秋の花 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M き 3-3)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413033

作品紹介・あらすじ

絵に描いたような幼なじみの真理子と利恵を苛酷な運命が待ち受けていた。ひとりが召され、ひとりは抜け殻と化したように憔悴の度を加えていく。文化祭準備中の事故と処理された女子高生の墜落死-親友を喪った傷心の利恵を案じ、ふたりの先輩である『私』は事件の核心に迫ろうとするが、疑心暗鬼を生ずるばかり。考えあぐねて円紫さんに打ち明けた日、利恵がいなくなった…。

感想・レビュー・書評

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  • いつも一緒に過ごす幼なじみの真理子と利恵。
    高校の文化祭準備中に、真理子は学校の屋上から墜落死してしまう。親友を失った利恵は魂を抜かれたかのような日々を送っていた。ふたりの先輩である«私»は事件の核心に迫ろうとする。悩んだ«私»は、相談した円紫さんと共に真理子の母親と利恵に会いに行く……
    どうしても考えてしまうのは、利恵が真理子の死に何らかの関係があって、彼女はそれに押し潰されそうになっているんじゃないか、ということ。こうじゃなきゃいいのにという思いに引っ張られながら読み進める。

    運命の悪戯かのような事件の真相がわかったときのやりきれなさ。でも、それよりも大きく深く心に刻まれたのは最後にかけてのシーンだった。謎解きよりも、もっと大切なことが描かれていたと思う。
    円紫さんは言う。
    «許す»ことは出来ない。でも救うことは出来る。

    母だからこそ「許せない」
    だからこそ、母としてあなたを「救いたい」
    生きなさい。生きなさい。
    そう言われているようだった。

      ……………………………………………

    東京創元社文庫60周年、おめでとうございます。
    文庫創刊60周年フェアとして、人気漫画家による期間限定ブックカバー、作家推薦の「私が影響を受けた一冊」、読者そして社員が選ぶ文庫第一位などが紹介されています。
    わたしは、「読者が選ぶ第一位」から何冊か続けて読んでみたところ、どれもこの作品を知ることが出来てよかったぁと思えるものばかりでした。と、天野先生オススメ作品もね。
    しばらくは、このフェアのラインナップから抜けだせそうにありません。
    ぜひ、気になる方はチェックしてみてください。
    もちろん長年の東京創元社文庫ファンの方にも、あ、これこれ!入って当然だよね~なんて満足してもらえると思います。

    その中の一冊がこの「秋の花」でした。「泣ける」国内部門第一位です。因みに海外部門第一位が「少女はクリスマスに還る」、他の意見として
    「慟哭」「渚にて」が紹介されています。どれもおすすめです。

    • nejidonさん
      地球っこさん、こんにちは♪
      円紫さんのシリーズはどれも良いお話ですよね。
      懐かしく思い出しながら読ませていただきました。
      泣ける部門だ...
      地球っこさん、こんにちは♪
      円紫さんのシリーズはどれも良いお話ですよね。
      懐かしく思い出しながら読ませていただきました。
      泣ける部門だったのですか?あれれ、泣いたのかな、ワタクシは・笑
      しんみり・・・として胸に染みたのは覚えていますけどね。
      創元社文庫60周年なんて、知りませんでした。こちらもラインナップを見てみますね。
      いつも心温まるレビュー、ありがとうございます。
      2019/04/07
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんにちは♪
      先週だったか雪が降ってびっくりしまし
      たが、だいぶん暖かくなってきました。
      いかがお過ごしですか?
      ...
      nejidonさん、こんにちは♪
      先週だったか雪が降ってびっくりしまし
      たが、だいぶん暖かくなってきました。
      いかがお過ごしですか?

