黒いトランク (創元推理文庫) (創元推理文庫 M あ 3-3)

著者 :
  • 東京創元社
3.51
  • (31)
  • (63)
  • (100)
  • (15)
  • (1)
本棚登録 : 746
感想 : 65
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488403034

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • どうやったかに特化した推理小説。いろんなトリックが散りばめられてておもしろかった。

    よくできたトリックだけど一点だけ。若松駅の前で、たまたま運よく彦根運転手のトラックを捕まえられたけど、いつまでたっても博多まで行くトラックを捕まえられない可能性だってあるんじゃないの?時間が肝のはずなのに、そこが行き当たりばったりで納得いかない。列車の時刻の正確さ云々よりよっぽど気になる。

  • 解説で有栖川氏が「世界で一番好きなミステリ」「私が好きなミステリとはこういうもの」と述べているが、まさに私にとっても、好きな要素をとにかく詰め込んでまとめてくれたような小説であった。
    まず、クロフツ式の、地道な裏付け捜査とそれにより過去の被害者や犯人の動きが徐々に明らかになっていく過程は、人によっては退屈に感じるかもしれないが、私には、その過程に特に読書の喜びを感じる。
    例えば他の人は、最後にどんでん返しがあってその驚きが大きければ大きいほど面白いとか、過去にさかのぼって何があったかを調べていく過程より、小説の中の時間の進行に伴って、どんどん新しい展開(第二、第三の殺人など)が次々に起こっていく方が良いとする向きもあるだろう。だが、有栖川氏が指摘しているように、この小説では必要最低限の登場人物しか用意されていない。だから犯人が意外な人物だったということも、実はない。過去にあったことを丁寧に捜査して明らかにしていく、実はそれだけなのだが、こんなに先が気になり、展開がスリリングなのは、本書が優れた「本格もの」であり、奇抜さや奇を衒うのではない王道の推理小説ということだと思う。
    それから戦後すぐの時代の、当時の時刻表を題材にとっている点。当時の鉄道網や鉄道史にも興味がある読者なら、必ず本書も興味を持つことだろう。石川達三や北原白秋など、いわゆる純文学系の話題にも触れられている点も良かった。
    また、探偵役たる鬼貫の人となりの描き方も好感を持った(これは個人の好みだが、私は天才肌の奇人変人的探偵より、鬼貫警部のような生真面目で好人物な探偵の方が良い)。
    さらに、巻末の解説部分で、鮎川氏が無名の新人だった頃、苦労して本作を書き上げた経緯や、初版から大きく改稿されてきている箇所も多いこともわかり、長年に渡って作者や編集者、さらには読者が、大切にしてきた作品だということが伝わってきて、そのような作品を読むことができて大変嬉しく思った。
    また、クロフツの「樽」をあらかじめ読んでいたので、さらに読む楽しさが増したのだろうと思う。「樽」のように、トランクが複数存在すると思われることが明らかになった箇所は、思わず唸ってしまったほどだが、決してクロフツの作品の焼き直しではないことは無論である。「黒いトランク」の方が、よりテンポが早く、やはり日本人が読者なので地名などの位置関係も頭に入りやすかった。

  • 面白かった。とことん論理的思考。トリック関係は頭がこんがらがるくらい複雑な印象受けたけど、読んでいて楽しかった。

  • 事件発生の派手な演出や、持って回った関係者を集めての謎解きショウではなく、丁寧な推理で徐々に謎を解いていく。主人公と一緒に考えることができて、古い作品だけど情景が浮かんできて作品のなかに徐々に入っていく感じがした。
    登場人物の行動などがあまりに犯人の思惑通りに事が運んでいる気がしないではないけど、十分楽しめた。
    あと簡潔な人物描写と詩情を感じさせる風景描写や、当時の鉄道や船の様子も興味深かった。

  • 自分が九州出身で、元の勤務地の通勤路に、物語中登場する別府(べふ)があるので、親近感を持ちつつ読み進めた。
    人の心理として、ここまで綱渡りの凝ったアリバイ作りをするかしら、という点で、どうしてもリアリティを感じることが出来ないが、ミステリーとはそういうもんだ、と思えば、盲点を突いた面白いトリックではありました。

  • ミステリの中でも特にアリバイ崩しものが苦手だったため、ずっと敬遠してきましたが、やっと読んでみました。

    …が。
    やはりジャンルとして合わなかったです。

    時刻表とにらめっこして、何時何分に誰がどこそこにいて、更にトランクもこの時間にはここにあって、といったような内容が、自分でもびっくりするぐらい頭に入って来なかったです。

    もっと読み込んでフローチャートを書きながら楽しむスタイルだったら、感想も違ったのかな、とは思いますが。

  • 図書館や書店で見つからないので、ネットで購入して読みました。探した甲斐があった、面白いミステリでしたー!

