人間の尊厳と八〇〇メートル (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.23
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本棚登録 : 135
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488404123

作品紹介・あらすじ

こじんまりとしたバーで、「わたし」が初対面の男から持ちかけられた、謎めいた“賭け”の行方は――推理作家協会賞受賞作を含む、技巧を尽くした短編集。

感想・レビュー・書評

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  • ○ 総合評価   ★★★☆☆
    〇 サプライズ  ★★☆☆☆
    〇 熱中度    ★★★☆☆
    〇 インパクト  ★★☆☆☆
    〇 キャラクター ★★☆☆☆
    〇 読後感    ★★★★☆ 

     よく言えばバラエティ豊かな短編集。雑多な作品が収録されている。どの作品もテイストは違うが,十分に楽しめる秀作ぞろい。深水黎一郎の作品は,長編だと面白いけど傑作というには一歩足りないと感じる作品が多い。短編だと読みやすさとクセのなさがより際立つ。この作品集では,「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」が白眉だろう。

    〇 人間の尊厳と八〇〇メートル
     ふと立ち寄ったバーで見知らぬ男から持ちかけられた異様な「賭け」。男は人間の尊厳のために800メートルを競争しなければならないと説く。「ハイゼンベルクの不確定性原理」などを持ち出し,「普通に考えたら絶対にしない行為だから意味がある。限りなく0パーセントに近い可能性だったものを100パーセントに変えるのが目的だと。
     その男は真島浩二といって,かつて日本の中距離界のエースと言われていた男だった。言葉巧みに800メートル競走に誘い,賭け金の5万円をせしめようとしていたのだ。そのことを見抜いたのはスケートボードを足の代わりに使い,上半身の筋肉でボードを漕ぐように床を押して進む男。その男は,絶対に勝ち目のない賭けを自ら提案し,それえをやらずに済ませた。その限りなくゼロに近い可能性を100にして見せることで人間の尊厳を証明したのだ。
     日本推理作家協会賞を受賞した作品。作者のあとがきによると,読者にほんの一瞬でも八〇〇メートルを走ることが人間の尊厳を証明することになる,と思わせることができれば成功だと考えて書かれた作品とのこと。
     真島の口を借りた量子力学の考えを使った作者の表現ぶりで,八〇〇メートルを全力疾走することで人間の尊厳を証明することになるのかもな…と思わせることには成功していると思う。しかし,オチが分かりにくい。一瞬何かわからず,考えオチみたいになってしまった。想像もしなかったことをすることで,0パーセントに近い可能性だったものを100パーセントにすることが人間の尊厳の証明という点を,勝ち目のない賭けを持ち掛け,その賭けをせずに済ますことで0パーセントに近い可能性を100パーセントにすること,というロジックがすっと落ちない。さらに,真島がスケートボードに乗って去った男が足が不自由であることを見抜けなかったところも腑に落ちない。途中の話の持って行き方はよいがオチの分かりにくさを踏まえ★3止まり。
    〇 北欧二題
     極北の国々を旅する日本人青年がおもちゃ屋と博物館で遭遇した二つの物語が描かれる。おもちゃ屋での事件は,おもちゃ屋で身分証明書がなく困っていた男がその国の国王で,コインや紙幣の肖像画で自身の身分を証明したという話。1988年にストックホルムで実際にあった話を元ネタにしているという。2つ目の博物館の話は,オチが分かりにくい。町を去ろうとしている博物館の従業員が15分前に博物館を閉めて,最後の仕事をきちんと終えてから町を去ろうとしたのか…と思わせて,そんな美しい話ではないのかもしれないと持って行くリドルストーリーのようなオチ。文章の読みにくさと相まって,すっと落ちてこなかった。ルビ以外の個所ではカタカナを用いないという文体で書かれており,雰囲気は出ているが,正直,読みにくい。2作のトータルでギリギリ及第点の★3で。
    〇 特別警戒態勢
     帰省が嫌な警察官の子どもが皇居の爆破予告をすることで,父親の休暇をなくし,帰省をしなくてもよくなるという話。「五声のリチェルカーレ」でも感じたが,作者の子どもに対する考えが現れた作品。意外な犯人モノとも読めるが,作者はホワイダニットに特化した作品だと言っている。確かに,フーダニットとしてはさほどの意外性はない。ただ,ホワイダニットとしてもそこまでの意外性はない。分かりやすくよくできた短編ではあるが★4とするほどでもない。★3で。
    〇 完全犯罪あるいは善人の見えない牙
     若い頃から異性に持てた女性が,魅力があると思って結婚した男性が善人過ぎるため,多額の保険金を掛けて毒殺する。自然死に見せかけるはずが,善人である男が借金を相続させないように死亡前に離婚。自身の臓器を移植するために解剖がされ,離婚をしていたので臓器の提供に異を唱えることができず,解剖により毒殺がバレてしまったという話。犯罪と認定されていないのに死体解剖されるケースは何かと考え,描かれた作品とのこと。これは面白い。オチも分かりやすい。傑作といってもいいデキだと思う。★4で。
    〇 蜜月旅行 LUNE DE MILE
     パリに新婚旅行に行っている夫婦を描いている作品。夫はかつてバックパッカーとして海外を放浪していた。旅行で夫は張り切るが,何か噛み合わない。妻は「日本帰ったら離婚することに決めたわ。」と言い出す。見栄っ張りでわがまま。まるで子どもだと。その後,強盗騒ぎに見舞われ,妻に盗癖があることが分かる。その後の妻はやりたい放題。そして夫と妻との関係も改善するとうオチ。
     起承転結がしっかりした,短編のお手本のような作品。読後感もさわやか。ミステリーとは言えないが,ちょっとしたコメディとして及第点のデキだろう。★3で。

