- Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488441036
作品紹介・あらすじ
彼岸此岸もわからぬ場で「縫う―縫われる」行為を考察する独白が、異様な最後の一行で結ばれる表題作ほか、単行本未収録作4篇を加えた18編の幻想小説。
感想・レビュー・書評
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3.96/546
内容(「BOOK」データベースより)
『くるりと世界を反転させる言葉の魔術―おののきと郷愁に満ちた十八の綺想。初文庫化に際し、単行本未収録作四篇を併録。』
結ぶ
(冒頭)
『そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった。
昨日も一昨日も、縫われた。
こんなに縫われると、見た目もよくないと思う。
腕の内側とかふくら脛などは、二筋ならべて縫って縫い縮めるときれいだという。たしかに、一筋だけよりギャザーがしっかりしていいけれど、耳の縁を縫い縮められるのは、気持ち悪かった。気持ちよかったのだろうか。』
『結ぶ』
著者:皆川 博子(みながわ ひろこ)
出版社 : 東京創元社
文庫 : 358ページ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
短編集。ひとつひとつは短いけれど、濃い。
表題作「結ぶ」が印象的だった。
縫うって。染めるって。意味も分からないまま、いちばん心に残っている。
私はどうしても海老の背ワタを引きずり出すときのことが思い浮かぶ。
「花の眉間尺」はちょっと他とは違う感じ。
テンポよくクスッと笑えるやりとり、と思っていたら、なかなか狂気。
「蜘蛛時計」もよかった。
ロシアの、というか外国の歴史が薄暗い雰囲気で醸し出されるのが好きなのだと思う。
ほかに、死者と当たり前のように交流する話がいくつもあって、それらは淡々と静かなところがいい。でも中には賑やかなものもあって、意外な気がしたけれどそれも好きだなと思った。 -
表題作は、先生らしい崩れる肉体と精神の絡み合った幻想小説。
「湖底」その人は現実なのか?自分の記憶すらも危うい。
「水色の煙」そう来たか……(頭抱)収録作で1、2を争うくらい好きです。
「水の琴」西條八十の世界観は本当に皆川博子世界観との親和性が高い…。同じ男に惹き合わされた孤独な女ふたり。
「城館」身勝手だ。誰しもが自身の欲望と孤独を持て余して、ただ果てる。
「水族写真館」水は永遠に流れ続ける。
「レイミア」そうかレイミアってそういう意味だった…。美とは、醜とは。
「花の眉間尺」めっちゃ好きです…ラストでぶっ飛びます…。相変わらず皆川先生の博識ぶりにも震える。
「空の果て」皆川先生の十八番、走馬灯オチ。何度読んでもすぎょい…。
「川」登場する作家は三島由紀夫と村上芳正氏モデルとのこと。好きです。この幻想と現実の…虚実入り乱れる加減が…皆川節だなあ…。
「蜘蛛時計」頭陀袋のように扱われる。その苦痛もとうに忘れて、ただ吊り下がるのみ。
「火蟻」その骨は、もう埋めた。
「U Bu Me」母は家、そして箱。やわらかでやさしげな入れ物。
「心臓売り」誰にも理解されないだろう。この正気も、この狂気も。それはすべて心の臓だけが聞いていた。 -
面白かったです。
昏く鬱々とした湿度の高い短篇が18篇。
どれも素敵な空気でした。
始めの「結ぶ」から心を掴まれ、特に「水色の煙」「花の眉間尺」「心臓売り」「薔薇密室」「薔薇の骨」が好きでした。
「骨は長い時間経つと水になる」は「薔薇の骨」からだったのか。
そして「湖底」は、皆川さんと綾辻行人さんが初めて会う、というときのエピソードに似てるなと思いました。綾辻行人さんの「時計館の殺人」の解説で皆川さんが書かれてたエピソードなので、それに着想を得られたのかな、と。そのエピソードも面白かったです。その後別の日にお会いできて、アリスのお茶会をされたそうです。この言葉の選び方かわいい。
皆川さんはミステリーもよいですが、幻想小説も堪らなく好きだなと改めて思いました。 -
面白いけど響かずむねん
