慟哭 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M ぬ 1-1)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488425012

感想・レビュー・書評

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  • 連続幼女誘拐事件を追うキャリア組捜査一課長・佐伯と、新興宗教にハマっていく謎の男・松本の視点が交互に描かれながら、真相に迫っていくミステリー。

    私にとっては長きに渡って積読させていた貫井徳郎作品。初読は数冊一括購入した時から何となく本作品の慟哭と決めていた。

    ズバリ、表題名・文体・ストーリー・トリック・読後感、すべてにおいて期待を超えた。
    それは特段の警戒心もなく、純心な状態で【慟哭】を探し続けた結果なのかもしれない。

    誰が、いつ、何が起きて、声をあげて激しく嘆き泣き喚くのか。

    犯人を追う佐伯。
    宗教に救いを求める松本。

    互いに影の部分を持ちつつ、交互に進行していく展開にはとても惹き込まれた。

    そして、最後の最後にやってきた慟哭。
    心の中の叫び声が聞こえた気がした。
    とても切なく、救いのない結末だった。

    わたしも2児の親。
    もしも本作のような被害者の親という立場に立たされた時、果たして自分を保てるだろうか。
    残され悲しみに暮れる家族を毅然と勇気付け守れるだろうか。

    想像の域を出ないが、恐らく最後まで慟哭に明け暮れる頼りのない父親がそこにいるだろう。

    しかしながらまた1人、貫井徳郎という面白い作家と出逢ってしまった。困った。

  • 『連続幼女誘拐殺人事件の捜査で進む刑事佐伯』
    『虚無となり新興宗教に出逢い己の目的を遂行する為に狂い、少女連続殺人者として堕ちて行く犯人』
    この二つの視点で物語は進む。
    一章一章が短いので、片Partの記憶が薄れない内に軌道修正を繰り返す事が出来る。とても読み易い。

    さて、この大まかな流れを理解してから私が行うひとつの儀式みたいなもの...トリックや動機は置いといた着地点のみの大雑把な推理を始める。
    ....ミステリ好きであれば比較的容易に想像ができる、悪く言えば王道もしくは邪道なオチを。そしてそれを裏切られたいのだ。

    結論を言えばーこうであってくれるなよーが的中してしまったのだが、個人的には本作品は事の顛末よりも貫井徳郎の文才を楽しむ一冊に感じた。
    クールで冷徹 周りに誤解されやすいが内に秘めたる熱い心の持ち主、まるでジャンプの主人公キャラな佐伯一課長。それを認められずくやちくてハンカチ噛みながら意地悪するメンズ蔓延る男職場。
    暗黒のベースはあれども、ジワジワと狂気に堕ちていく犯人。

    20年ほど前の作品ですからね、話のディテールよりも佐伯と犯人 被害者遺族(今回はそこまでプロットに組込まれていませんが)そしてモブ達の心情を短い章の中で濃密に感じる事が出来るのが魅力的。

    細かいことを言えば、新興宗教側の脇役達の扱いが雑なのが勿体ない。その後が謎に包まれる物語の脱落者達。有耶無耶にするのは宗教団体の不気味さの演出にはもってこいだが、槍を振り上げるだけで降ろされないもどかしさを感じた。
    そして司摩の行動。熱弁するとネタバレにもろ顔ツッコミせざる得ないので省くが....彼の正義とはなんなのだ。無駄に行動力のある陰キャのイメージで止まってしまったぞ。

