夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

著者 :
  • 東京創元社
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レビュー : 272
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413026

作品紹介・あらすじ

呼吸するように本を読む主人公の「私」を取り巻く女性たち-ふたりの友人、姉-を核に、ふと顔を覗かせた不可思議な事どもの内面にたゆたう論理性をすくいとって見せてくれる錦繍の三編。色あざやかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線が読後の爽快感を誘う。第四十四回日本推理作家協会賞を受賞し、覆面作家だった著者が素顔を公開するきっかけとなった第二作品集。

感想・レビュー・書評

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  • これは「円紫さんシリーズ」ではなく「円紫さんと『私』シリーズ」であることを再認識。
    ミステリであると同時に「私」の成長物語でもあるんだなぁ。
    『夜の蟬』以降も『秋の花』『六の宮の姫君』『朝霧』と、デビュー作の『空飛ぶ馬』を含めれば全五作ある。
    朝ドラのヒロインの成長を見守るように、いや大河ドラマを観るかのように、この「私」の行く末を父親のような気持ちでやきもきしながらこれからも追いかけていくんだなぁ。

    子供の頃は「おばけ」が怖くて怖くてしょうがなかったが、大人になってからある日を境にぱったりと怖くなくなった。
    特になにがあったというわけでもないが、人間はいずれ必ず死ぬものだと、急に「死」を悟った、受け入れたのだ。
    おばけや幽霊への恐怖、畏怖というものは、すなわち人間の「死」に対する不安や恐れであると僕は思っている。
    かくいう僕も、小学校低学年のときに人間は必ず死ぬとはたと気づいて毎晩泣いていた。そして「おばけ」が怖くてしょうがなかった。
    同じく「必ず死ぬ」とわかったのに、幼い頃は恐れおののき、大人になってからは「まあ、しょうがない」と諦念に至るのだから不思議だ。

    だがしかし、最近「おばけ」がまた少し怖くなってきた。
    おばけや幽霊の常套句といえば「うらめしや」である。
    死んでまで他人や現世に恨みや執着があるのだ。
    ましてや生きている人間のその感情は如何ばかりのものか。
    恐ろしいのは「死」ではなく、むしろこの世に生きる人間の負の感情だったのだと今更ながらに気づく。

    『朧夜の底』
    存在が不確定で見えないけれども、それでも「私」がエレベーターに乗れなくなる気持ちはわかる。
    ブクログユーザーのみなさんにも共感する方はきっといるはずだ。

    『六月の花嫁』
    ミステリの仕掛けに満ちた一品。
    「女王」の消失に端を発する連続殺人事件のような趣き。
    もちろん殺人事件が起こるはずもなく、誰一人として死んでいないが、種が明かされてみればその手のミステリに通ずるトリックと、青春のある季節の物語を融合させた構成に感嘆。
    しかも外枠にさらに円紫さんの謎解きが加わるという、入れ子構造の贅沢な作り。
    謎解きの面白さがあり、尚かつ読ませる。

    『夜の蟬』
    とても詩的なタイトル。
    そして、その意味するところの郷愁を誘うエピソード。
    ミステリの謎解きを通して垣間みる知られざる素顔と一つの成長。
    成長したのはけっして「私」だけではない。

    シリーズ二作目ではあるが、登場する個々のキャラクターがぐっと大人になった巻だった。
    それぞれが皆まっすぐで眩しくて、少し面映いような、それでもそっと見守りたくなるような、そんなエピソードの三篇だった。
    さあ、いよいよ『秋の花』だ。

    • まろんさん
      kwosaさん!

      大好きなこのシリーズを、ちゃんと続けて読んでくださってありがとうございます!
      そして、表題作『夜の蝉』の余韻をやわらかく...
      kwosaさん!

      大好きなこのシリーズを、ちゃんと続けて読んでくださってありがとうございます!
      そして、表題作『夜の蝉』の余韻をやわらかくとどめて
      「おばけ」の話題から始めるだなんて、なんと趣のあるレビューでしょう!

