秋の花 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.70
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本棚登録 : 1999
レビュー : 209
  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413033

作品紹介・あらすじ

絵に描いたような幼なじみの真理子と利恵を苛酷な運命が待ち受けていた。ひとりが召され、ひとりは抜け殻と化したように憔悴の度を加えていく。文化祭準備中の事故と処理された女子高生の墜落死-親友を喪った傷心の利恵を案じ、ふたりの先輩である『私』は事件の核心に迫ろうとするが、疑心暗鬼を生ずるばかり。考えあぐねて円紫さんに打ち明けた日、利恵がいなくなった…。

感想・レビュー・書評

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  • いつも一緒に過ごす幼なじみの真理子と利恵。
    高校の文化祭準備中に、真理子は学校の屋上から墜落死してしまう。親友を失った利恵は魂を抜かれたかのような日々を送っていた。ふたりの先輩である«私»は事件の核心に迫ろうとする。悩んだ«私»は、相談した円紫さんと共に真理子の母親と利恵に会いに行く……
    どうしても考えてしまうのは、利恵が真理子の死に何らかの関係があって、彼女はそれに押し潰されそうになっているんじゃないか、ということ。こうじゃなきゃいいのにという思いに引っ張られながら読み進める。

    運命の悪戯かのような事件の真相がわかったときのやりきれなさ。でも、それよりも大きく深く心に刻まれたのは最後にかけてのシーンだった。謎解きよりも、もっと大切なことが描かれていたと思う。
    円紫さんは言う。
    «許す»ことは出来ない。でも救うことは出来る。

    母だからこそ「許せない」
    だからこそ、母としてあなたを「救いたい」
    生きなさい。生きなさい。
    そう言われているようだった。

      ……………………………………………

    東京創元社文庫60周年、おめでとうございます。
    文庫創刊60周年フェアとして、人気漫画家による期間限定ブックカバー、作家推薦の「私が影響を受けた一冊」、読者そして社員が選ぶ文庫第一位などが紹介されています。
    わたしは、「読者が選ぶ第一位」から何冊か続けて読んでみたところ、どれもこの作品を知ることが出来てよかったぁと思えるものばかりでした。と、天野先生オススメ作品もね。
    しばらくは、このフェアのラインナップから抜けだせそうにありません。
    ぜひ、気になる方はチェックしてみてください。
    もちろん長年の東京創元社文庫ファンの方にも、あ、これこれ!入って当然だよね~なんて満足してもらえると思います。

    その中の一冊がこの「秋の花」でした。「泣ける」国内部門第一位です。因みに海外部門第一位が「少女はクリスマスに還る」、他の意見として
    「慟哭」「渚にて」が紹介されています。どれもおすすめです。

    • nejidonさん
      地球っこさん、こんにちは♪
      円紫さんのシリーズはどれも良いお話ですよね。
      懐かしく思い出しながら読ませていただきました。
      泣ける部門だ...
      地球っこさん、こんにちは♪
      円紫さんのシリーズはどれも良いお話ですよね。
      懐かしく思い出しながら読ませていただきました。
      泣ける部門だったのですか?あれれ、泣いたのかな、ワタクシは・笑
      しんみり・・・として胸に染みたのは覚えていますけどね。
      創元社文庫60周年なんて、知りませんでした。こちらもラインナップを見てみますね。
      いつも心温まるレビュー、ありがとうございます。
      2019/04/07
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんにちは♪
      先週だったか雪が降ってびっくりしまし
      たが、だいぶん暖かくなってきました。
      いかがお過ごしですか?
      ...
      nejidonさん、こんにちは♪
      先週だったか雪が降ってびっくりしまし
      たが、だいぶん暖かくなってきました。
      いかがお過ごしですか?

      コメントありがとうございます!
      円紫さんシリーズ、本棚を見てみると
      「夜の蝉」から「太宰治の辞書」に飛ん
      でました。何でだろ?
      ということで、久しぶりに«私»の世界に
      戻ってきました。
      そうなんです。「泣ける」国内部門第一
      位でした。最後にね、ぐっときました。
      真理子のお母さんの視点に立ったからか
      もしれません。
      お母さんには、本当は分かっていたの
      じゃないのでしょうか。
      利恵に着替えをさせる場面、準備された
      洋服。そして最後のひとこと。
      円紫さんの言う「許せない」気持ちと
      「救いたい」気持ちが忍ばされているよ
      うで、胸が痛くなりました。

