生ける屍の死 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.61
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本棚登録 : 1307
レビュー : 142
  • Amazon.co.jp ・本 (667ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488416010

作品紹介・あらすじ

ニューイングランドの片田舎で死者が相次いで甦った。この怪現象の中、霊園経営者一族の上に殺人者の魔手が伸びる。死んだ筈の人間が生き還ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか。自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるか。

感想・レビュー・書評

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  • 5/15 読了。
    死者が次々と甦り<生ける屍 リヴィング・デッド>と化す怪現象が各地で巻き起こる二十世紀末のアメリカ。その渦中、ニューイングランドの片田舎で霊園を経営するバーリイコーン家では、重病を患った家長のスマイリーが親類一同を集めて何度も臨終宣言を繰り返し、相続人たちを翻弄していた。スマイリーの孫であるパンク少年のフランシス、通称グリンは、同じように一家のはみだし者となったパンク少女チェシャと一緒に大人たちの思惑をすり抜け、暇を持て余していた。しかしある日、スマイリーが開いたお茶会の直後、突然グリンは死んでしまう。臨死体験ののち目覚めたグリンは、自分の心臓が止まっているのを発見して驚愕する。グリンは<生ける屍>になったのだった。ハース博士の協力で自分の死因が砒素であることを突き止めたグリンは、博士以外には死者であることを隠したまま犯人探しを始める。だがその後も殺人事件は相次ぎ、被害者が死んだと思えば甦り、容疑者も死んだかと思えば甦る。この世の法則を超えた<死者が甦る世界>で起こった殺人事件の真相とは?

    面白かったーーーーー!!!!!キッド・ピストルズを一気読みしてすっかり山口雅也ブーム。ミステリープロパーじゃないので新本格の歴史とかわかんないけど確かにこれは別格の面白さ。<世界の常識がひっくり返った世界でミステリーは成立するか>という実験的な試みが面白いのはもちろん、アメリカの霊園を舞台にした<死の百科事典>としても堂々たる風格を備えている(実際ちょっとしたポケット事典並みの分厚さ)。
    私の趣味はこの後者の<死の百科事典>の方に寄っているので、キリスト教のもとで育まれた土葬文化が火葬を忌避する論理や、そのせいで生まれたエンバーミング(死体防腐処理)という技術のちょっと滑稽にさえ思える高度な発展、それゆえ高度な技術職と認められている葬儀屋の社会的な地位の高さなど、アメリカの葬送文化に関するウンチクをまず楽しんだ。ハース博士とグリンの知に淫した会話は作中でもチェシャによって「死神博士[ドクター・タナトス]の楽しい死学[タナトロジー]講義」と揶揄されるが、古今東西の文学やロック・ミュージックの歌詞から引用してきた各章のエピグラフをはじめとして、本書自体が<楽しい死学講義>として機能するよう書かれているのは間違いない。
    殺害動機が狂気の論理というか論理的狂気によって鮮やかに解き明かされる点では、本書の直前に読んだ『キッド・ピストルズの妄想』と非常に近いテーマ性を感じた。生前から自分の死を"演出"する老人や、子孫(遺伝子)に財産を残すことへの異常な執着、"神"の存在証明のために殺しが行われるのも『〜妄想』と共通するテーマだろう。また、山口雅也作品に通底するものとして、全体を覆うナンセンスと物語空間の箱庭性があり、本書もトゥームズヴィルというひとつの村で始まり、トゥームズヴィルの内だけで終わる<小さな狂気の物語>ではある。
    キャラクターの魅力についても触れておかなければならない。なんと言ってもグリンとチェシャ!キッド・ピストルズとピンク・ベラドンナにそっくりな(というよりこの二人がグリンとチェシャの"生まれ変わり"なのかも)パンクカップルで、衒学趣味のグリンに対しひたすら行動派で失敗ばかりしているチェシャがかわいい。<生ける屍>になってから体温がなくなり、冷たい身体のせいで実は死んでいるとバレないように他人との接触を避けていたグリンが、交通事故のあと気を失っているチェシャの無事を確かめて抱きしめる切なさ。その後チェシャと一緒にベッドインするが勿論なにもできず、「死に取り憑かれている」と弁明するしかないグリンに、同情したチェシャが無限退行のパラドックスを語る健気さ。そしてラストシーンのグリンの言葉。本当に切なくてキュンとするカップル。その他にもグリンの協力者で時にとんでもないミスリードをやらかすハース博士や、自己顕示欲が強くて困ったおじいちゃんのスマイリー、エンバーミングに並々ならぬ誇りをかけているジェイムズ、チェシャの母で浮気者のイザベラに、甦る死者のせいで精神を蝕まれていく気の毒な刑事のトレイシーなどなど、個性豊かな生者と死者が入り混じり、ダンス・マカブルを踊るように大団円を迎える。
    たくさんの登場人物が舞台に現れては消える、カーニヴァレスクな狂乱の空気を漂わせる本書に真っ直ぐ通るたったひとつのテーマは、<生けるものは皆いずれ死ぬ>ということだろう。そんな厭世的にもなり得るテーマを、<皆いずれ死ぬのだから生きていること自体がナンセンス>へとひっくり返し、遊びの感覚で捉え直したうえでミステリーというエンターテイメントとして提示しているのだ。人は皆死ぬために生まれ、生きている間は自分のためのささやかな物語を生きる。作中ではシェイクスピアへの言及もある。そして、グリンの最後の独白によってなんにせよミステリーの探偵役とは<物語をコントロール出来る役>であることが語られる。勿論、死者になってから物語をコントロールすることへの皮肉もたっぷり込めて。

