場していたあの「謎の人物」!あの人物の正体も明かされてしまいます。え、あ、そうだったのか!と思わず既作を読み返したくなること請け合いです。


    全体として、3部作の評価が徐々に下がっているのは、慣れてきてしまったために目新しさがなくなってしまったからかも。

    本作では、事件と推理が1対1関係ではありません。推理は相当憶測が多く、すべてを尽くして他の可能性を否定するタイプではなく、論理的に事件⊇ 推理、となっています。必ずしも亜愛一郎の推理は正解とは思えないし、正解とするという説得力にも欠けます。ただ、こういう考え方や可能性もある、という提示に過ぎない、というのは亜愛一郎自身も言及している通りです。

    しかしだからと言って、これが本格ではない、ミステリとしての魅力がない、とはなりません。古典的ミステリではそういうことは多かったものです。ホームズだって、そんなの論理的ではない、という人が沢山いるはずです。それでも先人たちはミステリを愛してきました。それは、不可能かと思われる事実に関して「こういう考え方もあり、これで説明がきれいにつく」という、発想力を楽しんできたからだと菜の花は思います。はっとさせられるのが面白い、それがミステリなのです。

    短編集であるがゆえに、事件はそれほど大きく、派手なものではないのですが、ひとつひとつが小さくまとまっていて読みやすく、ちょっとした空き時間に楽しめるようになっています。

    著者は手品師でもあるということですが、確かに、とても手品師らしい作品かもしれません。亜愛一郎のシリーズはこれで終わりですが、これからも頑張れ、亜愛一郎!と思わずにはいられない、素敵なキャラでありました。


    ●菜の花の独断と偏見による評定●
    ---------------------------------
    文章・描写 :★★+
    展開・結末 :★★
    キャラクタ :★★★+
    独 自 性 :★★★
    読 後 感 :★★★★
    ---------------------------------

    菜の花の一押しキャラ…亜 愛一郎

    「終いには顎まで腐ってしまいますよ 。
     顎がなくなったら、どうなさるんです。
     首も吊れなくなってしまいますわよ」
                  (井伊 輝里子)
    虫歯を我慢する夫への台詞。

  • 「飯鉢山山腹」は三毛猫ホームズの…名前忘れたけど、マッチ箱倒すやつを、「赤の賛歌」は「GOTH」を、それぞれ思い起こさせる。
    まぁ、年代順でいけば、明らかに本書のほうが早いから、ヒントを得たのは赤川次郎と乙一だろうけど。


    ご冥福をお祈りします。

  • 大円団?
    あなんです→亜南、あくん→悪運
    朝日先生再び、女傑出揃い、大賑わい。このシリーズ、じわじわくるよね。読み進めると亜さんが好き気になってくる。楽しかった!もっと亜さんの活躍みたかったよ。

  • 泡坂マジックに翻弄されっぱなしの亜愛一郎シリーズ。
    一見無駄に見える描写やセリフが後々重要な手がかりになるので油断できない。
    予想の斜め上を行く発想だけど筋道はちゃんと通っており、それがなんとも小憎たらしい。
    驚きつつもクスリと笑える。
    たいへん楽しい短編集なので、全く飽きない。

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著者プロフィール

泡坂妻夫(あわさか つまお)
1933~2009年。小説家・奇術師。代表作に「亜愛一郎シリーズ」など。『乱れからくり』で第31回日本推理作家協会賞。『折鶴』で第16回泉鏡花文学賞。『蔭桔梗』で第103回直木賞。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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