生ける屍の死 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (1996年2月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (670ページ) / ISBN・EAN: 9784488416010

感想・レビュー・書評

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  • 「死」について、とことん考えるミステリーでした。
    死して甦り、生ける屍(リヴィング・デッド)となって事件を推理する。

    私の考えるゾンビは、甦ってからは自我がなく、生者を襲う怖い存在という認識でしたが、この話では身体は朽ちてゆくが、その人の意思や記憶がそのままに甦るというもの。

    新しい感覚でした。
    とても面白かったです!

    死人だからこそ思う「生」と「死」についての考え方は、想像した事がない感覚でした。
    深刻すぎずアメリカン・ジョークも交えてコミカルに描かれていて、でも「死」について色々な視点からの考えが込められていて。

    「生きることとは少しずつ死ぬことなのだな」
    「性愛(エロス)と死(デス)は兄弟」
    「スクリーン・メモリー」(死に近づくことはできるが、永遠に死ぬことはない)
    読むと納得するワードがたくさん出てきます。

    ラストも感動的で、すごくいい終わり方でした。

    今年読んだ本の中でお気に入りの本第3位に躍り出ました!

  • 死んだ人が蘇る。よくあるゾンビのようなパニック作品ではなく、知性を持ちながら復活をすることによりそれぞれの思いが錯綜し物語が進むごとに生と死について考えさせられていく。

    途中までは人物の多さ(馴染みのない海外の名前であったこともある)と複雑な内容に苦戦を強いられたが、ある程度掴めてくると物語の世界に一気に引き込まれて行く。

    生とはなにか、死とはなにかが非常に繊細な描写から考えさせられ読み応えのある作品だった。

  • 配役から舞台から展開から、使われているパーツの多くがミステリー小説でよく見かける”それ”であるにもかかわらず、「死者が蘇る」というすべてをひっくり返す大前提を用い、それでもなお本格推理ものとして見事に成立させてみせた傑作。
    翻ってみれば、どれだけパーツが使い古されたものであったとしても、レシピと皿の盛り方次第で最高の料理となることを証明したのだとも言えるだろう。
    ストーリーに難しいところは無い。しかし「死者の復活」によって常識の死角をついてくる。何はともあれ先ずは読んでみるべきだ。これはミステリーというジャンルを愛した者が、それを破壊して、再構築することでジャンルの「不滅性」を謳った作品なのだ。
    死に近づくことは真理に近づくことに他ならない。真理に近づくほどに、探偵(=読者)の魂は輝きを増していく。合言葉は「メメント・モリ」。あなたの魂に安らぎあれ。未だ、私の中でカーテンコールが鳴りやまない。

  • 5/15 読了。
    死者が次々と甦り<生ける屍 リヴィング・デッド>と化す怪現象が各地で巻き起こる二十世紀末のアメリカ。その渦中、ニューイングランドの片田舎で霊園を経営するバーリイコーン家では、重病を患った家長のスマイリーが親類一同を集めて何度も臨終宣言を繰り返し、相続人たちを翻弄していた。スマイリーの孫であるパンク少年のフランシス、通称グリンは、同じように一家のはみだし者となったパンク少女チェシャと一緒に大人たちの思惑をすり抜け、暇を持て余していた。しかしある日、スマイリーが開いたお茶会の直後、突然グリンは死んでしまう。臨死体験ののち目覚めたグリンは、自分の心臓が止まっているのを発見して驚愕する。グリンは<生ける屍>になったのだった。ハース博士の協力で自分の死因が砒素であることを突き止めたグリンは、博士以外には死者であることを隠したまま犯人探しを始める。だがその後も殺人事件は相次ぎ、被害者が死んだと思えば甦り、容疑者も死んだかと思えば甦る。この世の法則を超えた<死者が甦る世界>で起こった殺人事件の真相とは?

