月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M あ 2-1)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488414016

作品紹介・あらすじ

夏合宿のために矢吹山のキャンプ場へやってきた英都大学推理小説研究会の面々-江神部長や有栖川有栖らの一行を、予想だにしない事態が待ち構えていた。矢吹山が噴火し、偶然一緒になった三グループの学生たちは、一瞬にして陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまったのだ。その極限状況の中、まるで月の魔力に誘われでもしたように出没する殺人鬼。その魔の手にかかり、ひとり、またひとりとキャンプ仲間が殺されていく…。いったい犯人は誰なのか。そして、現場に遺されたyの意味するものは何。

感想・レビュー・書評

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  • なぜか取りこぼしていた本書。先日読んだ短編集から英都大学推理小説研究会が愛しくて。やっぱりアリス達いいな。誰が犯人かという謎を最後まで引っ張る力は見事。有栖川さんの初の長編という初々しさや40年近く前の時代感は逆に新鮮。

  • 初めて読む有栖川有栖さんの作品
    登山先の山で土砂崩れが起き、宿泊者の中に殺人鬼が現れるクローズドサークル。

    噴火が始まる非常事態の中で起こる殺人、犯人は噴火を予期していたわけでは無いはずなので、なかなか難易度の高いタイミングで状況を味方につけている。

    有栖川さんの別シリーズ"作家編"の方は未読のため、主人公にしてワトソン役の有栖川君がどんな人物なのかは分からなかった
    (作家編のアリスが学生編の話を書き、学生編の有栖が作家編のアリスの話を書いていると言うパラレルワールドらしい)
    が"青年"であることはわかった。

    若くて、出会った女の子に想いを馳せてる姿はワトソン役と言うより読者の目を逸らす方に動いてるような印象でした。
    (その逸らし方をどう崩すか、も楽しめる)

    「読者への挑戦状」(犯人当て)は失敗
    動機に焦点をあてて、人を絞り込んだものの肝心の各アイテム、起きた事象にはつなげることが出来ませんでした…細切れで読むと各場面の状況もメモとか残しとかないと推理は厳しい。
    ミステリ研究会だからこそハマった罠もあったように思う。

    タイトルにあるように「悲劇」
    …切ない。

    でもこの感じ、好きです。
    既刊も読みたいと思います。l

  • 満足感の一冊。

    初の学生アリス。面白かった。

    夏合宿、自然災害による閉ざされたキャンプ場。そしてお決まりの連続殺人。夜が明けるたびに一人ずつ消えるメンバー、繰り返される"Y"のメッセージ。全てを知っているのは月だけというワクワク感はもちろん、マーダーゲームの無邪気さ、ロマンティックな描写、蘊蓄、誰もが疑心暗鬼に陥る緊迫感、火山噴火による危機感、綺麗にはまっていく"あの時"にはなるほど…の本格推理の満足感を味わえた。
    柔らかな関西弁もすごく心地良い。
    ひと夏の若者が抱えたせつない時間を照らした月光にしんみり。

  • 今回からミステリー本では犯人予測のログを残しています。有栖川有栖の代表作に挑戦。大学生サークルが夏合宿で矢吹山に集合する。男女関係を含め楽しく過ごすが、一気に暗雲立ち込める。矢吹山の噴火、そして失踪・殺人。17人のうち誰かが犯人。残されるダイイングメッセージと犯人からの不可解なメッセージ。いよいよ決死の下山しながらの江神二郎の謎解き。この生き残った大学生によるカタルシスが月光ゲームの悲劇を表現できたのではないか。今回自分の予想は完敗。でも最初に残したログではほぼ正解だったんですよ。単なる負け惜しみです。

  • うわ、騙されたやんか、もう。全然わからへんかったわ。ぎょうさんのミスリードに引っ掛かってしもた。
    ほんま悔しいわ。でもなんや誇らしいような。
    え、誇らしいって、なんでやねん。あんた、何にも関係ないやんかって?
    そやな。そやけど、こんなすっごいクローズド・サークルもん、しばらくお目にかかってなかったしな。なんか、ようやっと見つけたな自分って感じやねん。自分で自分を褒めてあげたいちゅうか……知らんけど。
    そやけど、めっちゃ引き込まれたわ。火山噴火するんやで。地鳴りはするわ火山礫はばんばん飛んでくるわ。それだけでも怖いっちゅうのに、殺人者がおるんやで。それも自分らの仲間の中にっちゅうわけや。こんなん耐えられへんわ。
    あんた、月下の奇術師ちごうて、月下の連続殺人者やで。ほやけど、やっぱり大学生やな。若いってええな。自分らで、何とかしていくんやもんな。EMCの子ら、なんや好きやわ。なんか京都の大学やし、関西弁やし、親近感わくっちゅうか。ほんで、これからもこの子らの行くとこで事件起こるんやろうな。ご苦労さんやな。ほやけど、応援してんで、おばちゃん。
    仲間に殺されたんと殺したんといはるから、なんや悲しいけどな。真実って人の数ほどあると思うねん、おばちゃん。事実は1つやけどな。だからな、その罪を犯してしもうた子だけのたった1つの真実を明らかにしたげることで、ちょっとはその子も救われたん違うかな。たぶん、そうやって。な、そうなんやって。