  • 我々は幸せだ、"生きてるうちに"読めるのだから
     約30年経った今も全く色褪せない名作。死者が甦る世紀末的世界で起こる霊園一族の怪死事件、というだけで舞台は十分に整っていますが、これでもかと盛り込まれたブラックジョークや死生観等々で、圧倒的な読み応えを誇っています。
     死してなお活発な灰色の脳細胞、安らかなる永遠の眠りを先延ばしにされ、ゾンビ探偵に任命された青年・グリン。読者が謎を解くには死と向き合うことが必要かもしれません。生者の論理と死者の論理が複雑に絡み合う驚愕の真相が待ち受けています。
     本作を今まで放ったらかしにしていた自分が恥ずかしい。比類なき傑作です。
     本格ミステリ・ベスト100(75-94年)/1位に選出。

  • 相対的には語れない絶対性の強い傑作。死体が蘇る現象が起き始めている世界における殺人と探偵行為の意義とは何か。死者と生者の思惑が複雑に交差し、導かれる真相には唯一無二の衝撃と美しい本格ミステリの構成美が備わっている。全編に渡る「死」の講義、「死」についての物語、そして死者が考え動くことによるユーモア、それらが無駄なく精緻に紡がれ至る謎解きは見事、エピローグは秀麗である。グリンやチェシャ、トレイシー警部などキャラクターの魅力も読ませる。異常な世界の中の独自のルールとリアルを描き切った技量に感嘆する。

  • 蘊蓄が長すぎ、登場人物多すぎで、前半で息切れしてしまい、面白さが分からず只疲れました。このミステリーがすごい!ベストオブベスト国内編第二位ということですから、プロ評論家には受ける内容なのでしょうけど、私には合わなかった。

  • ちょっとしんどい作品でした。
    登場人物が頭にはいってこないのと長いのとで
    何度かくじけそうになりました。
    なんとか最後まで読み終わることができましたが、最後の結末もしびれるほどでもなく。
    ぼちぼちでしたね。

  •  再読。名作と呼ばれるにふさわしいボリュームと内容。

     えっと、昔の覚書を漁りまして、初読が2003年8月であることを突き止めました。約12年の間を空けて再読。干支が一周してる……。
     ちなみにそのときの感想メモ。