    うーん、バッドエンド愛好家として最後の一行は好きなんだけども、、不完全燃焼だなぁ。

    • アールグレイさん
      で~きました!!
      家事なんて、そっちのけで書きました!
      アレで良かったのだろうか?
      書きたいことがあったけど、完全ネタバレだし迷った!
      で~きました!!
      家事なんて、そっちのけで書きました!
      アレで良かったのだろうか?
      書きたいことがあったけど、完全ネタバレだし迷った!
      2021/06/25
    • ひろきさん
      【ネタバレ注意】
      むしろ、志摩のキャラクターは一貫していると感じました。彼にとって宗教とはビジネスに過ぎないので、信者のお布施は歓迎するが、...
      【ネタバレ注意】
      むしろ、志摩のキャラクターは一貫していると感じました。彼にとって宗教とはビジネスに過ぎないので、信者のお布施は歓迎するが、犯罪に手を出されるのは困るというポジションなのでしょう。
      2023/03/14
    • NORAxxさん
      ひろきさん、初めまして...(??)です。コメントありがとうございます。
      全く覚えておりませんが何か感じる所があったのですね(´ᴖωᴖ`)
      ...
      ひろきさん、初めまして...(??)です。コメントありがとうございます。
      全く覚えておりませんが何か感じる所があったのですね(´ᴖωᴖ`)
      これからも良き読書ライフを〜
      2023/03/14
  • 貫井さん、初読み。オーソドックスなミステリーだと余裕ぶっこいていたら、いきなり頭をぶん殴られたような感覚。ヤバい展開でした。キャリア組の一番の出世頭である捜査一課長の佐伯が幼女誘拐犯を追う。一方、自暴自棄のように手当たり次第に新興宗教に手を出し『白光の宇宙教団』の考えに賛同し、入会する松本。この2者が交互にストーリー展開を見せる。追う佐伯、幼女を殺害する松本。エキセントリックな松本に対し正攻法で挑む佐伯。最後に「えっ!」となる。なるほど、伏線は色々あった。人物描写がとても良く、現場の臭いまで感じられた。⑤

    • ポプラ並木さん
      地球っこさん、「恋文」は直木賞受賞作品ですね!!!!びっくりしました。読みま~す。
      地球っこさん、「恋文」は直木賞受賞作品ですね!!!!びっくりしました。読みま~す。
      2022/09/07
    • hiromida2さん
      ポプラ並木さん、こんばんは。
      私も過去に読んで、衝撃を受けた作品です!
      あまりに以前なので、内容を忘れてしまってるところが
      残念ですが…ブク...
      ポプラ並木さん、こんばんは。
      私も過去に読んで、衝撃を受けた作品です!
      あまりに以前なので、内容を忘れてしまってるところが
      残念ですが…ブク友さん皆さんの評価もよく
      懐かしさと
      私も再読したくなりましたよσ^_^;
      貫井さんの本はその衝撃で他のも沢山読んだ記憶がありますが、最近はご無沙汰…(・・;)
      皆さんが好きな本を沢山紹介して下さって
      慌てて…メモ、メモしとかなくっちゃ(≧∇≦)
      ありがとうございます♪
      ポプラ並木さんの紹介されてた「ハサミ男」
      初読みで、とても衝撃的で面白い作品だった
      殊能さんはあれからどんな本を書いてるんだろう?
      と思って…調べてると、な、な、ナント何年も前に
      お亡くなりになられてたのですね(;o;)
      知らなかった!ショックでした。

      ご紹介の本は気になるものばかり…
      時間の余裕ある時に是非読みたいです♪
      2022/09/16
    • ポプラ並木さん
      hiromida2さん、おはよう!コメントありがとう~
      実は自分は読書メーターとブクログの2つで楽しんでいます。
      最近、自分が読みたい本...
      hiromida2さん、おはよう!コメントありがとう~
      実は自分は読書メーターとブクログの2つで楽しんでいます。
      最近、自分が読みたい本よりも、読友さん読了後の感想やお薦め作品の方が楽しめるということを知りました。読書関係のSNSの醍醐味だと思います。ハサミ男は凄い作品でしたよね。あの叙述トリックはやられました!是非お薦め作品があれば教えて下さいね。では~
      2022/09/17
  • 昨今のどんでん返し+叙述トリックの教科書らしい
    願いを叶えてほしい・叶うだろう・叶うはず と盲信 し、
    安息を得ようとする我々人間は、非常に高度な知能を有する傍ら繊細で脆いものだ
    やっぱ宗教って怖いわ

  • 誰だって幸せになりたいと思ってる。
    人生を懸けられるような仕事をしたい。温かい家庭を築きたい……
    彼がただ願ったはずだろう人生を、どうして他人は許してくれなかったのだろう。どうして共に歩んでくれなかったのだろう。
    他人のせいにしちゃいけない。よく分かってる。分かってるのに、彼が可哀想で堪らなくなる。

    彼はどうすればよかったの?何がいけなかったの?どこで歯車が狂ったの?どこからやり直せばよかったの?
    目を逸らした、耳をふさいだ、認めたくなかった、そんなことに。そうなる前に。きっと彼には、いくつもの気づかなくっちゃいけなかったことがあったんだと思う。