  • 著者の作品はいくつか読了済みですが、学生アリスは初めて読みました。どうやら著者のデビュー作とのこと。
    作家アリスと違ってこっちは大学生の為、若々しさや青春風味(と少々の痛々しさ)を感じることができました。
    所謂クローズド・サークルものなのですが、火山の噴火という、結構強引なもので、それがスリリング感を演出していてハラハラさせられた。
    ミステリ面はとりわけ突出したものは無いですが、読者への挑戦状しかり、ひたすら王道を突き進めた作品だと思いました。
    ラストの切ない余韻も良かった。

  • 有栖川有栖先生の長編デビュー作。手元にあるのは何年か前、先生の講演会でサインしてもらった記念すべき文庫。

    本書を初めて読んだのは20年以上前。登場人物の江神やアリスたちと同じく大学生で、ページをめくるのももどかしい思いで読み耽った。当時は「本格」と聞くだけで興奮するようなミステリおたくだったが、今回、再読してみて驚いたのは…全く内容を覚えていないこと(笑)。最近、以前読んだミステリを読み返すことをしているが、文字通り、私にとってミステリは再読に値するのだ。

    本書を一言で表すなら、本格、である。舞台設定は、定番のクローズド・サークル。仕掛けは何と火山の噴火である。最近の話題となった『紅蓮館の殺人』は山火事で隔離されたが、本作はより大掛かりである。そんな極限状態の中で起きる連続殺人事件。
    現場には、これまたミステリのど定番であるダイイング・メッセージが残されていた。本書にはその写真も掲載されている(実はこれだけは印象的なので覚えていた。ただし、この写真が本作のものだったことはすっかり忘れていた)。ど定番とは言ったものの、今日日のミステリでこのダイイング・メッセージを好んで使うのは、おそらく名探偵コナンと、エラリー・クイーンを愛してやまない有栖川先生くらいではないかと思う。

    謎解きはまさに論理炸裂。クイーンに向こうを張った「読者への挑戦」も興をそそられる。

    学生時代、新本格ミステリにはまった経験のある方は少なくないはず。もう一度、昔読んだミステリを読み直すのもオススメ。特に、学生であるアリスたちがミステリ談義に華を咲かせる本書は、かつての学生時代を懐かしく思い出させてくれる。しかも、本シリーズはまだまだ継続中である。乞う新作!

  • 休火山が二百年ぶりに大噴火。
    なんともダイナミックなクローズド・サークル。

    吊り橋の落下でも、トンネルの落盤事故でも、繋いでいた船が流されたわけでもない、人為的介入がまったく不可能な状況。
    そして嵐や大雪とも違う、ほぼ予測不能な事態。
    これは作者有栖川有栖氏のフェアプレイ精神に則った選手宣誓。
    大地の震動と山の咆哮に「本格ミステリ」の開幕宣言を聴いた。

    大学の推理小説研究会の夏合宿が舞台で、主人公が作者と同名の「有栖川有栖」 そしてサブタイトルに冠した「Yの悲劇」
    長編デビュー作への意気込みというか熱気というか「ミステリ愛」がビシビシ伝わってくる。

    「ミス研」メンバーの小旅行ということもあって、列車内で交わされる「しりとり」に始まるミステリ談義や、ときおり挿まれる蘊蓄や小ネタが面白く、また嫌味にならないところもいい。
    キャンプ場で出会った他大学の男女と親睦を深めるために行なった「マーダーゲーム」なる遊びは初めて知ったが、これも楽しそう。
    しかもその後の殺人事件において、このゲームが読者を疑心暗鬼にさせる効果を発揮するのもうまい。

    さてミステリ本編。
    閉鎖空間での殺人。複数の容疑者。純粋な犯人探し。
    登場人物がたくさんいてなかなか覚えられないところはあったが、そこが醍醐味でもあるので仕方がない。
    ことごとくミスリードにひっかかって「いいお客さん」だった。
    後半の推理合戦の迷推理に「それ全部考えたよ」と苦笑い。
    証拠品や状況を論理的に整理していって真相に行き着くのは、やっぱり気持ちがいいし面白い。
    指摘されて「ああっ」と気づく悔しさと喜び。

    冒険小説、パニック小説、そして青春小説としての味わいもあった。
    爽やかさと可笑しさ、そしてちょっぴりの切なさが入ったラストがいい。

    二作目の『孤島パズル』読みたさにデビュー作を手に取ったが楽しませてもらった。
    さていよいよ次に、と行きたいところだが、クイーンも読みたい。
    『Yの悲劇』しか読んだことがないが「国名シリーズ」に興味津々。
    派手なトリックもいいが、巧緻なロジックも好きだ。

    (作中で、都筑道夫さんの言葉が引用されているのに個人的にはグッときた。
    都筑さんの『七十五羽の烏』はロジック好きにはお薦め。
    現在はおそらく絶版なので、古本か図書館で是非。)

    • kwosaさん
      九月猫さん!