      他意はなかったとか、ちょっとした気まぐれで・・・
      なんて言い訳しながら振り撒かれる人間の負の感情。
      その背筋がヒヤリとするような恐ろしさを
      夜の蝉のエピソードで描き出される姉妹の理屈を超えた温かい結びつきで
      ふわりと包み込んでしまう北村さんの筆遣い、さすがですよね!

      この2作目では、清潔で、線の細い少年のようなイメージの「私」が
      華やかな姉に抱くコンプレックスが男性とは思えないリアルさで描かれていただけに
      最後に姉が打ち明ける夜の蝉のエピソードに、「私」と一緒に心がほどけて、救われる思いがしたものです。
      「私」、姉、正ちゃん、江美ちゃん、と、女性たちそれぞれが
      さらに魅力的に描かれていたのもうれしくて。

      そして、さあ、いよいよ『秋の花』。
      私がいちばん好きなこの3作目を、kwosaさんはどう読まれるのでしょう。
      大好きな真理子を、kwosaさんも好きになってくださるでしょうか。
      北村さんの新作を待ち構えているときと同じくらい、
      楽しみでドキドキワクワクしています。
      2013/08/12
    • kwosaさん
      まろんさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      この「円紫さんと私シリーズ」
      本当に連続ドラマのようですね。
      「私」とそれを取り巻...
      まろんさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      この「円紫さんと私シリーズ」
      本当に連続ドラマのようですね。
      「私」とそれを取り巻く人々の日々の暮しと事件、そして少しずつの成長がなんとも瑞々しく描かれていて。
      もちろんミステリ部分もしっかりとしているのですが、それ以上に彼女たちのこれからが気になって仕方ありません。

      北村さんは女性の方からみてもリアルに女性を描いているんですね。
      なかなか女心がわからない野暮天の僕としては、すごいの一言です。

      本筋からは外れますが、最近になってようやくルバーブを知りました。
      洋菓子店で「苺とルバーブのジャム」というものをみつけて、「こんなものがあるんだなぁ」と買ったところで、この『夜の蟬』
      文学はもちろん、落語を始めとする古典芸能、チェスや紅茶などの英国文化、その他さまざまな幅広い教養に裏打ちされた洒落た世界が垣間みられるのも、このシリーズの魅力ですね。

      次はいよいよ、まろんさんおすすめの『秋の花』
      とても楽しみです。
      いつも新しい世界に誘ってくださってありがとうございます。
      2013/08/13
  • 何故、書店に陳列されている本の数冊が逆さになっているのか?
    何故、チェスのクィーンの駒が冷蔵庫に入っていたのか?