    面白かった。舞台がアメリカで、登場人物が一人を除いてアメリカ人で。
    名前が全部片仮名で、しかも二十人ぐらい名前が並んでて。
    読む前はヤバイな、これはと思ってたけど、読み始めたらあっさり読破。
    面白かったからだろうね。
    うん、地味に面白い。綾辻とかみたいにあっと驚いて「これはいい!」じゃないけど、
    「んー、これ、いいねぇ」って感じ。
    改めて、山口雅也の実力を痛感。この人、凄いね。


     この印象が今でもずっと続いていて、再読しても改めてそう思いました。すごいわ、このひと。
     文庫で、結構な厚さがあって、ほんとずっしり。葬儀屋をメインにしたお話で、「死」というものについての薀蓄がいたるところに。ひとによってはそれらが少し冗長と感じられるかもしれないけど、最終的に真犯人を説明しようと思えば、予め読者に知識を与えておかなければ「納得」というレベルに持っていけないんだよな。そこばかり書いてしまうと読者の目が真犯人に向かってしまうから、ヒース博士やグリンの薀蓄は「散らし」の意味もあったんだろうねって今なら思う。
     まず前提として「死者が生き返ることがある」っていう世界での出来事で、その点については明確な説明はないままなんだよな。どうして生き返るのか、生き返ったものになんらかの共通点があったのか。分からないけれど、とにかく「生き返るものがある」っていう。
     だからこそ登場人物たちも混乱しているし困惑しているし。
     いやでもそこから、「生き返るなら殺しても仕方ない」って発展させて、「それでも殺そうとする動機を持つ人物は誰か」という方向へ持って行くのはすごく面白い。それを「推理小説」の中でやったってのが、やっぱ天才だなぁって思うわ。
     抜粋。
     えーっと、何番目かの被害者のセリフ。


    「すまん、ちょっと、死んでたんでな、全然聞いていなかった。悪いがもう一度最初から繰り返してくれないか?」


     トレイシー警部の心に平穏が訪れることを祈っております。

  • ニューイングランドの片田舎で死者が次々蘇る怪現象が起こる中、行われる殺人劇。死人が蘇る世界で人を殺す理由とはなんなのか。主人公である探偵も死者となり、それを隠しつつ真相を追う。

    …というのが粗筋なのだけど、設定からギャグというかSFというか、今まで読んだことのないミステリ作品です。

    最初に言ってしまうと、この物語では「なぜ人が生き返るのか」ということについては考慮しません。体を動かすための神経系が機能していないのに体が動く理由について、あれこれ考えを巡らせる場面もあるのだけど、結局分からない。

    ただ、動くからといって死者が生者と同じ扱いかと言うと違うんですね。生きている人間が気に留めない現象が死者には特別だったりします。例えば、死者は発熱しないから、触れてみると冷たい…とか。

    こういったことを頭に入れて読み進めると、色々なところに伏線が張られていて、本格ミステリとしてフェアな感はあるし、もちろん、死者の特徴についても触れられてはいくのだけど、ミステリを読む時は、死者は退場するものとして考えてしまうので、ミステリに読み慣れている方にとっては、新鮮度が違うかもしれないですね。昨今はこういうSFミステリが少なくないのかもしれないけど。

    とは言え、普段小説を読まないという方には薦めにくい本です。

    とにかく長い。
    長さを感じさせない作品もたくさんあるのだけど、登場人物の多さと外国名の覚えにくさ、場面の転換が多いので、この作品を普段小説を読み慣れていない方にはお薦めしません。