    面白かったーーーーー!!!!!キッド・ピストルズを一気読みしてすっかり山口雅也ブーム。ミステリープロパーじゃないので新本格の歴史とかわかんないけど確かにこれは別格の面白さ。<世界の常識がひっくり返った世界でミステリーは成立するか>という実験的な試みが面白いのはもちろん、アメリカの霊園を舞台にした<死の百科事典>としても堂々たる風格を備えている(実際ちょっとしたポケット事典並みの分厚さ)。
    私の趣味はこの後者の<死の百科事典>の方に寄っているので、キリスト教のもとで育まれた土葬文化が火葬を忌避する論理や、そのせいで生まれたエンバーミング(死体防腐処理)という技術のちょっと滑稽にさえ思える高度な発展、それゆえ高度な技術職と認められている葬儀屋の社会的な地位の高さなど、アメリカの葬送文化に関するウンチクをまず楽しんだ。ハース博士とグリンの知に淫した会話は作中でもチェシャによって「死神博士[ドクター・タナトス]の楽しい死学[タナトロジー]講義」と揶揄されるが、古今東西の文学やロック・ミュージックの歌詞から引用してきた各章のエピグラフをはじめとして、本書自体が<楽しい死学講義>として機能するよう書かれているのは間違いない。
    殺害動機が狂気の論理というか論理的狂気によって鮮やかに解き明かされる点では、本書の直前に読んだ『キッド・ピストルズの妄想』と非常に近いテーマ性を感じた。生前から自分の死を"演出"する老人や、子孫(遺伝子)に財産を残すことへの異常な執着、"神"の存在証明のために殺しが行われるのも『〜妄想』と共通するテーマだろう。また、山口雅也作品に通底するものとして、全体を覆うナンセンスと物語空間の箱庭性があり、本書もトゥームズヴィルというひとつの村で始まり、トゥームズヴィルの内だけで終わる<小さな狂気の物語>ではある。
    キャラクターの魅力についても触れておかなければならない。なんと言ってもグリンとチェシャ!キッド・ピストルズとピンク・ベラドンナにそっくりな(というよりこの二人がグリンとチェシャの"生まれ変わり"なのかも)パンクカップルで、衒学趣味のグリンに対しひたすら行動派で失敗ばかりしているチェシャがかわいい。<生ける屍>になってから体温がなくなり、冷たい身体のせいで実は死んでいるとバレないように他人との接触を避けていたグリンが、交通事故のあと気を失っているチェシャの無事を確かめて抱きしめる切なさ。その後チェシャと一緒にベッドインするが勿論なにもできず、「死に取り憑かれている」と弁明するしかないグリンに、同情したチェシャが無限退行のパラドックスを語る健気さ。そしてラストシーンのグリンの言葉。本当に切なくてキュンとするカップル。その他にもグリンの協力者で時にとんでもないミスリードをやらかすハース博士や、自己顕示欲が強くて困ったおじいちゃんのスマイリー、エンバーミングに並々ならぬ誇りをかけているジェイムズ、チェシャの母で浮気者のイザベラに、甦る死者のせいで精神を蝕まれていく気の毒な刑事のトレイシーなどなど、個性豊かな生者と死者が入り混じり、ダンス・マカブルを踊るように大団円を迎える。
    たくさんの登場人物が舞台に現れては消える、カーニヴァレスクな狂乱の空気を漂わせる本書に真っ直ぐ通るたったひとつのテーマは、<生けるものは皆いずれ死ぬ>ということだろう。そんな厭世的にもなり得るテーマを、<皆いずれ死ぬのだから生きていること自体がナンセンス>へとひっくり返し、遊びの感覚で捉え直したうえでミステリーというエンターテイメントとして提示しているのだ。人は皆死ぬために生まれ、生きている間は自分のためのささやかな物語を生きる。作中ではシェイクスピアへの言及もある。そして、グリンの最後の独白によってなんにせよミステリーの探偵役とは<物語をコントロール出来る役>であることが語られる。勿論、死者になってから物語をコントロールすることへの皮肉もたっぷり込めて。