  • 2018年2月24日読了。
    2018年55冊目。

  • 【】
    表題含む5編を収録の短編集。
    やっぱり、表題作が素晴らしい。
    ある男が説明し始める、「人間の尊厳のため」に「800mを今から走らなければならない」理由が可笑しく面白く、それなら俺もとひと乗って、いやひとっ走りしようかと思ってしまう。

    2題目、『北欧二題』。
    こういうの、好きだ。
    話ももちろん、その「単語」表現。
    旅に関する話としては、最後の『蜜月旅行』にも通じていて、どちらもミステリ面でも、人間四方山話としても好き。

    『特別警戒態勢』も、『完全犯罪あるいは善人の見えない牙』も、ホワイダニットとして面白い。
    「完全〜」はホワイイトハプン、だけれども。

    ミステリと言えない話もあるけれど、こんなにバラエティ豊かで面白い短編集だったなんて。
    読んでよかった。

  • どれもオチの秀逸さが半端じゃない。表題作と、「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」が特に好きだ。

  • サクサク読めるのと読後感の良さよ。こういう味わいのミステリって他になんかあったかなぁと、何とも例え難い。各々の話でのキャラクターたちが語る内容が面白かった

  • こじんまりとしたバーで、「わたし」が初対面の男から持ちかけられた、謎めいた“賭け"の行方は・・・。

    短編集です。
    ちょっとした日常の謎とか歌野晶午みたいなワンアイデアで一本くらいの軽いミステリとかバラエティに富んでいます。いい意味でも悪い意味でも統一感がない一冊かもしれません。逆にいうとどれか一本くらいは好みの話が見つかるんじゃないかな、と。
    個人的には「北欧二題」が異国の風景を読んでいて感じ入った気がして好きです。謎!って感じの話でもなくすっきりと読めたのも好印象。

  • 深水黎一郎のミステリ短編集。
    表題作は日本推理作家協会賞作品、これはよかった。洒落た感じと、切れの良い起承転結、読後感も良好。
    それと「蜜月旅行」は楽しめたが、他が微妙だった。
    メフィストデビューの作者の色合いは不安定であり、どちらかといえば、“らしさ”がない作品のほうが好き。
    となると、相性はよくないのかもしれない。
    3

  • 表題を軸とした短編集だが統一感を得られず、共感できるトリックにも出逢えなかった。

  • なんだこの面白さ。一気読みだ。
    本のタイトルとなってる話も良いが、お気に入りは、『北欧二題』

  • 前から気になっていた作家だったので、短編集なら雰囲気を知るには丁度いいだろうと手にとってみた。

    なかなか受賞が難しいといわれる推協賞の短編部門を受賞したという表題作はなんともお洒落な作品だった。
    結末のオチが効いているのは勿論、800メートル競争することがなぜ人間の尊厳を証明することになるのか、という理論を楽しく読めた。

    個人的に好きなのは『完全犯罪あるいは善人の見えない牙』
    病死に見せかけ殺し、完全犯罪を成功させた筈なのになぜ捕まったのか。
    真相は簡潔ながら綺麗に纏まっており、1番ミステリ度が高い作品ではないだろうか?

    ミステリとして読むと肩透かしを食らうかもしれないが、単純に読み物として面白いので是非読んで欲しい。

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著者プロフィール

1963年、山形県生まれ。2007年に『ウルチモ・トルッコ』で第36回メフィスト賞を受賞してデビュー。2011年に短篇「人間の尊厳と八〇〇メートル」で、第64回日本推理作家協会賞を受賞。2014年、『最後のトリック』(『ウルチモ・トルッコ』を改題)がベストセラーとなる。2015年刊『ミステリー・アリーナ』で同年の「本格ミステリ・ベスト10」第1位、「このミステリーがすごい!」6位、「週刊文春ミステリーベスト10」4位となる。

「2021年 『虚像のアラベスク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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