    また、場面の転換の多さと相まって、構造を把握しにくいような気がします。時間をかけてゆっくり読んでいくと忘れてしまうところも出てきそう。

    ですので、ある程度小説に馴れている方、もっと言うとミステリを読んでいる方にとっては、新鮮さも加わって面白いと思います。

    ちなみに、舞台がアメリカということもあってか、時折描かれるジョークがそういうテイストなんですけど、それはそれで結構面白いです。

    一風変わったミステリをお探しの方は是非。

  • 山口雅也の長編第一作。

    1980年代、死者が甦るという奇妙な現象が全米各地で発生していた。ニューイングランドの片田舎ドゥームズビルでは、地元を代表する企業であるスマイリー霊園の経営者スマイリー氏の相続問題を巡り、一族間に不穏な空気が流れていたが、相続人の一人であるパンク青年のグリンが密かに毒殺されてしまう。自分の死を隠して推理を始めるグリンは、肉体が崩壊するまでに事件を解決できるのか?

    死者が復活する世界という、何とも奇抜な設定の作品。復活するといっても肉体的には死んでいるために腐敗を続けるので、顔が硬直した後緩んできたり、角膜が混濁し始めたり、血液が腐る前に防腐剤を入れないといけなかったりと、復活という一点以外は妙にリアルな設定。作品中では人間の生死に関する様々な言葉が過去の作品から引用され、タナトロジストの衒学家ハース博士を始めとする登場人物も薀蓄を語りまくる。途中でいきなり始まる夜の霊柩車レースや徘徊するハロウィンの殺人鬼など有名映画のオマージュのようなシーンもあれば、死者の復活を最後の審判と関連付けるキリスト教的思想も抜かりなく書いている。加えて舞台が霊園ということもあり、棺桶選びからエンバーミング(死体の防腐処理)、埋葬に到るまでの葬儀の流れや、葬儀ビジネスの問題点まで紹介され、一冊で米国式葬儀の全貌を見渡すことができる。30年以上前の作品なので情報が古いかもしれないが。ともあれ、これほどまでに死に彩られた作品もそうは無いし、「もう死んでるんだから焦るな」とか「ちょっと死んでたから聞いてなかった」というような死の扱いが軽すぎる台詞が聞けるのもこの作品くらいだろう。紛うことなき怪作である。

    事件の方も生者と死者の思惑が複雑に絡み合い、非常に奇怪な様相を見せる。後半になればなるほど状況は混沌としていくが、その分解決は爽快なものだった。「死者が蘇る世界で殺人を行う必然性があるのか?」という命題にああいう答えを出すとは、生者の論理に縛られていては解決不可能だっただろう。

    非常にアメリカ的な空気の作品ではあるが作者は日本人であり、グリンも日米の混血児だし南賀という土地開発業者も登場する。この南賀、いかにもバブル時代の金持ちといった図々しい様子で、現代から見ると隔世の感があったりもする。

    気に入っているキャラクターは、捜査の度にストレスから胃の細胞が剥がれ落ちていくトレイシー警部。いや、警部は生者にしてはよく捜査した方だと思うよ。ただ、狙いをつけていた容疑者の行動とその動機が常軌を逸してただけで。それから、ゲイのメーキャッパーのウォーターズは週休30%カット(二週連続)に加えて50%カットを食らっていたが、この場合そのまま累積して80%カットになるのか、30%カットされた分が半分になるのかが気になる。いずれにせよ悲惨な額には違いないが。

  • あまりにも長すぎてうまくまとめきれないので、とても気に入った文を書こう。
    『すまん、ちょっと、死んでたんでな、全然聞いてなかった。』 さすが「生きる屍」(笑)。

  • 突如現れた、死んだ死体が生前の記憶と人格を持って蘇ってしまう社会現象。そんな中、葬儀屋の家長の遺言式と騒動が巻き起こり、親族間の策謀が駆け巡る。

    名前が外国なので、家系図の誰が誰だかわからなくなってしまうのは覚悟していたけど、誰が被害者で誰が死んでいるかまでわからなくなってしまうのは予想外だった。アメリカンな雰囲気が良い。フーダニット、ワイダニット?
    結末は、実は予測がついてしまった。

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著者プロフィール

1989年10月、『生ける屍の死』でデビュー。

「2017年 『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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