朝霧 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.64
  • (152)
  • (249)
  • (377)
  • (26)
  • (5)
本棚登録 : 2053
感想 : 190
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413057

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 久しぶりに「円紫さんと私」シリーズを読んでみた。

    相変わらず、休みの穏やかな午後によく似合う本
    (実際に、近所の木陰のベンチで読んでました)。

    前作『六の宮の姫』は、ややくどさがあって、期待した物語ではなかったが、今回は初期の作品の頃と同様に、「私」を取り巻くさまざまな「小さな出来事」が、短い言葉で優しく、しかも興味深く描かれて、読んでいて安心して楽しい。

    しかも、初めて「私」に恋の香りが…。

    このまま最終話『太宰治の辞書』に突入してもいいけど……いや、もう少しとっておきます。

  • 円紫シリーズ、ようやく完読。
    今現在は最新シリーズ「太宰治の教科書」に出会ってから、第1弾から読み始める。

    時代は古いものの自分の年代と同期していて、シリーズ一つ一つが懐かしくこそばゆい。

    円紫さんを介した謎ときも鮮やか、落語や歴史がわからなくても楽しめる。

    さて、もういちど、「太宰治の教科書」を読んでみようと思う。

  • 「山眠る」
    ”私”は就職も決まり、卒論も提出した。新しい生活への期待と不安を感じている。学生生活への充足感と未練も。余裕があるのにそわそわしてるみたいな感じ。
    最近は俳句にハマっている。文壇の長老、田崎信先生と俳句談義もした。隣に住むおばあさんは俳句サークルに入っていて新聞に作品を投稿したりしている。ところでその俳句サークルの講師は本郷先生。小学校の校長先生で、”私”の同級生、美沙ちゃんのお父さんだ。
    たまたま”私”は、実家が本屋の幼なじみ、鷹城くんに路上で会った。鷹城くんは本の仕入れ作業中。立ち話をしていると鷹城くんから厭なことを聞かされた。本郷先生が鷹城くんの店からエロ本を何冊も購入しているというのだ。
    隣のおばあさんからは、本郷先生がもう講師を辞めると聞いた。先生は俳句もやめてしまうのだという。先生の最後の句は、―――生涯に 十万の駄句 山眠る―――
    ………本郷先生はなぜエロ本を大量に買い、俳句を捨ててしまおうというのか?

    「走り来るもの」
    (ここで一気に時代が飛ぶ。”私”はみさき書房に入社し早や二年が経過している。姉には子供ができて”私”はおばさんになった。)
    編集者、赤堀さん自作のリドル・ストーリーのお話。伏せられた結末を円紫さんが言い当てる。

    「朝霧」
    ”私”は、前作『六の宮の姫君』でベルリオーズの「レクイエム」のコンサートに行った際、隣に座っていた本好きの若い男と再会する。
    ”私”は父から、むかし高輪に住んでいたというお爺さんの日記を借りて読む。そこには若かったころのお爺さんに、「鈴ちゃん」なる若い女性から送られたという判じ物の暗号文が載せられている。”私”にはちんぷんかんぷんで読めない。
    ”私”は円紫さんの忠臣蔵の落語会を見に行き、円紫さんにお爺さんの暗号の解読をお願いする。

  • 気づけば前作を読んでから約一年経ってしまったんだなぁと、時の流れの早さにしみじみしてしまう。

    本シリーズ王道の各短編に一つの日常ミステリー。やっぱり登場人物の博覧強記ぶり、かつ茶目ってたっぷりのやりとりが心地いい。会話のバックグラウンドを理解するに至らない自分でも、文学、文芸っていいなぁって浸ってしまう。人間の奥深さ、表裏をさりげなく暴露されてる気になって、ほのぼの読み進めているとはっとさせられる。

    しかし、みんな新しい人生踏み出していて、感慨深い。
    なんちゃって親心。

  • 読了日 2020/01/25

    円紫さんと私シリーズ5作目。
    短編集。

  • この本は、ページ数が少ない割りにデータ数が多くてなかなかレビューか書けなかった。引用して残しておきたい部分も多い、買ってきたので本棚に保存して、折にふれ取り出して読み返せばいいと思うが、書き残す作業で少しは残る記憶が鮮明であって欲しいと思う欲もある。

    これで「円紫師匠とワタシシリーズ」が終わる。たまたま読んだ本だったのに随分影響を受けた。読書の幅がすこし広がった気もする。
    子どもの頃から本好きできたが、なぜこんなに読むべき本を読み残していたのか、ここで気がついた。
    読書に向かう姿勢を見直すことが出来たということが、このシリーズを読んで一番感謝するところだ。
    博覧強記で知られる北村さんの文章が、温かく地味豊かだということが、読み続けるもとになっていてとても後味がいい。