      死ぬまでにあと何冊本が読めるんだろう。

      読み終えたあとに余韻が残る。
      いろんな想いに熱くなったり、心許なく
      なったり。
      そんな感情が揺さぶられる物語に、どれ
      だけ出会えるのでしょうか。
      何だか壮大なことになってしまいまし
      た(^-^;)
      2019/04/07
  • もう亡くなってしまった少女として、会話の中や回想にしか出てこない津田真理子の、圧倒的な存在感。
    凛として、まっすぐなまなざしで未来を見つめていた彼女の命が、あっけなく絶たれてしまう哀しさ。

    円紫さんシリーズの中では異色の作品かもしれないけど、私は、この真理子の短い人生に触れられたそのことだけで、この作品が一番好きです。

    そして。。。再読したとき
    一行目に仕掛けられた、北村さんの読者への挑戦に、鳥肌がたちました。
    やっぱりすごい、北村薫!

    • kwosaさん
      まろんさん、お元気ですか?

      『秋の花』をお薦め頂いて、ほぼ三年越しでようやく読了しました。
      凛とした真理子は本当に素敵な女性で、それ...
      まろんさん、お元気ですか?

      『秋の花』をお薦め頂いて、ほぼ三年越しでようやく読了しました。
      凛とした真理子は本当に素敵な女性で、それだけにつらい物語でもありました。
      冗談めかして「娘を見守るおとうさんの気持ちで」なんていいながら読み進めたこのシリーズ。本当に娘の親になり五年。『秋の花』を単なる物語として読み流せない心持ちになっております。
      レビューもなかなか書けなくなりましたが、ブクログでまろんさんとまたお会いできればいいな、と思っています。
      2016/01/25
  • 円紫さんと私シリーズ3。
    和泉さんの気持ちを思うと本当に苦しくなりました。
    ところどころ出てくる小説のことや詩、そして落語は毎回楽しみです。
    今回はかなり長い期間『私』は苦しんだようです。
    さぁ4巻はどんな話か今から気になっています。

  • 時として残酷に振る舞う「運命」、それに翻弄される人の命のはかなさ。読み終わった後、あまりのやるせなさに、しばらくぼうっとしてしまった。
    『空飛ぶ馬』『夜の蝉』と同じく、本筋がすばらしいのはもちろん、文章からあふれ出る「私」の本への愛がまた良い。

  • シリーズ3作目

    記憶に残る一冊になりそう。。。
    1つの物語で、人が亡くなる事件が起こったのだが
    その真相が 本当に日常の一コマからなるもので。。。
    切ない。。

    許すことは出来なくとも、救う事は出来る。
    そうなれる人はどの位いるのだろう。。。

    「私達って、そんなにもろいんでしょうか」の答え、
    「百年生きようと千年生きようと、結局持つのは今という一つの時の連続です。もろさを知るからこそ…今をつかまえて、何かをしようと思い、何者でありたいと願い、また何かを残せるのでしょう。」

    秋海棠も忘れられない花になりそう。。
    (別作家さんの別作品のイメージにも重なる。。)

    でもそんな中にも
    「雑念のない子供の頃の読書には、今となっては到底味わえないような没我の楽しみがあった。」とか
    耳食=耳で食べてはいけません とか
    生まれた町につれてきたとき、≪この道はどこの道よりも素敵だ≫と思う誰かについて とか

    なるほどなぁ。。という素敵な考え方が散りばめられていて


    冒頭久世光彦氏
    解説北村暁子氏

  • 円紫さんと私シリーズは人の死なないミステリだったのでは??
    それなのにあぁ...なんと切ない...。

    もしかしたら、いつかどこかで自分も和泉さんと同じような
    立場に立たされてしまうことがあるかもしれない...と、人一人の命をも
    奪ってしまうこんな運命のいたずらは、紙一重で日常のいつものどこかに
    潜んでいそうなことのように感じられてなりませんでした。

    落語の「御神酒徳利」
    古典文学の「野菊の墓」
    秋に咲く花・「秋海棠(断腸花)」に絡ませて描く
    北村さんのセンスの素晴らしさに感嘆しきりです。