  • 作者は日本人なのに、翻訳ミステリーを読んでいるかのような徒労感。死者が甦るという特殊設定ミステリーで全てのパーツがハマるとなるほどな〜とスッキリ。

  • 我々は幸せだ、"生きてるうちに"読めるのだから
     約30年経った今も全く色褪せない名作。死者が甦る世紀末的世界で起こる霊園一族の怪死事件、というだけで舞台は十分に整っていますが、これでもかと盛り込まれたブラックジョークや死生観等々で、圧倒的な読み応えを誇っています。
     死してなお活発な灰色の脳細胞、安らかなる永遠の眠りを先延ばしにされ、ゾンビ探偵に任命された青年・グリン。読者が謎を解くには死と向き合うことが必要かもしれません。生者の論理と死者の論理が複雑に絡み合う驚愕の真相が待ち受けています。
     本作を今まで放ったらかしにしていた自分が恥ずかしい。比類なき傑作です。
     本格ミステリ・ベスト100(75-94年)/1位に選出。

  • 長い!でも楽しかったです♪ドタバタ騒ぎに終始する、なんと死者が甦る世界のお話。死んでも生き返って生きてるように生活するって…こわっ。書いてる人は日本人だけど、本当に外国の本を読んでるよう。 探偵というわりになかなか動き出さないし、大体こんなもんかなーと思ってたら当たってた。中弛み間があってちょっと残念。でもアメリカの葬儀社の内部のお話がおもしろかったです☆

  • 『死』をテーマに描く本格ミステリー。ミステリーなんだから死を描くのは当たり前と思いきや、これは『死』とはなんなのか?について、様々な登場人物の死生観、死の文化、宗教、オカルト、葬儀の文化…などなど、これでもかという方面から語る、うえでの本格ミステリ。この前置きの部分が面白くて面白くて。そして死者が甦る世界での殺人。よく練られた舞台設定における、ちょっと他では見たことのないミステリーでした。

  • 相対的には語れない絶対性の強い傑作。死体が蘇る現象が起き始めている世界における殺人と探偵行為の意義とは何か。死者と生者の思惑が複雑に交差し、導かれる真相には唯一無二の衝撃と美しい本格ミステリの構成美が備わっている。全編に渡る「死」の講義、「死」についての物語、そして死者が考え動くことによるユーモア、それらが無駄なく精緻に紡がれ至る謎解きは見事、エピローグは秀麗である。グリンやチェシャ、トレイシー警部などキャラクターの魅力も読ませる。異常な世界の中の独自のルールとリアルを描き切った技量に感嘆する。

  • 蘊蓄が長すぎ、登場人物多すぎで、前半で息切れしてしまい、面白さが分からず只疲れました。このミステリーがすごい!ベストオブベスト国内編第二位ということですから、プロ評論家には受ける内容なのでしょうけど、私には合わなかった。

