アンドロギュノスの裔 (渡辺温全集) (創元推理文庫)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (635ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488407117

作品紹介・あらすじ

構溝正史の右腕として『新青年』の編集をしながら小説の執筆に励んでいた渡辺温は、原稿依頼に赴いた谷崎潤一郎宅からの帰途、貨物列車との衝突事故で27年の短い生涯を閉じた。僅かな活動期間に遺した短篇、脚本、映画に関する随筆、翻訳など、多彩な分野の作品を執筆年代順に網羅。初の文庫版全集として一冊に集成した。憂愁と浪漫に溢れる、影絵の如き物語世界を御堪能あれ。

感想・レビュー・書評

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  • まさに憂愁とロマンチシズム。
    図書館でたまたま手に取った本がいきなり別の世界に連れて行ってくれたという感じです。

    どこか憂いのある文章、それでいて全体的になんというか品があるのです。この味わいが推理小説に新しい世界を構築しており《浪漫推理小説》とでもいうべき新しいジャンルを生み出しています。もし堀辰雄が推理小説を書いたらこうなるかも??知れません。

    中でもお気に入りは「指輪」です。
    画家の青年と別荘にきたお嬢さんの儚い恋の物語ですが、お嬢さんの凛とした強さが「明日からも頑張ってこ」とこちらにも力を与えてくれるような良い短編でした。
    こんな作家さんがいたとは…。いやはや図書館恐るべしです。

  • 横溝正史の傍らで『新青年』編集に携わりつつ、
    創作活動に勤しんでいたものの、
    27歳で事故死してしまった渡辺温(わたなべ・おん)の作品集
    ――って言われたら、
    面白いかどうかなんて抜きにして、ともかく読まなきゃダメじゃんっ!
    と思って購入(笑)
    解説で指摘されているとおり、
    デビュー作を初めとして、ドイツ表現主義映画の影響が窺える。
    代表作と呼ばれる「可哀相な姉」の歪んだ世界観に眩暈クラクラ。
    ……言っても詮無いことだけど、長生きしてほしかったなぁ(涙)

  • 青空文庫や『叢書新青年 渡辺温』で読んだものも含め、26の小説、14の掌編、8つの脚本、6つの翻訳・翻案、13の映画関係の随筆を網羅した渡辺温の作品集。登場する女性は断髪、ステッキにシルクハット姿の登場人物はモダンで憂愁と浪漫に溢れた作品群。好みなのは『可哀相な姉』と『赤い煙突』、ウォルター・ベサント著/黒岩涙 香訳/渡辺温補綴の『島の娘』。『可哀相な姉』の弟自身が書いた「菊…時価」の値段書は「菊」の意味にハッとさせられ、そして、弟を育てるための姉の思いと大人になるには枷を外さなければならない弟が切ない。

  • 街を歩いていたら、出会いがあって、なんとなく終わる。

    【内容】
    あっさりと軽くて、明快で、シンプルで、クールだが、どこかなまあたたかい。
    おセンチな星新一という感じもする。
    最初のうち芥川龍之介の「魔術師」という話も思い出したりした。

    みんないろいろすれちがう感じのが多いかも。
    ちょっとしたことですれちがう人びと。そのせつなさ。滑稽さ。

    【感想】
    イメージしてたのより読みやすい。分厚いけどすらすら読み終えてしまった。
    完成品というより物語の萌芽のようなものがたくさん詰まっている。
    そこがおもしろいと言えるかもしれない。
    夢を書きとめた手帖のような。

    (2013年06月21日読了)

  • 横溝正史の右腕として新青年の編集をしながら自らも作品を書き、谷崎潤一郎の所へ原稿依頼に行った帰りに貨物列車との衝突事故で27歳の生涯を閉じるという、なんと劇的な人生……。
    「大正期の浪漫漂う、探偵小説・幻想譚を収めた著者初の文庫全集(帯より)」ということで、コレ絶対私の好きな奴だと直感で買いましたが、ハイ好きな奴でした!
    創作作品はどことなく影のある雰囲気と、皮肉な展開がツボでした。
    どれもお気に入りですが、「影」「イワンとイワンの兄」「可愛そうな姉」「勝敗」辺り良いですね。
    「父を失う話」の不穏さや、「指輪」のそういう展開にしますか!と驚く作品、表題作「アンドロギュノス~」もそのタイプで。
    ちょっとタルホっぽくもありますが、渡辺温テイスト堪能しました。(シルクハットとモーニングで博文館へ出社してたと解説に書いてあって、なんだかとても納得しました)

  • 少女という題名に惹かれて読んでから、その後全部読むに至りましたがかなり温先生を好きになりました。
    私にとっては、1作品に必ずといって言いほど印象に残る一文がある作家さんです。