    断腸花はこぼれた涙で咲く花ということを初めて知りました。

    私と正ちゃんと江美ちゃんは、絶妙な会話の掛け合いと価値観の合意が
    うらやましいほどに素敵な友情を持つ三人。

  • 好きなミステリは、と問われれば間違いなくこの1冊。
    「円紫さんと私」シリーズの第3巻です。

    とは言え、実に4年ぶりの再読。トリックを覚えているだけに、一層切なさが募り、苦しい思いで読み進めました。

    とにかく仕掛けが見事だと思います。謎が解き明かされた瞬間、思わずあっと声を上げそうになる鮮やかさ。パズルの最後のピースが埋まる瞬間、心がぐらりと揺り動かされました。出来上がった「画」の、なんと悲しい事か。

    初読の時も今回も、ヤマ場は通勤電車の中で読みました。4年前は唸り声を上げそうになり、今回はうっかり泣くところでした。

    結末も、もう、何と言ったらいいのか…。トリックのために人は死んだりしない。人がひとり亡くなるという重みを、静かに、だけど残酷なまでに読者に突きつけてきます。

    恐らくシリーズ中、円紫師匠の登場ページが最も少ない1冊。だけど存在感は抜群で、言葉の一つ一つが重く、あるいは優しく迫ってきます。

    「もろいです。しかし-」

    全くの蛇足ですが、文庫本裏表紙のあらすじは、少々喋りすぎかと。

  • 『私と円紫さんシリーズ』長編。
    せつない物語である。
    やはり、円紫さんの演目と絡んで語られる。
    “お神酒徳利”の片方が欠ける不自然さ。
    しかし、学生という、文化祭前夜という特別な舞台、限られた時間の持つ輝きのようなものも感じられる作品。
    人が亡くなって、そんな事を言うのも不謹慎ではあるけれど、取り戻せない特別な時間を切り取った話に思えるのだ。
    「私」にとっても、長じて後にそう思われるのではないか。
    『野菊の墓』の、残された政夫の感慨とはそういうことだろう。
    それを、21歳の若さで理解できてしまう江美ちゃんは、やはり、一歩先を行くオトナだなあと思う。

  • 「円紫さんと私」シリーズを遡ってきている。
    初読の時には「死」というテーマが重すぎて切なすぎてきっとその時の自分はあえて記憶の淵、すれすれのところにこの「秋の花」を手向けてしまったのだ。
    高校で起きた死亡事故(事件?)それに関わる謎と残された少女の痛み、あたかも始めてページを捲るが如く取り込まれてしまって逃げ切れない時間をまた過ごしてしまった。『日常の謎・人の死なないミステリー』と勝手に看板を揚げてしまっているこのシリーズだが作者の冷静な、それでいて逃げることを許さない眼が登場する人たちの真摯さと共に胸を打つ。

  • シリーズ3作目。本作は長編で、なんと殺人事件。
    でも、やはり大学生の<私>の日常の中で、語られていく文章に変わりはない。探偵役の円紫さんの登場と謎の解決は、終盤。
    「許すことは出来そうにありません。ただ、救うことは出来る。そして、救わねばならない、と思います。」悲しさの中に光を見たような終わりだった。
    三輪車をこいでいる頃に互いに引かれるように出会った二人の少女。そのシーンの鮮やかさが心に沁みていった。

    真理子には著者の「スキップ」で出会える、と解説にある。読まなきゃいけないだろうね。

  • ずっと前に読んだが、再度買った。円紫さんシリーズだが、円紫さんは最後まであまり介入しない。
    どんな恐ろしい殺人ミステリーも、この物語の真相の「おそろしさ」には勝てない、と思っている。
    あまりの悲しい謎解きに、ほんとうに、ふるえた。

  • 噺家の円紫さんシリーズの第三作。
    第一作を読み、第二作をスキップしてしまいました。

    主人公の女子大生が卒業した高校で起きた女子高生の飛び降りにまつわる謎を解明していくというもの。

    物語の前半は主人公の女子大生が、当時の関係者に話を聞いて回り、後半になってようやく、円紫さんの出番と言う流れです。
    事件自体はそれほど、複雑ではありませんが、若いころの過ちは人に相談しにくく、閉じられた空間として存在する場合、決して一過性のものではないと言う事。

    人は生まれるところは選ぶことができない。どのような人間として生まれるかも選べない。気が付いた時には否応なしに存在する自分というものを育てるのは、あるときからは自分自身であろう