      コメントありがとうございます。

      お薦めいただいてようやく読むことができました。

      >有栖川作品だとなぜか、一緒になって頭を...
      九月猫さん!

      コメントありがとうございます。

      お薦めいただいてようやく読むことができました。

      >有栖川作品だとなぜか、一緒になって頭をうんうん捻って
      考えてしまうんですよね。

      楽しいですよね。
      そしてきちんと論理的に解答が提示されるのが嬉しい。
      「そりゃないよー」ってズルがない(笑)
      有栖川有栖さんのこのシリーズ、いいですね。
      かなりの「上客」として常連になりそうです。

      次はもちろん『孤島パズル』にチャレンジします。
      たぶん謎は......解けないんでしょうね。
      2013/06/28
    • 九月猫さん
      kwosaさん、こんばんは!

      ご新規さま一名、入られましたー!(笑)
      常連になりそうだというお言葉をいただいて、
      ファンとしては本...
      kwosaさん、こんばんは!

      ご新規さま一名、入られましたー!(笑)
      常連になりそうだというお言葉をいただいて、
      ファンとしては本当に嬉しいです♪

      ロジックって当然ですけれど、「別解がない」ってところが
      大事なんですよね。
      で、有栖川作品はその辺りすごくきちんとしてて。
      kwosaさんおっしゃるように
      >「そりゃないよー」ってズルがない  んですよねぇ。

      まあ、作品が増えてきていることや、
      短篇集は一冊に収録されているものが驚くほどバラエティに富んでいることで、
      なかには「あれ?えーっと?」と待ったをかけるものもあるんです。
      でも、待ったをかけても順を追って考えると、やはりそこしかないという
      結論に行き着く・・・「美しいロジック」ばかりではなくても、
      ロジックを大事になさっているのは確かだと思います。

      >たぶん謎は......解けないんでしょうね。
      うんうん唸って考えるけれど、謎は探偵に明かされるまで解けないほうが
      楽しい読書になるような気がします(笑)矛盾かしらん(^-^;)
      2013/06/29
    • kwosaさん
      九月猫さん!

      「別解がない」「美しいロジック」
      その魅力に取り憑かれ始めました。

      うんうん唸る楽しい読書。
      そのジレンマがミステリの醍醐...
      九月猫さん!

      「別解がない」「美しいロジック」
      その魅力に取り憑かれ始めました。

      うんうん唸る楽しい読書。
      そのジレンマがミステリの醍醐味ですよね。
      続きは九月猫さんの本棚にて。
      2013/06/29
  • 学生アリスと江神部長(探偵)。火山噴火,孤立したキャンプ場で殺人鬼が学生を襲う。カメラに隠された指に犯人心理。事件背景に噴火に巻込まれた女子大生(指輪主)の死がある。青春と謎解きが楽しい。

  • 今まで素人の投稿作品のアンソロジーを読んできたために、このデビュー作における有栖川氏の非凡さが大いに引き立った。
    このリアリティは何だろう?

    また内容も題名に「ゲーム」の名を冠しながらも、単なるパズルゲームに終始していない。総勢17名の登場人物はそれぞれ個性を発揮して単なる駒に終わっていないし、殺人事件が起こることに対する登場人物らが抱く心情も丹念に叙述し、読者の共感を促している。特に理代の次の台詞、「死ぬにしても……誰か以外のみんなは……楽しい人たちやったって……それを、私、知りたい……」はかなり心に響いた。
    こんな風に小説全体にこの作者特有のペシミズムが流れているのだ。
    それに加え、大学生という設定による社会人になる前の青臭さが新鮮で、旅先のラヴ・アフェアなどの恋愛も絡ませて一種の青春小説の様相を呈しているのも好印象だった。大学時代を思い出してしまった。

    更に評価すべきはいわゆる「雪の山荘物」のヴァリエーションとして山の噴火を単純に設定しただけでなく、事件の真相に大いに寄与させているのが技巧の冴えを感じた。奇抜さだけで終わっていないのだ。

    幕間に挟まれたマーダー・ゲームのエピソードなどもこの作者の推理小説(ミステリ)への愛情を窺わせる。

    さて本書は読者への挑戦状が織り込まれている。チャレンジした結果、犯人は外れたが真相は十分納得いくものだった。今なお本格ミステリシーンの第一線で活躍するこの作家の才能の片鱗が窺えるデビュー作だった。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。89年「月光ゲーム」でデビュー。「マレー鉄道の謎」で日本推理作家協会賞を受賞。「本格ミステリ作家クラブ」初代会長。著書に「暗い宿」「ジュリエットの悲鳴」「朱色の研究」「絶叫城殺人事件」など多数。

「2023年 『濱地健三郎の幽たる事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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