    ミステリの一ジャンルとしての存在感を不動のものにした、死体の出てこないミステリー(言い方…)・「日常の謎モノ」です。

    そっち系は敬遠しがちな私でも、一冊くらいは代表作読んどきたいなァと思いつつ早幾年(どんだけ避けてたん…)。

    ようやく読むことができました。
    ベテラン・北村薫先生の代表作、円紫シリーズです。

    北村作品とのファースト・コンタクトを何故かクィーンのパスティーシュで果たしてしまうという残念な出会い方をし、あまつさえそのパスティーシュものへの評価だけで、

    「うーんイマイチ!この作家は当分保留!」

    と、代表作を読まずに判断するという暴挙に出たのが数年前。あの時は私も若かった…←

    会話の端々に昭和を感じたし、文章全体から感じる雰囲気は、何だかテキストみたいな生真面目さを終始まとっているように感じました。端的に言うと大時代な文章に感じた←

    なんかね、固かったんだよな…嫌いじゃないと思うんだけど…読むタイミング悪かったのかなあ(悩

    一番引っかかったのは、

    テーマ(謎)はライトなのに、
    主人公の趣味や口調はいぶし銀。

    っていう違和感でしょうか。

    著者の最新文庫(月の砂漠をさばさばと)は良かっただけに、ミステリでハマれなかったのはちょっと残念。
    うーん、他の作品でリベンジかなァ。

  • 心の綾を丁寧に解きほぐすように、日常のちょっとした謎を解き明かす、女子大生の私と落語の真打である円紫さんコンビのやり取りが楽しい。軽妙洒脱で、落語のようだ。

    北村薫を読むのは、この作品でまだ三作目だ。
    『盤上の敵』から入ったので、あの作品の毒はむしろあの作品に必要であるとすんなりと受け入れることができた。しかし、このシリーズからの筋金入りの読者にしてみれば、なかなかに厳しいものだったことが想像できる。
    つまり、この「円紫さんと私」シリーズはできる限りの毒を排した、とても優しい後味の本格ミステリ短編集なのだ。ところが、この作品はそうは言っても、前作の『空飛ぶ馬』よりも鋭い作品になっている。誰もが持っているはずの心の闇に光を照らし、できるかぎりの優しい語り口で、解き明かそうとしているのだ。

    主人公である「私」と彼女の姉との姉妹の葛藤を描いた中編「夜の蝉」はなかでも特筆だと思う。男性作家なのに、細やかに姉妹の心情を描き出して、劇的な事件が起こるわけでもないのに、それは感動的なほどだった。

    これだけの筆力がある作家なので、のちに直木賞を獲得するのは時間の問題だったのだろう。思わぬところで心を揺り動かされた本格ミステリだった。

  • 読了日 2019/08/05

    北村薫「円紫さんと私」シリーズ2作目。
    本当にこのシリーズ好き。言葉がきれい、主人公「私」の知識と生き様が好き。

  • 女の子の20歳って特別な気がする。少女と女性の狭間で漂う儚さがあると思う。あくまでも個人的な感想。

    3者3様の恋物語。蝉の声が特にお気に入り。お姉様の神秘的な美しさ。ぜひお目にかかりたい。姉妹の心の距離感を詰めていく真夜中のやりとり。どきっとしちゃった。双方に負い目、嫉妬、劣等感があるものだし、似ている部分に苛立つ気持ちも含めて血が繋がった姉妹なんだろうな。

    円紫師匠は今回裏方ですね。謎解きに活躍はするけど、ストーリーには絡み少ないね。

  • どんなミステリーなのか?と思いながら読み始めたけど、死体も殺人もないのになんと面白い。こんなほのぼのしたミステリーもありだなぁと目から鱗の少説です。このシリーズ是非とも読みたくなってしまいました。

  • 『空飛ぶ馬』に続く「円紫さんと私」シリーズ第2弾となる連作短編。

     日常の謎としてももちろん良い作品ばかりなのですが、今回の短編集の裏テーマは恋愛と”私”の姉妹関係だと思います。

     一話目「朧夜の底」でそのお姉さんが初登場。かなりの美人さんみたいなのですが、一方で”私”はどこかお姉さんに気後れみたいなものを感じているのかな、などとも思わされます。
     そして、”私”のちょっとした恋心もなんだかくすぐったいです。この辺の心理描写の細やかさは北村さんならでは!

     そして、日常の謎としては「本屋さんでなぜか逆向けに並べられた本の謎」がテーマ。情景を想像するとなんだかかわいらしくて、子どもがやっていたら、迷惑だけどほほえましいなあ、なんて思っていたのですが、円紫さんの推理が導き出した犯人像は、何とも狡猾なものでした。

     そして、円紫さんの推理を聞いて、”私”が顔もわからない犯人について思いを巡らすのですが、これが非常に的を得ているように思います。犯罪を犯さない程度に倫理を踏み越える冷徹なその表情……。表面に現れない人の裏の顔を想像させられました。

     二話目「六月の花嫁」は”私”が友人の別荘にいったときの不思議な事件の真相を、円紫さんが推理するもの。

     本格ミステリらしいロジックもあり、聞いてる方が照れくさいような、真相があったりと、とても爽やかな短編です。

     そして表題作の「夜の蝉」”私”の姉の三角関係をめぐってのドラマとなります。

     こちらも一話と同じく人の悪意を感じる作品でもあります。言葉にできない、ふと魔が差したとしか言いようのない悪意も、そしてためらいもなく嘘をつく、明確な悪意も、一つの謎から浮かび上がってきます。事件の構図と悪意の絡ませ方が秀逸です。そして、円紫さんの落語のエピソードも、こうした悪意の理解の一助になっているのもまた巧い。