    と円紫さんは言います。外部の要因が働くこともあるかもしれないけど、最後にどのような人間になるかを決める権利は大方、自分にあるということか。

  • 青春のきらきらした瞬間があっけなく、いつ終わってしまってもおかしくないというもろさと切なさ。だからこそ今、この瞬間がより一層大切で輝くという円紫さんのお言葉、ぐっと胸にきました。
    あいかわらずの主人公の文学少女ぶりにはなかなかついていけないけれど、情景の丁寧な描写は心が洗われるよう。

    • mao2catさん
      まろんさん、はじめまして。ありがとうございます。
      私も北村薫さん大好きです。
      猫も大好きで、1匹まおまおという名前の猫を飼ってたんですが...
      まろんさん、はじめまして。ありがとうございます。
      私も北村薫さん大好きです。
      猫も大好きで、1匹まおまおという名前の猫を飼ってたんですが、先日亡くなってしまいました。淋しいです。
      あの温かさが恋しくてしかたないです。

      こちらこそよろしくお願いします。
      2012/12/20
    • まろんさん
      天国に旅立ったまおまおちゃん、
      こんなに素直に「淋しい」「恋しくてしかたない」と綴ってくれる飼い主さんと一緒に過ごせて
      きっととてもしあわせ...
      天国に旅立ったまおまおちゃん、
      こんなに素直に「淋しい」「恋しくてしかたない」と綴ってくれる飼い主さんと一緒に過ごせて
      きっととてもしあわせな一生だったのだと思います。

      つらいことを書かせてしまってごめんなさい。
      まおまおちゃんとの楽しかった思い出が、mao2catさんの淋しさを少しずつあたためてくれますように。
      2012/12/21
    • mao2catさん
      まろんさん、ありがとうございます。

      実家にも友だちんちにも猫がいます。
      なぜか猫好きは集まりますね。

      まろんさんが読まれてる猫...
      まろんさん、ありがとうございます。

      実家にも友だちんちにも猫がいます。
      なぜか猫好きは集まりますね。

      まろんさんが読まれてる猫が出てくる本、どれも面白そうですね。
      読みたいです。
      2012/12/21
  • トリックは読み解けてもそこにカタルシスはない。むしろ残るのは、息苦しさ…。

    幼なじみのふたりは、なぜこのような「事件」に巻き込まれなければならなかったのか? ふたりの出会い、なにげない会話や思い出…… そうしたエピソードがていねいに描かれ、それによって読者はそれが起こるべくして起こったこと、「偶然」のひとことでは片付けることのできない出来事だったことを思い知らされる。それはまた、主人公である「私」にも、そして読者にも、いつ起こっても不思議ではないということでもある。その厳然たる事実が、読むものを不安にし息苦しくさせるのだろう。

    「私と円紫さん」シリーズ第3弾であるこの『秋の花』は、いわゆる「事件らしい事件」が起こる点、そして長編であるという点で明らかに前2作とはちがっている。物語の「軸」はますます「私」の日常へとシフトし、終盤近くなって登場する「円紫さん」もトリックを解明しはするが解決はしない。とはいえ、推理小説の体裁をとりながら、人間の感情の深い部分に触れようという著者の意志は第3作であるここでも一貫している。

  • 読了日 2019/08/06

    円紫さんと私シリーズ第三作目。
    シリーズ初の長編か。

    いっぱい、はっとさせられるような言葉があって、
    何度でも読みたいと思う。

    『私』の後輩が亡くなった。その謎を解く話。

  • 円紫さんと私シリーズ第3弾はちょっと異色の長編。

    「私」のご近所さんで、高校の後輩である女子高生が学校の屋上から転落して亡くなった。親友を喪い抜け殻のようになった彼女の幼馴染のため、「私」は事故と処理されたその死の謎に迫ろうとするが・・・

    これまでの短編集と違い、女子高生の死をめぐる物語はどこまでも重苦しい。いつもならふんだんに盛り込まれる大学の友人の登場場面も少なく、円紫さんも最後になってやっと登場する。
    事件の謎に巻き込まれた「私」が、悩みながら真相に近づいていく過程で目にする、幼馴染の憔悴した姿に胸が締め付けられる。

    亡くなった女子高生の圧倒的な存在感。真相がわかった時の背筋が寒くなるような感覚。命のもろさを思い知り、だからこそ今「生きること」の重さを感じるラスト。
    「親としては許せないけど、救うことは出来る。救わなければならない」この円紫さんの言葉がとても重い。