  • 戦後、間もないころの香りが漂う物語

    作者は鮎川哲也
    その名は東京創元社主催の推理小説新人賞「鮎川哲也賞」でおなじみ。
    彼の1956年の出世作で、今もって名作とされる物語。

    ようやく復興の進んだ東京の汐留駅に、異臭を放つ黒いトランクが届けられた。
    事件は九州での捜査により一旦解決を見るも、とある依頼から警視庁の刑事により再捜査が始まる。
    物語は次第に、トランクと駅、鉄道、不審人物の行方の謎が絡み合って、少しずつ異なった様相を示し始める。

    描かれているのは戦後まだ国内航空便が再開されておらず、鉄道や汽船が重要な移動手段とされていた時期。
    描写の中にも、戦後間もないころの情景があちこちにちりばめられている。
    そういったところは横溝正史の描く時代背景にも共通するが、どちらかというと都会的な雰囲気が、場面や登場人物への色付けに施されているところに独特のものがある。

    ここに、「戦後の本格推理小説の原点」といわれる所以があると思う。

    この後、鉄道を使って数々の“旅する刑事”が作り出されていく……。

  • 名作、と聞いていたけれど、古くて読みづらいのでは……となんとなしに読まずにこれまで来てしまった。
    で、満を持して(?)読んでみたら、面白かった!

    トランクと死体と容疑者の移動トリック。
    どうしてこんなことを思いつけるのか……。
    すごかった。

    ガチガチのアリバイトリックだけど、登場人物の絞り込みがすごかった。無駄な登場人物は一人もいなくて、むやみに目くらましのために配置するようなことが一切ない。
    中盤くらいで犯人はおおよそ見当がつくんだけれど、そのアリバイを破るトリックのためにどんどん読み進めていくのがつらくない。普段アリバイものは苦手なのに……。

    靴磨きの少年のところ(靴の色)は、ちょっと「これは伏線ぽいな……」と思ったけど、子どもが砂山で遊んでいるのなんか完全にノーマーク。
    描写は自然で文章は美しく、戦後の日本の風俗描写も生き生きとしていて、小説としてもとても素晴らしかったと思う。
    名作といわれるのがよくわかった。おもしろかった。

  • 私のようになんとなくすいすい読んでいって、おおよそのトリックであったり謎解きであったりといったものをゆるやかに楽しんでいるタイプの人には、時刻表トリックはあまり向いてないかもしれないけれど、表題のトランクに関するトリックでは、見事に鬼貫警部と一緒に悩まされて、最後に明かされるトリックになるほど!と思わされる。
    刊行されたのがずいぶんと昔であるけれど、今の時代に読んでも違和感なく入り込むことができる。
    自身でトリックを解いていきたい人には一部納得のしかねるところもあるというのは、他の人の感想を見ていると確かにそうだとは思わされるものの、あくまでもこれは虚構であって現実ではない。そこにツッコミを入れるのは野暮に感じる。

全65件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

鮎川哲也(あゆかわ・てつや)
本名・中川透。1919(大8)年、東京生まれ。終戦後はGHQ勤務の傍ら、様々な筆名を用いて雑誌へ短編を投稿し、50年には『宝石』100万円懸賞の長篇部門へ投稿した「ペトロフ事件」(中川透名義)が第一席で入選した。56年、講談社が公募していた「書下ろし長篇探偵小説全集」の第13巻「十三番目の椅子」へ応募した「黒いトランク」が入選し、本格的に作家活動を開始する。60年、「憎悪の化石」と「黒い白鳥」で第13回日本探偵作家クラブ賞長編賞を受賞。受賞後も安定したペースで本格推理小説を書き続け人気作家となる。執筆活動と並行して、アンソロジー編纂や新人作家の育成、忘れられた探偵作家の追跡調査など、さまざまな仕事をこなした。クラシックや唱歌にも造詣が深く、音楽関連のエッセイ集も複数冊ある。2001年、旧作発掘や新人育成への多大な貢献を評価され、第1回本格ミステリ大賞特別賞を受賞。2002(平14)年9月24日、83歳で死去。没後、第6回日本ミステリー文学大賞を贈られた。

「2020年 『幻の探偵作家を求めて【完全版】 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

鮎川哲也の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×