結ぶ (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.94
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本棚登録 : 610
感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488441036

作品紹介・あらすじ

彼岸此岸もわからぬ場で「縫う―縫われる」行為を考察する独白が、異様な最後の一行で結ばれる表題作ほか、単行本未収録作4篇を加えた18編の幻想小説。

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。ひとつひとつは短いけれど、濃い。

    表題作「結ぶ」が印象的だった。
    縫うって。染めるって。意味も分からないまま、いちばん心に残っている。
    私はどうしても海老の背ワタを引きずり出すときのことが思い浮かぶ。

    「花の眉間尺」はちょっと他とは違う感じ。
    テンポよくクスッと笑えるやりとり、と思っていたら、なかなか狂気。

    「蜘蛛時計」もよかった。
    ロシアの、というか外国の歴史が薄暗い雰囲気で醸し出されるのが好きなのだと思う。

    ほかに、死者と当たり前のように交流する話がいくつもあって、それらは淡々と静かなところがいい。でも中には賑やかなものもあって、意外な気がしたけれどそれも好きだなと思った。

  • 幻想小説短編集。文庫版では未収録作品も増えて、豪華な印象です。シュールでグロテスクで、そして何よりも美しい作品ばかり。どこをとってもうっとりさせられてどっぷりと浸れます。
    お気に入りは「心臓売り」。ここに出てくる「○○売り」って、奇妙でどこかしらノスタルジックにも思えます。しかも心臓って! だけどそれがすっと入ってきて、自然に情景の浮かぶのが不思議であり凄いところかも。
    「花の眉間尺」は、ユーモラスな物語。いちいちツッコミが入るので軽いテンポでぐいぐい読めるし、可笑しな話なのだけれど。最後まで読むと……こんなに怖い話だったのか!
    新規収録分では「メキシコのメロンパン」が好き。これもユーモラスに思えたけれど、かなりブラックでした。

  • 「そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった。」
    何?その出だしの文章は!!!いきなり先制パンチを食らった気分。これは読みたくなる導入部分だわ。
    18篇もの短編集で、1作目が表題作なのだが、この最初の1行で完全に持っていかれた感がある。
    そして読み終わってみれば、美しい流れるような文章なのに結構グロいことが書かれてたんじゃないですかー!という驚愕。
    1篇1篇はごくごく短いが、いい意味で疲れる1冊だと思われる。情景を想像しながら読むのに結構頭を遣った気がする。(笑)
    ミステリなの?ホラーなの?でも全編通じて非常に耽美。
    私は夢を見ていた?まだ夢の中にいる?…そんな感想でした。

  • 『世にも奇妙な物語』が好きで、時おり特別番組で放送される際は、なるべく食事の仕度とお風呂を先にすませておいて、じっくり観ています。
    ふと、久しぶりに読書の時間でも、奇妙で、辻褄が合わない世界にひたりたい、でもって、美しければなおよし……と、色々探して行き着いたのがこの本。

    本書には、ミステリのようでもあり、とはいえ、トリックと犯人のいない、ファンタジーと怪奇が入り交じった物語ばかりが18個おさめられています。
    著者の皆川博子さんは1930年生まれ。
    著者が主に1990年代に発表した作品が集められており、やや舞台設定に時代を感じるものの、20年の経過を感じさせない力があります。

    どの作品も物凄く奇妙で濃いのですが、特に好きだったのは「水色の煙」。
    伯母である「私」が、母親からあずけられた甥と過ごした夏の日々を語りだすのですが、途中、甥が納戸で「私」の「脚」を見つける、というくだりから、穏やかで郷愁に満ちた夏休みを取り巻く闇が徐々にあらわとなって……。
    淡々とした語り口の裏側に透ける、悲しみと愛憎が、とにかく恐ろしい。
    1度読み終えてから、再読すると、話の奇想天外さと相反して伏線や比喩が緻密にちりばめられていて、より一層、背筋が寒くなりました。

    どの短編も、読んでいるとまるで頭の中に直接手をつっこまれて、三半規管をねじりあげられているような感覚を覚えるのですが、とにかくその握力がすごい!
    思わず、「この物語、半端ないって!」と叫んでしまいそうになります。
    立つこともままならない電車の中でも、あっという間に異空間に引きずり込まれ、戻ってきたときには、もろもろの現実を、少し距離をおいて眺められるーーああ、フィクションって、なんていいんだろう。