      コメントありがとうございます!
      円紫さんシリーズ、本棚を見てみると
      「夜の蝉」から「太宰治の辞書」に飛ん
      でました。何でだろ?
      ということで、久しぶりに«私»の世界に
      戻ってきました。
      そうなんです。「泣ける」国内部門第一
      位でした。最後にね、ぐっときました。
      真理子のお母さんの視点に立ったからか
      もしれません。
      お母さんには、本当は分かっていたの
      じゃないのでしょうか。
      利恵に着替えをさせる場面、準備された
      洋服。そして最後のひとこと。
      円紫さんの言う「許せない」気持ちと
      「救いたい」気持ちが忍ばされているよ
      うで、胸が痛くなりました。

      死ぬまでにあと何冊本が読めるんだろう。

      読み終えたあとに余韻が残る。
      いろんな想いに熱くなったり、心許なく
      なったり。
      そんな感情が揺さぶられる物語に、どれ
      だけ出会えるのでしょうか。
      何だか壮大なことになってしまいまし
      た(^-^;)
      2019/04/07
    • nejidonさん
      地球っこさん、こんにちは(^^♪
      猛暑の残暑ですが、お元気ですか?
      お知らせしたいことがあってコメントしますね。
      北村さんの「ユーカリ...
      地球っこさん、こんにちは(^^♪
      猛暑の残暑ですが、お元気ですか?
      お知らせしたいことがあってコメントしますね。
      北村さんの「ユーカリの木の蔭で」という読書エッセイを読みまして、
      とても良かったのですよ。地球っこさんに早くお知らせしたくて
      タイムラインにお名前が登場するのをお待ちしておりました。
      どうせなら、北村さんがお好きな方にお薦めしたいのです。
      読む本の予定もおありかと思いますが、よろしければ手に取ってみてくださいね♪
      2020/08/13
  • 謎はやはり円紫さんが解いてしまうのだが、彼の登場は最後の最後。そこまでの間に「私」は、親友を失って茫然自失となっている和泉さんの心のうちをのぞき、助けになろうとする。いくらか年下の子の心配をする様子は頼もしくも微笑ましくもあり。これまでの3人とはまた違う雰囲気の女の子たちをみることができる。
    話はかなり重い。
    「ここまでの謎を解くことなど、実は子供の遊びのようなものなのだ。それからどうするかの方が、遥かに難しい本当の問題なのだ。」

  • 今まで読んだミステリーのどんでん返しというジャンルとはまた違うが、結末を知ったあとにまた読み返したいと思った作品だった。
    トリックとか犯人が誰ということではなく、犯人が分かったあとにしっかりドラマがあり、考えさせられた。
    ミステリーというと犯人がわかる過程が重視される気もするが、この作品はミステリーにはそういったスリルだけではないということを教えてくれる。
    また、他のミステリー作品の中には現実には起こり得ないだろうという前提から構成される物語もある。
    しかし、この物語は大学生という「私」という立場から事件に向き合うことでフィクションがノンフィクションに感じるリアル感があった。

    正直、緊張感やハラハラするといった物語ではない。ただ、ドラマがあるミステリーという印象を受けた。
    仮に人に勧めやすいミステリー作品を聞かれたらこのシリーズを推したいと思う。

  • 私と円紫さんシリーズ
    全部おもしろかったなぁ

    シリーズが進むにつれて、二人の関係性も深くなって、
    初めからしっくりくる二人だったんだけど
    単なる大学の先輩後輩の関係を超えて、
    恋人でもなく、師匠と弟子でもなく、親子とも友達とも違う、不思議な二人の関係性ができあがっていましたね
    なんとも言い表せない関係だけど、深い信頼関係が美しいです

    円紫さんは頭がいいだけでなく、きっと物凄く細やかな気遣いができて優しい人です
    この物語を読んで、運命によって、どうにもできない事象はあるけれど、
    ある出来事が起きたあと、手を差し伸べて掬い上げる方法を考える余地はあるのだなと、思いました。

    私と円紫さんシリーズは読み終えてしまいましたが、まだまだ北村薫さんの作品を読んでいきたいと思います!

  • 「空飛ぶ馬」の続編ということで、購入。
    北村薫さんの作品は、唐突に終わるように思う。
    読者は、提示された謎が解かれても、それに関わった人たちにも、その先の人生があると知っているし、その人たちがどのように生きていくか、謎が解かれた時の心情がどうだったのか、とても気になる。
    けれど、本作でも、その部分が描かれることはない。
    お話はお終いだよ、と突き放されたような気持ちになり、読了後、少し寂しい。
    けれど、よくよく考えてみれば、当たり前のことで、「わたし」以外の人生がどうなっていくのか、「わたし」以外がどのように感じたのかなんてことは分かる訳もない。
    第三者である「わたし」にとっての事件は、謎が解かれた時点で終わっているのだ。
    その辺りがとてもリアルで、ぞくぞくするほどの快感がある。
    読了後、いつも寂しくなってしまうのに、まだ次に手を出してしまうのは、そんな快感がまた味わえると思ってしまうからなのだろうか。