  • 長い。長すぎる。

    もう少しくらいコンパクトにして欲しかった…

    アメリカが舞台で、

    登場人物も横文字、しかも人数がえらく多い、

    とくれば、

    名前覚えられない病が久しぶりに再発かと思われましたが、

    意外と大丈夫だった。

    多分、海外翻訳ミステリ風とはいえ、

    結局は日本人の文章だから、

    それほど読みにくくなかったからだと思う。

    伏線も多いし、情報量が多いので、

    ちゃんと読んでちゃんと推理しようとすると、

    すごく時間かかりそうです。

    ラストに辿り着くまでに疲れてしまって、

    イマイチ驚けなかった。

    また、「死んだ人が蘇る」

    という基本設定をどれだけ受け入れられるかで、

    物語に入り込めるかが決まってきそうです。

    グロい描写はそれほど多くなく、

    なんとか最後まで読めました(最後かなり端折りましたが)。











    ---------------ここからネタバレ------------------











    誰が、いつから死んでいたのか。

    なぜ、どうやって死んだのか。

    自殺なのか、他殺なのか、事故なのか。

    遺産なのか、遺恨なのか。

    もう謎が多過ぎて、

    解決部分を読むにも、前に戻って戻って、一苦労。

    要素が多すぎ、絡み合いすぎなので、

    途中図解とか入れて欲しい。

    長編だし読み応えは抜群だけど、

    とにかく、疲れました。

    グリンとチェシャの関係が良かっただけに、

    グリンが結局死んじゃうのは残念。

    スマイリーとモニカの最期は物語的だけど、

    これもまた一つの夫婦愛の形なのかな。

  • 見事な本格ミステリー。
    メガネだったりストライキだったり、指紋だったり、という伏線も見事だが、やはりモニカの動機やジョンの"自殺"の理由には目を見はるものがある。
    まさか死についての談義までもが伏線だとは思わなかった。

    最初登場人物表を見たときは外国人の名がズラーっと並んでおり、少し読むのに気が引けたが、実際に読んでみると、ユーモアのある文章や魅力的なキャラクターに引き込まれ、とても読みやすかった。
    終わり方もとても良かった。

  • 何度となく読み返している。ラストが好き。

  • 死者が蘇る、という奇抜な設定のミステリ。殺人事件の意味合いが薄れるという危惧があったが、それを軽々と乗り越えて「死」そのものをテーマとして深く掘り下げた傑作ミステリ。海外の翻訳小説を思わせるスラップスティックな文体も素晴らしい。アミダくじのような伏線に、まだら模様の謎が一気に浮かび上がる様は息を飲みます。死という深いテーマに、独創的なキャラクター、マナーハウスのテイストも加えた、非常に贅沢なミステリ。

  • 「確かに、他の国に比べたら日本人の宗教観には柔軟すぎるところがあるかもしれない。だが、宗教対立で子供が血を流す国よりはましだと思う」

    「人は、生の永続性ということを考えるとき、どうしても狭い個体の死にとらわれてしまいがちだが、それはいかん。まず、この永遠などあり得んというところから考えてみるといい。もし個が永続性を獲得したら、どうなる? この地上はそうした傲慢な個で溢れかえり、結局、種は絶滅してしまうことになるだろう。個の死滅があって、初めて種の、ー 人類の永続性がえられるんだよ。」

    「四季の中で繰り返される豊穣は必ず死を媒介として可能なものとなるのだ。言葉を換えて言えば、死は豊かな再生を約束するものでもあるのだよ」

    「生まれたばかりの赤ん坊が泣くのは肺で呼吸をするためと言われているが、あれは、苦痛とストレスに満ちた生の世界へ放り出されたことに対する怒りと恐怖の叫びだと断ずる心理学者もいるようじゃ。」

    『ー この宇宙にあって、生命を持つということのほうが、むしろ平衡状態に反する不自然なことなのだ。そう、人はみなそれを知っている。そして、その平衡状態を目指す"死の本能"のようなものを、誰もが持っているのだ。あとはただ、きっかけさえあれば…。』

    「人間も生まれた時から体内に死を内包している。寿命ある人間が毎日生きるということは、実は毎日少しずつ死んでいるということなのだ。そして、体内の死の暴力が噴出し、肉体を組み果てさせる時、人は初めて自然で美しい平衡状態を得、永遠の仲間入りをするんだ」

    「人間は確かに不死とか永遠の命とかは失った。しかし、それと引き換えに手にしたのは個別性だった。細菌のようにどれもみんな同じというのじゃなく、雄と雌、男と女に分かれ、俺は俺、チェシャはチェシャというふうに、ぜんぜん別のものになった。 ー だから、その別々の俺たちが、出逢って、お互いに愛し合い、結びつくってことは、その代償として支払った不死に匹敵するほど、永遠に等しいほど、意味のあることなんだ。わかるか?」
    「…少しわかるよ。あたしがあんたを好きで、あんたがあたしを好きだってことは、死なないってことと同じくらい素晴らしいってことなんでしょ」