    山の上ホテル(多分)のティーラウンジ、児童公園、夏休みに預けられた実家、写真館、バレエ教室といった繊細な舞台設定も魅力的で、例えるなら、中身のわからない高級なチョコレートトリュフの詰め合わせのような本書。
    すっかり世界観に感化されて、とりあえず近いうちに山の上ホテルのティーラウンジには絶対行こうと決意したのでありました。

  • 18篇(!)の短編(SSと言うべきかな?)が収められた短編集です。書かれたのは1998年ですが、なかなか文庫化されなかったそうで、今回、同時期に書かれた未刊行短編4話を加えての文庫化となったそうです。

    全体の感想としては、あとがきにもあるように皆川博子らしい幻想小説集(最も高く評価されているらしい)ですが、幻想的な世界観は共通しているものの、背景も語り手も一切不明な話から語り部が精神的に混乱している話、この世界とは別の世界(未来?)の話など様々な種類の話が収められていて面白いです。
    ゾクゾクというかゾゾーっというかホラーとはまた別の怖さがあり、次はどんな話なんだろうとドキドキしながら読みました。

    ・結ぶ
    読み始めてすぐ「え?えっ?」と思ってしまいました(笑)何がどうなっているのかさっぱり!
    背景も経緯も語り手の素性も状況もほぼ説明がないのに、アルマジロの説明は辞書から引用してあるという・・。
    球体にしたいのなら語り手が言うように背中を丸める方がいいのにな~でも背中は何もないから乳房がある方がいいと思ったのかしら。
    全然望みませんが、どちらかというと縫われる方がいいです。(どっちが痛くないのでしょうか・・・)

    ・湖底
    ロマンチックなお話でした。『断ち割られた黒い器ーわたしは頭蓋を連想したーから溶け流れた宝石が溢れでている』(P33からの引用)という絵を見てみたいです。

    ・水色の煙
    このお話好きです。ただ魔術師の話が「寓意がずいぶん露骨な物語」ということですが、露骨な寓意がわたしにはわかりませんでした・・・。

    ・城館
    このお話も好きです。わたしの中では水色の煙と同じ区分です。
    何度から出てきたおねえさんは一体誰なんでしょうか・・・。

    ・水族写真館
    読んでいて姑獲鳥の夏を思い出しました。
    放火、好きですよね(笑)

    ・レイミア
    ひよこ・・。
    地面に落ちたひよこの毛のふわふわした感じから栗が詰まったぶつぶつした皮膚の手触り、折れた足、動かない目もひからびて青みがかったカサカサの皮膚も想像できてとても気持ち悪いです。
    血なまぐさい描写よりよっぽど不快感があります。
    詩的な雰囲気なのにレーサーだけが妙に浮いている・・。

    ・空の果て
    袋の中に入ってたいたのは魂だったのですかね。
    袋がなくなってしまったら帰ってくるところはあるんでしょうか。

    ・川
    映画とか戦争とか義眼とか作家とか象徴的なモチーフが多く出てくるのにタイトルが川で良いのか?と思ってしまいました。
    これは水族写真館と同じようにループするのですね。
    果たしてどこまでが映画の話なのか。

    ・U Bu Me
    ホラーじゃないですかああ(苦手)
    放火と妊娠は幻想小説のマストアイテム・・と思えてきた。

    ・心臓売り
    いちばん好きな話かもしれません。
    この世界のようでいて、資源の乏しい未来のようであって、ぜんぜん違う世界なのかもしれない。
    LとDって何の略だろう。

    ・薔薇密室
    フンフンと読んでいたのですが、最後でぞっとしました。
    本当は恋人はパリから戻ってきていっしょに住んでいたのではないのか?そのまま歳をとって彼女は現実と自身の妄想の区別がつかなくなったのではないか?挙句の果てに妄想の方を現実だと思い込み、恋人を殺してしまったのではないか?
    怖いです。

    ・メキシコのメロンパン
    幽霊とお茶してるって設定が奇天烈なのに、その場の話の内容が滑稽すぎる。

  • 「思いっきり濃密なの読みたい」と思った時のために半年寝かせてたこれ、とうとう読んじゃった。あぁ、うっとりした。素敵だった。美しく残酷で狂おしくて悲しい幻想小説集。特に好みだったのは<結ぶ><レイミア><花の眉間尺><UBuMe><心臓売り>。溺れるように引きずり込まれるように、皆川さんの幻想世界に叩き落された。苦しくて幸せ。