    ぽっかりと開いた胸の穴。
    それを閉じるためなら、人は悪魔にさえ魂を売ってしまう。

    • ポプラ並木さん
      地球っこさん
      コメントありがとうございます。
      <彼が可哀想で堪らなくなる。>
      この感想、分かります!
      宗教に嵌まるのはよく分からない...
      地球っこさん
      コメントありがとうございます。
      <彼が可哀想で堪らなくなる。>
      この感想、分かります!
      宗教に嵌まるのはよく分からない精神状況だけど、どうにかして娘を取り返したいという欲求が強かったのでしょうね。
      自分も2娘の父親として、彼と同じ立場になったら慟哭するに違いありません。でも別の子を殺めるというのはダメですね。
      その一線を示したこの作品は素晴らしいと思いました。
      次は乱反射を読みます!!既読かな?
      2022/09/06
    • 地球っこさん
      ポプラ並木さん

      コメントありがとうございます。
      私は小説を読むとき、つい感情移入を必要以上にしてしまうときがあって、この作品もミステリーだ...
      ポプラ並木さん

      コメントありがとうございます。
      私は小説を読むとき、つい感情移入を必要以上にしてしまうときがあって、この作品もミステリーだけど、ミステリーとして読むというより、主人公の追いつめられていく気持ちの部分に揺さぶられてしまったんだと思います。

      貫井作品はこの作品で満足してしまって他は読めてないんです。もったいないですよね(^o^;
      「乱反射」、私も読んでみたいと思います。
      ありがとうございます♪
      2022/09/06
  • 事件は二つの目線から、交互に語られていく。

    奇数章は追われる側。
    娘を殺された松本は、胸にぽっかり穴が開いていた。
    仕事を辞めて、彼は新興宗教に嵌っていく。

    新興宗教の信者は10段階のレベルに分かれており、
    財施やボランティアをすることで、このレベルは上がっていく。
    多くの財施をした松本は、短い期間でレベルを上げ、
    教団の儀式に誘われるようになる。
    教団の儀式とは、黒魔術めいたものだった。

    彼は、失った娘を取り戻す為、復活の儀式を個人的に始める。


    偶数章は追う側。

    連続幼女誘拐事件の捜査を任されることになった捜査一課長の佐伯。
    彼はキャリアで元大臣の妾腹の子であり、警察庁長官の娘と結婚して婿養子になっていた為
    警察内にやっかむ人間も多かった。

    連続幼女誘拐事件は、手がかりが乏しいまま、また新たな事件が発生してしまう。

    窮地に立たされた松本は、記者会見で犯人に対して挑発ともとれる発言をする。
    記者会見後、彼の妻から家の近くに不審者が現れたことを聞く。
    そして、娘の理恵子が行方不明になった。



    追われる側が犯人。追う側が警察。
    何もおかしくないし、これが何処に落ちるのか!?
    全く予測もせずに読んでいたが、こうやって落ちるのか!

    フォロワーさんの感想を読んでいたはずなのに、
    叙述トリックであるところを見逃していたのか、
    注意せずに読んでいたので、あまりにもびっくりして、目が点に(笑)

    そうきたか!

    なかなかに引き付けられて一気読みしてしまう作品だった。
    なるほど、題名の慟哭は、彼の慟哭だったのか。。。

    • 地球っこさん
      bmakiさん、はじめまして。

      『慟哭』、とても衝撃的でした。
      bmakiさんのレビューを読ませていただいて、また彼の「慟哭」を思い...
      bmakiさん、はじめまして。

      『慟哭』、とても衝撃的でした。
      bmakiさんのレビューを読ませていただいて、また彼の「慟哭」を思い出すと何だか涙が……
      読み終えたあと、かなり長い間引きずったミステリでした。
      私にとって「慟哭」は、とても忘れられないミステリとなったので、実は他の貫井さんの作品には手が出せないのです 笑

      bmakiさんは、ミステリをたくさん読んでおられるので、いつも参考にさせてもらってます。
      また「慟哭」を上回るような貫井作品に出会われたら、ぜひ教えていただきたいなと思います(*^^*)
      2021/01/25
    • bmakiさん
      地球っこさん
      はじめましてm(__)m
      レスポンス激遅ですみませんm(__)m

      読み終えた後、ひきずられましたか。。。
      確かに、カタルシス...
      地球っこさん
      はじめましてm(__)m
      レスポンス激遅ですみませんm(__)m

      読み終えた後、ひきずられましたか。。。
      確かに、カタルシスというより、言い表せないモヤモヤ感のようなものが纏わりついて離れなくなるような感覚がありました。