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「そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった。」
何?その出だしの文章は!!!いきなり先制パンチを食らった気分。これは読みたくなる導入部分だわ。
18篇もの短編集で、1作目が表題作なのだが、この最初の1行で完全に持っていかれた感がある。
そして読み終わってみれば、美しい流れるような文章なのに結構グロいことが書かれてたんじゃないですかー!という驚愕。
1篇1篇はごくごく短いが、いい意味で疲れる1冊だと思われる。情景を想像しながら読むのに結構頭を遣った気がする。(笑)
ミステリなの?ホラーなの?でも全編通じて非常に耽美。
私は夢を見ていた?まだ夢の中にいる?…そんな感想でした。 -
圧巻の一言。皆川作品は短くなればなるほど凄味と切れ味が増す。
新たに四篇加わり、その妙味を噛み締める。
儚さと残酷、潜む意地悪が瑞々しい……
触れたら指に刺さって毒が回りそう。 -
彼岸此岸もわからぬ場で「縫う―縫われる」行為を考察する独白が、異様な最後の一行で結ばれる表題作ほか、単行本未収録作4篇を加えた18編の幻想小説。(表紙裏)
結ぶ
湖底
水色の煙
城館
水族写真館
レイミア
花の眉間尺
空の果て
川
蜘蛛時計
火蟻
U Bu Me
心臓売り
薔薇密室
薔薇の骨
メキシコのメロンパン
天使の倉庫
連続して読んでいると、さすがにネタ被りが増えてきた(特に結)。
それでも読むのが止まらないのは、言葉遣いや雰囲気なのかなぁと思います。
川、空の果てが特に好み。 -
『世にも奇妙な物語』が好きで、時おり特別番組で放送される際は、なるべく食事の仕度とお風呂を先にすませておいて、じっくり観ています。
ふと、久しぶりに読書の時間でも、奇妙で、辻褄が合わない世界にひたりたい、でもって、美しければなおよし……と、色々探して行き着いたのがこの本。
本書には、ミステリのようでもあり、とはいえ、トリックと犯人のいない、ファンタジーと怪奇が入り交じった物語ばかりが18個おさめられています。
著者の皆川博子さんは1930年生まれ。
著者が主に1990年代に発表した作品が集められており、やや舞台設定に時代を感じるものの、20年の経過を感じさせない力があります。
どの作品も物凄く奇妙で濃いのですが、特に好きだったのは「水色の煙」。
伯母である「私」が、母親からあずけられた甥と過ごした夏の日々を語りだすのですが、途中、甥が納戸で「私」の「脚」を見つける、というくだりから、穏やかで郷愁に満ちた夏休みを取り巻く闇が徐々にあらわとなって……。
淡々とした語り口の裏側に透ける、悲しみと愛憎が、とにかく恐ろしい。
1度読み終えてから、再読すると、話の奇想天外さと相反して伏線や比喩が緻密にちりばめられていて、より一層、背筋が寒くなりました。
どの短編も、読んでいるとまるで頭の中に直接手をつっこまれて、三半規管をねじりあげられているような感覚を覚えるのですが、とにかくその握力がすごい!
思わず、「この物語、半端ないって!」と叫んでしまいそうになります。
立つこともままならない電車の中でも、あっという間に異空間に引きずり込まれ、戻ってきたときには、もろもろの現実を、少し距離をおいて眺められるーーああ、フィクションって、なんていいんだろう。
山の上ホテル(多分)のティーラウンジ、児童公園、夏休みに預けられた実家、写真館、バレエ教室といった繊細な舞台設定も魅力的で、例えるなら、中身のわからない高級なチョコレートトリュフの詰め合わせのような本書。
すっかり世界観に感化されて、とりあえず近いうちに山の上ホテルのティーラウンジには絶対行こうと決意したのでありました。 -
はなから幻想の世界に踏み入れる作品もあるが
現実と幻想の世界がいつの間にか、
私と貴方がいつの間にか、交差しながら溶け合って。
グロいとか、生と死のはざまとか、
自分の信じたい都合のいい世界と現実とかあるから
ゆっくり、じっくり、想像、夢想の中で読むのが
似合うと思う。文字だけを追っていると
この空気には酔えない、浸れない、楽しめない。
理性とか教訓とか知性とかではなく、
それが隠し蓋をしている原始的な部分をくすぐって
理性とか教訓とか知性があるから理解できる
グロテスクや薄気味悪さをくすぐって。