  • アメリカのニューイングランドの片田舎トゥームズヴィルにあるスマイル霊園を経営するバーリイコーン一族は、当主であるスマイリーが癌にかかり、死の淵にいた。スマイリーの孫にあたるパンク青年グリンは、ずっと離れて暮らしていたのだが、遺産相続人のひとりとしてスマイリーに呼び寄せられていた。
    折しも、アメリカ各地では死者が蘇るという不思議な現象が多発していた。スマイリーは遺書改変の意思を示し、一族は相続がどのようになるのか不安を抱きつつ、お茶会を開くのだが。
    死者が蘇るというミステリーの常識が通じない世界を描きつつ、本格的なミステリーとして評価の高いこの作品は、「このミステリーがすごい」でも長年にわたってベストに推されている。読んでみて、その理由がよくわかった。物語の前半は、この世界を覆っている「死者が蘇る」という現象についての考察や、「死」に対する登場人物たちの考え方が披露され、その合間でバーリイコーン家の人間関係、それを取り巻く周囲の人々が、どちらかというと淡々と語られていく。
    それが後半に入るやいなや、ブレーキの壊れた特急列車のように、いくつもの事件が巻き起こり、謎が謎を呼んで展開していく。
    これが30年にもわたって愛されているというも納得である。

  • この世界では、語られるストーリーが始まる少し前から原因不明で死者が蘇るという設定になっている。作中ではゾンビという表現はされないが、由緒正しきゾンビものらしく、なぜ死者が蘇るのか・・・という説明は一切なく、最後までその理由は明らかにならない。本作の場合には、別に蘇った死者が生者を襲うということもないし、意識も明確なままなので、ホラーというよりもコメディという位置付けになるのかもしれない。

    面白いのは、ゾンビものの根本的な問いの一つである「彼らの体はなぜ腐らないのか」がちゃんと正面から取り上げらていること。そう、本書では蘇った死者の体は、ちゃんと腐っていくのである。むしろ、本書では一番最初に死ぬことになってしまう主人公は、その悩みと戦いながら推理を行うことになる。そこで活躍するのが本書の共通舞台であるエンバーミング。日本でも「おくりびと」で取り上げらえていた、死者の納棺作業のことである。すでに死んでしまっているので、死ぬことを心配する必要はないが、体が腐らないように防腐処理を行い、肌色をたもつ化粧を行う主人公グリンは涙ぐましい。


    本書はその世界観が突飛なため、イロモノとして扱われてしまう危険性もあるところを、「死んだ人間が蘇る世界で、なぜ殺人が行われのか」という強烈な問いと、その切れ味鋭い論理性でその穴にハマるのを見事に回避している。仮説を立てては捨てていき、多重的に発生する事件を綺麗に切り分けた末にたどり着く、最後の解決はまさにミステリーをよむカタルシスに満ち溢れている。デビュー作でここまで論理が切れるのは本当にすごいとしか言いようがない。

    本書は舞台も米国、物語の展開も映画的でありNetflixあたりで5回連続ドラマにしたらとても面白いのではないかと思うのだけど、まさに殺人を行う動機というのが、ある地域では極めてセンシティブな話なので、米国で映像化するのはかなり難しいのかもしれない。その動機は、まさにこの世界だからこそ成り立つものであり、物語の根本となる世界観と固く結びついているので、動機を改変するのはこの小説世界自体を壊してしまうことになりかねない。やはり、頭に色々な絵を思い浮かべながら、テキストで楽しむのが正しい本作品の楽しみ方のようだ。

  • ちょっとしんどい作品でした。
    登場人物が頭にはいってこないのと長いのとで
    何度かくじけそうになりました。
    なんとか最後まで読み終わることができましたが、最後の結末もしびれるほどでもなく。
    ぼちぼちでしたね。

  •  再読。名作と呼ばれるにふさわしいボリュームと内容。

     えっと、昔の覚書を漁りまして、初読が2003年8月であることを突き止めました。約12年の間を空けて再読。干支が一周してる……。
     ちなみにそのときの感想メモ。