  • 『結ぶ』、文庫化、万歳!しばらく積んでおくつもりが、どうにも我慢できず読んじゃいました。内にこもればこもるほど広大な空間がひらけると知ったものが、どうして、浅薄な外界に出ていくの−幻視と幻聴。幻を大事に抱えて、あるいは幻に引きずられてゆらゆらと水底に堕ちていくようなお話。堪能しました。

  • どれも読み応えがあってなんとも贅沢な短編集でした。とにかく最初の「結ぶ」のインパクトは絶大。こういうのは何かの暗喩だとかいちいち考えずに、奇妙さもまるごといったん受け入れてしまうほうが個人的には面白い。

    同じ時間をループしているかのような「水族写真館」や、映画と現実がひとつながりになってやはりループする「川」は騙し絵のようで、老舗旅館の女同士のどろどろかと思いきや時空間を越えてくる「空の果て」は、SF的なニュアンスもあったり、捜神記に題材をとった「花の眉間尺」はグロテスクでエロティック、「薔薇密室」(※同名の長編とは無関係)は恋愛の狂気、かと思えば「蜘蛛時計」あたりは外国のホラーのようだったり・・・と次々色んなタイプの幻想が飛び出してくるので、全く飽きません。

    基本的にはハズレなしですが、お気に入りはやはり「結ぶ」と、死者目線の「水色の煙」、背景を想像させる「城館」、そして金魚や氷と同じように当たり前にやってくる「心臓売り」。作家の確かな文章力と独創的な想像力が合わさると、小説の可能性というのは無限だなあと思わされます。

    ※収録作品
    「結ぶ」「湖底」「水色の煙」「水の琴」「城館」「水族写真館」「レイミア」「花の眉間尺」「空の果て」「川」「蜘蛛時計」「火蟻」「U Bu Me」「心臓売り」「薔薇密室」「薔薇の骨」「メキシコのメロンパン」「天使の倉庫(アマンジヤコ)」

  • 3.96/546
    内容(「BOOK」データベースより)
    『くるりと世界を反転させる言葉の魔術―おののきと郷愁に満ちた十八の綺想。初文庫化に際し、単行本未収録作四篇を併録。』

    結ぶ
    (冒頭)
    『そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった。
    昨日も一昨日も、縫われた。
    こんなに縫われると、見た目もよくないと思う。
    腕の内側とかふくら脛などは、二筋ならべて縫って縫い縮めるときれいだという。たしかに、一筋だけよりギャザーがしっかりしていいけれど、耳の縁を縫い縮められるのは、気持ち悪かった。気持ちよかったのだろうか。』


    『結ぶ』
    著者:皆川 博子(みながわ ひろこ)
    出版社 ‏: ‎東京創元社
    文庫 ‏: ‎358ページ

  • 表題作は、先生らしい崩れる肉体と精神の絡み合った幻想小説。
    「湖底」その人は現実なのか?自分の記憶すらも危うい。
    「水色の煙」そう来たか……(頭抱)収録作で1、2を争うくらい好きです。
    「水の琴」西條八十の世界観は本当に皆川博子世界観との親和性が高い…。同じ男に惹き合わされた孤独な女ふたり。
    「城館」身勝手だ。誰しもが自身の欲望と孤独を持て余して、ただ果てる。
    「水族写真館」水は永遠に流れ続ける。
    「レイミア」そうかレイミアってそういう意味だった…。美とは、醜とは。
    「花の眉間尺」めっちゃ好きです…ラストでぶっ飛びます…。相変わらず皆川先生の博識ぶりにも震える。
    「空の果て」皆川先生の十八番、走馬灯オチ。何度読んでもすぎょい…。
    「川」登場する作家は三島由紀夫と村上芳正氏モデルとのこと。好きです。この幻想と現実の…虚実入り乱れる加減が…皆川節だなあ…。
    「蜘蛛時計」頭陀袋のように扱われる。その苦痛もとうに忘れて、ただ吊り下がるのみ。
    「火蟻」その骨は、もう埋めた。
    「U Bu Me」母は家、そして箱。やわらかでやさしげな入れ物。
    「心臓売り」誰にも理解されないだろう。この正気も、この狂気も。それはすべて心の臓だけが聞いていた。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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