朝霧 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413057

感想・レビュー・書評

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  • 社会人になった主人公。
    面白いのだけど少し難しい。

  • p221私は大学で彼女と出会い、しばらくは(高岡さん)と呼び、やがて(正ちゃん)と言うようになった。見知らぬ人が、彼女をそう呼ぶのを聞くのは、初めてかもしれない。いや初めてだ。何だか、不思議な気がした。私の方からだけ照明を当てて見ていた彼女の、別の顔を垣間見たような感じ。
    当たり前のことだが、ここは彼女の街なのだ。ここに彼女の生活がある、と、改めて思った。

  • 『私と円紫さんシリーズ』の最終篇『朝霧』。大学2年生に始まった物語の主人公《私》は本作で社会人3年目の冬を迎える。《私》の延べ6年に及ぶビルドゥングスロマンは、「自分は『レクイエム』を隣り合って聴いたあの人のことを、尋ねずにはいられないだろう」という健気な独白で物語に幕を下ろす。このエンディングは、作中でも題材とされるリドルストーリー(起承転結の《結》を示さず、読者にゆだねる)の手法に他ならず、もう続編がないことを読者に暗示している。万葉集に収められた恋の歌「朝霧のおほに相見し人故に、命死ぬべく恋ひ渡るかも」に揺さぶられた、初デートの相手「お隣りの坊や」に似ているその人への気持ちを、《私》は成就されることができたのだろうか。

    好きになるなら一流の人物を好きになりなさい。本当にいいものはね、やはり太陽の方を向いているんだと思うよ

    音楽プレーヤーから流れてきた山下達郎の新曲「街物語」(「新参者」主題歌)が「朝霧」の世界とあまりにも調和したため読了までイヤホンでリピートし続けた。「物語は続いていく」のリフレイン、レトロな質感の街並みを想起させるメロディーも。

    注釈
    『空飛ぶ馬』《私》大学2年の5月から12月
    『夜の蝉』《私》大学2年の3月から3年生の8月頃
    『秋の花』《私》大学3年の10~11月
    『六の宮の姫君』《私》大学4年の5~9月末頃
    『朝霧』:《私》大学4年の12月~社会人3年目の12月

  • こちらも何年振り、何十年ぶりかの再読。リドルストーリーの逸話のやるせなさの後にほっとさせる話しがあり作者の心優しさが表れている。果たして最新刊では「『レクイエム』を隣り合って聴いたあの人」と出会っているのか楽しみ。しかし、このシリーズ読むと、古典から現代小説までさまざまな文学をもっともっと読みたくなる。

  • 北村さんのすさまじい博覧強記ぶりには参ってしまう。

  • 『私と円紫さん』シリーズ5冊目にして、文庫で発売されているものでは最後の巻。

    主人公「私」は、アルバイトで入った小さな出版社で才能と仕事ぶり、博識を認められ、内定から、無事に社員となる。
    学生最後の年の後半から、入社2年が過ぎるまでを描く。
    「私」は、本当に生長した。
    我が子を見るようでうれしい。
    しかし、子が育てば親は老いるもので、自分の未来ばかり見ていた18の頃とは違い、親や周囲の大人の変化に心を配るようにもなる。

    そして、「縁があれば…」などと思っていたら…
    そんな都合よくなんて、やっぱりフィクションよね、と思ったところ、そういう流れなら全く自然ではないかと言う、またしても作者にやられた。

    私は、男性キャラが登場するたびに、もしかして「私」の相手か?!と、ゲスの勘ぐりをし続けてきた。
    皆、ダメだった(笑)
    が、しかし、今度は進展がありそうである。
    この先書かれた方が良いのか、書かれない方が良いのか分からないが、公・私ともに先輩がゴールインしたのだから、『順番』が巡ってくる日もあるのでは?

