- 本 ・本 (282ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488408022
感想・レビュー・書評
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不朽の名作『大誘拐』の作者のなんと江戸川乱歩賞応募作である。文章を見るにデビュー作とは思えないほど卓越した力があり、その老成振りは現在、数多デビューを飾る新人達と比べると隔世の感がある。
鉄工所の社長が密室の中で殺害されるという純本格的なシチュエーションで始まる本書は終始殺人事件とは一線を画した農村の和やかなムードで進み、解決に至る終章もまたそのムードを一貫して結ばれる。応募作にて既に作者特有の温かみが溢れているのである。
短編集『遠きに目ありて』中の1編にもやむにやまれない殺人を扱った物があったが、原点である本書も正にそのテーマが通底している。ただ技法にクリスティーの例のアレをやっているのは、長編第1作としては気負いすぎではないかと思うのは私だけだろうか。
何せ、登場人物が憎めないのが作者の特徴、というか美点であり本書もその例に漏れない。正に「容疑者達、万歳!!」である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
被害者が死ぬシーンを読んで《ああ、人が死ぬのはこういうときなんだな》と震えながら悟った。
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再読
題名がはっきり示すとおりミステリ
どうしてもその根幹のところが苦しいのだが
作者のどの作品にもみられる陽性の姿勢が
わかってやっているのだから有りとさせる
良いとはいえなくとも -
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山奥に武家屋敷さながらの旧家を構える会社社長が、まさに蟻の這い出る隙もないような鉄壁の密室の中で急死した。その被害者を取り巻く実に多彩な人間たち。事件の渦中に巻き込まれた計理事務所所員の主人公は、果たして無事、真相に辿り着くことができるだろうか。本書は、不可能状況下で起こった事件を、悠揚迫らざる筆致で描破した才人天藤真の、記念すべき長編デビュー作。
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密室ミステリなのだが、仄かに匂い立つユーモアのせいか――タイトルからしてすでに然り――、鬼気迫る感じではなく、どう展開していくのかをわくわく愉しむといった印象のミステリである。被害者が経営する工場の閉鎖に伴う組合とのいざこざあり、山奥の家屋敷の売買契約あり、遺産相続の関係あり、また被害者の人望の無さによる恨みあり、などなど、殺される要素が満載なところも、何とも被害者に同情する気が起きないのである。事件が解決した後しばらく経ってからの付け足しのような真実の披露で、なるほどとやっと腑に落ちる。それでも、めでたしめでたし、と言いたくなるような一冊なのである。 -
本格の形を取りながら、陰惨な感じにならないのは、主人公がたりあえず当事者ではない立場だから?
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ほのかなユーモアが随所に散りばめられたミステリ小説で、物語の意外な展開を楽しむうちに、ほのぼのした気持ちになることができる。
長崎大学:環境科学部 教員 西久保裕彦 -
4
軽妙で機知に富んだ語り口、“ニヤニヤ”というよりも“ニコニコ”としながら読める希有な作品。真相にさほど驚きはないが、筋立ても見事で、じんわり胸にくる読後感も良し。 -
「巻き込まれ体質な主人公」「次々に現れるクセ者たち」「密室」と、盛り沢山なミステリ小説。全体的にとぼけた空気が楽しかった。
やたら能天気な前半と真相が明らかになる終盤、改めて読み返すと違った風景が見えるミステリの醍醐味を味わえた。 -
四方を鉄条網、壕に囲まれた倉。その倉は鍵のかかる三重の扉で閉ざされており、内側から全て施錠された状態だった。唯一、倉には二階の高さにあたる部分に窓があったが、梯子などをかけた跡は見当たらない。このような堅牢堅固な密室の中で、屋敷の主人が死んでいた…。
という魅力的な舞台設定。
推理合戦も繰り広げられ、不可能犯罪モノとしてとても面白かった。
なぜか、読了後に最初に感じたことは、この作品のエッセンスを上手く抽出すると、舞台劇にできそう、という事だ。おそらく、作品全体を通して展開される人間ドラマにぐいぐいと惹きつけられたからだろう。
ど派手なトリックではないかもしれないが、気持ちよく騙されたし、読後感の余韻も心地よい、良作だと思う。 -
氏の長編デビュー作。
経理会社の社員である僕が、顧客で会社解散を目論む社長とそれを不服とする労働組合側の争う中。
鉄壁の守りを誇る自慢の蔵の中で社長が急死した。
事件?
事故?
あっと驚く真相に引きこまれた一冊。
天藤真の作品