      私はミステリ好きで、自分で購入するものはほぼミステリですね(笑)
      その他の本は、会社の方にお借りした本などです。

      地球っこさんの本棚は、バランスが良いなぁ~といつも感心しておりました。あらゆるジャンルの本を読まれて、本が大好きなのだろうなぁ~という気がしておりました。

      私の方も地球っこさんのレビューこれからも興味深く拝見させていただきます。ありがとうございました。
      2021/01/31
  • 貫井徳郎さん、初めましてだった。また読書の楽しみが増え嬉しい。
    たまたま安倍晋三元総理が銃撃され命を落とされた事件で(統一教会)が、再び世間を賑わしている時で、改めて新興宗教のとてつもない闇も感じながら読んだ。
    作中に
    *新興宗教の究極の目的は金儲け
    *(宗教法人の持つ特権)で、宗教は割の良いビジネス
    と言う言葉に頷いてしまう私は無宗教の典型的な人間かもしれない。それでも宗教にすがりつく心理はわからないではない。何せ私達日本人はお正月には神社で一年の安全祈願をし、お彼岸、お盆にはご先祖様のお墓参りをし、更にはクリスマスまで祝う無節操な国民なのだから。そんな下地のある日本人に新興宗教がつけ込む余地は大きい。
    警察の中のキャリア組、ノンキャリア組と言う問題もよく言われるが、まあこれはどの世界にもある問題かもしれない。世間で知られる負の夫婦、親子問題は、永遠に解決できない人間の業なのだろうか?
    様々な観点から読めて面白い小説だった。

  • みんな大好き新興宗教系推理小説!!


    ーーーーー

    連続する幼女誘事件の捜査が難航し、窮地に立たされる捜査一課長。
    若手キャリアの課長を巡って警察内部に不協和音が生じ、マスコミは彼の私生活をすっぱ抜く。
    こうした状況にあって、事態は新しい局面を迎えるが……。
    人は耐えがたい悲しみに慟哭する――
    新興宗教や現代の家族愛を題材に内奥の痛切な叫びを描破した、鮮烈デビュー作。
    (Amazon 作品紹介より)

    ーーーーー




    『慟哭』というタイトルから想像していたのは、やり場のない怒りや哀しみからくる叫び…。

    決して工藤静香ではない。

    ………。


    貫井徳郎さんのデビュー作です。
    この作品でデビュー作!
    凄い…!


    連続幼女誘拐事件を捜査している一課長らと『彼』からなる視点を描いた作品。

    すみませんが………(;´Д`)
    今までの推理小説読書経験から、前半の66Pでどんな仕掛けの推理小説か全部分かってしまいました…(~_~;)
    無念。

    にしてもとても読みやすく、どんどん次が気になる展開で、ほぼ一気読み!

    夫婦や子供との絆が痛いくらいに伝わってくる。
    宗教にのめり込むのは、自分の信じたい事だけしか聞こえなくなるから。
    全てが上手くいってる人の方が稀ですよね…。

    内容あまり言えませんが…

    推理が当たっても、ラストは慟哭……Σ(༎ຶ⌑༎ຶ)!!
    納得です!!

  • H30.4.14 読了。

    ・悲しみで空いた穴を埋めるものは?最後は切ない終わり方だった。

  • 自分が生まれた年に書かれた本だと知り、とても驚きました。

    この物語は各章の量が短く、「彼」が新興宗教にのめり込んでいく様子が描かれたパートと、警視庁の佐伯捜査一課長、又は丘本警部補が語り手となって、幼女連続誘拐事件の犯人を追うパートが交互に切り替わっています。
    そのため、幼女連続誘拐事件の真相に中々辿り着けなくて個人的に少し飽きそうになっていた時も、別のパートでの新たな展開が程よく進んだりしていたため、常に続きが気になる様な読みやすい章構成になっていると思います。

    特に、序盤は宗教の勧誘に興味を示すことの無かった「彼」が徐々に新興宗教にのめり込んでいく様子は、とてもリアリティがあります。
    また、終盤では最悪の事態が起こりそうな予感がし、本当に文字通りのハラハラドキドキを感じました。

    読んだ皆さんなら、刑事もの×新興宗教が絡むミステリが生み出した途轍もないインパクトを感じたと思います。

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著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞の最終候補となった『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞受賞。「症候群」シリーズ、『プリズム』『愚行録』『微笑む人』『宿命と真実の炎』『罪と祈り』『悪の芽』『邯鄲の島遥かなり(上)(中)(下)』『紙の梟 ハーシュソサエティ』『追憶のかけら 現代語版』など多数の著書がある。

「2022年 『罪と祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

貫井徳郎の作品

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