    山眠る

    《私》は卒論を提出して、卒業後の研修プログラムも出来、就職先の人たちと付き合う時間が増えた。学生生活で限られていた行動半径も広がっている。
    たまたま小中で同級生だった本屋の子と出合った。今は本屋を継いでいると言う。そこで母が通っている「俳句の会」の先生の噂を聞いた。
    彼は「先生がいい年をしてエロ本をごっぞり買いこんで行った」という。
    顧客情報をそんなに安易に漏らしていいのだろうか《私》は気分がよくなかった。
    うちでは母は先生が俳句の指導をやめるのだと残念がっていた。母から最後に先生が披露した句をきいた。
     生涯に 十万の駄句 山眠る

    《私》は先生があちこちでエロ本を買っているわけを知る。偶然出会ったのでそれとなく話すシーンがいい。先生の最後の句の意味もいい。
    この章は、眼から鱗の俳句の話がメインになっている。

    「走り来るもの」

    《私》は卒業して勤め始めた。
    この章は二者択一の妙というものがテーマだ。「女か虎か」女王が愛した若者の前に檻が二つある、王族との禁じられた恋というので裁判にかけられている。檻にはそれぞれ「美女と虎」が入っている。王女はそれ知っていた、若者は教えてくれると期待している、サテどちらを開けたのか。そこから男と女の愛の話になり、源氏物語の「すこし」という言葉にうつっていく。
    円紫さんの落語も効果的にでる。
    短いが読むのが実に楽しい。

    さてあの美人のお姉さんが、しどろもどろで電話をかけてきた男性と結婚してはや女の子がうまれた。めでたい。

    「朝霧」

    三角関係の人たちの、コンサートのキップをめぐって起きる謎を解く。
    円紫さんから「仲蔵」の話を聞く。

    鎌倉に行ったついでに教師になった正ちゃんの家に泊まり江美ちゃんの赤ちゃんを見に行くことになる。

    二人で数字場狩りの和歌の謎、漢字ばかりの和歌の謎に挑戦する。解が面白い。


    メモ

    《蚊柱のいしづゑとなる捨て子かな》池西言水
    「この言葉に芥川が敏感でない筈はありません。少なくとも実の親からはなされた子という題材に対して、敏感でない筈はないとおもうのです」
    わたしはそれを知った時、芥川が言水の句を読んだ時の心の揺れを、一瞬、共有したような気がした。
    これからも私は本を読んで行くだろう。そして本は、私の心を様々な形で揺らしていきだろう。

    無数の人が私の前を歩き、様々なことを教えてくれる。私は先を行く人を、敬し、愛したい。だが、人に知識を与える《時》は、同時に人を蝕むものでもあるのだろう
    <山眠るより>

    「たまたま 山本健吉の「新撰百人一首」というのを見ました。加藤楸邨は何が選ばれているのかと思ったら《日本語をはなれし蝶のハヒフヘホ》でした」
    「僕にはわからない。仲間に俳人がいますのでね《これはいいものですか》と聞いたら、じっと見て――《いい》」
    「《いい》といえるものがそれだけある。見えることは世界が豊かだということでしょう。羨ましいと思いますよ」
    <円紫さんのことばより>

    夢の世界は個人のものである。当人が言わない限り、誰にも覗けない。絶対の謎である。そこが見たくなったときに起こる奇妙なもどかしさ。
    《知りたい》という噺より


    いい本を読んだ。北村さんの本は後三冊買ってある。読み終わったので忘れないうちに書いておかないといけない。

  • 円紫さんと私シリーズ第5弾。
    大学を卒業し、編集者として歩みだした私が直面する謎を巡る3つの物語。

    様々な人に巡り合いながら、社会人として、編集者として成長していく「私」のたおやかさ、人に対する思いやりに心がが洗われる思い。どの物語にも心に沁みる言葉があり、その余韻が心地いい。この作品、本当に好き。

    何より嬉しいのは、前作「六の宮の姫君」で「私」の心にさざなみを起こした出会いが、小さな縁を繋いでロマンスとして芽吹きそうなこと。次作は読んだはずなのに、そこのところどうなったかすっかり忘れているから、再読しなくちゃ!

  • 面白かったです。
    主人公の「私」が働き始めたのですが、出版社のお仕事模様は興味深く読みました。本が出来るまでや、作家さんとのやりとり…面白いです。
    私や友人たち、円紫さんにも時は流れていて、1作目から随分経ったんだな、とつくづく感じました。
    私は恋の第一歩を踏み出すのかな。続きも楽しみです。

  • 「いいかい、君、好きになるなら、一流の人物を好きになりなさい」
    「本当にいいものはね、やはり太陽の方を向いているんだと思うよ」

    ”私”がかなり年上の作家から言われるこのセリフの温かさにしびれた。これは、北村薫からの若い読者へのメッセージではないのか。

  • 2004-00-00

全190件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北村薫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×