朝霧 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413057

作品紹介・あらすじ

前作『六の宮の姫君』で着手した卒業論文を書き上げ、巣立ちの時を迎えたヒロインは、出版社の編集者として社会人生活のスタートを切る。新たな抒情詩を奏でていく中で、巡りあわせの妙に打たれ暫し呆然とする「私」。その様子に読み手は、従前の物語に織り込まれてきた糸の緊密さに陶然とする自分自身を見る想いがするだろう。幕切れの寥亮たる余韻は次作への橋を懸けずにはいない。

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの「私と円紫シリーズ」最初の三作はほぼリアルタイムで読んでいるが、なぜかこの作品は10年以上積読状態(笑)

    透明感ある「私」のファンだったが、ついに「私」も社会人、次なる作品に向けての新たなる展開を匂わせてこの作品は終わる。

    「空飛ぶ馬」を初めて読んだ時は、その作品の持っている空気感に衝撃を受けたが、その衝撃は残念ながら本作からは受けなかった。今のところ次の作品が最後のシリーズ作みたいなので心して読みたい。

  • いよいよ学生を卒業して社会人になった「私」。関わる人々の顔ぶれも少し変わる。自由で軽やかな雰囲気がやや薄くなって、より堅実に、他人の人生も垣間見ながら自分の行く先をふと思うような、地に足ついた感じが濃くなった気がする。

    「本当にいいものはね、やはり太陽の方を向いているんだと思うよ」
    胸に刻みたい言葉。

  • 物語全体の雰囲気はいつも柔らかいのに明かされる真相は結構苦い。
    その落差がこのシリーズの魅力の一つだと思う。
    優しいだけの話よりもよっぽど印象に残る。
    特に今回は『走り来るもの』が好きだなあ。
    作中作の結末には戦慄したけれど、この話を書き殴った彼女の気持ちが想像できてしまうのがまた。

  • 社会人になった主人公。
    面白いのだけど少し難しい。

  •  個人的な感慨としては「山眠る」の終盤が、たとえばそれは作中にも出てくるような雪山の遠景を見る時に感じる静謐さと、"単純に身を切るほど寒い"という感触の両方、つまり読書という行為がどうしてか、先に出した文字通り雪山の遠景を見る という体験そのものに接近していて、それが良かった。エロ本を買う。そのことが。

  • p221私は大学で彼女と出会い、しばらくは(高岡さん)と呼び、やがて(正ちゃん)と言うようになった。見知らぬ人が、彼女をそう呼ぶのを聞くのは、初めてかもしれない。いや初めてだ。何だか、不思議な気がした。私の方からだけ照明を当てて見ていた彼女の、別の顔を垣間見たような感じ。
    当たり前のことだが、ここは彼女の街なのだ。ここに彼女の生活がある、と、改めて思った。

  • 「山眠る」「走り来るもの」「朝霧」の3篇

    今回も「私」の成長とともに本好きにはたまらないフレーズが散りばめられて、あきさせない。特に「私」が「みさき書房」に就職出来て編集員におなりになるなんざ、ほんにうらやましい。本のおいしい話題が続くであろうことは予想通り。

    ヒロイン「私」はまだ恋愛には遠く、恋の予感で終わっているのがせつない。

    話は飛ぶが「風とともに去りぬ」の終わりで「明日のことは明日考えよう、きっと取り戻せる!」と失った悲しみに耐える言葉で結ばれていた。読者はスカーレットの明日を信じ思い巡らすことが出来た。それはマーガレット・ミッチェルが続編を書かなかったからだ。

    ところがアレクサンドラ・リプリーという人が続編「スカーレット」を書いてしまった。興味津々で読んでしまってから言うのは卑怯だけれど、おおいにがっかりしたのだった。

    だからいうのではないけれど、知りたくてでも知るのは惜しいくらいの余韻がいいのではないか。

    リドル・ストーリー(起承転結の《結》を示さず、結末を読者にゆだねる)という言葉と意味を「走り来るもの」で教えてもらったが、このシリーズもそうではないかと…。

    これで「私」と「円紫師匠」シリーズもしばらく読めないだろう。もしかしてもう続かないかもしれない、私はそんなふうに感じた。

    読者がそれぞれに深いものにし、読み手によってそれぞれの本を楽しむのが良い、と作者も語っている。

    でも、もちろんお書きになったら臆面もなく一番に読ませていただく。

  • 長編かと思って読み始めたら短編で、軽く気が抜ける。
    読み始めた小説が長編か短編かで、読書の姿勢って変わるよね。
    田崎先生の言葉「本当にいいものはね、やはり太陽の方を向いているんだと思うよ」にぐっとくる。

  • 表題作を含む3作品。どれも切なくて苦いものだった。
    まだ若いけれど、学生ではなくなった「私」が確実に成長していく。巡り合わせの不思議が相変わらず詰まったシリーズだけれど、今回は特に作品をまたいだ繋がりがたくさん出てくる。またシリーズ通して読み直さないとなぁ。

  • 文学に詳しくない私が読んでも面白かった。
    老匠田崎先生の<暗く悲観的生き方に感傷的な目を向けることはいかにも若い。本当にいいものはね、やはり太陽の方を向いているんだと思うよ>という言葉にぐっときた。
    『走り来るもの』は愛する人の裏切りに、違う意味でぐっときたが、最後に明るさが添えられ<太陽を向く>。
    『朝霧』は亡き祖父の日記からの謎解き。美しく、ステキな読了感。
    シリーズで1番好きかもしれない。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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