    本屋さんモノや出版社モノを選んで読んできた。
    このシリーズは、日常の謎解き物として興味を持って読み始めたのだが、主人公が出版社に就職した結果、出版社モノとしても読めるようになったのが、自分的にひそかに美味しかった。

    今回は、詩歌・俳諧の教養書でもあった。

    本郷さんの「山眠る」の句が、なんだか心に染みる。
    「私」のフォローは「冬来りなば春遠からじ」ということらしい。
    本郷さん、疑ってすみませんでした(^_^;)

    そして、今更言うまでもないが、円紫さんの『人間力』の高さには感動する。

  • ついにシリーズ最後の本になってしまった。

  • 円紫さんと私シリーズ第五作。
    一作目から、いろんなテーマの推理が描かれていて、一話だけでも読み切れるけど、
    全てを読むことで、日常から人生、学ぶこと、などなど、いろんなことに思いを馳せることになる。
    それでいてバラバラではなく
    全体を通じて統一感があり、
    しかも、
    個々の話もそれぞれが面白い。
    本当にうまく計算された
    本当にすごいシリーズ。

    締めくくられるのは淋しいけど、
    これ以降、続いていかないのも、
    この作品の面白さのひとつと思えば、
    それも楽しく味わいたいと思う。



    今回のお話も
    かなり繊細に描かれていて、
    話が脱線しそうに広がっても
    うまく収束していくし、

    伏線の張り方が丁寧で、
    あの話がここに繋がるのか…
    という流れが
    面白すぎる。
    かと言って、
    物語だからこそ許される、取って付けたかのようなワザとらしい力技のこじつけじゃなくて、
    人と人との関わりが
    丁寧に編み込まれているのが
    読んでいて嬉しくなる。


    いつも明日に繋がっていく、
    成長し、変化していく、
    当の本人は気付かないような小さい積み重ね、
    そういうことを感じられる。
    これ以降、
    物語の続きは書かれていなくても、
    続く予感を感じさせる、
    リアルな終わり方だったな…って思う。
    読者が続きに思いを馳せてみたくなる、
    作中に出てくるリドルストーリーに重ねた演出なのかもしれないし、そうではないかもしれない。
    あくまで自然な描かれ方をされているのが、すごくいいと思う。
    140914

  • 『朝霧』に所収されてる三篇、
    「山眠る」
    「走り来るもの」
    「朝霧」
    のうち、一番のお気に入りは「走り来るもの」。女か虎か?の討論も読んでて楽しいし、なにより自分ならーと想像しやすい。愛、恋、男女……魅力のあるテーマの一つですね。

    知ったような口をきくけど、北村氏作品らしい雰囲気満々で、こちらのお腹も満腹まんぷく。
    話のテンポが軽快で、スラスラ読めてしまう。気持ちがいい。
    勿論、私の小さな脳みそをフル回転させたところで、そもそもの知識がないばかりに内容は難解な所も多い。
    だが、ちょっと難しいからと言って放り出したりなんか出来ない。どうしてだろうか?結局、最後まで読んでしまう。
    読書好きとして、共感できる部分があるし、本の話題が出てくる出てくる。出てきた本のタイトルをメモして、また私の積読本リストにアップされるのだ。
    ほくほく。

  • 円紫さんとわたしの最終巻。5作品目。
    「山眠る」「走りくるもの」「朝霧」の三篇を収録。

    最終話の朝霧はわたしの祖父の恋を綴ったお話です。赤穂浪士の討ち入りを題材にした点は、見事な謎解きだったと思います。出版社に就職したわたしの恋も進展するのかと期待もしたり。そして、お姉さんは結婚して子供も生まれました。時の流れを感じましたけど、それも良いと思います。

    一番のお気に入りは走りくるもの。ライオンと拳銃、そして恋人との関係の謎解き。円紫さんの回答はお見事でした。女心と言うのは難しい。

    やはり、格調高い文書は心安らぎます。わたしの今後も気になりますが、すっきりした終わり方が心憎いです。落語も楽しそうですね。

著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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