    <少女>
    夜中に出会った少女は普段会っている時とは違う顔を持っていた。
    っていう感じですかねえ・・・。
    こっちの方が内容的には少女病よりも好きかな。
    ただこっちは少女の描写に少女特有の魅力やエロさが無かった感じ。
    少女という題名ながら、夜にのみ女性・女として描かれる少女かな?
    最後の、ヒロインがお兄様に伝えた言葉が少女らしさが出ていて好きですね。
    ほら、出会った時に具体的に何があって楽しかったとか嬉しかったとか、兄弟にそんな詳細に伝えないですよね。
    現実的に。
    ある意味では少女病よりもリアルな少女像に恐怖それ以外なのかは解りませんが、ゾクッときました。

    他の作品の感想については随時・・・。

    <ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった>
    アレキサンダー君が、ほとんど出ていないのにインパクト抜群でした。
    『いいよ、いいよ。君が死ねば、僕だって死ぬよ。』
    <赤い煙突>
    切ない恋物語。
    それから彼女はその手紙を幾つにも幾つにも細かく引き裂きはじめたのであった。・・・・・・
    <或る母の話>
    乙女のまま死んでいったある母親の話・・・今のところ温先生の中で一番好きな話かも。
    一生、いじらしい処女であった母!
    そして、二十年の永い間、慈愛深い母親として自分を育て上げてくれた、浄かな童女の死顔の上に、永いこと泪に暮れていたのであった。
    <アンドロギュノスの裔>
    Y君の淡い恋心とその後の現実的な失恋の話・・・表題作だけあり面白い温先生らしいという言葉はこれにこそ当てはまるのかも。
    男と女。男と女。――たった二種類しかない人間が、何故せつない恋に身を焦がしたりしなければならぬのであろうか?
    <イワンとイワンの兄>
    イワンと娘が幸せになったのは良かった。
    メロスのような道徳的な話ですね。
    みなさんは、それでもイワンの父親がその息子たちのためにして置いた事をば、間違いだとはお考えにならないだろうと思います。
    <嘘>
    嘘ではあるのだけど、井深君の紡ぎだす少女の面影に惹かれてしまう私なのです・・・。
    「諸君、そんなに妙な顔をするものではない。紙幣は正しく全部本物だったが、安心したまえ。――この話全体は僕が考え出した嘘なのだから。」
    <絵姿 The Portrate of Dorian Gray>
    ホラーですね・・・。
    娘が可哀想・・・。
    絵が老けていく代わりに、自らは若さを保ち続けた青年の話。
    <遺書に就て>
    美代子が犯人でしょう。
    少女地獄っぽいはなしだったなあ・・・。
    <可哀相な姉>
    お姉さんが可哀想過ぎる話・・・でも嫌いじゃない。
    可哀相な姉よ!
    <恋>
    兄妹でなくて良かった。
    友達は友達で本気で恋に落ちていたのでしょうな・・・。
    <氷れる花嫁>
    ホラーですね。
    個人的にはタイタニックを思い出しましたw
    <四月馬鹿>
    喜劇って感じですね。
    四月馬鹿が二転三転して最後にはハッピーエンド。
    <十年後の映画界>
    いつの時代もどの芸術作品も、
    昔を懐かしむのは代わらないということか・・・(苦笑)

  • 27歳で夭折した渡辺温の短篇小説から脚本、翻訳までを一冊に集成した文庫版全集。
    時に軽妙、時に幻想的な作品群は独特のスタイリッシュさを持ち、ミステリではなく探偵小説と呼びたい雰囲気。お気に入りは「可哀そうな姉」かな。
    それにしても、全仕事がたった一冊にまとまってしまうというのは、なんとも惜しい……。

  • 「可哀相な姉」が可哀想過ぎた。気を取り直して読んだ次の話し「イワンとイワンの兄」でトドメを刺された。イテテテテ。

  • 大正浪漫漂う幻想譚を残し27歳で夭折した渡辺 温の全集「アンドロギュヌスの裔」。
    初っ端の「影」でもう引き込まれた。
    他の作品も短編ながら発想の妙味に魅せられた。

  • 読み終わりました
    初めて読んだのですが、同じモチーフ(設定)でいくつか書いていた方なんでしょうか?

    お気に入りは、「影」「象牙の牌」「風船美人」「夏の夜語」「足―鏡」かなー
    結構気に入ったのあったんじゃね?w
    っていうか、「影」を一番最初に持ってくるの決めたの誰ですか?!
    あれで私は引き込まれました・・・
    あぁいう作品好きなんですよねー

    まぁ、途中放置しかけた個所もありましたが、概ね良かったかと。
    事故で早くに亡くなってしまったそうですけど、残念です
    生きていたらどんな作品を残したのだろう??

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著者プロフィール

一九〇二年(明治三十五)、北海道生まれ。本名温(ゆたか)。推理作家渡辺啓助の実弟。慶應義塾高等部卒、博文館で雑誌『新青年』の編集者として横溝正史のもとで働くかたわら、推理小説、幻想小説を執筆した。博文館の映画プロットのコンテストに応募し、審査員だった谷崎潤一郎の目にとまり小説家デビュー。三〇年(昭和五)二月十日、谷崎のもとに原稿催促にいった帰り、タクシーが踏切で交通事故を起こし、死亡。享年二十七。

「2019年 『ポー傑作集 江戸川乱歩名義訳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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