     そして、姉と”私”の姉妹関係にも注目。私は子供の頃よくお姉さんにいじめられていたらしいのですが、あるときを境にお姉さんはいじめるのをやめたそうです。

     それがラスト、タイトルの意味と共に明らかになります。その瞬間、本を読んでいく中でどこかぎこちなく感じていた、”私”の姉に対する心理描写が、雪解けを迎えたように溶けてなくなってしまうのです。この瞬間が、読んでいてたまらなく愛おしく、そして優しく感じました。

     自分にも妹がいます。男と女の兄妹なので、一様に比べられませんが、自分たち兄妹の子ども時代や現在の関係性にも少し思いをめぐらせてしまいました。

     日常の謎としてももちろん良い出来ですが、”私”をめぐる人間関係に、より面白味と深みが出てきた作品だったと思います。

    第44回日本推理作家協会賞
    1991年版このミステリーがすごい!2位

  • 「太宰治の辞書」から一気に思い立って遡る旅をしている。
    遡っているのであるから『私』は当然、どんどん若返ってゆく。そして何たることか、こんなにもリンクしあっていたのだ。「秋の花」では悲しくも登場人物となってしまった少女や気の置けない友人たち。その後をたどる旅ではないそれ以前をたどる旅なのだ、初めから。
    今回は噂の姉上もスッキリとそのたたずまいを表してくれた。

  • 『円紫さん』シリーズ第2弾。女子大生の〈私〉と噺家の春桜亭円紫師匠が活躍する。鮮やかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線と、主人公の魅力あふれる語りが読後の爽快感を誘う。俳句の季語で、「七夕」秋!だとは!!真夏真っ盛りかと?。旧暦・・・時代劇はよく読むけど意識してないなぁ。落語を知っていると面白いですね。次巻『秋の花』(東京創元社、1991年) - 初の長編作品。

  • 本を呼吸するように読み、落語などを愛する
    国文科の学生である「私」。
    その「私」を取り巻く、二人の友人や、美人の姉。
    彼女たちがふと出会ったささやかな不思議を
    落語家・春桜亭円紫は鮮やかに解き明かす。
    魅力的な登場人物たちの人間模様と、
    その中で少しずつ変化していく「私」の内面が
    やわらかな文体によって巧みに描かれる。
    北村薫の第二作品集。

    処女短編集「空飛ぶ馬」はずいぶん前に読んで、
    つまらなくはなかったのだがあまり印象に残っておらず、
    北村薫の作品は今まで手にとってこなかったのだが、
    「空飛ぶ馬」を読んだときより自分が成長したのか、
    今回この「夜の蝉」を読んで、
    独特の文体がかもし出す雰囲気の虜となってしまった。

    これといって派手ではないシーンが
    実にやわらかな文体によって描かれ、
    ゆるやかに進んでいく優しい物語。

    その中で描かれるのは、友人の結婚や、
    どことなく心理的な隔たりを感じていた姉との和解、
    そしてそういった出来事を通して
    かすかに、だが確実に変化していく「私」の内面である。

    決して派手ではない。
    派手ではないが、優しく心が包み込まれるような、
    そんな静かな感動が味わえる。

    また、やわらかな文体によって包まれているが、
    隠れているものは硬質なものであって、
    文体をなぞっていてたまに直に伝わってくる
    それらの硬い感触がスリリングでもある。

    ミステリとしての構成が一番綺麗なのは
    真ん中に収録されている「六月の花嫁」だろうが、
    「朧夜の底」「夜の蝉」も決して外せない。

    自分では決して書けないであろう文章が
    新鮮な驚きをもたらしてくれる、
    個人的にはとても大事にしたい作品。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。高校教師を務めるかたわら、89年『空飛ぶ馬』で作家デビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、09年『鷺と雪』で第141回直木賞、15年には第19回日本ミステリー文学大賞を受賞した。エッセイや評論、編集の分野でも活躍している。近著に『八月の六日間』『太宰治の辞書』『中野のお父さん』など。

「2019年 『覆面作家の夢の家 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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