  • 今回は長編。で、謎はとても重い。こんなにつらい話をあくまでも静かに綴るのが流石。

  • シリーズ3作目も面白かったです。
    今回は長編で、とても辛い事件だったのですが、円紫さんの静かな優しさにわたしも救われました。
    主人公の「私」と、友人の正ちゃんや江美ちゃんの会話はやっぱりちょっと変わってて面白いです。だんだん成長しているなぁ。
    でも私のお母さんの話し方が苦手です…娘にその言い方は無いなぁと思ってしまって。

    本編には直接関係はありませんが、今回、すごく残ったのが「耳食」という言葉です。
    「本でも絵でも音楽でも、他人に、これはいい、といわれて、それにとらわれてはいけない。それは評判を聞いて料理を食べ、闇雲においしいというようなもの。つまりは耳で食べているようなものだ。」という説明でした。
    耳食は頭でっかちということなのだろうか…聞くだけじゃなく、色々やってみようと思いました。

  •  北村薫の『私と円紫さんシリーズ』の一作目『空飛ぶ馬』(《私》19才、大学2年の5月から12月まで)、二作目『夜の蝉』(《私》大学2年生の3月から3年生の8月頃まで)につづく第三作目『秋の花』。
     過去二作が短編集であったのに対して、本作品は女子高校生の死の謎を解き明かす長編ミステリーとなっている。大学3年生の10~11月の《私》が描かれ、江戸川とその支流が流れる千葉県市川市と埼玉県春日部市が主な舞台となっており、国府台~真間の手児奈霊堂~里見公園~矢切の渡しを親友二人と散策した時の装い(プリントのTシャツに、小麦色のキュロットとベスト)が高野文子氏の描く表紙イラストに採用されている。
    「ついこの間入学したような気がする。二年と半分、一体何をしてきたのだろう」と過ぎ去った日々を反省しつつも、卒論のテーマはいち早く芥川龍之介に照準が絞れており、冷静に卒業というゴールを見据える、堅実に歩む学生としての面も映し出されている。

    読書の極意がさりげなく次のように綴られている。

     雑念のない子供の頃の読書には、没我の楽しみがあった。年齢を重ねると、そういう楽しみがいささか失われるかわりに、昔読めなかったところまで読めて来る。
     作家論というのは誰を論ずるにしたところで、しょせんは自分を語ること。

    亡くなった女子高校生―津田真理子は、《私》とも面識ある母校の後輩であり、「大人になった未来から子供である自分をしっかりと見詰めることが普通の子に出来るだろうか」と先輩の《私》をも感心させるほど意志が強く、早世しており、確かな明るい未来が待ち受けていたにもかかわらず“事故”でこの世を去ってしまう。こうした限りある生を描きつつも、この悲劇のヒロインが実は前作『夜の蝉』で祭の夜に《私》と擦れ違っていたり、そしてまた、『私と円紫さんシリーズ』に勝るとも劣らない北村氏の人気シリーズ『時と人シリーズ』の「スキップ」という作品で、時を旅する一之瀬真理子というヒロインとして甦っていることもまた、北村マジックのひとつとして語り草となっている。

    もう何年かすると、あなたもきっと誰かをここに連れて来るのでしょうね。そして自分の歩いた道を教えてあげる。その時、誰かは《この道はどこの道より素敵だ》と思うでしょう。

  • 円紫さんの超人っぷりは今回もかわらず!
    心が優しく包まれるような言葉の数々。季節が秋ってこともあるしテーマも関係してるのかどこか物悲しいトーンが作品全体に漂ってる。そんな中でも三人娘の掛け合いがクスッと笑わしてくれるタイミングが好き。

    旅行記のテイストも感じられる風景描写。その場で肌で感じているような感覚が文章から湧き上がってきて、技量の高さはあっぱれです。文学作品に絡めた話題の時は自分の無教養を呪うよね。でもなんとか噛り付いて読み進めていくのがまた快感だったりする。「私」が一歩ずつ成長するにつれて複雑な感情を胸に刻んでいる。円紫さんの温かさが無性に恋い焦がれる思いを呼びよこす。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。高校教師を務めるかたわら、89年『空飛ぶ馬』で作家デビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、09年『鷺と雪』で第141回直木賞、15年には第19回日本ミステリー文学大賞を受賞した。エッセイや評論、編集の分野でも活躍している。近著に『八月の六日間』『太宰治の辞書』『中野のお父さん』など。

「2019年 『覆面作家の夢の家 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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