  • 私と円紫さんシリーズ初の長編。
    長編だと知らなくて途中で気づいて嬉しさが込み上げた。
    今までの短編も楽しく読めたが、ページが多い分中身がより深く構成されていると期待できた。
    期待通り、とても楽しめた。

    仲の良かった2人の女の子に起きた悲劇。片方は人生を絶たれ、もう1人は苦悩の淵にいる。
    2人の先輩である私が、事件の真相を考察する。

    最後には真相が明らかになるのだが、さて、明らかになって救われる人が出るかと言うとそうではない。
    ”ここまでの謎を解くことなど、実は子供の遊びのようなものなのだ。それからどうするかの方が、遥かに難しい本当の問題なのだ。“

    この後の展開のほうが、より気になるのが北村薫先生の作品の魅力の一つだと思う。

    また、本作に出てきた“野菊の墓"も個人的には気になったので、読みたい本リストに追加。

  • 円紫さんの推理によって真相が露わになったとき
    そうだったのかのすっきりを上回る苦しさに視界が歪み、へこんでしまった。
    一瞬の重さが時の連なりを断ち、まったく違うものに変えてしまう。
    ぞっとするけれど、これからもそんな世界のルールを全うする。

    過ちを真剣に叱ってくれる友達、真剣に心配してくれる人、20歳くらいのときの自分にとってのそういう人を不意に思い出してた。
    今思い出しても愉快でどこか不安定だったのかも知れないあの頃。
    〈私〉の語りは相変わらずリズミカルで心地よい。
    感傷に酔わない聡明さが眩しい。人生に対して誠実だと思う。

  • 先日、仕事場の同僚とミステリの話をしていて、ふと話題にのぼった。
    数年ぶり何度目かの再読だが、迂闊なことにブクログ登録していなかったな。

    北村薫さんデビュー作の空飛ぶ馬からはじまる円紫さんと私シリーズの、3作目にして初の長編…しかも、シリーズではじめて殺人事件が起こる物語でもある。

    読み始めた頃は好きすぎて諸手を挙げて絶賛したものだが、やはり30年以上も前の作品となると時代のギャップに違和感を覚えるダメな読者っぷりを発揮してしまう。

    引用される文学作品の数々に、若干辟易したり、心を閉ざした女子高生の、それでも行儀よく思い出を語るシーンに、
    こんな状況でこんなに話せるかな?とか余計なことを考えてしまったりする。 

    …するのだが、

    真打が登場する7章から怒涛の盛り上がりで、それまでの違和感をすべて包括しながら、細かい伏線が次々と回収されるこの展開にやはり今回もやられました。

    肝となる謎がこれ以上ないかたちで解消されるのは勿論なのだが、
    7章以降のすごいところはそれ以外のところで情緒をこれでもかと揺すぶられるその展開。
    数年ぶりの再読なので少し忘れていたけど、めっちゃ泣かされるお話だったわ、コレ。

    20代の頃も、50が近くなってきた今も、心を動かされるシーンは同じで、それがあるからこそやっぱりこのシリーズを好きだな、と再確認する。

    ミステリとしても間違いなく一流で、(読み終えたあと、最初から読んだら仕掛けの凄さに唸りました)文学作品としても本当に素晴らしい作品。
    近いうちに野菊の墓も読まなきゃな。
    再読バンザイです。


  • 国文学を専攻する大学三年生の《私》が、大学の先輩で噺家の紫円に《お話したいことがあります》と相談をもち掛けるシリ-ズ第三作は、泣かせてくれます。 人に科せられた「許し」と「救い」という重いテーマを、「秋海棠 シュウカイドウ (別名:断腸花) 」の〝人を思って泣く涙が落ちる 秋の花〟に例えて、慈愛の心で謳いあげた最終章に、身が引き締まりました。

  • 今回は短編じゃないから、ページをめくる手を止めるタイミングがつかめず、駆け足で読んでしまった。でも、これは再読したい作品。じっくり読み直したい。切なくて、辛くて、悲しくて、美しい自然の描写が、登場人物の言葉が(とくに円紫さんから私への言葉が)胸を打つ。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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