    面白かった。舞台がアメリカで、登場人物が一人を除いてアメリカ人で。
    名前が全部片仮名で、しかも二十人ぐらい名前が並んでて。
    読む前はヤバイな、これはと思ってたけど、読み始めたらあっさり読破。
    面白かったからだろうね。
    うん、地味に面白い。綾辻とかみたいにあっと驚いて「これはいい!」じゃないけど、
    「んー、これ、いいねぇ」って感じ。
    改めて、山口雅也の実力を痛感。この人、凄いね。


     この印象が今でもずっと続いていて、再読しても改めてそう思いました。すごいわ、このひと。
     文庫で、結構な厚さがあって、ほんとずっしり。葬儀屋をメインにしたお話で、「死」というものについての薀蓄がいたるところに。ひとによってはそれらが少し冗長と感じられるかもしれないけど、最終的に真犯人を説明しようと思えば、予め読者に知識を与えておかなければ「納得」というレベルに持っていけないんだよな。そこばかり書いてしまうと読者の目が真犯人に向かってしまうから、ヒース博士やグリンの薀蓄は「散らし」の意味もあったんだろうねって今なら思う。
     まず前提として「死者が生き返ることがある」っていう世界での出来事で、その点については明確な説明はないままなんだよな。どうして生き返るのか、生き返ったものになんらかの共通点があったのか。分からないけれど、とにかく「生き返るものがある」っていう。
     だからこそ登場人物たちも混乱しているし困惑しているし。
     いやでもそこから、「生き返るなら殺しても仕方ない」って発展させて、「それでも殺そうとする動機を持つ人物は誰か」という方向へ持って行くのはすごく面白い。それを「推理小説」の中でやったってのが、やっぱ天才だなぁって思うわ。
     抜粋。
     えーっと、何番目かの被害者のセリフ。


    「すまん、ちょっと、死んでたんでな、全然聞いていなかった。悪いがもう一度最初から繰り返してくれないか?」


     トレイシー警部の心に平穏が訪れることを祈っております。

  • ニューイングランドの片田舎で死者が次々蘇る怪現象が起こる中、行われる殺人劇。死人が蘇る世界で人を殺す理由とはなんなのか。主人公である探偵も死者となり、それを隠しつつ真相を追う。

    …というのが粗筋なのだけど、設定からギャグというかSFというか、今まで読んだことのないミステリ作品です。

    最初に言ってしまうと、この物語では「なぜ人が生き返るのか」ということについては考慮しません。体を動かすための神経系が機能していないのに体が動く理由について、あれこれ考えを巡らせる場面もあるのだけど、結局分からない。

    ただ、動くからといって死者が生者と同じ扱いかと言うと違うんですね。生きている人間が気に留めない現象が死者には特別だったりします。例えば、死者は発熱しないから、触れてみると冷たい…とか。

    こういったことを頭に入れて読み進めると、色々なところに伏線が張られていて、本格ミステリとしてフェアな感はあるし、もちろん、死者の特徴についても触れられてはいくのだけど、ミステリを読む時は、死者は退場するものとして考えてしまうので、ミステリに読み慣れている方にとっては、新鮮度が違うかもしれないですね。昨今はこういうSFミステリが少なくないのかもしれないけど。

    とは言え、普段小説を読まないという方には薦めにくい本です。

    とにかく長い。
    長さを感じさせない作品もたくさんあるのだけど、登場人物の多さと外国名の覚えにくさ、場面の転換が多いので、この作品を普段小説を読み慣れていない方にはお薦めしません。

    また、場面の転換の多さと相まって、構造を把握しにくいような気がします。時間をかけてゆっくり読んでいくと忘れてしまうところも出てきそう。

    ですので、ある程度小説に馴れている方、もっと言うとミステリを読んでいる方にとっては、新鮮さも加わって面白いと思います。

    ちなみに、舞台がアメリカということもあってか、時折描かれるジョークがそういうテイストなんですけど、それはそれで結構面白いです。

    一風変わったミステリをお探しの方は是非。

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